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高齢者のQOL維持を実現する、世界初の
「尿を使った認知症判定キット」を開発

株式会社アミンファーマ研究所
代表取締役社長 五十嵐 一衛 様(千葉大学名誉教授)

認知症の早期発見に役立つ世界初の尿マーカー

今回の研究開発の背景を教えてください。

日本ではまだ「未病」に対して意識が低く、「病気ではないが、健康でもない状態」への医学的アプローチが充分に進んでいない。健康を維持するためには、病気になってからではなく、定期的に、もしくは体調不良の初期段階で検査を行い、意識的に未病を改善していくことが大切だ。
例えば、日本人の死因第4位であり、三大生活習慣病のひとつである脳梗塞。脳の動脈に血液が流れにくくなることによって、脳細胞が壊死する病気だが、一般的な検診では脳梗塞予備軍となる「無症候性脳梗塞(隠れ脳梗塞)」を見つけることができないため、脳ドッグによる精密検査で診断するのが一般的だ。この方法は最終判断として最も有効だが、高額な検査費用と検査に要する時間は、利用者にとって大きな負担となっている。「なるべく簡便で精度が高い検診方法を用いて、隠れ脳梗塞を見つけることができれば、その後の生活環境の改善によって、発症リスクを大きく減らすことができるのではないか」―こうした未病予防の考えから、当社は、世界初の脳梗塞のバイオマーカーの開発を行い、2012年より血液採取による脳梗塞リスク評価を事業化した。
この脳梗塞リスク評価は、「かくれ脳梗塞の段階から早期の発見に役立つ診断ツール」として、多くの医療機関で採用されており、千葉県のある健康保険組合 (50歳以上が毎年1,000名以上利用) では脳梗塞発症者数が7年間で約1/3まで減少するなど、非常に大きな成果をあげている。
このように事業化以後の追跡調査でも有効性が認められたため、脳梗塞と同様に脳の細胞が壊れる認知症についても、バイオマーカーを開発できるのではないかと考えた。また、それを「尿」で判別できれば、血液よりも簡単に、かつ低コストでの検査が可能となる。
現在、認知症の検査には、神経心理学的検査と脳画像検査の2種類が行われている。これらの手順を踏むことで認知症の診断は総合的に行われ、認知症の種類の判定、その進行度を判定しているが、診断には高い専門知識を持った医師が必要であり、コストも時間もかかる。当事者のみならず、それを支える人たちの経済的、心理的負担は計り知れない。このような背景から、当社の脳梗塞リスク評価を導入している全国の医療現場からも、簡便な認知症測定キットの開発を望む声が寄せられていた。
今回の研究開発も多くの試薬や精密な計測機器等を必要とするため、サポインを活用し、研究開発を進めることにした。

先に事業化された「脳梗塞リスク評価」も世界初の発見から生まれているのですね。

世界初となった研究開発はいくつかあるが、まず「脳梗塞の原因物質を突き止めた」ことがひとつ。これまで脳梗塞等の組織障害の原因は、体内物質を酸化させ性質を変化させてしまう活性酸素(スーパーオキシドアニオンラジカルO₂- ・過酸化水素H₂O₂, ・ヒドロキシラジカル・OH)によるものだと考えられていた。
脳細胞が壊れることで細胞中のポリアミンが細胞外に漏出するが、その際、スペルミンからスペルミジンへ代謝される過程では、原因物質とされていた過酸化水素だけでなく、アルデヒドの一種「アクロレイン(CH2=CH-CHO)」も産生されている。そのため、過酸化水素とアクロレインを比較して、どちらが強い毒性を持ち、細胞障害に影響を及ぼしているのかを突き止める必要があった。
検討の結果、一般的に毒性が高いといわれる過酸化水素よりもアクロレインの方が10倍以上も毒性が高く、アクロレインが細胞増殖を阻害する因子であることが明らかとなった。
そして2つめの世界初は、これをもとにして「脳梗塞のバイオマーカーの作製に成功した」ことである。
これまで、がん、心筋梗塞、脳梗塞という三大生活習慣病の中で、脳梗塞のみ、有効なバイオマーカーが存在していなかった。先に述べた通り、早期発見して、適切な治療を行うことが、高齢者の生活の質(Quality Of Life:QOL)を高めることにつながる。脳梗塞のバイオマーカー―の作製およびそのサービスの提供は、世界が直面している現代社会の問題解決においても非常に有効なものであると考えている。実際、千葉県のある健康保険組合では、7年間で脳梗塞発症者が1/3に減り、非常に喜ばれている。

認知症の尿マーカー開発も世界初です。どのように着想されたのでしょうか。

測定キットの試作品

開発において重要なのは、「他の追随では、革新的な方法は生まれない」ということである。千葉大学発のベンチャー企業である当社の信念は「薬学は実学である。研究の成果は社会の役に立てなくてはならない」というものであり、常に新しい未来へ向けて挑戦し続ける使命がある。
認知症の尿マーカー開発に至ったのは、そこからの発想だ。
まず、脳梗塞での知見を活かし、血漿によるバイオマーカー開発を試みた。
アルツハイマー病など認知症の発症に関わる物質が、アミロイドベータ(Aβ)であり、これが沈着すると老人斑が現れる。当社では、老人斑のマーカーであるAβと、最も強力な細胞障害因子であるPC-Acro(アクロレインがたんぱく質に結合したもの)を測定し、年齢を加味して認知症のリスク値を設定。認知機能障害定量値と良く相関することを見出した。ところが、この方法では認知症予備群については判別できるものの、アルツハイマー病と軽度認知症を区別することが難しく、新たなバイオマーカーの開発を考えなくてはならなくなった。
そこで考えついたのが、尿マーカーである。認知症研究において尿に着目している例はなく、推測の域を出ない着想であったが、思った以上の結果が得られた。当初は、アクロレインが尿として排出されるのではと考えたが、実際には解毒化された3-HPMA(3-ヒドロキシプロピルメルカプツール酸)やAC-Acroが排泄されていた。
つまり、尿の3-HPMAを測定することにより、発生したアクロレインの程度を推定できるということだ。よって3-HPMAがバイオマーカーとなり得ることを確認した。

大学発ベンチャー企業の利を活かし協力体制は万全

方向性が決まってからはスムーズでしたか。苦労した点はありますか。

細胞を観察する顕微鏡

当初は「質量分析器」を用いて測定しており、3-HPMAの抗体によるELISA測定に成功したものの、感度が低く、時間がかかるうえ、大量のサンプル測定は難しかった。そのため、感度を10倍向上させた抗体の取得、精製が必要となり、脳梗塞リスク評価の研究時に比べて、抗体を集めるのに苦労した。
そのほかにもバイオマーカー測定法の精度を高めるためELISA測定に対応した尿の前処理法を確立するなど多くの課題に対応していく必要があり、その都度クリアしていった。

検査体制はどのようになっていて、どう進められましたか。

学校法人加計学園・千葉科学大学と共同研究を行い、千葉大学医学部附属病院や市内の病院の協力を得て、研究を進めた。産学連携は、企業と大学とのコミュニケーションが難しいと聞くが、当社が大学内にあることもあり、今回の事業で意思疎通の不安はなかった。
まだ実用化が終了したばかりであり、事業化においては、これから動かなければならないが、脳梗塞リスク評価を現在導入していただいている医療機関へのアプローチとともに、医療系専門誌への寄稿や論文発表なども積極的に行いながら、国内ならびに海外市場へアピールしていく。

製薬会社と連携して治療薬の開発を目指す

検査までの入り口は事業化されました。それを踏まえ、将来への展望をどう描いていますか。

検査が「保険適用」になれば、さらに多くの方に利用していただけるようになり、未病の時点で生活改善や治療が可能となる。また社会的には、医療費削減にも貢献できるようになる。当面の目標としては、医療機関への導入を進めながら、保険適用を目指したい。
そして、最終的な目標は、薬剤の開発である。アミノ酸の誘導体を開発すれば、副作用が少なく、予防のための長期服用が可能となる。アクロレイン除去剤の開発によって、脳梗塞や認知症の治療が劇的に変わるに違いない。そのためには、製薬会社との連携が必要と考えている。
今回得た知見や技術は、アンチエイジング治療にも効果があるだろう。アンチエイジング治療を目指し、さらなる医療の可能性を広げていきたい。

サポイン技術情報
プロジェクト名:
尿による認知症重症度が判断可能な検査キットの開発
事業実施年度:
平成29年度~令和1年度