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開発当初から有望な事業戦略を持ち、新たな技術獲得に挑戦して業界初となる高精度・高速の3D光プローブ式精密測定機を開発

アダマンド並木精密宝石株式会社    技術顧問        淺田 隆文氏(写真左から四番目)
                   OCT 部 部長       山﨑 大志氏(写真右から三番目)
                  (社員: 写真左から二番目 福島 絵理氏、三番目 森本 正人氏)
                  (社員: 写真右 舘山 拓也氏、右から二番目 成田憲士氏)
国立研究開発法人産業技術総合研究所  上級主任研究員      古川 祐光氏(写真中央)
                   テクニカルスタッフ    野口 尚美氏(写真右から四番目)
株式会社インテリジェントコスモス研究機構  プロジェクトマネージャー 田村 光男氏(写真左)

自社の保有技術の高度化により、新たな事業展開に繋げるためにサポイン事業を活用

今回のサポイン事業に応募するまでの経緯を教えてください。

内周面精密測定ハンディー機

当社はモーターや工業用宝石部品等のメーカーである。
今回のプロジェクトを行う背景には、数年前に米国の医療企業から、内視鏡に当社のマイクロモーターを使った光プローブを使いたいという話があって技術開発を進めていたものの、ビジネスには進展しなかった。他方、社内外の工業分野、具体的にはφ1mm の細穴部品の内径や真円度、円筒度を高い精度で測定したい、というニーズがあったことから、今まで培ってきたモーター技術や光技術、加工技術等の高度化を目指して、本事業に取り組むこととした。同時に、企業方針としてモーターの製造事業だけでなく、新たにユニットやシステムなど機械事業分野にも取り組みたいという意向もあった。

研究開発体制について、企業と協力機関との役割は?

当社は従来からマイクロモーター技術や光ファイバーの精密加工技術を保有していたが、光学式画像解析技術は殆ど持っていなかった。そのため、産業技術総合研究所(以下、産総研)に技術指導を頂き、研究開発を進めた。当初、この話を産総研に持ち込んだ際、測定精度0.02μm の達成をターゲットとしていると説明したら、大変驚かれた。研究開発を始めた2016 年当時の機械加工精度は0.5μm であったからだ。さらに小径穴内周面の3D 測定機自体、「測定業界初」となることから、話を聞いた産総研の研究者はこの目標値の重大性と困難性を認識したとのことであった。しかし、最終的には理事長をはじめ、電子光
技術研究部門の研究者までこのサポイン事業にかける情熱と研究開発を進めるための目標達成方法について見解が一致し、全面的な協力体制が整った。

三段ロケット事業拡大プラン~出口戦略の設定

研究開発のゴールをどのように設定しましたか。

先のとおり、研究開発当時のPC のハードディスク用スピンドルモーターに用いられる動圧軸受部品の穴精度が0.5μm の加工精度で生産されていたことから、今後は直径及び幾何学精度を検査する測定機に対する要求水準は、繰り返し精度(ばらつき)・0.01~0.05μm レベルが求められるようになると考えた。そのため事業終了時点で、技術トレンドからみて、一歩先ゆく測定精度・0.02μm をターゲットにした。ターゲット決定後は測定の高精度化のための目標達成のためにはどういった要素が必要なのかを洗い出し、精度向上のための対策アイディアを整理していった。また事業拡大方策についても3 段階に分けて立案し、開発当初から事業化に向けた出口戦略を立案していた。戦略立案のために開発テーマ起案前から、精密測定機を必要とされるだろう国内大手企業の技術部門や製造部門を訪問し、具体的なニーズ情報を収集して回った。こうした情報に基づいて本テーマの開発ターゲット(測定精度、用途、価格帯等)の裏付けを得た。

研究機関との連携~産総研の光技術を活用

研究開発中の苦労した点について教えてください。

内周面精密測定機の基本課題

従来の測定機の測定精度が何故十分でないかというと、原因として回転ステージの振れ、ねじれ振動、偏心、傾く、Z ステージが悪い、光学原点のズレ等が挙げられる。これ
らは機械の母性原理や光学系の揺らぎと呼ばれる3D測定機の基本課題であった。当社は自社が持つマイクロモーターと石英パイプを測定基準とする光プローブの新設計によって、これら従来の基本課題を、自身のアイディアと設計技術によって解決できた。また当初の測定時間が実に20 分位かかっていたが、産総研の保有する技術を導入することによって数秒単位
で測定できるようになり、一気に製品化へ近づいた。

製品を販売開始し、新たな分野にも展開中

事業化に向けた活動について教えてください。

既に精密軸受測定用途に販売を開始している。また自動車メーカーからも話が来ており、サポイン事業の成果を使い、エンジン部品であるシリンダボア3D 測定やインジェクター測定、焼結バルブガイドの測定を共同で実施した。また早々に特許を取得し学会論文にも積極的に取り組んだのは、測定機業界では無名といっていい当社が顧客企業とのコラボするために必要なことだった。おかげで今では各所から問い合わせがきていて、来年度では10台以上の受注を見込む。但し、この測定機は汎用機ではなく利用業界毎に微調整も必要なことから、メンテナンス体制のことを考えて、特性をよく理解頂いている顧客から販売させて頂いている。中小企業ゆえに生産・販売・保守体制を一足飛びには整えられないこともある。

サポイン事業を効果的に利用する上でのメッセージ、アドバイス

最後に、今後サポイン事業に応募を検討される方や、現在実施されている方にメッセージをお願いします。

事業化の出口を想像するところまでは、誰でもやっていると思うが、それにたどり着くまでの方策と課題抽出とリスク対策が重要。有望な技術戦略ストーリーを描き、実際に売れる製品の開発ターゲットを数値化して、課題をクリアしていくための対策を考える。その際、自社と協力者となる研究機関との要素技術補完体制を構築していくことが不可欠だ。補完する技術を明らかにし導入していく。またアドバイザーは可能な限り開発製品の顧客になる可能性のある方がベストだろう。事業管理機関との連携も、円滑にサポイン事業を進めるには必要だと考える。最後にプロジェクトリーダーの心構えとして、ありきたりだが、事業化に対する熱意とリーダーシップは大事だ。

研究開発技術情報
プロジェクト名:
内視鏡3D光プローブ式精密測定機の開発
事業実施年度:
平成28年度~平成30年度
研究開発の目的:
内周面測定の標準機として要求に応えうる繰返し精度(ばらつき:σ)が0.01~0.05 μm レ
ベルの高精度な形状測定器の開発と、製造現場毎に用いることができる0.2μmレベルのハ
ンディー型の標準精密測定機の実用化を行う。
事業化の状況:
数社から具体的な測定機のニーズを受けて、2018年4月から精密軸受測定用途に試験販売
を開始。動圧軸受、ポーラス軸受、エンジン用各種加工部品、内歯車、金型内周面の精密測
定用途に発売中。