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養豚場の悩みを解決する豚体重推定装置を開発

株式会社ノア
取締役 北海道技術開発センター長 長枝 浩 様 
 

技術ありきのニーズ探し

今回の研究開発を行うにあたって、どのようなニーズがありましたか。

養豚の現場では「体重を手軽に測りたい」というニーズがあった。豚を飼育し、ある程度の重さになったら出荷するという流れの中で、基本的には重量が重くなるほど、単価は上がる。しかし、ある一定の重量を超えると単価が下がってしまう。つまり、せっかく時間をかけて育てても市場価値が低下するため、適切なタイミングで出荷しなければならない。そのために体重管理が必要なのだが、相手は豚なので、もちろん言うことを聞いてくれない。籠状の体重計に追い込むには、頭数が多かったり、人手が必要だったりして多大な労力がかかる。これは人間だけでなく、豚にとってもストレスで、それが原因で痩せてしまっては目も当てられない。結果、測定を諦め、体重を推定で出荷している業者が多い。そのため、目分量による格落ちを防ぐために、簡単に体重を測りたいというニーズがあった。「ニーズがあった」というより「ニーズを見つけた」という方が正しい。というのも、当社はハンディタイプの3Dスキャナを自社製品として既に持っていた。特に用途を決めていたわけではなく、ニーズありきで作った製品ではなかったが、カメラのようにシャッターを押すだけで3Dのデータを取得できる製品である。この3Dスキャナを必要とする場所を探したところ、養豚場に行きついた。3次元の点群と呼ばれる点の集まりのデータを取得すると、点と点を結ぶ距離や表面積、体積が測れるため、それにより体長や体高などの豚の大きさ情報が数値でわかれば体重が推定できるのではないか?という発想のもと、開発を始めた。

3Dスキャニング技術を確立した上での開発とのことで、スムーズに進んだのでしょうか。

ニーズを発見したときはできそうだと踏んだものの、実際にやってみると当然いろいろな課題が出てきた。大きな課題としては、体重推定精度を上げる=誤差率を下げることだ。自主開発を進めていたときは、誤差率6%を目指していたが、ユーザーにとっては低ければ低いほどいい。研究開発のための研究開発ではなく、販売を想定してのサポイン採択だったため、ユーザーの意見は無視できない。目標を3%に設定し直し、達成したら製品化することとした。そのために、高さや幅などさまざまパラメータがある中で、どれを使うか?つまり、体重と一番相関のあるキーとなるパラメータを探し出すため、豚のありとあらゆる場所を撮影し、解析し、体重との相関を見る、というのをひたすら繰り返した。その上で、そのパラメータをどのような式に当てはめるか?式も自分で作るため、細かい工夫を重ねた。

研究開発を進めるにあたって苦労したことはありましたか。

対象が豚なので、実験がそう簡単にできない。例えば工業製品が対象であれば、目の前に持ってきて計測ができるが、生きている豚は豚舎にしかいない。共同研究開発者の農研機構にデータをとってもらったり、我々自身もかなりの回数現場に入った。豚コレラが流行っていたため、外部の人間をできるだけ入れないようにしている中、豚舎に入らせていただき、(現場の人はみなやっていることだが)豚舎への出入り前には必ずシャワーを浴び、機器を持ち込むにも紫外線で滅菌するなど、衛生管理を徹底した。苦労だとは思わないが、勝手がわからないだけに大変は大変であった。また、豚の病気ではなく、人間の病気(新型コロナウイルス感染症)が原因で豚舎に入れず、思うようにデータが蓄積できなかったのは想定外だった。

シンプルな連携構造でスムーズに

開発のパートナーとはどのように連携しましたか。

農研機構・帯広畜産大学・株式会社ホクチクとの共同研究であり、当社を中心として、その下に3機関があるというピラミッド型スキームだったので、すべての情報がリーダーである私のもとに集まり、コミュニケーションをとるのは非常に楽だった。また、私自身、3度目のサポイン採択で手続きにも慣れており、事業管理機関が行う作業も自前で済ませることができた。豚の専門家は農研機構、牛の専門家は帯広畜産大学、馬の専門家は株式会社ホクチクと、動物で分けていったので、他の連携の必要がなく、シンプルな構造だけに順調に進んだ。

研究開発中に新たに発生した課題にはどのように対処しましたか。

豚体重推定装置と豚舎での使用例

一つは、「データ出力時間の高速化」だ。撮影してすぐに3Dデータは出るが、そこから体重推定の計算をするのに時間がかかる。開発開始時点では30秒以上かかっていたが、常に動いていてる豚を目の前に30秒も待てないとのことで、3秒程度に短縮した。
また「片手操作型」にしたのも、後から追加した仕様である。現場では、片手に体重推定装置、片手にスプレーを持つ。体重が出たら、豚にスプレーで〇や体重の末尾の数字を書く。一目で出荷可能な豚がわかる現場の工夫だ。スプレーを持つことは現場に入って初めて知ったことであり、そうした新たな課題を一つひとつクリアして製品化を目指した。

サポインを活用してよかった点はどんなところですか。

一にも二にも予算がついたこと。自社開発でやっている限りは、稼ぎながらの開発となるので、当社の半分の人間を投入して…というのはとてもできない。サポインで人件費までつけていただいたので、人を投入して一気に進めることができた。すでに競合製品が市場に出ている中で戦えているのは、サポイン採択のおかげである。

競合製品がマーケットに投入されている中で、差別化や今後の戦略はどうお考えですか。

コンセプトは同じだが、仕様が違う。我々は豚を横腹から撮るが、競合製品は真上(背中)から撮る。横から撮るにはある程度距離を確保しなければならないし、上から撮るには豚に近づかなければならない、それぞれ一長一短だ。ユーザーの飼育環境によって、製品は棲み分けになると思う。もちろん、最後は性能=誤差の勝負になるだろう。我々が横からの撮影を選択したのは、単純に横の方が情報が多いと判断したからだ。高い目標だと思っていた誤差率3%をクリアできたことで、判断は間違っていなかったと思っている。

現在の事業化の状況と今後の見通しを教えてください。

2021年5月に豚体重推定装置の発売を開始した。本プロジェクトのアドバイザである株式会社ポータスは、農場向けのシステム会社で販売網があるため、そのユーザを核として、販売先を拡げている。もともとは、追加研究をして2022年4月に販売予定だったが、「すぐに使いたい」というお客様が多くいたので、発売時期を早めた。
体重推定システムをさらにブラッシュアップするとともに、今後は動物の健康管理システムにも広げていく。牛の健康状態把握のために、エサをどれくらい食べているか採食量を評価するルーメンフィルスコア(ルーメン=胃、フィル=埋まっているか)がある。牛は繊細な動物で、体をどこかにぶつけたり、はさんだりすると、エサを食べなくなる。ルーメンフィルスコアを見ることで、それらをいち早く検知し、のちに病気等で死んでしまう牛を減らすことができる。これまで、経験豊富な畜産者や専門資格を持った評価者が胃を見て、触って、判断していたが、3Dスキャナを使って自動的に値を出すことで、学生でも簡単に大量のデータを取ることができるようになった。スコア履歴の自動解析による疾病罹患予測システムを開発したため、今後さらにデータを積み上げていく。

今後サポイン事業へチャレンジを検討している企業に、アドバイスをお願いします。

サポインの一番の目的は「事業化」であり、そのために補助金を利用し、必要な開発をしていることを常に肝に銘じるべきだ。目的や目標を明確にすることで、サポインを成功に導くことができると実感している。

研究開発技術情報
プロジェクト名:
3Dデータを活用したハンディタイプの産業動物用コンディションスコアリング装置の開発
事業実施年度:
平成30年度~令和2年度