世界初の抵抗体材料、表⾯処理技術の開発に向けて、⽬標設定の説明により、研究体制関係者間の理解、相互信頼を醸成
鈴⽊合⾦株式会社 研究開発室 主任 勝⼭浩道⽒(写真右)
鈴⽊合⾦株式会社 研究開発室 浜野⼤輝⽒(写真左)
企業理念、スタンスに基づいた企業戦略をサポイン事業で遂行
研究開発の経緯、応募のきっかけをご説明ください。
材料との出会いは、2007年にJSTの⼤学シーズ発表会からで、島根⼤学から、抵抗材料としてではないが、複合材料を電磁シールド材に⽤いる発表があった。インタビューを⾏い、1年間はサンプル評価を⾏い、翌年から共同研究を開始した。JSTのスキームや経済産業省の補助⾦を利⽤して、抵抗材としての性能確認を継続し、抵抗材として使えるメドがついた。サポイン事業に対しては、3回⽬の応募で採択された。抵抗器の延⻑上の改良であるが、コストを抑えるために新しい材料を使うもので、当時は中国の⽴ち上がりの時期でNiが⾼騰し、材料コストが上がることも要因のひとつであった。
鈴⽊合⾦の理念として、研究開発部⾨を置き、「研究開発は常に継続すること、外部の技術情報を取り⼊れる」がある。サポイン事業への応募はトップダウンに近いもので、中期経営計画にも位置づけられ、産学官連携で動いてみようとの考えに基づいていた。2007年からの動きを⾒てみると、すべてがうまくいってきたように思う。「基礎技術を磨く、持つべき」は⼀貫した会社のスタンスである。そこから製品化できるのか、製品化レベルまで材料を作りこめるか、⼤型装置を⽤いた評価のためのサポイン事業であった。
サポイン資⾦の活⽤についてご説明ください。
サポイン事業の資⾦は、ほとんど装置購⼊に使われた。放電プラズマ焼結(SPS装置)によるバッチ処理で⽣産性が悪い現状から、焼結そのものを考え直すという発想の実現を⽬指した。焼結の⼤型ができ、サンプルとして製品レベルに⼊った。
研究のキーポイントを把握し、流れを予測して対策を講じる
苦労した点をお話し下さい。
安定した材料の製造技術の確⽴及び焼結作業時の均⼀化研究に時間がかかり、試作品の設計・製作・性能評価に割く時間が短縮された。社内の同部署員及び設計・製造部⾨、社外の⼤学等に協⼒を仰ぎ、上述した試作品に係る各⼯程の時間を⼤幅に短縮することに成功した。
⼀⽅、当該技術については、提案時、初年度及び2年度の⾒通しから、ある程度の進捗遅れが発⽣することは想定していたため、⼯程の短縮に対応できるような体制を構築しておくように⼼がけた。
研究開発の加速に繋がった⼯夫があればお話し下さい。
3つの要素技術について、3⼤学の得意分野を担当してもらった。時間と成果を⾒ながら、頻繁に計画を⾒直し、依頼事項、スケジュールの調整等を⾏った。⼤学からもしっかり、本気でやっていると信頼してもらった。研究⽬的を話し、1~2年間の共同研究を経て、⼤学の先⽣⽅に理解していただいた。社内で装置は持っているので、⼤学の結果と⾃社の結果について、傾向を較しながら、理論と現場データの⽐較検証を⾏った。また、川下事業者に進捗状況を報告し、定期的に意⾒交換をした結果、早い段階で川下事業者の試作品に対する要求事項が明確になり、仕様検討の時間を⼤幅に削減できた点も⼤きいと考える。研究推進委員会では、真剣な討議が⾏われ、アドバイザーからは時には厳しい意⾒もいただいたが、全員が⽬的・⽬標を理解し、ゴール到達のために動いた。⼤学側でも、鈴⽊合⾦の事業化を意識して、次に何をするべきか、依頼すべきかの討議が⾏われた。⽬標数値の設定の意味を、応募、スタート時点で説明して、理解していただけたことが要因と思われる。
研究開発結果に対する明確な判断基準に基づく事業判断
今後の⽅向性についてご説明ください。
実⽤化を考えると⼤きいサイズを造らなくてはならない。120mm×100mmまで拡⼤できたが、さらにA5サイズまで持って⾏きたいと考えている。
⼯程の短縮に対応するため、今後2年の事業化研究で、⾼⽣産性の焼結技術を完成させる。これまでの真空中から⼤気中で通常のプレスの様なプロセスで焼結する量産化の技術開発を⾏うが、新たにサポイン事業に採択され、東北⼤学の技術をベースに取り組む。新技術についても、試作を⾏い、成功できるとの⾒通しを得ている。
上記の技術の確⽴に際し、2年間やってダメであれば、事業化は難しいとの判断になるものと考えている。それ以降は、⾃社で機器開発から⾏うかの判断になり、現状では不明である。成功すれば、量産ベースでは、海外製品よりもコストは下げられると⾒込んでいる。
横展開として、ヒーター市場を考えており、要求性能は相対的に低く、数は多く出る。社会インフラ市場は急激には変化はなく、製品寿命が⻑いため、なかなか置き換わることはない。そのため、本材料の事業化には新たな⽤途開発が鍵になると考えている。
データベースの整備、人材育成などに見られる、大きな副次的効果
副次的効果についてお聞かせください。
⼩規模装置と同じ性能を出すためのスケールアップにおいて、量産装置で⾃社内にデータベース(データの蓄積)を整えることができたことは⼤きかった。PL、SLの他、若⼿研究者2名をほぼフルで担当させた。⽬標値がしっかりしていたこと、⽬標達成のための業務量を想定し、兼務とはできなかった。⼈材育成の⾯で、⽂章・資料の表現、論理的思考の習熟、社内・社外との調整の習熟等で⼤きな効果があった。社内の中では、材料、機械、電気とバックグラウンドの異なる研究者間の技術の融合ができた。また⾃社内の研究開発よりも、よりタイトなスケジュールの中での⽬標達成を経験したことも、⼈材育成の⾯で効果があった。
知的財産権への対応についてお聞かせください。
知財権は共同出願。共同でスタートから取り組み、加速させ結果が出たことによる。優先使⽤権は鈴⽊合⾦にある。PCTはどうしようか検討の段階である。国内状況を⾒て、良ければ出願するが、海外ではできるものではない技術と考える。
サポイン事業を効果的に利用する上でのメッセージ、アドバイス
最後に、今後サポイン事業に応募を検討される⽅や、現在実施されている⽅にメッセージをお願いいたします。
3回⽬の応募で採択されたが、それまでの不採択の理由として、製品の改良を思い描いたため、技術の⾼度化について書きたらなかったことが理由と考えられる。今回の応募では、技術の⾼度化について、書き込めた。サポイン事業に対するスタンスは、⼊⼝、出⼝を明確に決めていた。⽬的に近いものはできており、技術の⾼度化を進めながら、きちんと製品化に向かうことしか、記載しなかった。
研究開発技術情報
- プロジェクト名:
- 電力品質の高安定化を実現する省スペース型・高機能扁平メタセラ抵抗体の研究開発
- 事業実施年度:
- 平成25年度~平成27年度
- 研究開発の目的:
- ⾦属粒⼦扁平化とその表⾯へのセラミックス粉末均⼀付着技術、⾦属-セラミックス複合材料の焼結技術及び⾼耐熱(800℃)で密着性の⾼い異種相へのナノめっき技術の確⽴により、業界ニーズを満たした体積抵抗率の制御ができる世界初の抵抗体を開発する。
- 事業化の状況:
- メタセラ抵抗体の導⼊を計画している電⼒・鉄道・産業⽤の抵抗器をメインターゲットに、量産化に対応した焼結技術の達成に約1年、その後2年以内に市場の要求する品質と価格が実現できるよう設備・事業体制を構築し、市場への製品投⼊を⽬指す。また、当初の需要のみならず、その他適⽤できる発熱体(ヒーター)など、潜在的新規需要が⾒込まれている分野への積極的な展開も⽬指す。
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