画像処理のセンシングと精密水流制御システムでタイヤの溝に潜む病害虫をシャットアウト!
ユーザーの意見が高価値のものづくりを推進
(左から)
事業本部 課長補佐 菊池 真喜男 様
事業本部 技術部長 河村 泰彦 様
総務部 管理課課長 水谷 啓洋 様
多くの企業の協力でニーズをとらえた開発を行う
今回の研究開発の背景を教えてください。
当社は、河川改修工事や道路・橋梁といった公共工事のほか、産業廃棄物処理、リサイクル、肥料の製造販売なども手掛ける北海道の土木建築施工会社です。
開発のきっかけは、ある企業から農産物運搬用の大型車両の洗浄設備のご依頼を頂いたことにあります。その内容は、土壌中に生息し、ジャガイモの根に寄生して壊滅的ダメージを与える病害虫「シストセンチュウ」を運搬しないようにタイヤをしっかりと洗浄する装置が欲しい、というものでした。
シストセンチュウの汚染が拡大した一因として、農場に出入りするトラックのタイヤに付着して運ばれていることが疑われている。この虫は耐薬性があるため、薬剤散布も効果がない。結局、有効な対策はタイヤについた土壌を徹底的に落としきることだけである。この企業の工場は1日に500~1000台ものダンプカーが出入りするため、1台ずつ停車させてタイヤの洗浄を行うことは現実的ではない。そこで車両を走行したまま洗浄できれば、ドライバーの負担も減るだろうと考え、ドライブスルー型洗浄装置の開発に乗り出すこととなった。
どのような着想・経緯から研究開発テーマや目標を決定したのでしょうか。
洗浄装置は多くの企業が製造販売しているが、それらは近接センサーで「曖昧に」車両をとらえるため、おおざっぱに土壌を落としてくれるものの、細かい部分に入り込んだ泥まで洗浄することはできない。もっと「正確に」車両の姿を捉えるにはどうしたらいいかを考えるうち、センシングに「画像処理」を使うことを思いついた。
画像処理技術の開発については、「とかち財団」にお願いしたが、約10年前にライムケーキ(てん菜から砂糖を製造するときにできる副産物)粒状製品の評価技術の開発に於いて、画像処理を使って共同研究した繋がりがあった。
とかち財団の画像処理技術によって、動くタイヤの輪を追いながら、タイヤの大きさや車の速度を測定することに成功した。
サポインに応募したのは、新しいセンシングが完成する中、それを活かせるノズル洗浄を制御するシステムが必要となったからである。これから事業化を進めるには、形ばかりのものづくりでは何もならない。さらに理論をカタチにして、ユーザーを巻き込みながら検証を続け、精度を高める必要があると考えた。当社が装置を自作するのはこれが初めての試みであり、洗浄装置では後発企業となるが、誠実なものづくりを行い、その効果を示すことができれば、競合他社より抜きんでることができると考えた。
さらなる改良を繰り返し、小型化・低コスト化へ
研究開発の2年間は、どのように進めていきましたか。
2年の開発期間の中で、1年目は定置型の車両洗浄装置(実証機)を試作、2年目は小型化・高度化に取り組んだ。
1年目、実証機で課題となったのはダブルタイヤの内側、洗浄抜けについての「洗浄精度」だ。北海道では、夏もスタッドレスタイヤを履き続ける「履きつぶし」が当たり前に行われている。スタッドレスタイヤは夏タイヤと比較して溝が深く、細かい溝が多数あるため、溝にまんべんなく水流が入り込ませるには、丁度よい「角度」を見出さなくてはならない。そのため、独自のノズル配置を考案し、洗浄精度をぐんと高めることができた。また、水圧ばかりでなく水量も必要であり、無駄な水を極力減らしランニングコストを下げるというユーザー目線の開発にも取り組んだ。
さらに2年目には、小型化・低コスト化に向けた発展的な目標を掲げた。
小麦なまぐさ黒穂病が流行っていたこともあり、病気の拡散を防ぐための除菌方法の検討も同時にスタート。洗浄後にタイヤ走行面を酸性電解水で除菌する方法を開発した。
サポイン事業における研究開発で大切にしたのは、ユーザー目線の開発である。従来の洗浄装置は、メーカー側の考えだけで作られていると感じるものもあった。そこで11名のアドバイザーに参加していただき、多くの意見を頂戴した。各アドバイザーとテーマを共有し、開発期間が終了してもその後の開発状況を報告するなど、継続的な信頼関係が構築されている。また、運搬車両のドライバーの聞き取りからは、「凍結時期でフロントガラスへ水が当たった場合、危険レベルで視界が妨げられる」「荷台の農作物が濡れることによる被害についても考慮してほしい」との重要な意見があり、装置に反映した。
サポイン事業を始めるにあたり、研究体制をどのように構築していきましたか。
当社が大きな補助事業を受けたのは、初めての経験でした。機械装置の開発も初めてだったため、とかち財団とともに、考え方に賛同していただける地元企業とコンタクトを取っていった。また、帯広畜産大学との連携についても、適任である教授を紹介していただいたことで、スムーズに進めることができた。
事業化に向けて、農業関係機関、地元の大手企業、町役場、農協などに協力を仰ぎ、様々なアドバイスをいただけたことは、可搬型装置の開発(実用新案登録出願中)に大いに役立っている。
新しい挑戦や課題の解決に対して、どのように取り組まれましたか。
苦労したのは、2年目の「可搬型」洗浄装置の設計だった。外部に知られたくない部分もあったため、パートナーとなる企業選びも慎重に行った。フローを描き、製作する側に内容を説明するものの製作に至らず、前例のないことを伝える難しさを痛感させられた。やむを得ず、自分たちでCADを勉強しながら少しずつ描き込んでいくという地道な作業となった。製作する側が理解できるところまで描いて、そこから材質や強度に留意した検討に入り、さらに製作用図面に描き起こして、ようやく製作に入るところまでたどり着いた。無知な部分による失敗は数々あったが、今後、改良を進める上で貴重な経験となった。
今後の見通しを教えてください。
定置型車両洗浄装置は、2020年4月より販売を開始した。早速1件を受注し、8月末に設置を完了、順調に稼働している。2020年10月には北海道新技術・新製品開発賞のものづくり大賞を頂いたことで注目度が増していると考えられるが、現状は新型コロナウィルス感染症による影響で、思ったように営業活動ができない状況である。
2022年に北海道で行われる農業系の大型展示会で披露することを目標に、改良を加えて可搬式車両洗浄装置を完成させたい。具体的には、画像処理のリナックス化(マイコンボード化)である。メンテナンス負荷を低減し、信頼性を確保する手立てとして、故障時には、ボードごと交換できるシステムを目指しているが、この試作装置はほぼ完成するところまで進んでいる。また、道内だけでなく地域ごとの状況も把握するため、全国的な市場調査を行っている。ユーザーのニーズに合わせて、今後の販売方針を決めて進めていきたい。
サポイン事業は会社一丸となって行う挑戦
今後サポイン事業へのチャレンジを検討している企業に対して、アドバイスをお願いします。
サポインのテーマについては、「補助金を使わなくても自社で必ずやる」という開発に対して活用した方が良い。この事業はもともと、ある企業からの依頼をきっかけとして始まった。そのため、3年の計画であったところを2年に短縮して申請することにした。信頼して待ってくれている企業のために、一刻も早く完成させなければという強い思いがあったこと、そして、社内的には早く事業化して利益をもたらさなくてはという使命感があった。
開発当初においては、確かな見通しも重要だ。サポイン実施期間は、様々な条件でのデータの収集を粘り強く行ったため、急ぎ足で行う状態だったが、それでも2年で形を残せたのは、開発当初に描いた装置の原型が理論通りであり、大きな変更がなかったからである。また、関連会社が運輸会社であったため、多くのトラック・トレーラーを保有しており、何度も検証をすることができたのも功を奏した。
そして、サポイン事業は当社にとって新ジャンルへの挑戦である。これを結実させることができたのは、「共同研究者ばかりでなく、川下分野のアドバイザーも機能する体制づくり」が構築出来たことが挙げられる。実際のニーズや使い勝手を開発に取り入れなくては、どんな素晴らしい発見であっても、無駄なものになってしまう。研究開発中に問題が発生し、方針転換を余儀なくされても、川下分野からの意見によって助けられた部分も多かった。サポイン事業を活用させていただき、実物の装置を製作・設置できたことで、ユーザーの貴重な意見を反映させながら、より良いものを開発できたことにとても感謝している。
最後に、サポイン事業は、開発推進者が「将来のために全社あげて行う事業である」と意識することが重要である。つまり、社外だけでなく「社内」に対しても配慮しなくてはならないということだ。研究開発に関わるメンバーだけが熱くなり、その他の社員がかやの外であっては、いつかうまくいかなくなってしまう。事業期間内は、守秘義務にも配慮しなければならないが、北海道新技術・新製品開発賞に応募する際には、社内で説明会を開き、「何故この研究開発をすることにしたのか」「会社に対してどんなメリットがあるのか」などについて訴えかけた。おかげさまで、「ものづくり大賞」を頂くことができ、この事業活動の認知と社員の意識を高めることにも繋がったと感じている。
研究開発技術情報
- プロジェクト名:
- 精密水流制御と画像処理技術を統合した農産物運搬用車輌洗浄装置の開発
- 事業実施年度:
- 平成30年度~令和1年度
研究開発好事例を探す