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現行の製品にも即適用可能な新たな鋳型製造プロセスの確立

(前列左から)小西鋳造          小西様、升屋様
(後列左から)岩手県工業技術センター 飯村様、池様

鋳物の加工精度を1ランク上げたいという強い思いからスタート

このテーマをはじめたきっかけを教えていただけますでしょうか。

もともと設計通りの精度の良い鋳物をつくりたいという思いがあった。砂型鋳造の鋳型の作り方は長年変わっておらず、木型を用いて外側を形成するための主型と中空部分を形成するための中子を成型する工程と、それらを組み合わせて鋳型にする工程がある。そして、主型と中子の精度が鋳型や、鋳物の精度に影響を与える。以前に複雑な形状の回転体部品の鋳造に取りくんだとき、木型の精度からその組み合わせがなかなかうまくいかず、木型屋さんにもう良いでしょう、と言われたのがずっと頭の中に残っており、精度の良いものを作りたいという思いがあった。やはり設計屋さんは自分が書いた寸法に近づけて精度良くつくってほしいという思いがあるので、何個作っても精度が良い鋳造加工ができるところに発注がかかる。精度が良い鋳物を作ることができれば安定的に仕事を発注してもらえる。
今回取り組んだ「複雑形状を持つ回転体鋳物用砂型の製造技術の確立」に関しては、メーカーさんから、あるポンプに使われているインペラー(羽根車)を設計通りに作れないか、という話があり、それを複数部品に分割せずに一体鋳造で作るために3D CAD(3D設計)を使ってできないか、と岩手県工業技術センターに相談したところ、アドバイスするからやってみよう、という話になったのがきっかけとなっている。

具体的な研究開発テーマにいたる経緯を教えてください。

以前から、既に導入していた5軸制御マシンニングセンタ(加工機)を用いて、それまで専門業者に外注していた木型製作を内製化することで、鋳造加工の納期を短くすることを考えていたが、時間を短くするだけでは効果として弱いなと感じていた。また従来の砂型では、手作りのため同じ木型から象って製作しても、どうしても個人差が出てしまうので、それをどう均一化し、再現性のある作り方をするかという課題もあった。さらに鋳造加工の現場も世代交代が進んでおり、鋳物事業を継続していくうえで、製造プロセスの見直しも工場にとって重要なテーマとなっていた。
そこで先のきっかけもあり、写し取る木型を切削するよりも、鋳型そのものを削った方が良いのでは、という発想に至った。工程を一つ減らすという他の誰もやったことないことを実現することを目指した。

事業管理機関の紹介や既に繋がりがある企業を中心に共同体を構成

岩手県工業技術センターとは以前から交流があるのでしょうか。

今から35年くらい前に、あるメーカーさんがドイツから輸入した産業機械に必要な部品を加工するため、全国を探し回り、弊社にやってきた。そのときたまたま高クロム鋳鉄加工をやっていたが、岩手県工業技術センターや秋田大学にアドバイスいただいて、事業として金属加工ができるようになった。それ以来、いろいろなテーマについて岩手県工業技術センターに相談にのってもらっており、開発を手伝ってもらったり、製造に関するアドバイスをもらったり、わからないことを教えてもらったりしている。当社の鋳造は取り扱う材料の種類が多く、新しい材料で鋳物を作る際は毎回チャレンジだが、そのたびに分析や裏付けデータの取得をしていただいている。お手伝いいただいたおかげで、当社で作れる品目の種類が多くなってきた。また、大学にも橋渡ししてもらい、自分たちだけでは絶対に会えないような大学の先生もご紹介いただいている。

本テーマへの協力機関・アドバイザーはどういった観点で選ばれたのでしょうか。

今回のサポイン事業は複雑形状を持つ回転体鋳物用砂型を作るのがテーマだったので、そのテーマに関連した研究をされている大学や公的研究機関の先生方を岩手県工業技術センターにご紹介いただいた。岩手大学については、実際に砂型の切削加工をしているわけではないが、切削技術について詳しい先生方を紹介していただいた。秋田大学については、砂型に詳しい先生方を紹介いただいた。また、秋田の産業技術センターについては、3Dプリンターの鋳型の製造装置をもっているので参画していただいた。岩手県、秋田県、山形県は地域的に鋳造関係の事業や研究をされている企業さんや大学が多いので、今回のようなテーマは比較的共同研究先が見つかりやすいと思う。

協力企業はどういった観点で選ばれたのでしょうか。

アドバイザーとして入っていただいた伊藤忠セラテック株式会社さんは砂型の原料のメーカーで、かねてから付き合いのあった企業である。川下企業として協力いただいた古河産機システムズ株式会社さんは産業機械のメーカーさんであるが、こちらもかねてから付き合いがあった。これらの企業には、サポイン事業が始まる半年くらい前から事前の説明に行き、ご協力をお願いし、サポイン実施前から体制を整えていった。川下企業からは当初は必要な加工精度等の情報をご提示いただいていたが、サポインの研究開発が進捗する中で、構想中の製品形状の情報を出していただくなど、関わり方も深くなっていった。

開発技術をすぐに現業に活かすことを前提とした体制と計画を策定

社内の研究開発体制はどのような点を意識して作られたのでしょうか。

現業の仕事と兼務しながら、同時進行でサポイン事業に携わるメンバーを4名任命した。メンバーの選定にあたっては、メンバーとサポイン事業の研究開発成果を、そのまま現業にスライドして応用できることを意識した。例えば、工作機械のメンテナンス担当は、現業で成果を活用して実際のモノづくりを行い、現場の作業員に技術を教え込む役割になるので、新しいプロジェクトを実施するときに必ず体制に入れるようにしている。また、今回は工作機械を使って砂型を切削する鋳型であるが、砂と金属の違いはあるものの同じ切削加工であるため、金属加工を担当している人間も入れている。加えて、やはりこういう研究開発は新しい技術に感激するような感情を持てる人でないとできないので、一番気合が入っている人間を入れた。サポイン事業の成果を、違和感なくそのまま商売につなげていける体制でなければ、こういった取り組みを続けていくことはできないと思う。

現業への反映を意識して、研究開発上で工夫された点はありますか。

砂型の材料の選定については、新しい材料を開発するとコストがかかってしまうので、最終的に生産現場で使っていきやすい既存の鋳物砂のなかから合うものを探した。既存の鋳物砂を使うと、評価する際に、これまで作ってきた鋳物との違いを測定なり検証なりするだけで良いので評価の負担が小さい。また今回使用した「再生砂#650」は、当社が現業で主力として使っている鋳物砂であり、この技術を現場に適用する際に、現状使っている砂をそのまま使っていけるというのが一番肝心な点であった。日頃現場で使用するための技術を開発しているので、現場が使いやすいものを開発しないと現場が困ってしまう。
実験結果の評価・検証については、いろいろなパターンの試験片を岩手県工業技術センターに考えてもらい、当社で鋳物にして、再びセンターで分析してもらうという工程で行った。我々はどのような形状の試験片が評価や検証に適しているのかわからないので、公設試験機関や大学の研究方法は大変参考になる。

試作した展示用サンプル

開発技術を現場に適用することで、事業機会を創出

今後の目標を教えてください。

従来の手作りの鋳型を使っているものを、今後はサポイン事業にて開発した鋳型を使った鋳造に置き換えても製造できるようにすることで、両方の方法で受注加工できようにすることが目標。既に一部は事業化している。緊急な場合において使われる部品は短期間で製造する必要があるが、従来の方法は手作業なので短期間では少量のものしか製造することができない。一方で、今回開発した方法は、機械加工のためプログラムの設定次第で夜間や休日でも自動で作ることが出来るので、短期間で大量のものを製造することができる。最近その方法で製造する機会をもらい、非常に短い納期に間に合わせることができたので、お客さんに喜んでもらった。また、これまでの仕事の一部をこの方法に置き換えることで、実質的に鋳型を作る人員が増えることになる。この両刀があれば現場の働き方改革にも対応していける。

受注を得るうえで、サポイン事業の効果があれば教えてください。

鋳造加工の現場は受注した次の日に取り掛からないと意味がないというくらいのスピード感であり、お客さんにこの鋳造方法でなら実現できるという点をうまく説明できないと受注することができない。ところが、今回の技術はサポイン事業で岩手県工業技術センターと共同研究しており、解析データの裏付けがあるのでお客さんが安心してくれる。また、大学の先生にも助言いただいている、と説明するとより安心してくれる。従来のやり方と新しいやり方を比較してもらって、それでは新しいやり方でやります、というふうに話が進んでいっている。

研究開発成果の多分野へのPRを見据えた計画づくり

研究開発成果の取り扱いについて教えてください。

砂型の切削方法等の技術ノウハウをまとめて、特許を3件出願しており、現在はそのうち2件が特許査定を受けている。これらは当社と岩手県工業技術センターの共同出願となっており、一最初の特許はサポインの2年目の途中に基本特許として出願した。特許を取得することで、研究開発の証を残すだけでなく、この切削鋳型というどこもやっていない技術を広く見てもらうことで、鋳造業界にさらに普及していけばよいなと思っている。最終的なテーマは、この世から鋳物をなくさないことだと思っている。

研究開発成果の普及はどのようにされていますか。

せっかくなので今回のサポイン事業の研究開発成果を広く知ってもらいたいと考え、申請時から色々な川下産業分野の技術展示会への出展費用をサポイン事業の予算のなかに組み込んでいた。この技術が普及してほしいという思いがあったので、自動車や管工機材など幅広い産業分野に技術を広めつつ、お客さんを増やしたりできれば良いな、を考えていた。展示会に来ていただいたお客さんからニーズを聞くことで、新しい分野に対してこの技術が使える部分があることを確認することができた。

まずは信頼できる事業管理機関に相談することが大切

サポイン事業に参画してみてよかった点は何でしょうか。

サポイン事業は様々な機関から多種多様な人が集まってチームを作っているので、日常の現業の仕事と並行して取り組んでも、ある程度スムーズに進捗して、課題が発生し引っ掛かっても周囲に頼れる方々がおり、非常に安心感があった。また、岩手県工業技術センターに事業管理機関として参画いただくことで、手続き面等のコーディネートをすべてお任せできたので、自分たちは技術を作ることに注力できた。また、外部機関との関係構築や技術展示会への出展も自分たちだけではなかなかできないので、サポートいただけたことは非常にありがたかった。

サポイン事業の制度面の改善についてご提案があれば教えてください。

サポイン事業は複数年度で採択されても、毎年度、予算の審査が入るので、予算の承認が終わってから発注すると、当初予定していた計画に間に合わないということが何回かあり、その時間がもったいなかったと感じている。採択時の補助金をまずいただき、審査が通らなかった分は返却するという方法もあるのではないかと思う。

サポイン事業への挑戦を考えている企業さんに向けてアドバイスがあればお願いします。

まずは近くの公的な支援機関に相談するのが一番良いのではないかと思う。今回のように相談にのっていただいて、研究開発を進めて、事業化できたというのは、岩手県工業技術センターのおかげだと思う。

研究開発技術情報
プロジェクト名:
複雑形状を持つ回転体鋳物用砂型の製造技術の確立
事業実施年度:
平成28年度~平成30年度