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工法転換を実現する精密薄板プレス鍛造複合加工技術の開発

石橋工業株式会社(福島県)
常務取締役兼工場長 岩崎清二
開発技術課課長 瀬谷康彦

プレス加工での量産獲得は、部門を超えたチームで繰り返した「トライ&エラー」の結晶

会社紹介

石橋工業株式会社は、1937年創業。金属プレス加工業界の老舗である。
順送り加工に特化し、「金型の設計製作」「プレス加工」「プレス加工に付随する二次加工」を主な事業としている。
近年は、鍛造要素を含む薄板の加工を得意とし、クライアントからの信頼も厚いという。

工場内の様子
作業風景

サポインを申請したきっかけ

当時、石橋工業は、「家電」「自動車」「IT」という3つの業界を柱として金属プレス加工を行っていた。
その状況が激変した二つの出来事がある。
一つは、リーマンショックだ。リーマンショックを境に受注が激減。
営業や生産方法を工夫し、やっと軌道に乗り出した矢先、東日本大震災が起こり、更なる経営的打撃に直面した。

サポイン打合時の様子

また、当時は円高の影響もあり、家電製品の製造が海外へとシフトしていく傾向が強く、自社の主要取引先として、「自動車」と「IT」業界だけが残った。
このような状況下、IT業界の製品として長年生産していた「1.8インチHDD(ハードディスク)」の技術を元に、川下企業からのニーズが多かった「2.5インチHDD」をプレス加工で製造することを決意。
2.5インチHDDはダイカストで製造されており、プレス加工での製造は困難だとされていたが、成功の可能性と、得られる成果への期待から、研究開発費用の確保に動き出した。
旧知で、自社の状況に理解のある一般社団法人日本金属プレス工業協会からの紹介でサポインの採択を目指した。

チーム編成について

サポイン事業を始める決断をした岩崎常務取締役がプロジェクトリーダーを担当。
通常の受注製品の場合、各部門の最終到達物を次の部門に渡すという体制をとっていたが、岩崎常務は、全ての工程に全ての部門が関わり、一丸となって「トライ&エラー」を繰り返せる体制が必要だと判断。そのため、各部門から数名ずつプロジェクトメンバーに任命し、チームを結成した。
(※各部門:金型部門/量産技術部門/プレス加工部門/測定部門/品質保証部門)

「膨大な時間がかかる研究開発のトライ&エラーを最後までやり遂げることができたのは、チーム体制を作り、良いチームワークを築けたことが成功の一因だった。」と岩崎常務。

常務取締役 岩崎清二さん
開発チーム

サポインに採択されて良かったこと

岩崎常務はサポインに採択されて良かったことを3つ挙げてくれた。

1. 研究開発費用の面
研究開発には、膨大な時間と費用を捻出しなければならない。サポインに採択されたおかげで、経済的な負担を低減することができ、研究に集中することができた。

2. 川下企業からの量産品受注に成功した。
サポインの成果として、開発開始から2年目でサンプルを提出。3年目にクライアントからの厳しい要望に応えた製品の開発に成功し、量産化に成功した。

3. 社内のチームワーク力を高めるきっかけになり、自信がついた。
チームで一丸となってトライ&エラーを繰り返すという一貫体制を確立したことが、早期量産を実現した成功ポイントだ。
各部門の選抜部隊がトライ&エラーから生み出したアイデアがなければ実現できなかった。
サポインの経験が、今後の新しい研究開発やクライアントからの厳しい要望に応えていけるという自信につながった。

量産体制の確立
プレス加工による薄型化

自社の高い技術力と社外の協力による問題解決

開発技術課 課長 瀬谷康彦さん

研究開発のまとめ役だった瀬谷課長に、今回の研究開発で苦労した点を伺った。
「まず、プレス加工の中でも難しい絞り加工を高い精度で行うことです。HDDの生産では、絞り加工を行うことで、エアリークという現象が起き、平面度に大きく作用します。エアリークを抑えるために平面度を維持しながら高精度な成形を行うことが一つ目の課題でした。
また、クライアントからバーリング(薄板にあけた穴の周りに立ち上がりを作る加工)の形状について、通常では考えられない厳しい品質を求められました。他の製品は、内径、外径、高さの内2項目をクリアしていれば問題ないですが、今回のバーリングは全項目をクリアしなければ認められなかったのです。」

シュミレーションチェックの様子

この難しい問題の解決の決め手は、「チームワークから生まれたアイデア」と独立行政法人理化学研究所のシュミレーションチェックによる「理論的な検証」のおかげだった。
自社の高い技術力によって問題を解決。従来HDDはダイカストで製造していたため、プレス加工になじみがない取引先には、シュミレーションチェックによる理論的な検証結果により説明を行い、納得いただいた。
「クライアントに満足いただけるものづくりができたのは、「高い技術力による問題解決」と、「理論的に解決方法を伝えられたこと」が重要なポイントでした」と瀬谷課長。
岩崎常務は、「サポインを通して日本のプレス加工技術の未来性を再認識できました。会社への帰属意識が高い日本人は、個人の技術や発見を社内で共有することで高め合うことができます。「技術」、「設備」、「人(オペレーター)」が一丸となることが、世界で勝てるものづくりの秘訣だと思いました。」と話してくれた。

今後の展開

石橋工業は、日本金属プレス工業協会と理化学研究所の後押しもあり、量産化に成功した。
量産では月10万個合計150万個の納入実績がある。
今後、品質保証体制をより高度なものに確立し、販路の拡大と川下企業からのより強固な信頼を得ていく。

「技術力」に高い志をもった石橋工業は、これからも「ものづくり」業界の進展に貢献してくれるだろう。

品質保障体制確立に向けて
量産品のプレス加工
紹介動画
研究開発技術情報
プロジェクト名:
工法転換を実現する精密薄板プレス鍛造複合加工技術の開発
事業実施年度:
平成23年度~平成25年度