有機溶剤削減効果の高い炭酸塗装機で環境保護に貢献
― 最もVOC排出量の多い中国市場へ展開 ―
環境にやさしい塗装を実現したいという強い思いから研究開発をスタート
このテーマを始めたきっかけを教えてください。
金属や樹脂などの材料へ塗装を行うには、噴霧しやすいよう塗料の希釈溶剤としてシンナーを使用しているが、これは光化学スモッグの原因物質の一つであり環境に影響をおよぼす揮発性有機化合物(VOC)を排出してしまう。当社は塗装を主たる事業としているが、塗装業界からシンナーを減らすことでVOCを削減したいという強い思いをずっと持っていた。たまたま地元の河北新報という新聞社の記事で、産業技術総合研究所東北センター(産総研)が地元のクリーニング業者と少量の高い溶解特性のある超臨界状態の二酸化炭素を使ってドライクリーニングをしたというものを見つけた。ドライクリーニングも塗装と同じように有機溶剤を使っているので、この技術を塗装工程の一部である生地の洗浄に使えないかと、産総研に相談に行ったのがきっかけである。その後、2006年度から2008年度にかけて、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトに採択され、要素研究を実施し、二酸化炭素を用いた炭酸塗装機の原型となる装置を開発した。そして、2011年度から2013年度にかけて、経済産業省の異業種新連携支援に係る新事業活動促進補助金を利用して、小流量タイプの炭酸塗装機の商品化を目指して研究開発を実施した。この補助金事業で小流量タイプの塗装機の事業化を進めたが、より効果的にVOC削減に貢献するには大流量タイプの塗装機を開発し、この装置を普及させることが必要であると考えて、今回のサポイン事業に応募することを決めた。
大流量炭酸塗装機の開発にあたり、新しく参画したメンバーはいらっしゃるのでしょうか。
小流量塗装機を商品化するなかで、塗料によっては炭酸塗装機と適合しない場合があるという課題が見つかった。しかし、我々は塗料そのものには詳しくないので、塗料を扱う商社であり、業界に幅広いネットワークと豊富な知見を持っている長瀬産業株式会社とペアを組むことにした。長瀬産業株式会社には塗料開発や塗料に対する様々な顧客ニーズ把握の面でアドバイザーになっていただいた。
また、世の中にない新しい炭酸塗装機を販売するにあたっては、当社から販売先に対して、塗装機の使い方やプロセス、噴霧ノズルもセットで売る必要があるが、それらを評価する装置がなかった。宮城県産業技術総合センターに相談したところ、塗膜評価や塗膜解析の専門家として群馬大学の天谷賢児先生をご紹介いただき、噴霧や塗膜形成における評価装置開発やアドバイスを実施していただけることとなった。噴霧状態や塗膜形成状態を可視化し評価する装置は群馬大学に設置し、塗装機は当社に置いていたので、お互い遠方ではあったが、なるべくお互い行ったり来たりして、直接顔を合わせて議論するようにしていた。
事業管理機関やアドバイザーは以前からお付き合いがあったのでしょうか。
みやぎ産業振興機構には異業種新連携支援の頃からずっとサポートをいただいており、本テーマについて一から説明しなくても通じるので非常に助かった。我々だけでサポイン事業の申請書類をまとめるのは非常に大変であるが、事前に相談して中期的な事業計画を立てるのを手伝ってもらうなど、ずいぶん協力していただいた。また東北経済産業局の方にも相談して、テーマの決め方等についてアドバイスいただいた。
アドバイザーとして参画いただいた2社のメーカーは、異業種新連携で開発した小流量タイプの塗装機を購入していただいたお客さんである。小流量タイプを実際に使用した経験を踏まえて、量産化するうえでのユーザー視点でのアドバイスをいただいた。例えば、塗装後の塗装塗膜に求められる品質や、塗装塗膜の強度の評価方法、夏場と冬場の使用環境の違いなどの観点から意見をいただいた。この2社は別々の産業分野企業であり、また昔からお付き合いがある企業なので、こういった様々な観点から率直な意見をいただくことができた。
社内にプロジェクトチームを設置して課題を解決
実際に取り組まれる中で一番の課題は何でしたか。
VOC削減には、塗料に含まれている有機溶剤を少なくすることが最も効果的であるが、塗料に含まれている有機溶剤を少なくするというのは、装置メーカーである当社では難しく、塗料メーカーに協力してもらう必要がある。しかし、塗料メーカーの事業面からすると、塗料に含まれる有機溶剤の使用量を少なくすると、塗料自体の売り上げが下がってしまうので、なかなか塗料の成分を変えるのが難しいという状況にある。また規制面についても、国内では目標の総量規制は達成できており、更なる削減は企業の自主努力に委ねられている状況にある。こういった周辺状況を踏まえて、当社では塗料に含まれている有機溶剤ではなく、噴霧しやすくするために使う希釈溶剤のシンナーを少なくする、というアプローチで本テーマをスタートした。
炭酸塗装機を使ってみたいと考えて下さるお客さん側から、自社で使っている塗料を持ってきてくれるが、その塗料が炭酸塗装機に適合するかしないかはやってみないとわからなかった。せっかくお客さんが塗料を持ってきてくれても、樹脂が析出してしまうなどの問題が発生し、成功事例は2~3割しかなかった。今回のサポイン事業で長瀬産業と組んだ結果、それらの問題が解決し、今ではお客さんが持ってくる塗料を使って、100%塗装ができる状態まで改善した。それがサポイン事業の非常に大きな成果である。
研究開発中に発生した課題に対して、御社のなかではどのように取り組んでいるのでしょうか。
当社の開発技術部が炭酸塗装機の開発に取り組んでいるので、その中から数名を選んでサポインのプロジェクトチームを作った。昔は研究開発部門にあたる部署がなかったが、NEDO事業の頃に技術部から派生してNEDOプロジェクト室という部署を作った。その後、異業種新連携事業も行うことになり、それに合わせて開発室という名称に変更した。もちろんサポイン事業だけに100%の時間を割くのは難しく、日常的な技術課題等にも取り組んでいるが、なるべくサポイン事業に重きを置くようにした。また、サポイン事業に取り組んでいること自体が宣伝となり、これまでこちらから営業にいかないとなかなか仕事をもらえなかったような大手のお客さんなどから新しい商談や相談をいただくといった波及効果があった。こういったものから出てきた技術的課題に対しても開発技術部にて対応している。
研究開発部門を恒久的に組織として置いておくことが、要素技術のレベルアップにもつながっている。例えば、新しい試験・評価設備を整備して、実験、検証、そしてフィードバックと、今までやってこなかった研究開発に取り組んでいる。また産総研や、宮城県産業技術総合センター、東北大学、塗料メーカーなどとの交流を通じて、新しい知見に繋がる話を聞かせてもらったり、そういった機関が保有している測定装置を使わせてもらったり、いろいろなお客さんから幅広いニーズを聞かせてもらったりと、様々な側面からレベルアップに繋がる取組を続けている。こういった活動を通じて、主となる技術開発の横にある周辺技術を取り込むことができたり、これまでと異なる業界に我々の技術を売り込むチャンスを得ることができたりするなど相乗効果もある。
VOC排出規制が最も厳しい中国市場に展開
今後の方針についてお話をきかせてください。
先程もお話したように、国内では目標の総量規制は達成できており、更なる削減は各企業の自主努力に委ねられている状況にある。一方で、中国ではVOCに対する環境規制が厳しくなっているため、中国市場での関心は非常に高い。中国では、塗料に一定量以上の有機溶剤が入っていると税金がかかるので、塗料メーカーはなるべく有機溶剤の使用量を少なくしようと必死になっている。2019年に入ってから冬と夏あわせて2回も中国からの視察団に来ていただいて、当社の塗装機を見てこの技術に興味を持っていただいた。また中国塗料メーカーからも一緒に事業をやりたいとお話をいただいている。2019年から2020年あたりに本腰をいれて中国市場で事業を展開しようと準備している。
どのようなつながりで、中国の視察団がいらしたのでしょうか。
越境大気汚染への対策で中国と連携協力を進めている北九州市の方が、中国で使える環境対策技術として何か良い技術がないか探しており、人づてで我々のところにやってきた。そのつながりから、環境省のプロジェクトに招待してもらったり、中国市場が環境対策に困っているという話を聞くような機会が生まれた。昨年、JICAのODAを使わせていただいて中国市場の調査をした際に、中国の塗装関連協会に本技術を紹介したところ、中国には炭酸塗装機に興味を持っている会社がいっぱいあるので、もし何かあれば視察に行っても良いかと相談をいただき、その視察団が来社することにつながった。
今後も中国を中心に海外での事業展開を図っていくのでしょうか。
今われわれの塗装機販売事業を、環境規制の面から後押ししてくれているのは中国市場なので、現地の企業と代理店契約を結び、マーケティングに力を入れている。ODAでの海外市場調査を一緒に行った長瀬産業は商社として強いマーケティング力を持っている。契約を結んだ代理店は元々本社が台湾にあったということもあり、当社が組むのによさそうな企業の目星をつけていただくなどお任せしている。また、知的財産の面に関しても、当社だけでは難しい部分があるが、長瀬産業は法務部門もしっかりされているので、特許の共同出願や、契約書内容のチェックなどしていただき、知財をきちんと抑えたうえで海外展開している。
法規制が変われば産業も変わっていくものと思うが、VOCの削減は全世界的なテーマであるので、国内での環境規制の強化と、それに伴う本塗装機の展開も時期的な問題であると思っている。
装置にかける思いをきかせてください。
基本的には自社で使う塗装機を作ることを前提に開発を進めてきた。その過程で国の補助金を活用させてもらい、良い塗装機ができたら、外部へも装置を販売して使ってもらいたいというスタンスで続けてきた。前社長の時代から環境問題に貢献したい、という思いは受け継いでおり、環境に対して優しい装置を売っていきたい。そのために社長自らが先頭に立って、中国企業に対して本塗装機のプレゼンテーションをするなど、さまざまな取り組みをしている。わざわざ中国からも、当社の塗装機を是非見たいと来てくれるので、世界へも発信していきたい。
予算執行の柔軟性や海外展開に対する支援にも期待
サポイン制度など国の支援制度について、より改善できると思われる点があれば教えてください。
サポイン事業を実際にやってみて苦労したのは3年間の予算配分である。まずは十分な基礎実験をやってから装置を購入したかったので、3年間の期間の中で予算の繰り越しができるとありがたかったなと感じる。また、計画段階で設定した予算配分の枠の中で、実際の計画を検討する必要があり、結局2年目に初年度に整備した装置を大幅に改造するというような二度手間も発生した。
また開発した製品のデモ機を海外に持っていくのをサポートする助成制度があると良いと思う。今回初めて中国市場向けの塗装機を開発しているが、当社は中国での販売実績がないので、現地にデモ機を置いて、実際に使ってもらって性能を評価いただかないとなかなか購入してもらえない。国内でデモ機を作って中国に持っていくには輸出入にかかる経費などの負担が大きく、また現地でデモ機を製造する環境を整える資金もないので、そういった支援があるとありがたいと思う。
サポイン事業を効果的に利用するうえでのメッセージ、アドバイス
今後サポイン事業へのチャレンジを検討している企業に対してアドバイスをいただけますか。
国や県の助成金を利用できるということは中小企業にとってはありがたいことなので、開発テーマややりたいことがあれば、そういった制度を活用するのが非常に良いのではないかと思う。また、国や県の助成金事業に取り組んでいるということで、外部からきちんとしている企業だという評価をいただくことができ、試作依頼や新しい仕事の相談などの波及効果も出てくるので、ぜひ取り組んでいただきたい。
もうひとつ別の効果として、事業計画を立てて、計画に沿って仕事を進めるという姿勢が身につくのではないかと思う。サポイン事業への応募段階で開発から事業化までの中期計画を立てることになるが、多くの中小企業はそういった仕事の進め方に慣れていないと思う。当社は本事業を活用することで、開発目標や一連の作業計画を立てて、それに向かってきちんとステップを踏んで仕事を進めていく、ということができるようになった。サポイン事業はそういった企業のレベルアップのチャンスでもあるので、会社を中小企業からステップアップする流れの中で必要となる経験のひとつとして、非常に良いのではないかと思う。
加えて、本テーマを始める前までは国・県の支援機関や研究機関は、ほど遠い存在かと思っていたが、一緒に研究開発を進めるなかで、全くそういったことはなく、むしろいろいろな相談に乗っていただける身近な存在だと分かった。これまでサポイン事業などの支援制度を活用したことのない中小企業の中には躊躇している方もいるかもしれませんが、まずは身近な存在に相談に行ってみることが大切なのではないかと思う。
研究開発技術情報
- プロジェクト名:
- 大流量吐出高圧炭酸塗装機の開発
- 事業実施年度:
- 平成28年度~平成30年度
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