産学連携と自社最先端技術の積極的活用でスピード感のある研究開発を実施
(右)ナノテック株式会社 表面分析センター試験所長 平塚様
処理スピードの向上と低コストDLC成膜技術の開発への挑戦
今回このテーマを開始したきっかけを教えてください。
当社は材料に高度な機能を付加させるDLCコーティングによる表面改質サービスを基本業務とし、受託加工や装置の販売を行っている。DLCの一般的認知が広がり市場の競争が近年比較的激しくなっており、価格競争がはじまっているが、現在の真空装置を利用した成膜は時間とコストがかかってしまうため、新たな成膜方法を考えていく必要があった。そこでサポイン事業を活用し、準大気圧での成膜を可能にする研究を行ったのがきっかけである。また、成膜の品質と各種処理スピード向上を目指した装置の開発も同時に行った。
研究開発を始めるにあたりどのような点がポイントだと考えましたか。
当社では、研究後に低コストで大量生産型の装置を開発したいという高い目標があった。しかし、現象を示すような有益な先行事例が必ずしもなく、また装置の規模によって研究結果が大きく異なるため、一から研究を実施していく必要性があった。研究後の応用や展開を考慮すると、研究結果の再現性がとても重要であったため、研究のための研究を行い、ラボ内でできることだけを行うことはスケールアップにつながらないと考え、研究の中で戦略的な試行錯誤を繰り返し行っていくことが必要であると考えた。
馴染み深いパートナーと共同研究ネットワークを活用したシンプルな体制づくりを通じて研究を加速
どのような研究開発体制を構築し、進められたのでしょうか。
平成26年と平成27年に類似テーマでサポインに応募したが、二度とも採択にはいたらなかった経緯がある。二度とも他の事業者のためになるテーマ設定をしていて、自分たちがやりたかったテーマに絞り切れていなかったということが反省として挙げられた。そこで市場の精査をしながら、改めて自分たちのミッションを見直し、不必要な部分をそぎおとして、ブラシュアップしていく中で自分たちのやるべき中長期的なテーマを見つけることができ、ようやく3回目の挑戦でサポイン事業に採択された。3回目の事業については、以前よりお世話になっていた慶應義塾大学の鈴木先生のネットワークを最大限に活用させていただき、鈴木先生がお持ちの大気圧で成膜する技術についての知見と当社の真空装置の知見をうまく合わせながら研究を進めていき、研究体制については、産学金連携推進機構と慶應義塾大学との3社共同の非常にシンプルで強力な研究体制を構築することができた。約3年間の助走期間で、蓄積した基礎研究データの知見やネットワークを生かしたテーマ選定や研究体制づくりが非常に重要であることを認識した。必要最低限なパートナーのみで研究を行うことができたことが今回の研究の大きな成功要因のひとつとなった。
研究を推進するにあたり、他にはどのような点を工夫されましたか。
テーマの選定や研究体制の確立に加え、事業化に対する有益な示唆も必要だと考え、15年ほど前からお付き合いのあるリックス株式会社という専門商社の事業企画部部長にアドバイザーの立場として入っていただいた。リックス株式会社のおかげで自動車や医療といった個別市場のニーズにとどまらず、技術の展開が可能な市場や技術全体の把握につながった。その結果、研究後の事業化へ向けた多様な出口の話が入ってきたことで、ポイントを絞った研究と開発を行うことができた。また市場に関しての情報をリックスと共に獲得できたことで、集中して聞くべき中身を聞くことができ、研究の実施などの本来やるべきところにフォーカスすることができた。
チームメンバーの役割を教えてください。
今回の研究体制の要は、非常にシンプルな体制で役割分担がとても明確であったことだ。テーマ自体は当社が技術と装置を開発するというところで、慶應義塾大学の鈴木先生のところには主に物性の評価をお願いしていた。DLCの成膜条件については、多様な視点を持ち、抜け漏れなく検討することを可能にするために両者共同で行っていた。例えば、大気圧で実験を行った際のデータと真空圧で実験を行った際のデータからどのような膜質が適切かを先生の方にアドバイスをいただきながら研究を進めていった。このような研究の進め方を可能にしたのも、大学と共同研究を積極的に行う風土が昔から社内にあったことがプラスに影響している。今回に関しても、慶応義塾大学と以前から親密な関係があり、お互いの力量や設備をしっかりと把握していたことが明確で行き違いのない役割分担を可能にした。
パートナーとの密な連携を通じてゴールへと近づく
研究期間中に発生した課題とその解決方法について教えてください。
試行錯誤していく中で、研究に関する多数の変化パラメーターを見ていき、所定の条件が成膜の結果につながるかどうか条件を変えながら、手探りで何度も繰り返す作業を行った。その中でも放電電極の形状がポイントであり、安定的な放電を立て、維持しながら成膜を安定してできるような電極を作る作業が最も苦労した点である。例えば、ちょっとした電極間の距離や磁石の配置、電圧のかけ方によって、その時にどのような放電が起き、成膜状態に関わってくるのか各種パラメーターを細かくチェックし、過去の経験に基づいた判断のもと、毎回少しずつ条件を変えていきながら最適な電極の状況を見つけていく研究を進めていった。試行錯誤を重ねた研究では、当社の研究施設を積極的に活用し、内部で分析可能な研究に対しては迅速なフィードバックを得ることができたことでタイムロスが少なく、研究を次々と行うことができた。また内部では分析ができない構造評価の部分については、慶應義塾大学の鈴木先生に評価していただき、フィードバックを元に、どのような成膜条件で進めていくべきなのか一緒に議論しながら突き詰めていった。
このように内部で分析可能なものは内部で行うことで試行錯誤を繰り返し行うことを可能にし、できないものについては外部を活用し、外部の知見や意見を取り入れながら研究を進めていくことで、当初想定していた成果に徐々に形づけることに繋がった。
国外進出と新たなビジネスモデルの展開に向けて
今後の取り組みについてどのように考えていますか。
昨今タイでは、DLCの研究が急速に発展しており、DLC のメッカになってくるのではないかと期待されている。そのような状況を踏まえると、タイ国内でのビジネスチャンスが拡大していくことが見込めるため、日本国内のマーケットに絞るのではなく、アジア地域に市場を広げていくことを考えている。現状としてタイ国内企業との連携を図ろうとしていて、研究機関との連携も強化している。また、これまでは装置販売や受託加工のみのビジネスモデルであったが、装置販売については価格が高いため、新たなクライアントを獲得するには高いハードルがあると考えている。そこで今後のビジネスモデルの多様化を視野に入れ、リースで装置を貸し出すような方法も検討している段階である。
サポイン事業を効果的に利用するうえでのメッセージ、アドバイス
今後サポイン事業へのチャレンジを検討している企業に対してアドバイスをいただけますか。
企業形態や事業形態によってとるべきアプローチが変わってくるが、共通する部分としては、目標を達成するために研究開発を自分たちで行うというモチベーションを高くもつことが重要である。当社は高いモチベーションを持って研究に力を入れた結果、執筆をする機会や学会で話す機会をいただくことができ、大学や企業と繋がることができた。自ら行っている研究に高いモチベーションを持って取り組み、新たなネットワークを形成する機会のある場に積極的に出向いていくことが重要なのではないか。
また、経営者以下の人材や若手が中心となってサポイン事業に取り組むことも非常に重要な要素である。本業との兼務はとてもハードルが高いので、サポイン事業に集中的に取り組むことができる経営者以外の人材を配置することがサポイン事業の成功要因の一つなのではないかと考える。
研究開発技術情報
- プロジェクト名:
- 高速成膜と密着性を両立した低コストDLC成膜技術の開発
- 事業実施年度:
- 平成28年度~平成30年度
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