第3章 民法・商法関係

下請110番 目次

第1章 下請代金法関係
1.総論
2.見積り
3.発注
4.受領・返品・やり直し
5.支払い:減額・支払遅延・割引困難手形・有償支給材の早期決済
6.下請け事業者への要請
第2章 独占禁止法関係
第3章 民法・商法関係

第3章 民法・商法関係

履行遅滞による損害賠償

【区分】民法
【違反類型】減額

A社は、B社から機械部品の受託を1,000万円で請け負いました。納品が4日遅れたところ、発注元機械メーカー(C社)から、納期遅れの損害の他に、1週間分の損害を加算した請求がなされたとして、B社から支払代金を600万円に減額すると言われました。B社との関係では、遅延に係る損害等は発生していません。減額に応じなければならないでしょうか。

納期遅れにより、C社にどのような損害が生じたのか不明ですが、B社は(契約書はなくても)C社に対して債務不履行に基づく損害賠償責任を負うこととなります。このため、損害賠償の範囲が問題となると解されます。

C社に生じた損害が通常損害と解される内容の程度のものであれば、B社としてその賠償義務を負いますが、A社は賠償義務は負いません。
なお、C社がA、B社に対し、ゴルフ練習場のオープン時期を予め告知し、「納期厳守」を申し入れていた等の事情がある場合、C社の被った特別損害についてもA、B両社ともに賠償義務が生じることがあります。
又、当事者間で予め賠償額の予定をしていた場合は、その額を負担することになります。
損害賠償の範囲は、契約内容、損害の程度、寄与度等にもよりますが、明らかに過大であると認められる場合は、「下請かけこみ寺」に御相談ください。

法令の根拠
  • 民法第415条、第416条、第420条、第542条、第632条

運送契約の不履行に基づく損害賠償

【区分】民法・商法
【違反類型】

運送会社のA社は、元請業者B社からの発注で、C社(荷主)の精密機械を東京から大阪まで運びましたが、開梱後、外観上のキズ等が発見されたため、B社から、検査に要した東京大阪間の往復旅費等として50万円を請求する旨の連絡がありました。ちなみにA社が請け負った運送代は、5万円でした。
輸送後、確認したところ、A社の設置したパレットはずれていなかったものの、C社が設置した精密機械がパレット上でずれていたため前記のキズ等が発生したものと思われます。
B社は、「A社が確認を十分にしなかったので、50万円を支払え」と言うのみです。C社の指示通り積込みをしたものであり、賠償金は双方で話し合う余地があるのではないかと考えます。

A社が運送を依頼された貨物が「精密機器」であったことから、A社が商品の性状等を知っていて受注した場合、運送にあたっての注意義務の程度は重いと解されます。当該機器をパレットに固定するのは、一義的にはC社の義務であったとしても、車両の走行中にズレが生じ当該機器に損傷を与えないかは、A社として十分注意すべきところです。

しかしながら、当該機器の損傷に基づく損害の発生は、A社とC社の共同責任と解されることから、B社が一方的に要求する金額を支払うのではなく、A社とC社の責任の負担割合を協議して支払うべきです。

損害の発生原因を生じさせた者が複数存在する場合は、原因に対する寄与度に応じて、双方が協議を行い、負担割合を決定する必要があります。

法令の根拠
  • 民法第415条、第416条、商法第577条、第578条

金型破損の損害賠償

【区分】民法
【違反類型】

プラスチック射出・成型を業とするA社は、A社の従業員の不注意で金型を破損してしまい、6日間操業停止したため、B社への納期が遅れたことによる損害金として200万円をB社から請求されています。全額支払うのは納得がいかないのですが、どうしたら良いでしょうか。

A社の従業員が不注意で破損し、納期を遅延したのであれば、契約違反(債務不履行)責任を負います。なお、従業員は相談者の「履行補助者」と解されます。

A社とB社の間で、予め債務の不履行について損害賠償の額を200万円と予定していた場合は、相談者はその全額を支払うことになりますが、そのような合意がない場合は、「通常生ずべき損害の賠償」をするのが原則で相手方に生じた「特別の損害」については、その事情を予見し、又は予見できた場合のみ負担することになります。

以上のことから、B社が主張する200万円の損害の内容を十分に吟味すべきでしょう。なお、損害賠償の範囲は、予め賠償額を予定していない場合は、B社の主張が妥当な額であるかどうかを十分に協議する必要があります。

法令の根拠
  • 民法第415条、第416条、第420条

クレームの責任と損害の負担

【区分】民法
【違反類型】

Bは機械部品の加工を業とする個人事業主ですが、下請け(個人事業主)Aに対し機械部品の加工を外注しました。BからAに対する注文書には、クレームが出た場合は全てAの責任であることが明記されており、また、Aへの代金支払は7月末としていました。
元請け(C)から2回にわたりクレームがあり、1回目のクレームはAが対応しましたが、2回目は、早く対応する必要があることから、Bも加わって対応し、完了しました。
Aに対し、クレームに対応した追加材料費の半額及びBの作業代を差し引いた代金をBが支払ったところ、当初の代金を全額支払えとAから恫喝され困っています。

個人事業主同士の取引であることから、下請代金法の適用は受けませんが、Cからのクレームの責任がAの故意や過失によるものであれば、Bからの減額は不当とはいえないでしょう。

ただし、代金を全額支払うことを恫喝されていることについては、Aが、例えば、取り立てを反社会的勢力に依頼するような手段をとった場合は、刑事事件として警察に相談すべきです。

また、Aは私法上の紛争解決手段として司法手続によらずに自力で権利の実現を図ること(自力救済)は禁じられています。

法令の根拠
  • 民法第709条

部品の瑕疵による製品の損害

【区分】民法
【違反類型】

A社は、建設機械の部品の製造を行っている資本金1,000万円の会社ですが、主として建設機械エンジンの部品を製造しています。
最終ユーザー(C社)が建設機械を使用していたところ事故が発生し、A社の部品が不良品であったことが事故の原因として1億円の補償を親事業者であるB社から要求されています。どうすればよいでしょうか。

A社が納品した部品の不良品がA社の責めに帰すべき事由に基づいて発生したものかどうか確認する必要があります。もし、A社の責めに帰すべき事由に基づいて事故が発生した場合、債務不履行として損害賠償請求を受ける可能性はあります。

ただし、損害額1億円の妥当性については、C社の損害の内容、程度を十分調査する必要があります。また、仮に1億円が妥当な場合、B社がどのような保証を行うか、また、A社とB社の負担割合を判断することとなりますので、「下請かけこみ寺」に御相談ください。

法令の根拠
  • 民法第415条、第416条

図面に指示の無い箇所に対するクレームと損害賠償

【区分】民法
【違反類型】

A社(資本金3,000万円)は、B社(資本金3,000万円)から鉄板の加工を受注し、指示図面どおり加工し納品しましたが、顧客(C社)から返品されたことを理由にB社は損害金の負担をAに請求してきました。クレーム内容は、特に指示されていない加工でしたが、不本意ながら支払いました
その後、B社は再納品のための製品仕様を具体的な指示を図面に追加してA社に委託してきました。A社は、この作業を外部の業者(D社)に再委託して再納品しましたが、これもクレームがつき結局発注を取り消されました。

本事例は、資本金基準を満たしておらず、下請代金法は適用されず、請負契約に基づく問題です。

最初のクレームは、B社の指示した内容どおりの製品を納品したのであれば、A社に請負契約上も責任はないはずです。請負のトラブルは、まず瑕疵・欠陥の内容とその原因を明確化することが大切です。特に発注者からどのような指示が出ていたのかを書面や証拠で明らかにしておくことが肝要です。

二回目のクレームは、再納品したものがB社の指示に適合していなかったのであれば、A社の責任ということになります。仮にA社の外注委託先のミスであったとしても、基本的にA社のB社に対する請負契約上の責任に変わりはありません。その場合は、本件の発注取消つまり請負契約の解除についても違法とはいえません。外注先の仕事ミスは、外注元が負うのが原則ですので、したがって外注元は委託先に対して慎重な作業内容の指示・確認が必要です。

以上のことから、初回クレームに要した費用は、A社はB社に対して請負代金請求権を有していますが、A社は、自社に責任がないことについて何の異議も述べずに損害金を支払ったという点で、返還請求が困難になることも想定されます。

法令の根拠
  • 民法第415条、第416条、第635条

契約成立前の費用の負担

【区分】民法・商法
【違反類型】

A社は、資本金300万円の清掃業を行う会社ですが、B社(ビルメンテナンス、資本金2億円)からホテルの清掃業務の助力を求められました
A社の担当者が現地へ行きB社と協議しましたが、翌月になって、今回の仕事は施主(C社)から断られ、御破算になったとのメールが届きました。
担当者の旅費、事務費等をB社に請求しましたが、支払ってくれませんが、法律上問題はないのでしょうか。

契約交渉過程において、予め現場調査等を実施する例はしばしばあり、多くの場合、当該費用は営業活動経費として賄われています。

本事例は、取引開始に至る前の条件交渉の段階で発生した費用であることから、営業活動の一環としての損失と解される可能性があり、このため、契約が成立したとみなされない可能性もあります。

したがって、少額訴訟による請求を行っても、旅費等の費用は、交渉過程で自社が負担すべき営業活動費と解され、裁判で認められない可能性が高いと思われます。

調査等に要する費用が相当高額であり、当該調査等が相手方の今後の事業展開に利便をもたらすような場合(例えば地質調査等)には、予め相手方に応分の負担を依頼しておくと良いでしょう。


発注の停止

【区分】下請代金法・民法・商法
【違反類型】発注書面不交付・不当な給付内容の変更

A社(資本金1千万円)は、20年ほどB社(資本金3億円)から部品の製造委託を受け、取引を継続してきましたが(契約書はない)、需要の急激な落ち込みにより、突然、来月から当分の間発注を停止するとの連絡がありました。 A社の売上に占めるB社の売上は約70%を占めています。このまま発注停止が続けば、当社は倒産してしまいます。どうすればよいのでしょうか。

A社とB社の取引は、下請代金法の資本金基準を満たしており、「製造委託」に該当することから、下請代金法が適用される取引と考えられます。
まず、契約書が交わされていないことから、発注書面の不交付のおそれがあります。また、取引の実態を精査し、一定期間の契約が存在すると判断できれば、突然の発注停止は「不当な給付内容の変更」に該当するおそれがあります。

契約書がないということから、B社に発注義務があると解釈することは困難です。契約上、B社に発注義務がない以上、発注しないことは契約違反とはならないことになります。

しかしながら、取引停止に関しては、相当の猶予期間の要件を欠く発注停止による親事業者の損害賠償責任を認めた判例もあります(福島印刷工業事件・昭和57年10月19日判時1076号)ので、大変困難な相談事案ですが、下請かけこみ寺に御相談ください。

法令の根拠
  • 下請代金法第3条、第4条第2項第4号

入札による発注停止

【区分】民法・商法
【違反類型】

運送業を営むA社(資本金1,300万円)は、運送業等を営むB社(資本金3億円)とは10年前から「運送契約書」を締結して継続的取引を行っています。
今年、運賃等の改定通知がB社から突然届き、競争入札が行われ、B社との月間取引額は600万円から300万円にダウンしました。
B社の取引の一部打ち切りは、「運送契約書」(解除の申出:30日前)に違反していないでしょうか。長期間、継続取引をしていた契約を一方的に入札通知を行い、業務を打ち切ることは、法令上問題はないのでしょうか。
なお、入札通知文書に、「入札に関して、他社と話し合いを行った場合は、一切の取引を停止する」との記載がありますが何か問題はあるのでしょうか。

B社の資本金が3億円を超えていないことから、本取引において下請代金法は適用されません。また、契約の一部が解除され売上が減少したものの、半分の業務が発注され、これをA社としても受注している以上、「運送契約」は解除されたとは云えず、このため同契約に基づく契約不履行を主張することは困難であると考えられます。

しかし、仮に、月間売上げが当初の1,2割にまで減少し、A社としてB社からの当初受発注と著しく相違するに至った場合は、実質的に契約解除に等しいとの主張ができる可能性があります。また、仮に運送契約書の中で、運賃単価のみならず、運送頻度・回数なども決めていれば、その契約条件の一方的な変更として、契約不履行の主張が成り立つ可能性もあります。

さらに、入札通知書にある「注意事項」は、入札参加者がカルテル等の違法行為を行わないよう注意したものであり、これが守られなかった場合は取引を停止するという条件は法令上問題とはなりません。

このため、同業他社の営業活動等について情報収集を行うなどして、B社との10年来の信頼関係に基づいて、新たな提案を行うなどの営業努力が必要であると考えます。


契約の終了

【区分】民法・商法
【違反類型】

A社は、15年前からB社から製造委託を受け、契約期間1年の契約を毎年自動更新してきました。契約書には、中途解約条項はありません。
今回、期間満了日の3か月前にB社から契約を更新しない旨の通知が届きましたが、契約書に定められているので、仕方がないのでしょうか。

継続的契約が終了する場合は、?契約書に期間の定めがあり期間満了により終了する場合、?一定予告期間の後に解約できるという条項がある場合、?債務不履行が生じ法定解約による場合があります。その他に、当事者の合意で契約を終了させることもできます。

下請取引に関する判例として福島印刷工業事件(昭和57年10月19日判時1076号)があります。同判決では、「受注側が受注のために相当の金銭等の出費をしている場合、発注側は特段の理由がない限り、相当程度の猶予期間や損失補償を設けずに一方的に取引停止を行うことは許されない(要旨)。」として、6か月間の逸失利益(得べかりし利益)相当額が損害賠償として認められました。

契約の性質上、当事者の一方又は双方の給付がある期間にわたって継続して行われるべき契約、すなわち継続的契約といえる場合には、信義則上、契約の終了が制限されるとする判例理論があり、かかる理論の適用を受けられるかどうかは、ケースバイケースによるので、難しいところですが、下請かけこみに御相談ください。


一方的な取引終了

【区分】民法・商法
【違反類型】

A社は、自動車の部品加工の請負を行っています。発注先B社とは長期間の取引があり、売上げ全体の5割弱を占めています。
最近、B社から、?不良品が多いこと、?後継者がいないこと、を理由として、今年一杯で取引を切りたいと言ってきました。
しかし、A社の部品から不良品が常に出ているわけではありません。後継者がいないのは事実ですが、まだ10年程度は仕事を続けるもりです。

A社とB社間の取引に関し、契約条件を定める「契約書」が作成されている場合、一般的には「契約解除」事由についての条項があります。解除事由に該当する事由がA社に認められれば、A社の契約違反(債務不履行)として、B社から契約を一方的に解除され、契約の終了を通告されることもあります。「不良品」があったことが契約違反といえるかは、その不良品がA社の責任なのか、契約違反に該当するのかにより判断するしかないでしょう。

また、契約で有効期間の定めをしていて、期間満了により契約更新がされない場合も契約は終了しますが、A社に「後継者がいない」ということだけでは契約解除の事由にはなりません。

取引停止の通告を受けた場合は、先ず「契約書」の内容を確認しましょう。また、契約書がない場合や新規取引を行う場合は、「解除事由」や「契約期間」等を盛り込んだ契約を作成するよう、取引先と協議しましょう。

法令の根拠
  • 民法540条

契約の取り消し

【区分】民法・特定商取引法・割賦販売法
【違反類型】減額

インターネットの回線を光通信に切り替えると、今使っている電話機では雑音が入るとして、電話機の交換を勧められ、リース契約の申込書を出しましたが、NTTに確認したところ雑音が入ることはないと言われました。
リース契約は、7年間で総額96万6,000円と高額だったこともあり、また、着工前であったことから、取り消しを申し出たところ、キャンセル料23万円を払うように言われました。契約書を締結していないので、キャンセル料は支払う必要はないのではないでしょうか。

リース契約の「申込書」を出したとのことですが、その申込書が「借受証」であると当事者の権利義務関係は大きく変わります。
「借受証」を交付すると「契約書は締結していない」と云っても、相談者と相手方との間で契約は成立し、解約は制限されます。
もう一度「申込書」をチェックし、解約に対して相手方が主張するような約定となっているかを確認して下さい。

相手方が虚偽の事実を述べているのならば、「詐欺」として取消の主張を、また、契約締結につき相談者側に「錯誤」があるのであれば、無効の主張ができる場合もありますので「下請かけこみ寺」に御相談してください。

なお、消費者保護の観点から、訪問販売や割賦販売等について、一定期間内であれば違約金等を支払わずに申し込みの解除等が可能である、所謂クーリングオフ制度もありますが、一般的には、事業者に対しては適用されませんので、特に個人事業主を狙った悪徳商法については、注意する必要があります。

法令の根拠
  • 民法第95条、第96条、特定商取引法、割賦販売法、リース契約(ファイナンス・リース契約)

開発費の負担

【区分】民法・商法
【違反類型】

A社(資本金1,000万円)は、機械製造を営む会社ですが、取引先B社(資本金3億円)の専用機械の開発に携わってきましたが、開発費用が1,000万円となったことから、B社に口頭で伝え、了解を得ました。
B社に1,000万円を請求したところ、既払分があるとして400万円に関する覚書を提示されたため、A社は受諾しました。その後、当該400万円について、300万円と100万円に分けた覚書が再度作成され、A社は受諾し、400万円が支払われました。
A社は、口頭合意の1,000万円をB社は引き続き認識していると思い、取り敢えず覚書を受諾したものですが、今後どうすれば良いでしょうか。

A社とB社の契約内容を確認する必要があります。B社の専用機械をA社とB社で共同開発をするものなのか、A社はB社に対して開発技術の協力を行うものだったのか、また開発費用の1,000万円についてB社から了解を得たという意味でしょうが、専用機械は未だ開発途上と思われます。

覚書の内容、趣旨も問題です。A社は、B社から口頭で1,000万円の了解を得ていたにもかかわらず、400万円での覚書を締結しており、また、400万円の内訳として100万円と300万円の覚書も締結し、実際に支払いも受けていることから、これら一連の行動の意味合いが問題となると思われます。

既払分の600万円を控除した残額400万円として、精算条項ある覚書を交わしたのであれば、A社は、追加請求はできないことになります。
A社は、覚書を取り交わしたにもかかわらず、何故600万円を追加請求できると考えているのか、その事情の確認が必要です。

このため、「下請かけこみ寺」が紹介する弁護士に相談してください。その際、手元に残っている資料を持参するとともに、発注を受けてから、覚書を取り交わすまでの間のB社とのやり取りについて予め整理しておいてください。

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