第1章 下請代金法関係 5 支払い
下請110番 目次
第1章 下請代金法関係
1.総論
- 下請かけこみ寺の相談業務について
- 下請事業者にとって下請代金法を学ぶ意義
- 下請代金法が適用される取引
- 下請代金法が適用される製造委託
- 下請代金法が適用される修理委託
- 下請代金法が適用される情報成果物作成委託
- 下請代金法が適用される役務提供委託
- 下請代金法違反の疑いがある場合の対応
- 下請代金法の適用除外の行為
- 下請取引適正化のためのガイドライン
- 下請取引適正化の取り組み
- 商社介在の時の親事業者
- システム開発の人材派遣
- トンネル会社の利用
2.見積り
3.発注
4.受領・返品・やり直し
- 一方的な納期設定による受領拒否
- カタログからの抹消による損害
- 不当なやり直し
- 変更指示による部品の不具合の発生
- 受入検査
- 不当な給付内容の変更
- 発注取消
- 不当な設計変更
- 見積にない追加作業
- 瑕疵担保期間を越えるやり直し
- 瑕疵担保
5.支払い:減額・支払遅延・割引困難手形・有償支給材の早期決済
- 検査後の支払
- 不当な値引要求
- 代金回収
- 代金未払
- 継続役務の支払
- 設計料の支払遅延
- 金型代の支払
- 瑕疵による支払い留保
- やり直しと同時の変更依頼
- 支払日の繰り延べ
- 値引要請
- 手数料名目による減額
- 代金の減額
- 情報成果物の値引
- 修理代からの手数料の控除
- 手形払から現金払への変更
- ソフトウェアの開発代金
- 一定割合の損害負担
- 5ヶ月手形の交付
- 160日手形の交付
6.下請け事業者への要請
第2章 独占禁止法関係
第1章 下請代金法関係 5 支払い
不当な値引要求
【区分】下請代金法
【違反類型】書面交付義務・支払遅延
A社は(資本金1,000万円)、コンピュータシステムのメンテナンス等を行っていますが、同業者であるB社(資本金3億円)から受注したソフトウェアの設計の作業費用約500万円が未収となっています。
B社からの値引き要求に対して、A社が断ったことから、下請代金を支払わないといっています。
なお、発注書面はなく、代金は見積書を提出して口頭による合意で決定されています。
A社の資本金は1,000万円、取引先B社の資本金は3億円であり、同業社間のソフトウェア開発の委託(情報成果物作成委託)であることから、下請代金法の資本金基準と取引内容の要件を満たしていると考えられます。
B社の行為は、発注を行った際、交付すべき発注書面がないことから、3条書面の交付義務違反であること、注文してからA社の責めに帰すべき理由がないにもかかわらず代金の値引を要請し、A社が断ったことを理由に未だ代金を支払っていないことから、「支払遅延」に違反するおそれがあります。
しかし、発注書面がないことから、実際にどのような条件で依頼を受けたのかが明らかではないことから、発注書面に代わる仕様書や納期、代金等が記載されている書面やメールやファックスのやり取りを整理してから、相談していただくと良いでしょう。
法令の根拠
- 下請代金法第3条、同法第4条第1項第2号
検査後の支払
【区分】下請代金法
【違反類型】支払遅延
A社(資本金3億円以下)は、B社(資本金10億円)から制御盤の製造委託を受け、工事業者のC社に引渡し、工事を行い、その後にB社が試運転調整を行います。
B社が発行する仕様書に制御盤の規格や試運転調整の検査項目等が記載されています。さらに、A社は、B社と「基本契約書」を締結し、「やり直し」についても規定しています。
こうした、取引の流れに沿って、B社は、代金支払を契約時に10%、現地納入時に70%、試運転調整後(90日後)に残りの20%をそれぞれ支払う旨の「社内規則」を作り、これを実施しようとしていますが、B社の支払い方法は問題がないのでしょうか。
A社とB社の取引は、資本金基準を満たしており、制御盤の製造委託に該当することから、下請代金法が適用される取引と考えられます。
下請代金法では、物品等を受け取った日を起算日とし、検査の有無に係らず、60日以内に100%支払わなければなりません。ただし、A社側に瑕疵等があった場合は、B社は無償の「やり直し」を求めることができます。この場合、B社は、再納入日を起算日として60日以内に代金を支払う必要があります。
また、「やり直し」をさせる場合は、発注書等に「機能」の内容が予め具体的に示されている必要があります。
支払遅延は、「下請事業者の責に帰すべき理由」という親事業者の免責要件がないことから、理由の如何を問わず、支払期日までに下請代金を全額支払わなければなりません。
以上のことから、B社の支払方法は、下請代金法に違反しているおそれがあります。
法令の根拠
- 下請代金法第4条第1項第2号
代金回収
【区分】下請代金法
【違反類型】支払遅延
A社(資本金2億円)は、B社(資本金8億円)から製品の発注を受け、設計・製造を行いB社に納品しました。B社は納品検査までしましたが、代金を支払ってくれません。
売掛金を回収するにはどうすればいいですか。相談は、匿名でお願いします。
A社とB社の取引は、資本金基準を満たしており、「製造委託」に該当するので、下請代金法が適用される取引と考えられます。
ご相談の売掛金の回収については、以下の2つの対応が考えられます。
一つは、製品を納品後60日以内に下請代金を支払わなければ、下請代金法の「支払遅延」に該当するおそれがあります。
B社に下請代金法第4条第1項第2号に違反するおそれがあることを伝え、代金支払の交渉をしてはいかがでしょうか。
もう一つは、「下請かけこみ寺」が実施する調停や裁判による方法です。ただし、調停、裁判ともに取引先との関係において匿名性を維持して進めることはできません。
法令の根拠
- 下請代金法第4条第1項第2号
代金未払
【区分】下請代金法
【違反類型】書面交付義務・支払遅延
A社(資本金1,000万円)は、測量業を営んでおり、同業のB社(資本金1億円)から、測量業務を受注しましたが、請負代金を支払ってもらえません。受注の経緯等は、次のとおりです。
- 本年1月に、2月10日納期、請負代金90万円の測量業務依頼が口頭であり、業務終了後の2月15日に発注書をもらいました。発注書の請負代金は、「打ち合わせによる」と記載されていました。
- 本年3月5日の発注書により受注しました。請負代金は口頭で80万円と示され、発注書には前回と同様に「打ち合わせによる」となっていました。追加作業が30万円あったことから、合計で110万円となります。
A社が上記請負代金200万円を請求しても入金がなかったことから、督促したところ、B社は、①の取引分は5月に払う、②の取引分は7月に払うとの回答でしたが、12月になっても入金がありません。
A社とB社の取引は、下請代金法の資本金基準を満たしており、また、測量業務は役務提供委託に該当することから、下請代金法が適用される取引と考えられます。
B社は、発注書面を業務終了後に交付しており、代金の額も明らかにしていないことから、下請代金法の3条の発注書面の交付義務に違反しています。
また、B社は、役務を提供した日から60日以内に代金を支払っていないことから、「支払遅延」(下請代金法4条1項2号)にも該当しているおそれがあります。
B社に下請代金法第4条第1項第2号に違反するおそれがあることを伝え、代金支払の交渉をしてはいかがでしょうか。
法令の根拠
- 下請代金法第3条、第4条第1項第2号
継続役務の支払
【区分】下請代金法
【違反類型】支払遅延
運送事業者のA社(資本金800万円)は、運送事業者のB社(資本金5,000万円)と取引を行っています。A社は、B社から毎月支払いを受けていますが、支払条件は、B社が請求書を月末にまとめて締め切り、翌々月末払いとなっています。これは下請代金の支払が60日を超えている場合に該当しないでしょうか。
また、発注については、契約書と個別の指示書により実施されていますが、法令上、不足する書類等がありますか。
A社とB社の取引は、下請代金法の資本金基準を満たしており、また、役務提供委託に該当することから、下請代金法が適用される取引と考えられます。
下請代金法では、原則として物品等の受領日(又は役務提供の日)から60日以内に代金を支払わない場合は「支払遅延」に該当します。このため、「当月末日締切、翌々月末日支払」では「支払遅延」に該当します。
しかし、役務提供委託において長期間にわたり役務が連続して提供される場合は、以下の3つの要件を全て満たす場合は、月単位で設定された締切対象期間の末日に役務が提供されたこととして扱うことから、締切後60日(つまり、月末締切日から起算して60日)以内の支払が認められます。
- 下請代金の支払いが「当月末日締切、締切後60日以内の支払」であることについて、予め下請事業者と合意され、発注書面(契約書を含む)にその旨記載されていること
- 発注書面(契約書を含む)に、下請代金の額(算定方式でも可)が明記されていること
- 下請事業者が、連続して提供する役務が同種のものであること
発注書は、具体的な注文行為がなされている場合は、特に名称等にはこだわりません。「契約書」及び「個別の指示書」に下請代金法第3条に基づく記載すべき事項(給付内容、下請代金の額、支払期日等)が全て記載されていれば、問題はありません。
法令の根拠
- 下請代金法第2条の2、第4条第1項第2号
設計料の支払遅延
【区分】下請代金法
【違反類型】支払遅延
A社(資本金3,000万円)は、設計業者のB社(資本金20億円)から建設工事に必要な建築物の設計図の作成を受託しました。B社は設計図の作成も建設工事に関わるものであり、下請代金法の適用外と解釈し、設計図を受領したにもかかわらず、未だに代金を支払っていません。
設計図の作成は下請代金法の適用となると聞きましたが、支払遅延とはならないのですか。
A社とB社の取引は、資本金基準を満たしており、設計図の作成は「情報成果物作成委託」に該当することから、下請代金法が適用される取引と考えられます。
このため、B社は設計図を受領した日から60日以内に定めた支払期日に代金を支払わないと「支払遅延」に該当することとなります。B社に下請代金法第4条第1項第2号に違反するおそれがあることを伝え、代金支払の交渉をしてはいかがでしょうか。
法令の根拠
- 下請代金法4条1項2号
金型代の支払
【区分】下請代金法
【違反類型】支払遅延
A社(資本金100万円)は、B社(資本金2,000万円)から部品と金型を受注することとしましたが、B社からは金型代金は、部品に上乗せして部品代の請求と一緒に精算すると言われましたが、それでよいのでしょうか。
金型の製造に関する委託がなされた場合は、金型を受領した日から60日以内に定めた支払期日に金型代金の全額を支払わなければ下請代金法に違反します。
なお、本事例は、部品と当該部品を製造するための金型の製造をともに発注し、支払いは部品代金の中に金型代金を含めるという(即ち、3条書面の給付内容が「部品」のみになっている)契約内容であることが推定されます。
①こうした契約を結ぶ際は、3条書面の給付内容に「部品」と「金型」とを両方記載するか、
②部品取引と金型取引を分けて契約するよう親事業者と十分な交渉を行う必要があります。
法令の根拠
- 下請代金法第4条第1項第2号
瑕疵による支払い留保
【区分】下請代金法
【違反類型】支払遅延
A社(資本金2億円)は、B社(資本金10億円)から製品の部品の製造を委託され納品しましたが、B社が先月組み立てた製品の一部に瑕疵が見つかったため、現在、原因を調査中であるとして、下請代金の支払を留保されています。当該製品の部品数は数百もあり、原因がはっきりするまで何ヶ月も下請代金の支払いを留保されることは、下請代金法上問題ではないのでしょうか。
A社とB社の取引は、下請代金法の資本金基準を満たしており、「製造委託」に該当することから、下請代金法が適用される取引と考えられます。
B社は、数百ある部品の一部に瑕疵があったことを理由に、A社に対する下請代金の支払いを留保していますが、A社が納品した部品に瑕疵があったか否かが判明していない以上、支払いを留保する正当な根拠は認められないと考えられます。
したがって、当初定めた支払期日を過ぎて、なお、B社が下請代金を支払わなかった場合は、「支払遅延」に違反するおそれがあります。
法令の根拠
- 下請代金法第4条第1項第2号
やり直しと同時の変更依頼
【区分】下請代金法
【違反類型】支払遅延
A社(資本金3億円)は、B社(資本金100億円)から金型の製造を受託し納品したところ、不具合があったとして、やり直しをすることになりましたが、同時に一部仕様変更がありました。このため、やり直しに要する期間と仕様変更に対応する期間を考慮し、再度、納期が設定されました。
B社からは、仕様変更に伴う追加費用は支払ってもらいましたが、代金の支払いは、やり直し期間を考慮に入れたとしても60日を超えてしまいました。
仕様変更が行われると代金の支払いがどんどん遅れてしまいますが、問題はないのでしょうか。
A社とB社の取引は、下請代金法の資本金基準を満たしており、「製造委託」に該当することから、下請代金法が適用される取引と考えられます。
不具合に対してやり直しを求めることは認められていますが、本事例では、やり直しと仕様変更が同時に生じたことから、仕様変更に要した期間だけ納品が遅れ、結果的にA社への支払いが、やり直しを考慮しても、本来支払われるべき期日を超えてしまったものです。
やり直しがA社の瑕疵によるものであっても、仕様変更はB社の都合によるものであることから、下請代金の支払いが、やり直しを考慮した支払期日を超えた場合は、「支払遅延」に該当するおそれがあるものと考えられます。
法令の根拠
- 下請代金法第4条第1項第2号
支払日の繰り延べ
【区分】下請代金法
【違反類型】購入強制・不当な給付内容の変更・支払遅延
A社(資本金300万円)はゴム製品加工業を営んでおりB社(資本金10億円)から製造委託を受けている。
A社はB社から中古機械をリース契約していたが、買取りを求められやむなく買い取った。
発注は、電話等で納期を連絡されるが、注文書に記載された納期と異なる場合が度々ある。支払方法は、毎月末日納品〆翌月末日支払であるが、実際には、翌々月末日に繰り延べられることもあり困っている。
こうした中、B社から「事業再編に伴い、A社との取引を終了する」旨の文書が突然送られてきて困っている。
A社とB社の取引は、下請代金法の資本金基準を満たしており、「製造委託」に該当することから、下請代金法が適用される取引と考えられます。
B社の行為は、注文書に記載している納期と異なる納期を電話等により指示し、下請事業者に不利益に変更しており、「不当な給付内容の変更」、また、実際の納期を遅らす場合には「受領拒否」、これに伴う「支払遅延」、実際の納期を前倒しして短くする場合には短納期発注による「買いたたき」等のおそれがあると考えられます。
さらに、設備の「購入強制」のおそれもあります。
次に、「取引停止の通知」については継続的取引契約期間内であれば「事業再編のため」が中途解約事由に該当するのか、また、これがやむを得ない事由にあたるかなどを検討する必要があります。
法令の根拠
- 下請代金法第4条第2項第4号、法第4条第1項第1号、第2号、第5号、第6号
値引要請
【区分】下請代金法
【違反類型】減額
A社(資本金500万円の運送業者)は、B社(資本金5,000万円の運送会社)から製品の運送を請負っていますが、長年、売り上げの10%の値引きを受けており、値引額の総額は2,500万円位になります。
契約書には値引に関する記載はありません。最近の分だけでも返してもらいたいと思っているのですができるでしょうか。
A社とB社との取引が資本金基準を満たしており、「役務提供委託」に該当するので、下請代金法が適用される取引と考えられます。
下請事業者の責めに帰すべき理由がないにもかかわらず、発注後に下請代金の額を減ずることは、協力金や歩引き等の名目の如何を問わず、「下請代金の減額」に該当するおそれがあります。
B社に下請代金法第4条第1項第3号に違反するおそれがあることを伝え、値引額返還の交渉をしてはいかがでしょうか。
法令の根拠
- 下請代金法第4条第1項第3号
手数料名目による減額
【区分】下請代金法
【違反類型】減額
A社(資本金1,200万円)は、荷主のC社(食品メーカー)が出資した子会社の運送業者B社から、C社の貨物の運送を委託され請け負っています。
A社とB社との契約書に、手数料3%を運送代金から差し引くと規定した事項があることから、毎月の運送代金の支払い時に3%が差し引かれています。
手数料を差し引く行為は法律に違反するのではないでしょうか。
本事例は、B社の資本金が3億円超であれば、下請代金法の適用対象の取引となります。
下請事業者の責に帰すべき理由がないにもかかわらず、発注時に決定した下請代金の額を発注後に減ずる行為は、手数料等の名目を問わず、「下請代金の減額」に該当するおそれがあります。これは、当初に下請事業者と協議して合意した金額であったとしても、その内容が下請事業者の責任のない理由により下請代金から減じるものであれば減額として問題となりうることに注意が必要です。
法令の根拠
- 下請代金法第4条第1項第3号
代金の減額
【区分】下請代金法
【違反類型】減額
A社(資本金200万円)は、食品会社B社(資本金2億円)との間で、和菓子の製造委託契約を締結しました。1個40円で契約し、書面を作成しましたが、B社は現在の売り上げ状況から支払う単価は1個30円にしてくれといってきました。
A社は、30円では赤字となってしまうことから断ったところ、1個30円の契約にするから、契約書をすぐ持ってくるように言われました。どうしたらいいでしょうか。
A社とB社の取引は、下請代金法の資本金基準を満たしており、「製造委託」に該当することから、下請代金法が適用される取引と考えられます。下請代金法では、瑕疵の存在や納期遅れ等、下請事業者の責に帰すべき理由がないのに下請代金の額を減ずることは禁止されており、発注後いつの時点で減額しても本法違反となります。B社に対して、1個40円の単価を30円に一方的に引き下げるという行為は、「代金の減額」に該当するおそれがあることを伝えて、価格の交渉を行ってはいかがでしょうか。
法令の根拠
- 下請代金法第3条、第4条第1項第3号
情報成果物の値引
【区分】下請代金法
【違反類型】書面交付義務・減額・支払遅延
A社は、広告のデザインを営んでいる資本金1,000万円の会社です。
A社は、広告業者B社(資本金が8,000万円)から展示会用写真と説明を入れたパネル作成を依頼され、代金の見積書を提出しました。発注は担当者同士で電子メールや口頭での話し合いで行われ、書面を取り交わすことはありませんでした。
代金は、書面でも口頭でも取り決めをしていませんでしたが、A社は、提出した見積書の金額で発注されたと思っており、代金を請求したところ、B社は、見積金額から値下げしなければ支払わないと言っています。
A社とB社の取引は、下請代金法の資本金基準を満たしており、「情報成果物作成委託」に該当することから、下請代金法が適用される取引と考えられます。
B社の行為は、発注を行った際、交付すべき発注書面がないことから、3条書面の交付義務違反であること、注文してからA社の責めに帰すべき理由がないにもかかわらず代金の値下げ要求を行っており、下請代金の「減額」に該当するおそれがあります。
このままB社が支払期日を経過しても支払わなければ、「支払遅延」にも該当することになります。
法令の根拠
- 下請代金法第3条、同法第4条第1項第2号、第3号
修理代からの手数料の控除
【区分】下請代金法
【違反類型】第5条
A社(資本金1億円)は、住宅設備の販売と修理を業としている会社です。B社(資本金5億円)は、全国展開しており、全国の一般消費者から住宅設備機械の修理を受け付け、A社のような修理事業者に仕事を紹介しています。
A社は、B社から紹介を受けた顧客との間で修理の契約が成立する度にB社に手数料を支払っています。
さらに、B社が受注した住宅設備機械メーカーからの修理をA社に委託する場合があります。
この2つの取引について、下請代金法は適用されるのでしょうか。
同じ月に顧客の紹介と修理の委託が同時に生じた場合、A社にとっては紹介の手数料を別に支払うのは面倒なので、B社に修理代金から手数料を差し引いてもらうことは問題ないのでしょうか。
顧客紹介の都度、手数料を支払うという取引は、一種の役務取引ではありますが、B社が顧客から受託した役務取引をA社に再委託するわけではありませんので、下請代金法の適用は受けません。
B社が受注した住宅設備機械メーカーからの修理をA社に委託する取引は、資本金基準を満たしており、住宅設備機械の修理契約ですので下請代金法における「修理委託」に該当します。
また、同じ月に修理受託と顧客紹介が同時に生じた場合、修理代金から手数料を差し引いてもらうことは、顧客紹介の事実があり、契約が成立しているのであれば、下請代金法上問題とはなりませんが、きちんとそれらの書類を残しておくことが重要です。下請事業者にとってもそれらの書類に紹介の事実や契約の成立を明確に記載しておくことが重要です。
法令の根拠
- 下請代金法第4条第1項第3号、第5号
手形払から現金払への変更
【区分】下請代金法
【違反類型】減額
A社(資本金500万円)はB社(資本金1億円)から製造委託を受けており、取引の決済条件は、120日をサイトとする手形払いでしたが、先月から現金払いに変更してもらえることになりました。
しかし、今月は、下請代金額に6%を乗じた金額を下請代金から差し引いた金額が支払われました。これは下請代金法違反ではありませんか。
A社とB社の取引は、下請代金法の資本金基準を満たしており、「製造委託」に該当することから、下請代金法が適用される取引と考えられます。
本事例は、下請代金の支払方法を手形から現金に変更した際の金利相当額の取扱いに関する相談です。先月から現金払に変更されたということから、先ず、発注時にA社から交付される3条書面の「支払方法」欄が、「手形払」から「全額現金払」に変更されていなければなりません。
さらに、「全額現金払」であることから、3条書面に記載された下請代金額から金利や割引手数料等の相当額を差し引いて支払った場合は、下請代金法上の「減額」に当たるおそれがあります。
なお、参考事例として、手形払を基本とするものの、下請事業者からの求めにより一時的に現金払を行う場合があります。この場合は、自社の短期調達金利相当額であれば差し引いても良いとされています。
法令の根拠
- 下請代金法第4条第1項第3号
ソフトウェアの開発代金
【区分】下請代金法
【違反類型】支払遅延
ソフト開発を営むA社(資本金1,000万円)は、同業のB社(資本金1億円)から、会計システム設計(総額5,000万円)を請け負いました。
A社は、契約どおり、1回目支払日分の700万円を請求し、その数ヶ月後に2回目支払日分の300万円を請求しましたが、B社は支払期日に代金を支払わなかったことから、何回も督促したところ、200万円のみが支払われました。
このままでは、開発を続けても代金を支払ってもらえるかわかりません。どうすればよいのでしょうか。
A社とB社の取引は、下請代金法の資本金基準を満たしており、ソフトウェア開発であることから「情報成果物作成委託」に該当することから、下請代金法が適用される取引と考えられます。
ただし、受託物が未だ完成していないと思われることから、第2回目の支払期日に支払わなかったことが直ちに下請代金法の問題となるわけではありません。契約中でシステムの特定部分の納品期日が、それぞれ第1回目と第2回目の期限が定められている場合は、「支払遅延」となる場合があります。
A社は、契約が存続する限り、契約の履行を中止することはできません。そこで、A社は、B社の契約違反により契約を解除するか、代金の支払いを求め、支払わない限り、ソフト開発を停止する旨を通知するなどの方法により代金の支払いを促すことが考えられます。
第2回目も300万円のうちの200万円は支払われているのですから、次の支払いを促し、100万円をプラスして支払わせることを確約させるなどして、契約を存続させる方向で交渉した方がよいでしょう。
法令の根拠
- 下請代金法第4条第1項第2号
一定割合の損害負担
【区分】下請代金法
【違反類型】減額
A社(資本金1億円)は、B社(資本金15億円)から電子部品の製造を受託していますが、契約書には、検査を省略し、瑕疵の有無にかかわらず、下請代金から3パーセントを損害賠償として差し引くとする条項があります。当社は、毎月この条項に従って下請代金から3パーセント相当額が引かれていますが、契約書に定められているので仕方がないのでしょうか。
A社とB社の取引は、下請代金法の資本金基準を満たしており、「製造委託」に該当することから、下請代金法が適用される取引と考えられます。
B社は、契約書上検査を省略していますので、A社が納品した物品等に瑕疵があっても返品はできません。やり直しもできないと考えられます。
上記契約の規定は、瑕疵の有無にかかわらず、つまり損害の有無にかかわらず、下請代金から一律3パーセント相当額を差し引くという内容になっているわけですが、下請代金法は、そのような合意にかかわらず、下請事業者の責に帰すべき事由によらずに当初定めた下請代金から減額することを禁止しています。
したがって、下請代金から3パーセントを損害賠償として差し引くとする規定が実施されれば、直ちに下請代金法の「減額」に該当するおそれがあります。
法令の根拠
- 下請代金法第4条第1項第3号
5ケ月手形の交付
【区分】下請代金法
【違反類型】割引困難な手形の支払・支払遅延
A社(資本金1億円)は、金型、プラスチック成型品の製造販売を営む会社ですが、自動車関連部品メーカーのB社(資本金10億円)から金型とプラスチック部品の製造を受注しました(金型製造は500万円、プラスチック部品製造は月10万円。)。
支払条件は、月末〆翌月末日サイト5か月の手形払いですが、金型代金の500万円は24回分割で毎月21万円払いとなっています。
このため毎月の支払いは、金型代金21万円とプラスチック部品代金10万円を合算した31万円をサイト5か月の手形で支払われています。
この支払方法に、問題はないのでしょうか。
A社とB社の取引は、下請代金法の資本金基準を満たしており、「製造委託」に該当することから、下請代金法が適用される取引と考えられます。
本事例においては、以下の2つの問題があります。
一つは、B社が5か月という長期サイトの手形で支払っていることです。
下請代金法では、120日を超える長期サイトの手形を「割引困難な手形」と位置付け、下請代金の支払いとして交付することを禁じています。
もう一つは、金型代金を24回分割払いにしていることです。金型の製造委託を行った場合、親事業者は、金型を受領して60日以内に下請代金を全額支払わないと「支払遅延」に該当するおそれがあります。
法令の根拠
- 下請代金法第4条第1項第2号、法第4条第2項第2号
160日手形の交付
【区分】下請代金法
【違反類型】割引困難な手形の交付・支払遅延
A社(資本金5,000万円)は、B社(資本金4億円)から金属加工の発注を受けていますが、発注先の支払いが、当月末日〆翌々月10日支払です。支払は手形でなされ、手形のサイトが160日です。しかも、他府県の振出人の回し手形であり振出日から30日後に裏書きされ、受領したため、手形を換金するのに余計な費用がかかって困っています。
A社とB社の取引は、下請代金法の資本金基準を満たしており、「製造委託」に該当することから、下請代金法が適用される取引と考えられます。
親事業者は給付を受領した日から起算して60日以内に定めた支払期日までに下請代金を全額支払わないと下請代金法違反となりますが、B社の支払制度では受領から60日を超えることがあるため、支払遅延のおそれがあります。
また、支払いが手形による場合は、手形サイトが120日(繊維業は90日)を超える長期手形の交付は禁止されています。
法令の根拠
- 下請代金法第4条第1項第2号、第4条第2項第2号