第2章 独占禁止法関係

下請110番 目次

第1章 下請代金法関係
1.総論
2.見積り
3.発注
4.受領・返品・やり直し
5.支払い:減額・支払遅延・割引困難手形・有償支給材の早期決済
6.下請け事業者への要請
第2章 独占禁止法関係
第3章 民法・商法関係

第2章 独占禁止法関係

特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法の適用

【区分】独禁法
【違反類型】適用の有無

A社は運送業者で、B社(メーカー)から製品の配送を受託しています。B社の担当者から、配送料の一律20%の値下げを言い渡されました。これは、下請代金法違反となるのでしょうか。

下請代金法が適用されるための要件は、1つは、資本金基準であり、もう1つは、取引内容です。本事例では、A社はB社の製品の配送を受託していますが、下請代金法が適用される取引は、請負った運送(役務)を他の事業者に再委託する場合(他者に提供する役務)に限定されますので、下請代金法の適用から外れます。この場合、荷主が物品の運送を委託しているので、独禁法の「物流特殊指定」が適用されることがあります※。

  • 「物流特殊指定」の適用要件は、下請代金法とほぼ同様であり、輸送又は保管を委託する場合、?資本金が3億円超の事業者(荷主)が3億円以下の事業者(運送業者)に対して委託する場合、?資本金が1,000万円超~3億円以下の事業者(荷主)が1,000万円以下の事業者(運送業者)に対して委託する場合、?委託する事業者(荷主)が受託する事業者(運送業者)に対し取引上優越した地位にある場合が対象となります。

また、下請代金法の「買いたたき」に相当する「運送又は保管の内容と同種又は類似の内容の運送又は保管に対して支払われる対価に比し著しく低い代金の額を不当に定めること」は独禁法の違反行為(不公正な取引方法)に該当するおそれがあります。
価格水準は委託内容等により異なるため、一概に違反となる値下げ率を示すことは困難ですが、十分な協議を行わず、一方的に値下げした配送料を押しつける行為は、独占禁止法の不公正な取引方法に該当するおそれがあります。

法令の根拠
  • 独占禁止法第19条、特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法(平成16年3月8日公取委告示第1号)

不当な値引き分の返還要求

【区分】独禁法
【違反類型】物流特殊指定適用の減額

A社(資本金1,000万円)は運送会社ですが、荷主B社(資本金9,000万円)から過去10年間にわたり運送代金を3~10%協力金の名目で値引きを求められていましたが、最近、公取委から警告があり、以降協力金を取らなくなりました。10年分の値引き分を取り戻すにはどうしたらよいでしょうか。

  1. なお、本件は、荷主と運送業者間の取引であることから、下請代金法上の「自ら用いる役務の委託」に該当し、この結果、下請代金法ではなく、独禁法の「物流特殊指定」の適用を受けると聞きましたが、独禁法違反で値引き分を回収することはできるのでしょうか。
  2. また、この荷主との取引をやめるつもりはないことから、匿名で申し出て、調査を依頼することはできるのでしょうか。
1について

本事例については、A社自ら指摘しているとおり、下請代金法の適用対象ではなく、独禁法の物流特殊指定の適用を受けます。
独禁法違反が認められた場合は、公取委が排除措置命令を下しますが、同命令では、違反行為の取り止めを命ずることが中心であり、減額分の返還を命じることはありません。

2について

匿名の申告は可能ですが、公取委が調査に着手するには具体的かつ詳細な情報が必要となります。公取委では調査に際し、申告者が特定されないよう十分注意していますので、申告の際に相談していただきたいと思います。

法令の根拠
  • 特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法(平成16年3月8日公取委告示第1号)

単価引下の遡及適用

【区分】独禁法
【違反類型】物流特殊指定

A社(資本金800万円)は、B社(大手食品メーカー)から食品の運送を請け負っております。また、B社は出資金が3億円を超えている法人です。
A社とB社は、今年の4月に契約を行いましたが、B社から10月に契約を見直すと言ってきました。見直しの内容は、4月の契約で決めた単価を引き下げ、それを4月まで遡って適用し、4月以降に支払った代金から差額分を返せというものです。
このようなやり方は、法令に違反するのではないでしょうか。

本事例においては、発注者のB社が荷主であることから、下請代金法の適用は受けず、独禁法の不公正な取引方法の「物流特殊指定」が適用されます。

なお、本事例のように、物流事業者の責めに帰すべき理由がないのに、一度締結した契約内容を過去に遡って変更し、過去に生じた差額の返還を要求するようなことは、認められておらず、物流特殊指定上の減額に該当するおそれがあります。

法令の根拠
  • 特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法(平成16年3月8日公取委告示第1号)

購入強制

【区分】独禁法・下請代金法
【違反類型】購入強制・優越的地位の濫用

A社(資本金5,000万円)は広告代理店ですが、広告主B社(資本金1億円)が広告物作成の発注の際に、広告主の製品の購入を暗に断れないように要求してくるのですが、これは下請代金法違反の問題にならないのでしょうか。
また、公告主B社は、A社に対し、A社が普段、再委託を行っているC社が、広告主B社の製品を購入するようA社に圧力をかけてくるのですが、いかがでしょうか。

広告主B社にとっては、広告物は無料で配布するものなので、自家使用となり、広告主自身が繰り返して広告物の作成を行っていなければ、下請代金法の情報成果物作成委託に該当しません。

まず、下請代金法が適用されない場合で、広告主B社が広告代理店A社に対し、取引上優越した地位にある場合、広告主B社から広告代理店A社に対して、広告物作成の発注の際に、広告主B社の製品を購入しないと暗に発注に影響するようなことをほのめかして、事実上、商品購入を強制することは、独禁法第19条で禁止する不公正な取引方法のうち優越的な地位による濫用行為として問題となる恐れがあります。

次に、広告主B社が自ら広告物の作成を繰り返して行っている場合にA社に広告物の作成を依頼する場合及びA社が、C社(資本金が1,000万円以下の場合に限る。)に広告物作成の再委託を行う場合は、下請代金法の情報成果物作成委託に該当します。

その場合は、広告主B社がA社に対し、自己の指定する製品の購入を強制すると広告主B社が、A社又はC社に対し、事故の自己を強制すると、A社は下請代金法で禁止される「購入強制」に該当するおそれがあります。

法令の根拠
  • 独禁法第19条「不公正な取引方法」(昭和57年6月18日公正取引委員会告示第15号)(一般指定)第14項優越的地位の濫用、下請代金法第4条第1項第6号

木型代の立替金

【区分】下請代金法・独禁法
【違反類型】優越的地位の濫用

A社(資本金1,000万円)は、鋳物の製造販売を営む会社ですが、取引先B社(資本金3億円超)から鋳物の製造委託を受注しています。
鋳物は1個約10万円で受注していますが、鋳物用の木型(1個約3万円)については、2年間の型代を予測して2年後に支払うという制度が採られており、例えば、毎月5個とすると年間で5個/月×12ヶ月=60個、60×3万円=180万円と高額となり、立替金が多くなってしまい困っています。
今回、何年ぶりかの仕様変更で木型も変更になるため、B社から見積書を提出するようにいわれましたが、立替払いが大変なので良い方法がないでしょうか。

下請代金法が適用されるのは、鋳物の製造委託であり、本事例の取引において木型自体には下請代金法は適用されません。

しかし、鋳物を製造するためには木型が不可欠であり、金型同様にA社がB社の仕様に合わせて木型を製造し、これを使用して鋳物を製造しているのですから、金型と同様に木型を受領した日から60日以内に木型の代金を支払ってもらうよう交渉すべきです。この点、木型は、納品されず鋳造に用いられるので、鋳造を開始した時点を給付の受領日とみて交渉すべきでしょう。

それが合意できない場合には、2年単位ではなく、もっと短いサイクルで決済することを求めるなどの調整点を見つけることが望ましいと考えられます。

法令の根拠
  • 独禁法第19条、「不公正な取引方法」(昭和57年6月18日公正取引委員会告示第15号)(一般指定)第14項優越的地位の濫用

梱包材の回収費用

【区分】独禁法
【違反類型】物流特殊指定

A社(資本金1億円)は、荷主B社(資本金10億円)から工場等出荷場所から納品先までの条件で貨物運送を引き受けています。しかし、配達先では荷物を開梱したときの梱包材のゴミを持って帰るよう指示されます。このため復路で他の荷物を積載することができません。

まず、委託契約の内容を確認して下さい。契約内容に梱包材料の回収が含まれていない場合は、ゴミの回収費用の支払いを求めるか、復路の運送ができないことを説明し、運賃自体の見直しをB社に要求することが考えられます。
荷主と運送業者との間の取引は、独禁法の不公正な取引方法の「物流特殊指定」の適用を受けますので、委託契約の範囲に梱包材料の回収が含まれていない場合に、無償で回収業務を行わせるなど、不当にA社の利益を害する場合には、同規定で禁止している不当な経済上の利益の提供要請等の違反行為に該当しているおそれがあります。

なお、A社によるゴミの分別回収作業や復路のゴミ運送が、どのくらいの代金・費用に相当するか具体的な費用を計算してデータを用意しておくことも効果的でしょう。

法令の根拠
  • 特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法(平成16年3月8日公正取引委員会告示第1号)

不当な契約条項

【区分】下請代金法・独禁法
【違反類型】書面の不交付・不公正な取引方法(優越的地位の濫用)

A社は、B社から物品の修理を委託されていますが、B社からの発注は、口頭によるものが多く、契約書を締結していませんでした。
今般、契約書を作成して締結しようとしていますが、条文の中にA社が修理したものでユーザーから苦情があったときは、B社は無償で契約解除できる旨の規定があるのですが、これはA社に不利な条項ではないのでしょうか。

A社とB社が、下請代金法の資本金基準を満たしていれば、「修理委託」に該当することから、下請代金法が適用される取引と考えられます。
下請代金法が適用される場合、B社は発注書面の交付をしてないことが多いので、下請代金法第3条に違反しているおそれがあります。

また、A社が修理したものについて、顧客からの苦情があった場合に、B社が下請事業者の責任を問わずに契約解除できる規定は、A社に一方的に不利益な内容となっています。
B社がA社に取引上優越的な地位にある場合、一方的に相手に不利益な条項を押しつける行為は、独禁法の不公正な取引方法(優越的地位の濫用)に該当するおそれがあります。

法令の根拠
  • 下請代金法第3条、独禁法第19条、「不公正な取引方法」(昭和57年6月18日公正取引委員会告示15号)(一般指定)第14項優越的地位の濫用

検品作業の負担

【区分】独禁法
【違反類型】優越的地位の濫用

A社は、資本金300万円の有限会社で、B社(資本金1,000万円)から工場内で加工作業を請け負っていますが、A社が作業したものに髪の毛が入っていた(製品は食品ではない)との理由で、これからは、別の会社に検品作業を依頼するので、その費用を負担するよう求められています。さらに、検品してやり直したものについて、費用を負担するように要求され困っています。

本取引事例は、発注者のB社の資本金が1,000万円であることから、下請代金法の適用とはならず、請負契約に基づく問題です。

B社は、今後、検品作業を実施し、その費用をA社に請求するとしていますが、検品の導入理由が、「髪の毛が入っていた」という納めた製品の品質などに関係のないものであれば、その是非について双方が十分に協議する必要があります。

仮に導入する場合であっても、検品方法、検査基準等を予め明らかにしておく必要があり、発注書面に当該費用を計上していない場合は、A社に負担させることはできません。

また、やり直しについても、仮にやり直しをすべき製品があったとしても、やり直しの基準、理由や金額の根拠等についてB社に確認を行い、根拠が不明だったり、明らかに過大であると認められる場合は、B社がA社に対し取引上優越的な地位にある場合、相手に一方的に不利益を押しつける場合は、独禁法の不公正な取引方法(優越的地位の濫用)の問題となる場合があります。

法令の根拠
  • 独禁法第19条、「不公正な取引方法」(昭和57年6月18日公正取引委員会告示第15号)(一般指定)第14項優越的地位の濫用

共同研究開発

【区分】独禁法
【違反類型】

A社は、B社と共同研究開発契約を結び、自動車の安全装置に関する技術開発を進めていますが、共同研究開発契約の覚書では、当該研究開発が終了した後も、A社が、他社と同じテーマで研究開発することを禁じています。このような規制に問題はないでしょうか。

共同研究開発契約において、研究開発実施期間中に、同一テーマについて第三者との研究開発を制限したり、禁止する契約条項がよく見られますが、共同研究の成果物についての混乱やトラブルを避ける目的で結ばれている限り、原則として問題はありません。

しかし、研究開発終了後まで同一テーマについての第三者との研究開発を制限することは、その必要性を明らかに超えており、パートナーの経済活動の制限は、公正な競争を阻害するおそれが強いことから、独禁法に違反する可能性が生じます。

ただし、研究開発が終了した後であっても、共同研究開発の成果について争いが生じることを防止するため、又は、参加者を共同研究開発に専念させるために必要と認められる場合には、合理的期間に限って、共同研究開発のテーマと同一又は極めて密接に関連するテーマの第三者との研究開発を制限することは許される可能性があります。

法令の根拠
  • 独占禁止法第19条、共同研究開発に関する独占禁止法上の指針(平成5年4月20日公正取引委員会公表)

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