第1章 下請代金法関係 6 下請け事業者への要請
下請110番 目次
第1章 下請代金法関係
1.総論
- 下請かけこみ寺の相談業務について
- 下請事業者にとって下請代金法を学ぶ意義
- 下請代金法が適用される取引
- 下請代金法が適用される製造委託
- 下請代金法が適用される修理委託
- 下請代金法が適用される情報成果物作成委託
- 下請代金法が適用される役務提供委託
- 下請代金法違反の疑いがある場合の対応
- 下請代金法の適用除外の行為
- 下請取引適正化のためのガイドライン
- 下請取引適正化の取り組み
- 商社介在の時の親事業者
- システム開発の人材派遣
- トンネル会社の利用
2.見積り
3.発注
4.受領・返品・やり直し
- 一方的な納期設定による受領拒否
- カタログからの抹消による損害
- 不当なやり直し
- 変更指示による部品の不具合の発生
- 受入検査
- 不当な給付内容の変更
- 発注取消
- 不当な設計変更
- 見積にない追加作業
- 瑕疵担保期間を越えるやり直し
- 瑕疵担保
5.支払い:減額・支払遅延・割引困難手形・有償支給材の早期決済
- 検査後の支払
- 不当な値引要求
- 代金回収
- 代金未払
- 継続役務の支払
- 設計料の支払遅延
- 金型代の支払
- 瑕疵による支払い留保
- やり直しと同時の変更依頼
- 支払日の繰り延べ
- 値引要請
- 手数料名目による減額
- 代金の減額
- 情報成果物の値引
- 修理代からの手数料の控除
- 手形払から現金払への変更
- ソフトウェアの開発代金
- 一定割合の損害負担
- 5ヶ月手形の交付
- 160日手形の交付
6.下請け事業者への要請
第2章 独占禁止法関係
第1章 下請代金法関係 6 下請け事業者への要請
ユニフォーム着用の強制
【区分】下請代金法
【類型】購入強制
A社(資本金500万円)は、B社(資本金2,000万円)が請け負ったレジャーランド(全体)の清掃作業を委託されることになりましたが、B社から、レジャーランドが営業時間中の清掃作業時にはレジャーランド指定のユニフォームを着用することになっていることから購入するよう要請がありました。これは受けなければならないのでしょうか。
購入強制とは、親事業者が発注した内容を維持するために必要である等の正当な理由がないにも関わらず、親事業者の指定する製品・原材料等を下請事業者に対して強制的に購入させることをいいます。
したがって、本事案は、レジャーランドが営業時間中の清掃作業は入場者から見えるところでの清掃作業であり、レジャーランド指定のユニフォームの着用は「注文の内容を維持するために必要」であると考えられることから、「購入強制」には該当しないものと判断されます。
法令の根拠
- 下請代金法第4条第1項第6号
機械リースの強制
【区分】下請代金法
【類型】利用強制
A社(資本金1,000万円)は、B社(資本金1億円)の製品の部品の製造を受託していますが、新製品の部品の発注を受けるに当たり、B社の子会社から製造機械のリースを受けるよう指示されました。
新製品の製造は、A社が保有する既存の機械に若干手を加えれば、製造可能であることは、B社の担当者も認めていますが、リースを受けないと新規の発注を受けられなくなるだけでなく、従来の発注も受けられなくなるかも知れないことから、受けざるを得ないとは思っていますが、何かよい方法はないでしょうか。
A社とB社の取引は、下請代金法の資本金基準を満たしており、「製造委託」に該当することから、下請代金法が適用される取引と考えられます。
本件は下請代金法の「利用強制の禁止」に該当するかどうかが問題になります。
利用強制とは、事実上下請事業者が利用を余儀なくされたか否かによって判断されます。A社は、仮に、断れば、新製品の部品だけでなく、従来の部品の発注を失うかも知れないという状況にあるわけですから、実質的に選択の余地はなくリースすることを余儀なくされていると考えることができ、B社の行為は利用強制の禁止に該当するおそれがあります。
法令の根拠
- 下請代金法第4条第1項第6号
大量の無償支給材料
【区分】下請代金法
【類型】不当な経済上の利益提供の要請
A社(資本金500万円)は繊維メーカーであるB社(3,000万円)から白生地を無償支給され、染色の委託を受けています。
B社からは、約1年分の注文に必要な白生地をまとめて支給され、保管に困っています。何か法令上の問題があるのではないでしょうか。
A社とB社の取引は、下請代金法の資本金基準を満たしており、「製造委託」に該当することから、下請代金法が適用される取引と考えられます。
原材料を大量に支給することが下請代金法で禁止される「不当な経済上の利益の提供要請」に該当するかが問題となります。
A社とB社の契約内容を確認する必要がありますが、無償支給であることから、A社が金銭上の負担を強いられているわけではありませんが、1年分の原材料を支給されることにより、A社は、在庫期間中はその倉庫を有効に活用ができなくなるおそれがあり、倉庫を借りた場合は、倉庫費用を負担しなければなりません。このため、「不当な経済上の利益提供の要請」に該当するおそれがあります。
法令の根拠
- 下請代金法第4条第2項第3号
金型の長期保管
【区分】下請代金法
【類型】不当な経済上の利益提供の要請
A社(資本金1億円)は、B社(資本金100億円)から継続して製品の部品の製造委託を受けていますが、現在製造中の金型はもちろん、生産を中止した製品の部品の金型を数年以上にわたり、ずっと保管し続けています。これらの金型の所有権はほとんどがB社です。
大きな金型については、自社の倉庫では入りきらず、別途倉庫を借りており、その倉庫費用の負担が重くのしかかっています。
B社に処分するか、引き取るよう求めても、もう少しと言われ、現在に至っています。どうすればよいのでしょうか。
A社とB社の取引は、下請代金法の資本金基準を満たしており、「製造委託」に該当することから、下請代金法が適用される取引と考えられます。
先ず、生産中止になった部品の金型(補給品)の所有権をはっきりとさせる必要があることから、契約書等で所有権の所在を確認します。契約書に定めていない場合は、誰が金型製作を発注し、誰が制作費用を負担したのか等の事実関係から考えることになります。
そして、金型の保管とその費用負担について、どのような取り決めがなされているかについて、契約書等で確認する必要があります。
本事例においては、親事業者B社が所有権を有する金型の長期保管を下請事業者A社に対して無償で強いているとすれば、「不当な経済上の利益の提供要請」に該当するおそれがあります。
法令の根拠
- 下請代金法第4条第2項第3号
実験費用の負担
【区分】下請代金法
【類型】不当な経済上の利益提供
A社(資本金2億円)は、B社(資本金10億円)からの発注に応じて真空装置の試作と量産を行っています。
試作品の発注を受ける前に、B社の要望により、類似した実験を行うことがあります。その実験の結果が良ければ試作品の発注となりますが、発注前に実験経費のいくらかでも取引先に負担してもらうことはできないでしょうか。
A社とB社の取引は、下請代金法の資本金基準を満たしており、「製造委託」に該当することから、下請代金法が適用される取引と考えられます。
A社が「経済上の利益」を提供することが、A社にとって直接の利益となることをB社が明確にしない場合には、「A社の利益を不当に害する」ものとして下請代金法の違反に該当するおそれがあります。
B社の要望により、A社が実験を行うので、実験に要する費用をB社が支払わない場合は、「不当な経済上の利益提供」に該当するおそれがあります。最も良い方法は、B社と契約を結び、実験に要した費用の扱いを明らかにすることですが、留意すべき点は、実験の結果、特許出願等を行うような成果が現れた時に、当該成果は費用を負担する相手側に帰属させるべきであるという要求を断れなくなる可能性があるということです。
このため、次善の策として、実験を行い、これ以上継続すると費用がかさむ、あるいはリスクが急増するという段階で、正式な発注を行ってもらうよう申し出ることなどが考えられます。
この場合であっても、実験を相手の希望により行っていることを示すよう記録に残す(例えば、内容確認のFAXを先方に送信し、その結果を記録として保存するなど)ことなどが重要です。
法令の根拠
- 下請代金法第4条第2項第3号
試作品の費用負担
【区分】下請代金法
【類型】】書面交付義務違反・支払遅延・不当な経済上の利益提供の要請
A社(資本金2億円)は、B社(資本金15億円)から製品の部品の製造委託を受けていますが、商品化を予定した製品の試作品の製作を依頼されました。当社は苦心の末、試作品を納品しましたが、その部品の製造は他社に委託され、結局試作品の費用も支払ってもらえませんでした。
B社のこのような行為は下請代金法に違反しないのでしょうか。
A社とB社の取引は、下請代金法の資本金基準を満たしており、「製造委託」に該当することから、下請代金法が適用される取引と考えられます。
B社は、商品化を予定した試作品の製造委託に係る発注書面の内容を確認する必要がありますが、発注書面を交付してないとすると下請代金法3条に違反します。
結果的に、相談者は納品したにもかかわらず、試作品の製造代金を支払ってもらっておらず、「支払遅延」となっています。また、A社は、無償で試作品を作らされたことになることから、「不当な経済上の利益提供」に該当するおそれがあります。
しかし、発注書面がないことから、実際にどのような条件で依頼を受けたのかが明らかではないことから、発注書面に代わる仕様書や納期、代金等が記載されている書面やメールやファックスのやり取りを整理しておいて下さい。
法令の根拠
- 下請代金法第3条、第4条第1項第2号、第2項第3号
金型の修理費の負担
【区分】下請代金法
【類型】不当な経済上の利益提供の要請
A社(資本金5千万円)は、B社(資本金10億円)からプラスチックの成型加工の発注を受けています。この加工用の金型はB社が製造したもので、A社がこれを預かって加工作業に使用しています。この金型が古くなったため、B社から修理費用を負担すべきだと請求されています。応じなければならないのでしょうか。
本事例では、金型の所有権がA社なのかB社にあるのか、はっきりしないため、先ず、金型の所有権をはっきりとさせる必要があることから、契約書等で所有権の所在を確認します。契約書に定めていない場合は、誰が金型製作を発注し、誰が制作費用を負担したのか等の事実関係から考えることになります。本件のように発注会社B社が製造して、それを成型加工に使用するため受注会社A社が預かっているということであれば、金型の所有権は発注企業にある可能性が高いでしょう。
A社は、B社が所有する金型を預かっている場合は、善管注意義務という保管責任があります。Aの保管に落ち度がない以上、修理義務や修理費用を負担する責任はありません。所有者B社が自らの費用で修理すべきです。
B社の行為は、「不当な経済上の利益提供の要請」に該当するおそれがあります。
法令の根拠
- 下請代金法第4条第2項第3号
派遣社員の人件費
【区分】下請代金法
【類型】買いたたき・不当な経済上の利益提供の要請制
A社(資本金1,000万円)は、B社(資本金4億円)から無償で支給された部品を使用して化粧品容器の組立作業を受注しています。
- 作業単価は、従業員の賃金価格のみで諸経費分を認めてくれない。
- B社に納品した荷物の積降や分別等の作業をA社に要求してくることから、社員を派遣しているが、その費用を支払ってくれない。
- 納品時の受入検査をA社にさせ、良品についてはB社が検査費用を支払うが、不良品の場合は検査費用を支払わない。
これらの点について、B社の指示に従わざるを得ないのでしょうか。
A社とB社の取引は、下請代金法の資本金基準を満たしており、「製造委託」に該当することから、下請代金法が適用される取引と考えられます。
まず、A社とB社の契約内容の確認が必要です。
契約に定めが無い場合、作業単価については、単価が通常支払われる対価に比べて著しく低い額を不当に定め、価格改定の交渉に応じない場合、「買いたたき」に該当するおそれがあります。
契約に定めがあったとしても派遣社員の問題と検査費用の問題については、B社の利益のために、契約で定められていない作業を無償で行うことを強要させているとすれば、「不当な経済上の利益の提供要請に該当するおそれがあります。
法令の根拠
- 下請代金法第4条第1項第5号、第4条第2項第3号
従業員の派遣要請
【区分】下請代金法
【類型】買いたたき・不当な経済上の利益提供の要請
B社(資本金100億円)は、自社の棚卸に際して、A社(資本金4.000万円)をはじめとする下請事業者に作業協力を命じてきます。A社は、従業員を棚卸業務に派遣せざるを得ませんが、費用は一切支払いません。B社は、棚卸要員の派遣費用は、下請代金に含まれていると主張しており、「A社は製品を自ら検査・管理しなければならない」という契約の規定が根拠だと言っています。
B社が棚卸費用は下請代金に含まれていると主張するのであれば、契約書の条項や請求明細等の証拠書類によって下請代金の内訳を示させるべきです。
また「A社は製品を自ら検査・管理しなければならない」という契約の規定が下請代金に含まれている根拠だとB社は主張していますが、これはA社の作業の範囲内で「検査・管理」をするものであり、この規定をもってB社の棚卸に従業員を派遣することを合意したとするには飛躍があります。
仮に、納品検査を下請事業者に委託するという規定であったとしても、検査費用を親事業者が負担しない場合は問題になります。
このように、親事業者が自社の棚卸を下請事業者の従業員にさせることは、下請代金法の「不当な経済上の利益の提供要請」に該当するおそれがありますまた、B社が言うように下請代金に含まれているとすれば「買いたたき」に該当するおそれがあります。
法令の根拠
- 下請代金法第4条第1項第5号、第4条第2項第3号
秘密漏洩
【区分】下請代金法、不正競争防止法
【類型】
A社は、機械部品の修理を、機械メーカーであるB社から請け負っています。A社が開発した部品の設計図をB社に閲覧させたところ、その設計図を無断で使用し、別の作業を行っていることが判明しました。類似した設計図はまだ他にもあり、その閲覧も求められています。どうすればいいでしょうか。
一番確実な方法は、B社に設計図を見せる際に、秘密保持契約書を交わすことです。設計図の種類を特定して、B社はこれを特定の目的以外に利用したり、第三者に開示してはならないという内容で秘密保持契約を結ぶものです。
さらに、設計図については、A社は事業所内においても、誰でも簡単にアクセスできるような状態にはせずに(施錠、パスワード管理等)、厳格に保管しておく管理体制を敷くことが重要です。
こうした自衛策により、B社が不当に利用したり、開示したりしようとするときは、不正競争防止法によって、B社に対する差止や損害賠償などを行うことができます。
また、本件は修理委託であることから、資本金基準を満たしていれば、下請代金法が適用されます。
その場合、B社がこのような秘密保持契約の締結を拒んで、従来のように無償で使用していた場合は、設計図の無償提供をさせることは下請代金法の「不当な経済上の利益の提供要請」に違反するおそれがあります。
法令の根拠
- 下請代金法第4条第2項第3号、不正競争防止法第2条、第3条、第4条