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アンテナを張りマーケットのニーズを把握、タイムリーな情報共有と目先にとらわれないゴール設定が重要

ヤマセイ株式会社取締役 経営管理部 部長        木村 明彦氏(写真右) 
            企画開発グループ リーダー   篠崎 孝治氏(写真左)

CFRPを金型で量産化したいという思いが研究開発のきっかけ

研究開発のきっかけを教えてください

もともとは、今回研究開発体制に入っている東レ(株)と愛媛大学と一緒にサポイン事業の前からCFRPに関する研究開発を何件か行っていた。CFRPが時の材料として素材になろうかというときで、生産タクトを上げたところであった。それまではオートクレーブで生産していたのだが、量産化して数を取りにいきたいということで、金型でできないか東レや愛媛大学と検討していた。
それがサポイン事業の大前提で、単純に金型で一括で作りたいという話をしていた。

最初にその話があったのはいつごろでしょうか

CFRP製自動車ドアアウター金型

約10年前のことだと思う。それより以前には車のホイールをカーボンで生産しようとしていたが、その時は上記とは異なるメンバーだった。
サポイン事業の直前には、全国中小企業団体中央会が取り扱うものづくり補助金で、成形性の金型を作っていた。その時にも同じメンバーが関わっていた。
サポイン事業は一番大きいが、何度か情報交換をしていた。

川下メーカーからの情報と大学の先生からのアドバイスを活用

研究開発体制に入っている先生は、事業化に対して強い意志をお持ちでしたか

愛媛大学の黄木先生という先生とは、炭素繊維関連の研究が当社で開始された時期、サポイン事業が始まる10年以上前から付き合いがあった。どちらかというと複合材料に関する有名な権威の先生でおられたが、この材料を取り扱うということは、イコールこの先生になった。
根本的に黄木先生はマーケットのことを強く意識されて物事を進めていたように感じている。出口がなかったらダメだ、ということを常々おっしゃっていた。

事業開始時点のゴール設定はどのように決めたのでしょうか

当社の本業は、自動車の板金プレス金型を中心としていた。
サポイン事業の目的として、本業を踏まえて自動車の軽量化を加速度的に進めている中で、スチールでは軽量化の限界にきていたこともあり、金型で作ることをゴール設定にした。
当時は、CFRPは熱硬化性だったので、そのためのゴール設定をしていた。

サポイン事業開始時点は「実用化に向けた開発の実施段階」をゴールに設定されていますが、終了時点では「実用化間近の段階」まで至っています。結果的に当初のゴール設定を超えることができたのはなぜでしょうか

 他の採択団体は分からないが、タイムリーに物事を進め
ていたように思われる。そこで変な手戻りがなかった。
とはいうものの、CFRPの使用量や事業がとても速い勢いで変わってきており、材料メーカーに研究開発体制に一緒に入っていただきアドバイスを求めたり、世に出ていないものを提供していただけたことは大きかった。
愛媛県自体もCFRPで産業を動かしていこうとしており、県として産業促進の方針も出ているため、よりアクセルとなっているだろう。
黄木先生もCFRPを世に出すための研究会を行っている。愛媛大学自体も地域貢献を抱えている中で、地域に貢献する意識がでてきているようだ。東レ(株)からもアドバイスをいただいた。

体制間でのタイムリーな情報共有とマーケットのニーズ把握が肝

研究開発中、どのようなことに注意・配慮されていましたか

今もつくづく感じるが、情報共有と情報の伝達をタイムリーに精度よく実施するかという点が肝になる。
前回のサポイン事業のときは地理的に集まれるという環境にいたため、すぐに集まることができ位置関係が大きかった。
今回の案件を考えると、離れている拠点とのやり取りがあるためテレビ会議などを行っているが、そうはいっても距離的な差があり、前回は恵まれた環境にいたんだなと思う。
特に当社の技術的な成果物は製品であるため、実際に製品を見て話さなければいけないと思う。ぱっと集まって物があるのとないのとではだいぶ違ってくるのではないか。

想定外の問題は発生しましたか。発生した場合、どのように対処されましたか

CFRP製自動車2ドアアウター

想定外の問題は多く発生した。技術的にはできると思っていたけれどもできないこともあった。金型を作ったところで動くものが動かなかったとか、温度が思ったようには上がらないというような問題があった。
技術的な問題は多々あったが、調整していく中で解決していった。そういった意味では原則金型に携わってきたため、何らかの傾向やノウハウがあった。それがどの程度必要かという点が問題であった。
また、経営陣がとやかく言わないことも重要だ。突貫で間に合わせたりするところを大きな目で見ていただいた点は大きい。
黄木先生がご存知の大学の先生に別途、研究開発がうまくいっていないといったことを相談したところ、一企業が企業ごとに利権や目的を主張しだすと、それは間違いなくまとまらない、そこが原因ではないかという指摘をいただいた。
ある企業が関わった時に企業ごとの目的を主張しすぎると、取り纏めが非常に難しくなると考える。

サポイン事業開始の前にどのような準備をしておく必要があるでしょうか

まず、マーケットのニーズを把握することが必要である。顧客からのオーダーがあって開発するほうが研究開発のスピードは速いが、口を開けていてもなかなか入ってこない。
どこにどのようなニーズがあるか、アンテナを立てていなければいけない。金型は顧客のニーズがあって動く業界だったのだが、材料業界がどんどん変化してきた。熱可塑化等様々なパターンができてきた。そういったニーズに合わせていくことが必要で、アンテナを張っていかなければならない。

サポイン事業を効果的に利用する上でのメッセージ、アドバイス

最後に、今後サポイン事業に応募を検討される方や、現在実施されている方にメッセージをお願いいたします

ゴールがはっきりしていなければいけないように思われる。目先のことが優先になってしまうが、目先のことにとらわれずにゴール設定を考える必要がある。メンバーの選び方も大切だ。関係が強いほうがよい。
今回はメンバーの選定がよかったと思われる。会社や企業の中で新しいことをトップがやろうとすることも多いが、実働部隊がいないこともある。また、やろうとして経営層が混じっていないと責任区分があいまいになってしまう。経営層のやる気だけで実働部隊が伴わないのはダメだし、その逆もダメになるのではなかろうか。

研究開発技術情報
プロジェクト名:
炭素繊維強化プラスチック用三次元形状のプレス切断金型および成形/切断金型の開発
事業実施年度:
平成22年度~平成24年度
研究開発の目的:
難切断材のCFRP製品をプレス切断する金型等の開発
事業化の状況:
サポイン事業終了時点では実用化間近の状況
今後は部品製造工程の前工程と後工程の技術開発も引き続き取り組む予定