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超ハイテン材に対応した高耐久刻印と、刻印寿命を向上させる打刻技術の開発

山田マシンツール株式会社
(左から)専務取締役 山田 庸二 様
     マーキング事業部 製造部 製造課 彫刻グループ GL 丹治 浩隆 様
 

これからの時代に求められる自動車に適応した刻印技術

今回の研究開発の背景を教えてください。

現在、自動車は、環境負荷軽減のための軽量化と同時に、衝突安全性確保が求められている。燃費向上のために軽量化しても、単純に鋼板を薄くするだけでは、車体が弱くなってしまう。ボディの軽量化と衝突安全性確保を同時に追求するため、高張力鋼板(ハイテン材)の採用が拡大している。
一方、自動車は、車両の個別識別番号として車台番号を打刻する必要がある。しかし、ハイテン材の強度が高まるにつれて、刻印の耐久性や打刻技術の難易度が上がり、従来の設備や技術では太刀打ちできなくなってきた。今後、ハイテン材の使用率が上がり、同時にハイテン材から超ハイテン材へとますます高強度化へシフトしていくことが確実視される中、耐久性の高い刻印の開発と打刻技術の確立が望まれている。そこで、刻印の材質、処理方法、刻印の硬度など、さまざまな角度から、根本的に見直しをかけ、1.5GPaクラスの超ハイテン材に対応できる刻印の開発に取り組んだ。

研究開発はどのように進めていきましたか。

技術開発目標を【1】刻印の開発【2】打刻機と打刻技術の開発 に分けて取り組み、【1】では、まず文字破損の起点となる刻印文字山の表面性状を向上させる加工技術として、超音波振動援用ヘリカルスキャン研削(US+HS研削)を開発した。面を綺麗にするためには、目の細かい砥石を使う必要がある。しかし、目の細かい砥石は目詰まりしやすく、頻繁に砥石を替える必要があり、また砥石自体のコストもかかってしまう。US+HS研削は、それとは逆の発想で、目が粗くても加工が綺麗で、コスト面でもスピード面でもメリットがある。そのために複雑なプログラムと特殊な機械が必要だったため、助成金を活用させていただいた。

文字壁面へのUS+HS研削加工の模式図
慣用研削とUS+HS研削の研削痕シミュレーション
センシング機能を搭載した打刻機

また、カッタ自体の面粗度を上げるため、カッタ刃面に超音波研削を行い、その有効性を確認した。次に、刻印の破損の原因となる文字山の頂点部分に意図的に初期摩耗を施し、エッジ部の除去加工を行った。また、文字の品質と文字形状の真贋性を保証する計測技術を開発するため、文字線長ごとの深さと加圧力の関係、深さと溝幅の関係、同一文字内での意匠による深さの差を検証した。
【2】では、まず1.5GPa級超ハイテン材に打刻可能な打刻機を開発し、さらに打刻状態をモニタリングできるセンシング機能を搭載したIoT打刻システムを開発した。両脇に配置したロボットが、被打刻材の搬入から搬出まで行い、かつ打刻した文字の品質判定まで行うため、ヒューマンエラーをなくし、打刻工程のトレサビリティを確保できる。打刻された文字をキーに、後工程で必要なデータを紐づけることで、製造ライン全体の履歴管理が可能になる。このことにより、リコール等が起きた際、改修対象範囲を特定することができ、損失を必要最小限に食い止めることができる。予備的な実験として、加圧力を低減させる打刻技術の開発も行った。

研究開発を進めるにあたって苦労したことはありましたか。

サポインに申請したのは今回が2度目で、1度目は採択されなかった。検証や考察が足りていなかったので、もし採択されていたら絵空事になっていたかもしれない。いま思えば、採択されなくてよかったとすら思っている。その反省で、2度目は十分な吟味を重ねた上で臨んだので、下地があったのには助けられたが、トライ&エラーを繰り返し、相当な時間を費やした。ただ、刻印や打刻は一般的に研究する人がいない非常にニッチな世界。当社でやるしかないと腹をくくった。

開発のパートナーとはどのようなことを連携し、進めていきましたか。

事業管理機関である、さいたま市産業創造財団とは(人材交流と共同研究を通じた人材の高度化を目指す)「さいたま市研究開発人材高度化タスクフォース事業」がきっかけで、事業計画、進捗管理、提出書類のチェックなどをフォローしていただいた。日本工業大学とは、精密加工や研削に特化した研究を行っている機械工学科 二ノ宮進一研究室と以前から交流があり、実験やデータ収集等、加工技術の研究やサポートをお願いした。コロナ禍で大学がオンライン授業になる中、無理を言って実験に付き合っていただき、感謝している。

サポインを活用してよかった点はありますか。

新しい技術が確立でき、新しい商品が開発できたこと、それに伴い、加工する機械や計測機を備えることができたのは、サポインのおかげだ。特に大きかったのは計測機で、計測機は生産的な、つまり稼げる機械ではない。しかし、正確な数値がわからなければ技術は上がらず、技術向上のためにも計測は不可欠だ。中小企業の台所事情では、なかなかそこまで手が回らず、助成金を有効活用させていただいた。

サポインの実験結果が受注につながる

受注につながった経緯と今後の見通しを教えてください。

いくら助成していただくといっても、受注につながらないのでは意味がない。自分たちである程度用意する必要があるし、設備を入れれば償却費もかかる。本事業は、これまで付き合いのある自動車メーカーからの依頼で研究開発を行ったので、耐久試験の結果がそのまま受注につながり、来年度も系列会社から3件の注文をいただいている。また、耐久試験の結果が出るのとタイミングを同じくして、鋼板の強度が上がった。将来的にも高強度化していくことは確実なため、取引のある造船や建築、鉄鋼メーカーにも販路を広げていく。
また、刻印だけでなく、研削や打刻の技術を他分野に応用できないか模索中だ。医療の分野は新規参入のハードルが高いが、例えば、人工関節に技術転用し、人それぞれ形状の異なる膝関節のデータをとり、加工のプログラムにつなげられないかと考えている。

今後サポインを活用しようと考えている企業に向けてアドバイスをお願いします。

最初の計画が肝要だ。一度プロジェクトが走り始めると方向転換しづらく「やったけど、だめでした」では済まない世界。逆に、一つ成功したら、すぐ次に取りかかる必要があるため、計画的にやることが大事だ。資金面ではかなり近道ができる。自己資金だけでは10年かかるものが3年でできるのは大きい。また、産学連携ができるのもメリットだ。産学連携プロジェクトは他にもあるが、一つのテーマに絞って、これだけ密に取り組めるのはなかなかない。大変は大変だが、やるだけの価値がある。

研究開発技術情報
プロジェクト名:
1.5GPA級の超ハイテン材に対応した高耐久刻印と、刻印の性能を観察・評価して刻印寿命を向上させる打刻技術の開発
事業実施年度:
平成30年度~令和2年度