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クライアントから拾い上げたニーズ解決に向けて、利用者に寄り添った手話翻訳システムを
開発

(左から)名古屋工業大学 酒向准教授
     ユニオンソフトウェアマネイジメント 青井氏、尾山氏
 

現場を目の当たりにする中で手話翻訳システムの開発に着手を開始

今回の研究開発が始まった背景を教えてください。

サポイン事業の開始は2016年だが、研究開発自体が始まったのは2013年頃にさかのぼる。当時、自社における次の目玉製品を開発していく必要性を漠然と感じていたところ、障害者雇用施設の運営等を実施しているNPO法人と一緒に仕事をする機会があった。その際、手話を利用されている方々と多く接していく中で、「手話翻訳システムができたら面白い」という話が出たのがきっかけとなっている。くしくも同タイミングで、アメリカのベンチャー企業が“手のモーションキャプチャーを可能にするデバイス”を開発したこともあり、それを活用することで手話の翻訳システムを開発できるのではないかというところからスタートした。
様々な情報を収集したところ、手話翻訳事例は大学の研究で2件ほどあったものの、製品化されたものはなかったので取り組む価値があると考えた。また、2020年のオリンピックの開催地が決まるタイミングでもあったので、パラリンピックでシステムを使ってもらえる可能性も考えていた。

手話翻訳システムの製品がなかったということですが、どのようなところでニーズを確認・具体化されたのでしょうか。

サポイン事業へ応募する際には、事業管理機関である科学技術交流財団や中小機構から多くのアドバイスをいただいたが、そのなかで“事業化のニーズをより明確にしたほうが良い”いうものがあった。NPO法人の理事長や聴覚障害者協会のご担当から話を聞くなかで、今までは気付いてなかったようなニーズを拾うことができた。
一般的に、手話翻訳システムを使わずとも筆談で代替可能ではないかという意見は耳にすることが多く、最初は私自身もそう感じていた。しかし、NPO法人から現場の話を聞く中で、「先天的に聴覚障害がある方は日本語の文法理解が難しく、文書で言いたいことをなかなか書くことができない」ことがわかった。また、「筆談するというのはいきなり英語で文章を書けと言われているようなものであり、筆談ではなく手話でコミュニケーションをとりたがる」ということも伺った。それを聞いて、手話翻訳システムにはニーズがあるということが改めて把握することができた。

大学の研究室に自社エンジニアを派遣し、研究と開発の間に密な
連携体制を確立

研究開発体制はどのように構築されたのでしょうか。

2014年度末に外部のビジネスプラン発表会に参加したのだが、発表会では当社のメインバンクから中小機構や共同研究先の名古屋工業大学を紹介いただき、名古屋工業大学の産学連携センターの方に手話の研究をしている研究室をご紹介いただくことができた。手話の翻訳に取り組んでいることを発信したことでいろいろな方と接点を構築し、2015年にはものづくり補助金を取得、手話翻訳システムの開発につなげることができた。自社発信をとっかかりとした多様なネットワーク構築が今の研究開発体制につながっている。
名古屋工業大学の酒向先生や、その前任の北村先生がカメラを使って手話の翻訳をする研究をされていたことが、当社のやりたいことにぴったりとはまった。一方で、当社にとっても大学側にとっても産学連携の共同研究が初めてだった。お互いにどのようにすればよいか手探りであったため、当社のエンジニア2名を週2~3日程度研究室に派遣させていただき、翻訳の理屈や過去の知見を教えていただくところから開始した。結果、双方のコミュニケーションを密に取ることができ、短期間で多くの課題を解決することができたことから、非常に良いやり方だったと感じている。
サポイン事業開始までに共同研究を実施したことで、大学の先生との意思疎通ができるようになっていたため、サポインの研究開発を効果的に加速させることにつながった。

社内での研究体制において工夫した点はありましたか。

2014年に自社で研究開発を始めたときは、手話翻訳についての知見がなかったので、社員の興味に合わせて3つのワーキンググループを作り、「月何時間は研究に使おう」という目標値を立てながら1年ほどは独自研究をしていた。独自研究において「これを使ってやってみよう」などと提案する社員は、研究開発の牽引役になってくれたと感じている。
サポイン事業を開始してからは、社内に専任3名、兼任3名を研究メンバーとして置いた。さらに専任者のなかからプロジェクトのリーダーを決め、大学との共同研究体制を組むこととしたのだが、そのなかには研究室に派遣された者が含まれている。ソフトウェア開発はマンパワーありきなので、研究を進めるにあたっては専任を置くべきだと思っている。責任を持って研究を進める専任者がいることで、目標に到達するところまでやり通すことができる。ただし、1つのことをずっとやり続けるとそれはそれで煮詰まってしまい、うまくいかないこともあるので、1年に1人ずつぐらいは専任メンバーを入れ替えて研究開発を実施した。

共同研究開発メンバーのネットワークを活用する機会はありましたか。

今までの研究実績などもお持ちだったので、酒向先生には国内外で近い研究をされている仲間を多くご紹介いただいた。一緒に研究いただいている立場でもあったので、国外の研究者に話を聞きたいときには一緒に付いてきてくださり、情報収集は積極的に展開できたと感じている。
また、先生のつながりも踏まえて研究会や学会に呼んでいただけるので、できる限り顔を出し多様な方々に研究内容を知ってもらうことができるよう配慮した。手話翻訳に取り組んでいる会社、研究者、先生や学校は数が少ないこともあり、近い研究をしている方との距離は一気に縮まるメリットがある。手話翻訳の分野は競争激化するほど製品化されていないため、悩んでいる点をかなりオープンに話すこともあるのだが、お互いがライバルではなく共同体という意識を持つことができた。

手話翻訳クオリティを突き詰め、研究開発目標を軌道修正

研究開発を進めるなかでのブレークスルーを教えてください。

当初想定していた手話翻訳は、いつも通りの手話動作をそのまま翻訳するものだったが、単語の区切りの判別が難しいという課題があった。今できる中で工夫して解決ができないかと考え、通常の手話動作では挟まれない“単語の区切りの動作”というワンアクションを挟み、手話の動作をしていただくことにした。サポイン事業の中間評価の際にも、製品化を見据えて突き詰めるべき点/諦めるべき点を指摘いただき、軌道修正を図り、研究開発の中ではかなり柔軟に目標設定を対応させた。これらの軌道修正がなければ、製品化は見えていなかったと考える。
また、サポイン事業実施時から現時点まで、NPO法人の現場で使っていただき、現場からのフィードバックを丁寧にいただいている。手話の話者の方からすると、「日常的な手話と異なり、区切り動作を入れるのは手間」という意見はいただいているのだが、その動作によってきちんと翻訳できるのであれば、製品化した後の利便性が高く、市場へのインパクトが大きいと考えられることから、利用者に動作を入れていただくことは大きなハードルとならないのではないか、と考えている。

身体および手の3次元座標の画面プロット

想定用途以外にも、技術の持つ機能性を生かした用途展開を検討

製品化に向けて今はどのような取り組みに注力されているのでしょうか。

2018年10月に展示会(CEATE)に出展した際には、どのくらいのリース料金であれば利活用いただけそうか来場者からの声をいただいたほか、2019年10月に関西 ものづくりAI/IoT展に出展したときにも、価格感はいろいろな方に伺った。感覚的にはなるが、リース料金を月数万円くらいで設定することで、公共交通機関や地方自治体向けに展開・販売することができそうだと考えている。実際に、CEATECや関西 ものづくりAI/IoT展で手話翻訳システムに興味を持っていただいたのは、官公庁や公共性の高い厚生施設であったこともあり、当該分野には積極的にリーチを検討している。
海外展開については、アメリカ手話の翻訳をするタブレットを開発しているモーションサーベイ社との共同事業も一案である。モーションサーベイ社とはすでにつながりがあり、それぞれの持っている技術を組み合わせることも可能であるが、お互いの販路をベースにした展開についても前向きな検討をいただいている。
様々なニーズを拾ってきたなかで、“手話が翻訳できるぐらい人間の動作が認識できるのであれば、工場での誤り検知や、様々な分野に転用できる”可能性もあると考えている。実際に製造分野で活用できないかといった問い合わせもあり、技術の応用範囲が非常に広いと感じている。

展示会出展時の様子

展示会出展や海外展開の支援が必要

研究開発成果の事業化に向けて有用な支援としてどのようなものがあるでしょうか。

研究開発事例を冊子などにまとめて配布するのは、展開を行う身としては非常にありがたい。サポイン事業の初年度、大企業の方が類似の冊子を見たことで技術に興味を持って連絡をしてくださったこともあった。公的機関からサポインの事例として紹介いただくと、意外なところで目に留まり次のアクションにつながることがあるので、さらに積極的に紹介していただければと思う。
また、サポイン事業が終了した後、数年程度は継続的に支援していただきたい。例えばCEATECへの出展支援は非常にありがたかった。民間企業が主催する展示会に出展しようとすると、出展費用や交通費、宿泊費の合計で100万円以上かかってしまうため、中小企業からするとかなり負担が大きい。出展の補助については今後も非常に有用だろう。
今後は、海外展開のロードマップのようなものもあってもよいのでは、と感じている。海外展開の経験が全くない中小企業は少なからずいると思われるが、海外に向かって技術の情報発信をしようとしても何をしてよいか、マーケットをどのように選別したらよいのかわからないことも多く、なかなか手が出ない。海外展開に向けて何ができるのかというアドバイスは今後もニーズが高いと思われる。

サポイン事業の実施は自社のブランディングに直結

サポイン事業を実施されてよかったと思われることは何でしょうか。

サポイン事業を実施したことで、社外からの見られ方が変わったと実感している。当社から接触を図ったところで大企業が会ってくれるケースは限定的だが、サポイン事業をしているという事実が1つのブランドとなり、大企業との接点構築につながったこともある。また、いわゆる一般的なソフトウェア会社ではなく、“サポイン事業に採択された手話翻訳に取り組んでいる企業”だと愛知県のソフトウェア業界で認知してもらえるようになったことも大きく、銀行からの評価も非常に高くなったようにも思われる。そのほか、会社説明会で研究開発成果を紹介すると、参加者からかなり食いつきがある。実際に、大学院で福祉系の勉強をしていた学生が入社してくれたこともある。サポインの実施は研究開発成果の創出だけではなく、自社の対外的な見られ方の変化やレベルアップにつながっており、非常に意義があったと感じている。

サポイン技術情報
プロジェクト名:
手話の自動翻訳を実現させる高精度な動作検出と動作のパターンマッチングの技術開発
事業実施年度:
平成28年度~平成30年度