文字サイズ
標準
色の変更

研究開発された技術紹介

  1. トップ
  2. 研究開発技術検索
  3. マイクロ波を用いた水プラズマ電子源によるAll水ホールスラスタの実証

機械制御

マイクロ波を用いた水プラズマ電子源によるAll水ホールスラスタの実証

千葉県

株式会社Pale Blue

2026年2月9日更新

プロジェクトの基本情報

プロジェクト名 水を用いた人工衛星用電子源の大電力化に向けた研究開発
基盤技術分野 機械制御
対象となる産業分野 航空・宇宙
産業分野でのニーズ対応 高機能化(新たな機能の付与・追加)、高性能化(既存機能の性能向上)、高性能化(小型化・軽量化)、高性能化(信頼性・安全性向上)、環境配慮、低コスト化
キーワード マイクロ波,プラズマ,電子源,電気推進,ホールスラスタ
事業化状況 実用化間近
事業実施年度 令和4年度~令和6年度

プロジェクトの詳細

事業概要

本事業では完全無毒な燃料である水とマイクロ波放電式プラズマ源を組み合わせた数百mA級の電子放出能力を有する電子源を開発し、販売可能なモジュールとして完成させることを目的とした。実現のためには、マイクロ波放電式電子源、マイクロ波電源、水供給系に関して、以下の研究課題が残っていた。

・電子放出コストの低減化(現状: 700W/A → 目標 160W/A)
・マイクロ波電源の高出力化・高効率化(現状: 2W Total効率30% → 目標 35W Total効率60%)
・パワーアンプの高出力化・高効率化(現状: 2W ドレイン効率40% → 目標 35W ドレイン効率70%)
・小型化・軽量化した電子源の実現(80W 500mAの水を用いた電子源の達成)

これらの研究課題に対する解決案として実施項目を設定し、研究目的および目標として設定した。

開発した技術のポイント

・マイクロ波放電式電子源技術
-JAXAとの連携によりマイクロ波カソードの技術情報の提供を受け、Pale Blue社でマイクロ波カソードの作製を実現
-推進剤をXeから水に変更し、水プラズマの着火の成功と電子の引き出しに成功

・高効率マイクロ波電源の開発
-発振源-ドライバアンプ段(1段目)-ドライバアンプ段(2段目)-パワーアンプ段(最終段)の3段アンプの構成を採用
-最大出力42.2W、Total効率47.2%の性能を持つマイクロ波電源を開発

・GaN HEMT素子の設計・製造
-GaH素子はゲート幅0.25μmのプロセスを用いて、ゲート長240μm、フィンガー10本、並列数5個のOSV構成とした
-GaN素子を汎用のセラミックパッケージに実装して性能評価を行い、最大出力48.8W、最高ドレイン効率70.2%を記録

・水供給システムの開発
-オリフィス径と温度に対する流量の校正により、真空環境においてソフトウェアで水の流量を簡単に調整可能な小型水供給系を開発

具体的な成果

・電子放出コスト: マイクロ波投入電力15W、水流量0.38mg/s、コレクタ引き出し電圧100V以上の条件で電子放出コスト150W/Aを記録し、目標である160W/Aを下回ることに成功した。
・マイクロ波電源: マイクロ波電源筐体として最大出力42.2W、Total効率47.2%の性能を達成した。
・GaN HEMT素子: 最大出力48.8W、最高ドレイン効率70.2%を記録し、目標を上回る性能を実現した。
・小型化・軽量化: 電子源へのマイクロ波投入電力29.0W(マイクロ波電源消費電力74.5W)において、電子電流204mAという結果を得た。
・世界初の成果: 世界初となる、All水推進剤でのホールスラスタの動作に成功した。

知財出願や広報活動等の状況

国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)との技術連携やJ-SPARCによる連携実績があり、「はやぶさ」「はやぶさ2」で実際に使用されていたマイクロ波放電式電子源の技術情報を共有いただいている。さらに、名古屋大学、株式会社Pale Blue、都産技研の連携による研究体制を構築し、船瀬龍氏(JAXA)、嶋村耕平氏(東京都立大学)をアドバイザーとして迎えている。

世界初となるAll水推進剤でのホールスラスタの動作に関する成果は、2025年7月に論文として公表された。
Akira Iwakawa, Sei Mizojiri, "Hall-effect thruster system of fully water propellant with microwave discharge cathode", Acta Astronautica, Volume 232, July 2025, Pages 307-315

研究開発成果の利用シーン

・100kg級衛星向けホールスラスタモジュール
-衛星コンステレーションにおける軌道投入用推進機として活用
-通信・地球観測・IoT用途の衛星での利用

・水で動作するマイクロ波放電式電子源
-研究用途での電子源として利用
-作動流体に制限がないため幅広い電子源を利用する産業分野への応用

・4.25GHz帯, 50W級マイクロ波電源
-大電力マイクロ波電源としてのプラズマ源、レーダー、通信機器等への活用

・宇宙システムの活用拡大
-小型衛星コンステレーションを用いた通信インフラサービス
-高品質通話、ビデオ会議、動画配信、遠隔医療、オンライン教育、電子決済サービス
-ドローンや自動運転車への新しい通信サービス

実用化・事業化の状況

事業化状況の詳細

国内外の100kg級衛星コンステレーションを実施・計画している宇宙系企業に対するヒアリングにより、10社を超える企業から購入したいという回答を得ている。既に関係を構築済みの企業に対しては、製品に関する情報の定期的なインプットや試作後のサンプル提供を計画し、早期の事業化につなげる準備を進めている。国内重工系メーカー4社と宇宙系新興企業7社と既に関係性を構築済みであり、このうち既に重工系1社、新興企業系1社に対する衛星用エンジンの搭載が決まっている。海外A社への RFI提出と試験機への水ホールスラスタ提供に掛かる契約に向けた動きを進めており、3年以内に実証機に搭載して顧客側での評価を進める具体的な商談が進んでいる。令和6年度には国内の衛星事業者ともMoUを締結し、長期的な仕様調整や将来的な購買予想数に関する具体的な数字を含んだ契約を取り交わした。本開発成果を適用したホールスラスタは2027年を目途に宇宙実証を行う計画であり、その実証機の開発を進めている。

提携可能な製品・サービス内容

設計・製作、製品製造、共同研究・共同開発、技術コンサルティング

製品・サービスのPRポイント

・完全無毒な推進剤(水)を使用
-従来の化学推進と比較して環境負荷が少なく、取り扱いが安全

・軽量・高効率設計
-電子放出コスト150W/Aを達成
-マイクロ波電源Total効率47.2%を実現

・世界初の技術
-All水推進剤での世界初のホールスラスタ動作を実現
-JAXA「はやぶさ」「はやぶさ2」のマイクロ波放電式電子源の実績技術をベースとした信頼性
-マイクロ波放電式電子源を用いることによる、ウォームアップタイムが不要で即時プラズマの着火と推力生成が可能

・幅広い応用可能性
-作動流体に制限がないため、水以外の物質でも適用可能
-研究用途から産業分野まで幅広い電子源利用分野への展開可能

・市場ニーズとの合致
-100kg級衛星市場での高い需要
-コンステレーション衛星の普及による市場拡大

今後の実用化・事業化の見通し

宇宙実績がある商品を顧客が購入するという市場特性を踏まえ、Pale Blueが有するホールスラスタ技術の製品化と宇宙実証が販売戦略上の大きなマイルストーンとなる。令和5年度に文部科学省 中小企業イノベーション創出推進事業(SBIRフェーズ3)宇宙分野の公募に採択されており、この助成事業をもとに当社のホールスラスタ技術の宇宙実証を計画しており、2027年の実証機の打ち上げを予定している。海外販売を優先する戦略を取り、三井物産やSpaceBD社と連携して顧客チャネルの拡大を図る。JAXAとの関係性をアピールしながら海外宇宙系企業との信頼関係を構築し、サンプル品やエントリーモデルを格安で提供することで試験衛星に搭載してもらい、実績を作って量産衛星への採用を狙う。

実用化・事業化にあたっての課題

水推進剤でさらに大電流の電子電流を得るには、プラズマの状態を詳細に測定する必要があることが今後の検討項目として挙げられる。推進剤が水とXeの両方に対して動作時のプラズマインピーダンスを測定した結果、Xeではマイクロ波の投入量に対して反射電力が10%程度であったのに対して、水では25%程度反射されていることが判明した。また、実証機としてのシステム統合試験を着実に進めることが今後の課題である。実際にホールスラスタおよび燃料供給系、統合制御基板等とかみ合わせを行った場合の性能、熱、寿命、機械環境等の試験を行う必要があり、宇宙実証に向けてシステム統合時の課題の洗い出しとその解決を継続して進める必要がある。

プロジェクトの実施体制

主たる研究等実施機関 株式会社Pale Blue
事業管理機関 地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
研究等実施機関 株式会社Pale Blue
国立大学法人東海国立大学機構名古屋大学
地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
アドバイザー 国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構
東京都立大学

主たる研究等実施機関 企業情報

企業名 株式会社Pale Blue(法人番号:6040001113279)
事業内容 水を推進剤とした小型衛星用推進機(エンジン)の開発
社員数 約50 名
生産拠点 つくば生産技術開発拠点
本社所在地 〒277-0882 千葉県柏市柏の葉6-6-2 三井リンクラボ柏の葉1-101号室
ホームページ https://pale-blue.co.jp/jpn/about/
連絡先窓口 地方独立行政法人 東京都立産業技術研究センター 企画部 開発企画室 外部資金係
メールアドレス Kyoso@iri-tokyo.jp
電話番号 03-5530-2528