文字サイズ
標準
色の変更

研究開発された技術紹介

  1. トップ
  2. 研究開発技術検索
  3. 新方式のアキシャルフィード型プラズマ溶射装置を用いた溶射被膜のアプリケーション開拓と溶射コスト低減

表面処理

新方式のアキシャルフィード型プラズマ溶射装置を用いた溶射被膜のアプリケーション開拓と溶射コスト低減

東京都

シンワ工業株式会社

2020年4月7日更新

プロジェクトの基本情報

プロジェクト名 高性能皮膜を高歩留まりで施工できるプラズマ溶射トーチの開発
基盤技術分野 表面処理
対象となる産業分野 環境・エネルギー、航空・宇宙、自動車、産業機械、建築物・構造物、半導体
産業分野でのニーズ対応 高機能化(新たな機能の付与・追加)、高性能化(既存機能の性能向上)、高性能化(耐久性向上)、高効率化(同じ生産量に対するリソースの削減)、高効率化(工程短縮)、高効率化(人件費削減)、環境配慮、低コスト化
キーワード 溶射、表面改質、プラズマ、アキシャルフィード、酸化抑制
事業化状況 実用化に成功し事業化に向けて取り組み中
事業実施年度 平成24年度~平成27年度

プロジェクトの詳細

事業概要

一つの電極から発生したプラズマアークを複数に分岐し、溶射材料をノズル先端の中心からプラズマフレーム軸方向に噴出し、複数のプラズマアークで包み込む技術を世界で初めて開発した。この結果、真空炉を使用しなくても酸化を抑制した金属被膜形成が可能となり、また、ノズル先端部で2種の溶射材料を均一に混合して混合被膜を形成することが可能となった。また、トーチカバー内に反応性ガスを噴入して溶射材料の一部を反応させ、金属とセラミックの両方の特性を持つ被膜の形成を可能とした。例として、純チタン粉末を溶射材料として、純チタンと窒化チタンの両方の性質をもち、靭性のある耐食性と耐摩耗性に優れた被膜の形成が可能となった。一方、付着効率が著しく向上した事により、溶射の電力コスト、材料コスト、時間コストが3割低減できた。現在、金属溶射、及びサーメット溶射の適用先を開拓中である。潜在能力としては、セラミックの超微粉や懸濁液の溶射が可能であるので、将来、半導体や航空宇宙の分野において、従来被膜の代替品となる事が期待される。また、溶射以外でも粉末材料を均一に加熱できるため高歩留まりで球状化や材料改質に活用できる。                                     

開発した技術のポイント

・本開発品は溶射材料をプラズマフレーム後方から軸芯方向に供給する、所謂、アキシャルフィード型プラズマ溶射装置であり、従来のプラズマ溶射装置の課題のみならず、近年開発されている他のアキシャルフィード型プラズマ溶射装置の課題も解決できる装置である。
(構造)
一つの陰電極から発生したプラズマアークを、ノズル先端の同心円上に設けた複数の孔で分岐し、それによって生じたノズル中心スペースに材料噴出穴を設け、溶射材料をプラズマフレームの軸芯方向に噴出し、複数のプラズマアークで包み込む
技術である。一方、複数の分岐されたプラズマアークは角度を持ち一つに収束し、他に設けた陽極トーチから出たプラズマアークと連結し、一つの回路を形成する。連結したプラズマアークは、30mm~40mmの長さがあり、その中を溶射材料が大気と接触する事なく通過し溶融粒子となる。また、プラズマアークと基材面は10mm~20mmと近いので空気を巻き込みにくい。
(特徴)
・従来のプラズマ溶射装置は、溶射材料をプラズマフレームに直角に投入する方式であるので、細かな粒子はフレームの勢いで弾き飛ばされるため付着効率が著しく悪くなるが、本開発品は粒径の影響を受けにくく、20μm以下の微粒子でも90%以上の付着効率が得られる。
・近年の他社のアキシャルフィード型プラズマ溶射装置では、ノズル内部に材料噴出穴がある場合は、ノズル内部で溶着するため、不良品発生や材料供給量制約の要因となっている。また、3対の陰極と陽極から構成されるものは、プラズマが収束するまでの距離を短くできないので熱効率が悪く、溶射電源出力を大きくする必要がある(定格150kW)。本開発品は、材料噴出穴がノズル外部にあるので、材料の溶着は発生しない。また、プラズマアークを分岐する穴と穴の距離が小さいので、プラズマ収束距離が短く熱効率が良い。そのため溶射電源装置をコンパクトにできる(定格50kW~100kW)。

トーチの構造
トーチの3D図
連結プラズマアークの写真
他の溶射法との比較
具体的な成果

・大気圧下で真空炉を使用しなくても酸化抑制された被膜を施工できる技術。 例えば、酸素と反応性が高いチタンを高密着力で、且つ、被膜中に酸化チタンが存在しない被膜形成が可能。
・大気圧下でシーリングガスと溶射材料を反応させる事ができる技術。例えば、純チタン粉末を窒素ガスと反応させ、窒化チタンと純チタンの複合被膜を形成でき、高い硬度と靭性を共有した厚膜施工が可能。
・事前に造粒により混合しなくても、2種の材料を均一に先端ノズル部で混合でき、溶射中でも混合比を任意に変更できる技術。
・2種混合溶射技術と後処理の組合せによって多孔質の被膜形成が可能で、また、混合比により空隙比をコントロールする事ができる技術。
・耐熱、耐摩耗、耐食を目的とした被膜(例えばボイラーチューブ表面への被膜施工)において、再溶融(所謂フュージング)を不要とした1.5mmの厚膜が施工できる技術。Ni基自溶性金属においては被膜の科学的評価とバイオマス発電ボイラーでの1年間の実証テスト済み。
・金属、サーメット、セラミックの溶射が可能で、20μm以下の微粒子でも、プラズマフレームに弾かれる事なく90%以上の高付着効率で溶射できる技術。

SCPS法による溶射データ
知財出願や広報活動等の状況

・「高電圧低電流アキシャルフィード型マルチプラズマ溶射装置の開発」2017春季 日本溶射学会全国講演大会  著者:豊田建蔵(シンワ工業㈱)、野田佳雅(足利大学)
・2019年4月5日 化学工業日報 「プラズマ溶射で高品質被膜」  
・特許 名称「アキシャルフィード型プラズマ溶射装置」
日本:2012.6.7出願、2013.10.25登録、特許第5396565
日本:2012.6.7出願、2015.2.6登録、特許第5690891
韓国:2013.10.31出願、2015.4.27登録、第10-1517318
中国:2012.6.7出願、2016.5.25登録、第1548309
カナダ:2014.1.2出願、2018.1.2登録、特許第2,830,431
アメリカ:2012.6.7出願、特許許可を受け登録手続き中
欧州:2012.6.7出願、審査請求辞退

研究開発成果の利用シーン

・半導体静電チャック上面のセラミックコーティングにおいて、従来より小さな粒径の溶射材料が使用できるので被膜が緻密になり絶縁性が向上する。また、付着効率が向上するので材料コストを下げる事が可能である。また、スパッタリング装置内に従来より耐プラズマ性の高い被膜施工が可能である。
・耐熱、耐摩耗、耐食目的の被膜施工において、純チタン粉末を窒素シーリングガス中で溶射する事により、一部が窒化し、タングステンカーバイトのサーメット被膜と同等以上の硬さで、0.5mm以上の厚膜施工が可能であり、従来よりも長寿命で腐食に強い被膜が施工できる。
・ロングプラズマアークを形成する機構と微細材料使用可能により、大気圧下で真空炉を使用しなくても酸化の少ない被膜が施工できるため、基材と溶射被膜の境界面での経年劣化による剥離が起こりにくい。そのため、例えばタービンブレードの遮熱コーティングの下地溶射被膜での活用が期待できる。
・2種類の材料の混合溶射が求められる際、事前に造粒による混合をしなくても、比重や粒径の異なる材料の混合が可能で、また、溶射中であっても任意に混合比を変更することが出来る。また、液状材料と粉末材料の混合溶射も可能である。
・2種混合溶射技術と後処理の組合せによって多孔質の被膜形成が可能で、また混合比により空隙比をコントロールする事ができる。
・溶射だけでなく、材料改質、球状化、ナノ粒子製造のためのプラズマ発生装置としても活用できる。その際、アキシャルフィードであるため、均一加熱となるので、高歩留まりで製品を得られる。

2種材料混合

実用化・事業化の状況

事業化状況の詳細

バイオマス発電において使用済の熱交換チューブパネルの減肉部に耐摩耗材であるNi基自溶性金属を溶射施工し(被膜厚み1.5mm)、実機ボイラーで1年以上の使用実績を得た。従来法では自溶性金属を吹き付けた後、ガスバーナーまたは高周波誘導加熱による再溶融が必要であるため、被膜が剥離するリスクがあり再生補修が難しかった。本開発品による施工では再溶融が不要であるため、減肉部の再生補修が可能となった。今回はエンドユーザーが剥離のリスクを完全に排除したいとの事で肉盛り補修を選択されたため採用は見送られた。実績を重ねる機会があれば事業化が期待できる。

SCPS法によるバイオマス発電熱交換チューブへの耐熱・耐摩耗・耐腐食コーティング
提携可能な製品・サービス内容

設計・製作、加工・組立・処理、製品製造、試験・分析・評価、共同研究・共同開発、技術ライセンス、技術コンサルティング

製品・サービスのPRポイント

・大気圧下で真空炉を使用しなくても酸化抑制された被膜を施工できる技術。 例えば、酸素と反応性が高いチタンの溶射が可能。
・大気圧下でシーリングガスと溶射材料を反応させる事ができる技術。純チタン粉末を窒素ガスと反応させ窒化チタンと純チタンの複合被膜が形成可能。
・事前に造粒により混合しなくても2種の材料を均一に先端ノズル部で混合でき、溶射中でも混合比を任意に変更できる技術。
・2種混合溶射技術と後処理の組合せによって多孔質の被膜形成が可能で、混合比により空隙比をコントロールする事ができる技術。
・耐熱、耐摩耗、耐食を目的とした被膜(例えばボイラーチューブ表面への被膜施工)において、再溶融(フュージング)を不要とした1.5mmの厚膜が施工できる技術。Ni基自溶性金属においては被膜の科学的評価とバイオマス発電ボイラーでの1年間の実機テスト済み。
・金属、サーメット、セラミックの溶射が可能で、20μm以下の微粒子でも、プラズマフレームに弾かれる事なく90%以上の高付着効率で溶射できる技術。

今後の実用化・事業化の見通し

半導体業界での実用化までの課題は、銅ノズル溶損によるセラミック被膜中の銅コンタミ問題である。これは、高融点のセラミック粉末を溶融する際、高出力が必要であり、このために異常放電が発生する事に起因する。サポイン終了後、補完研究を継続してきた結果、このメカニズムはほぼ解明できたが、実際の改良には時間と費用がかかるため、当面はセラミック溶射以外の分野での実用化・事業化に注力している。例えば、アルカリ水を分解して水素を発生させる電極の性能アップのために、当溶射被膜を活用できないか開発を進めており、サンプル作製と品質評価を電極メーカーと連携して行っている。取組当初に、溶射コストについて事業化レベルであることは電極メーカーと確認済みであり、サンプル評価結果が目標をクリアすれば事業化となる可能性が高い。

事業化に向けた提携や連携の希望

弊社のような中小企業では、開発期間が長くなると体力が持たなくなり、開発を断念したり、技術を譲渡せざるを得なくなる場合も多いと思います。サポインは3年間ですが、もう少し長いスパンで支援して頂ける制度を希望しますし、且つ、100%の支援を希望します。また、基本となる技術が実用化できても、それを活用して製品化・量産化するには、付随する設備や開発も必要となってくるので、それらも支援して頂ける制度を希望します。

プロジェクトの実施体制

主たる研究等実施機関 シンワ工業株式会社 千葉第2工場 溶射技術グループ
事業管理機関 シンワ工業株式会社 千葉第2工場 溶射技術グループ
研究等実施機関 シンワ工業株式会社 千葉第2工場 溶射技術グループ
アドバイザー 足利大学(安藤康孝、野田佳雅)、東京都市大学(岩尾徹)、村田ボーリング技研(佐藤克夫)、名東技研(広瀬幸司)、サクタ(田中卓巳)、大東製作所(宮下康孝)

主たる研究等実施機関 企業情報

企業名 シンワ工業株式会社(法人番号:0100-01-003875)
事業内容 塗覆装鋼管及び鋼管、ステンレス鋼管のプレハブ加工管の製造・販売溶射による表面改質加工
社員数 140 名
生産拠点 千葉県 市原市 牛久487-2 シンワ工業株式会社 千葉第2工場
本社所在地 〒113-0002 東京都文京区小石川1-28-1 小石川桜ビル8階
ホームページ http://www.shinwa-ism.jp/
連絡先窓口 溶射技術グループ 豊田建蔵
メールアドレス toyota@shinwa-ism.jp
電話番号 0436-26-7681