複合・新機能材料
熱処理品に対する高頻度の検査を可能とする非破壊検査技術を開発(現在では熱処理品質に限定されず、あらゆる素材の非破壊検査に用いることができます。)
愛知県
東洋精鋼株式会社
2020年5月11日更新
プロジェクトの基本情報
プロジェクト名 | 陽電子消滅を用いたひずみ測定による熱処理後の検査を短時間に非破壊で行う技術の開発 |
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基盤技術分野 | 複合・新機能材料 |
対象となる産業分野 | 航空・宇宙、自動車、産業機械、建築物・構造物、化学品製造 |
産業分野でのニーズ対応 | 高性能化(信頼性・安全性向上)、高効率化(工程短縮)、高効率化(新しい検査技術の提供し、製造検査プロセスの高効率化を図る。) |
キーワード | 陽電子、陽電子消滅寿命、転位密度、自由体積 |
事業化状況 | 事業化に成功し継続的な取引が続いている |
事業実施年度 | 平成22年度~平成28年度 |
プロジェクトの詳細
事業概要
陽電子消滅原理を用い、熱処理品質の検査を短時間に非破壊で行う技術を開発した。適用範囲を模索する中で、金属の疲労強度を高めるショットピーニングの品質を転位等の格子欠陥を評価することにより可能にしたり、自由体積の評価手法としても応用してきた。本検査技術は試料の前処理の必要が無く操作に熟練を必要としないので、従来の残留応力や硬さ検査に比べ検査時間を大幅に短縮することができる。また、エンジニアリングプラスティックなど新規素材の評価を、自由体積の大きさや密度の観点から行うことができる。陽電子に関する専門知識が全く無い方々を対象にシステムを開発し、あらゆる産業において利用可能なシステムを構築した。
開発した技術のポイント
・検査に必要な放射性同位元素Na-22の密封線源を開発し市販化した(図2)。法規制対象外で、且つノイズの少ない良質な専用密封線源を開発し、一般産業界における陽電子利用を可能にした。
・アンチコインシデンス法(図3)を採用し、測定対象物を破壊することなく測定することを可能にした。
・スタンドアローンのシステムを開発した。
・セットアップや解析に専門知識が要求される陽電子寿命測定をプログラム上で一括制御し、システムのセットアップから解析までを全自動でできる様にした。
・オートサンプラー機能の追加
・オンサイト用(屋外使用)モデルを開発した(図4)。
具体的な成果
・Na-22密封線源を、国立研究開発法人産業技術総合研究所及び公益社団法人日本アイソトープ協会と共同で開発した。当該密封線源は、公益社団法人日本アイソトープ協会より販売されている。当該線源の開発により、使用場所や取扱資格の制約が無くなり、一般産業界で陽電子を活用できるようになった。なお従来は、放射線取扱主任免許保持者が自作した線源を放射線管理区域内でのみ使用していたので、一般産業界は利用が困難であった。
・陽電子寿命イベントと陽電子検出イベントのアンチコインデンスをとるアンチコインデンス法を測定システムに導入した。これにより、測定対象に入射しない陽電子の寿命情報をキャンセルすることができるので、密封線源を2枚の測定試料で挟み込む必要がなくなった。結果、測定したい表面に、密封線源を接触させるだけで測定が可能となり、非破壊検査を可能とした。
・陽電子寿命測定はセットアップや解析に専門知識が要求されたが、測定装置のオールインワン化と測定条件のセットアップから解析までを完全自動化し、陽電子科学に関する知識が無くても陽電子寿命測定が可能になった。
知財出願や広報活動等の状況
研究論文
(1)Importance of starting time for defect analysis using positron annihilation lifetime measurements, M. Yamawaki et al, Japanese Journal of Applied Physics 58, 126501 (2019)
(2)陽電子消滅法を用いたばね鋼SUP10の疲労損傷評価、柿内利文、服部兼久、上杉直也、錦織大幸、植松美彦、ばね論文集、64号、2019年、p89-94
(3)陽電子消滅法によるステンンレス鋼SUS316の微小き裂発生挙動評価、植松美彦、服部兼久、柿内利文、上杉直也、仲尾文哉、ばね論文集、61号、2016年、p7-12
(4)Non-destructive evaluation of fatigue damage and fatigue crack initiation in type 316 stainless steel by positron annihilation line-shape and lifetime analysyses, Y. Uematsu, T. Kakiuxhi, K. Hattori, N.Uesugi, F. Nakao, Fatigue & Fracture of Enginnering Materials & Structures, accepted
(5)Development of a commercial positron annihilation lifetime measurement system, M. Yamawaki, K. Ito, K. Hattori and N. Uesugi, Journal of Physics: Conference Series, accepted
(6)Effect of Constraining the Source Lifetime Parameter during Least-square-fit Analysis on Positron Lifetime Measurements, M. Yamawaki, K. Ito, Y. Kobayashi, K. Hattori and Y. Watanabe, Japanese Journal of Applied Physics Conference Proceedings, 2 (2014) 011002
(7)Optimization of the Scintillator Size for Positron Lifetime Measurements, M. Yamawaki, Y. Kobayashi, K. Hattori and Y. Watanabe, Journal of Physics: Conference Series, 443 (2013) 012099
(8)Sealed Na-22 sources for positron annihilation lifetime spectroscopy, M. Yamawaki, Y. Kobayashi, K. Ito, M. Matsumoto, H. Ishizu, A. Umino, K. Hattori and Y. Watanabe, Materials Science Forum, Vol. 733 (2013) pp 310-313
(9)Novel Non-Destructive Inspection System for Positron Annihilation Lifetime Spectroscopy, M. Yamawaki, Y. Kobayashi, K. Hattori and Y. Watanabe, Japanese Journal of Applied Physics, 50, (2011) 086301
その他解説等
(1)アンチコインシデンスを用いた陽電子寿命測定、山脇正人、伊藤賢志、小林慶規、日本陽電子科学会会報、5巻1号、2013年、p2-4
(2)陽電子寿命を用いた欠陥測定装置の開発、山脇正人、ISOTOPE NEWS、5 巻709 号、2013年、p15-18
(3)サブナノ・ナノ空孔評価のための陽電子寿命測定技術の現状と課題、山脇正人、産総研計量標準報告、8巻3号、2011年、p367-381
研究開発成果の利用シーン
開発した陽電子寿命測定技術は非破壊で実施可能であり、次のような利用が想定される。
・ショットピーニングにより金属表面に導入された金属表面に導入された転位や原子空孔などの格子欠陥を評価することができる。測定対象を破壊することなく、ショットピーニング品質の評価が可能である。
・金属部品の疲労プロセスを監視することができる。き裂の発生前段階から検出が可能であり、重要保安部品の交換時期を推測することが可能である。
・高分子材料の環境劣化の評価が可能である。高分子材料の特性(例えば透明度)が変化する前段階から、変化を監視することが可能である。
・エンジニアリングプラスティックなどの新素材は、自由体積の密度や大きさを評価することで、固有の特性を評価することが可能である。
実用化・事業化の状況
事業化状況の詳細
2016年10月に陽電子寿命測定装置をPSA-Type LⅡ(PSAはPositron Surface Analyzerの略)と命名し、販売を開始した(図1)。
2017年3月に初号機を納入。
現在、20以上の企業や研究機関、大学等より引き合いを受け、サンプル測定等受注に向けた活動を実施している。
提携可能な製品・サービス内容
設計・製作、試験・分析・評価
製品・サービスのPRポイント
陽電子消滅寿命法は、原子レベルの欠陥や分子間空隙・空孔構造を、非破壊かつ感度よく評価できる手法である。開発した装置及びシステムは、これまで陽電子科学の知識が無いと困難だったセットアップや解析の簡素化を可能にした。また、専用のラジオアイソトープ密封線源の市販化、「アンチコインシデンスシステムの採用による非破壊検査を実現し、陽電子寿命測定法の一般産業利用を実現した。
本技術は、下記の様な革新検査技術を提供する。
・金属・半導体材料の原子サイズの欠陥を1ppmから検出。
・高分子の自由体積を評価し、微小空隙に関係する各種物性(物質移動物性、熱物性、力学物性、静電物性)を評価することができ、材料設計のための新たなパラメータを提供する。
今後の実用化・事業化の見通し
2016年10月に陽電子寿命測定装置をPSA-Type LⅡ(PSAはPositron Surface Analyzerの略)と命名し、販売を開始した。現在、20以上の企業や研究機関、大学等より引き合いを受け、サンプル測定等受注に向けた活動を実施している。
実用化・事業化にあたっての課題
産業利用の裾野をいかに拡げるかが課題と思われる。
プロジェクトの実施体制
主たる研究等実施機関 | 東洋精鋼株式会社 技術開発グループ |
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事業管理機関 | 公益財団法人中部科学技術センター 研究開発推進部 |
研究等実施機関 | 浜松熱処理工業株式会社 国立大学法人名古屋大学 国立研究開発法人産業技術総合研究所 計量標準総合センター 物質計測標準研究部門 ナノ構造化材料評価研究グループ |
参考情報
主たる研究等実施機関 企業情報
企業名 | 東洋精鋼株式会社(法人番号:8180001097390) |
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事業内容 | ショットピーニング用投射材コンディションドカットワイヤーの製造販売を始めとし、ショットピーニング関連機器の開発販売。また、ショットピーニングの受託加工やX線回折受託測定など |
社員数 | 68 名 |
生産拠点 | 本社 |
本社所在地 | 〒490-1412 愛知県弥富市馬ケ地3-195-1 |
ホームページ | http://www.toyoseiko.co.jp |
連絡先窓口 | 技術開発グループ部長 服部兼久 |
メールアドレス | k_hattori@toyoseiko.co.jp |
電話番号 | 0567-52-3451 |
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