3.2.1 事業継続のための代替策の特定と選択をする
(1) このステップの目的
中核事業を目標復旧時間内に復旧させるためには、緊急事態発生時に、中核事業の継続においてボトルネックとなる必要資源(人、物、金、情報等)をどのように確保するかが重要なことはいうまでもありません。
このステップでは、中核事業の復旧を極力早めるために、前のプロセス「① 事業を理解する」で把握したボトルネック資源について、緊急事態発生時における確保の方法や手段を事前に検討し、把握することを目的としています。
(2) 実施のポイント
必要な資源が災害により被害を受けていなければ問題はありませんが、被災して利用ができなくなってしまった場合は、代替資源を確保する手段を選択しなければなりません。
このような選択肢には導入のための労力や費用の面において様々なレベルがありますので、最終的には、あなたの会社がBCP運用に対してどれだけの知恵・人材・資金を投入できるかを総合的に判断して決めることが望まれます。
また、BCP運用に対して余力以上の投資をしすぎて、通常の操業に大きな支障をきたすようでは本末転倒です。したがって、決して無理はせず、継続的に運用していくことが可能である「身の丈に合ったBCP」を検討する必要があります。
① 情報連絡の拠点となる場所の確保
緊急事態発生時において、取引先等への早期の連絡は非常に重要であるとともに、従業員に対して事業継続対応の指揮命令を連絡するための拠点場所を確保する必要があります。あなたの会社社屋自体に影響がなければその場所で構いませんが、被害を受けた場合にどうするかを考えておく必要があります†4。例えば、事業所が複数ある場合は、被災してない方の事業所を採用することが考えられます。また、事業所が一つしかなく、そこが被災してしまった場合には、近所の商工会議所や公的施設等が利用可能かどうかを検討する必要があるでしょう。また、場合によっては、自動車内を拠点とせざるを得ない場合もあります。
② 被災した重要施設・設備の代替確保
中核事業の継続に関わる重要施設や設備が被災した場合の代替確保方針を決定します。
特に製造業の場合、施設・設備の代替確保には、以下のようなものがあります。
- 1)
- 同一の機能をもつ施設を協力会社等に所有し、併行で操業しておく方法
- 2)
- 回復用の作業施設と設備類を保持する方法
- 3)
- 回復用の作業場所のみ確保(または、確保すべき場所を具体的に想定)しておき、設備は購入やリース等により確保する方法
- 4)
- 他製品の製造施設・設備を一時的に転用する方法
- 5)
- 回復用の作業場所(場合によっては設備も含む)を、同業組合等を通して、他社と提供し合えるように協定を締結しておく方法
- 6)
- 違う場所において新たに施設を建設する方法
このうち、コストや効率の問題から、特に中小企業においては選択しにくい代替方針もありますが、基本的にはこれらの選択肢から代替方針を検討することになります。また、この代替方針は時間の進展にもとづいて検討する必要があります。具体例としては以下のように、時系列に従って、適当な代替方針を組み合わせていくことが重要となりますので、そのような方針もこのステップで検討しておくことが望ましいでしょう。
- 1)
- 発災後3日間は、社内の他の設備を利用して事業を一部でも継続する。
- 2)
- その間に本来の設備を新たに購入またはリースの手配を行い、社内の回復用作業場所で3週間は事業を継続する。
- 3)
- その間に、プレハブ等により、仮施設を建設する。
③ 臨時従業員の確保
緊急事態発生により、あなたの会社の従業員が業務に従事できない場合の人員代替方針を決定します。
例えば、地震により自宅が被災した従業員が多く発生し、あなたの会社の事業継続に従事できる従業員が不足する場合、または、インフルエンザの大流行により、従業員の多くが出社できなくなる場合等です。
また、緊急事態発生時には、大きく分けて「被災生活支援のための要員」と「事業復旧のための要員」との2通りが必要となります。前者は、組合や、日頃より親交の深い近隣の方等に支援を依頼することが†5考えられます。後者は、あなたの会社の業務について知見があることが望まれますので、会社のOB等に依頼する等が考えられます。このような点も含めて、臨時従業員の確保に関する方針を定めておくことは、経営者として重要です。
④ 資金調達の方針
緊急事態の発生により、その後の対応には少なからずの資金が必要となります。そのため、資金調達方法に多様性をもたせるといった検討も含めて、以下のような資金調達方針について決定して下さい。
・ 損害保険への加入
・ 共済制度の活用
・ 各種融資の活用
・ 手持ち資金の事前確保
⑤ 通信手段・各種インフラの代替方針
中核事業の継続に電話や電力、ガス、水道等が必要な場合には、可能な限りの代替策を検討しておく必要があります。
⑥ 情報のバックアップ方針
中核事業の継続に必要な情報は、電子データ、紙データに関わらず複製を作成し、同じ災害で被災しない場所に保存しておくことが重要となります。
また、中核事業を支える特別な情報システムがある場合は、バックアップシステムの整備も必要となります。
情報のバックアップ実施におけるポイントとしては、以下のものがあります。
・ | 重要業務に必須となる情報は何かを把握する |
・ | 電子・紙データの複製の保管場所を決定する |
・ | 情報のバックアップを取る頻度等を決定する |
・ | 非常用電源や回線等の二重化対策を検討し、必要であれば導入する |
これまでの分析で得られた結果に基づき、目標復旧時間内に事業を復旧できるようにするための事前対策を検討します。