第1部 平成27年度(2015年度)の中小企業の動向

2 中小小売業

続いて、中小小売業の労働生産性を振り返ると、平均としては製造業よりやや低く位置し、約568万円/人であった(第1-3-3図参照)。上位層と下位層の分布にはばらつきがあり、第一四分位は738万円/人、第三四分位は348万円/人と幅広い範囲にわたって分布している(同図参照)。このため、一社一社の特徴や取組が、労働生産性に比較的反映されやすいと考えられる。分布を見ても、非製造業よりは低い水準で動いているものの、飲食サービス業や生活関連サービス業,娯楽業と比べると全体としてグラフが右に寄っており、高い生産性に多くの企業が分布している(第1-3-7図参照)。また、TFPについては2010年から2014年の期間で見てプラスには動いているものの、卸売業や製造業等の他産業と比べると小さく、また労働投入がマイナスに寄与している(第1-3-8図参照)。近年における国内需要縮小や、労働供給の制約による影響を受けているものと推察される。

ここで、上述の生活関連サービス業,娯楽業と同様に、大企業平均との比較を行いたい。第1-3-7図の累積分布図から小売業を抜き出し、その上に大企業における労働生産性の平均(約654万円/人)を描き入れると、第1-3-14図のようになる。これを見ると、34.5%もの中小企業が大企業平均以上の生産性となっている24

第1-3-14図 中小小売業における労働生産性の分布状況
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24 大企業以上の生産性を持つ中小企業の業種小分類別内訳については、付注1-3-3参照。

また、大企業平均以上の生産性を上げている中小企業とその他の中小企業を比較すると(第1-3-15図)、大企業平均以上の生産性を上げている中小企業では、とりわけ設備投資額がその他の中小企業の平均を大きく上回っている。情報処理・通信費、資本装備率についても同様に高い水準となっており、高い売上高を上げている。また、従業員一人当たりにかけている人件費を見ても、労働生産性が大企業を上回る中小企業ではそれ以下の中小企業の二倍以上となっている。他方で、資本生産性を見ると、労働生産性が高い企業よりも低い企業の方が大きくなっていた。中小小売業においては、資本装備率や設備投資額の高さが労働生産性の高い企業の特徴であったのに対して、資本生産性の影響は見られなかった。

第1-3-15図 生産性の高い中小小売業の特徴(平均)

中小小売業の生産性は他業種と比べて高いとは言えないが、労働生産性で比較した場合、大企業小売業の平均を上回る企業の割合は最も高い25。このように高い生産性を上げる中小小売業では、積極的な設備投資やIT化が行われ、従業員一人当たり人件費も大きくなるという好循環が生じていると考えられる。

25 他業種における比較については、第1-3-16図を参照。

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