3 シェアリングエコノミーの認知度と活用に向けた課題
〔1〕シェアリングエコノミーとは
近年、スマートフォンの普及等ITの利活用環境の変化に伴い、シェアリングエコノミーが登場し、我が国経済の仕組みを変えつつある。シェアリングエコノミーについては、様々な分野で新たなサービスが開発されており、現時点で一義的に定義を行うことは困難であるが、本項では「個人等が保有する活用可能な資産等をインターネット上のマッチングプラットフォームを介して他の個人等も利用可能とする経済活性化活動32」として捉えることとする。資産の提供者である貸主は個人のことが多いが、法人が貸主となることもあり、遊休資産の活用による収入を得ることができる。他方、借主は所有することなく利用ができることから既存のサービスと比較して利用コストを低く抑えることができるというメリットがある。将来的には「所有から利用へ」という発想転換が進み、新ビジネスが多数参画し産業の新陳代謝が促進される可能性がある。代表的なサービスとしては、他人が所有する空き部屋や不動産を利用希望者に提供する民泊サービス、個人の所有するモノを他人が利用するサービス、個人の専門的なスキルを空き時間に提供するサービス等が挙げられる(第2-3-46図)。
32 内閣官房IT総合戦略室「シェアリングエコノミーに関する検討経緯」(平成28年7月)
シェアリングエコノミーにおいては、〔1〕プラットフォーム提供者33(以下、「シェア事業者」という。)、〔2〕保有する遊休資産(場所・モノ・サービス等)の提供者(以下、「提供者」という。)及び〔3〕遊休資産(場所・モノ・サービス等)の利用者(以下、「利用者」という。)という三つの立場で関わることが可能である。サービスの仕組み上、シェア事業者の存在は必須であるが、遊休資産を提供する主体は、シェア事業者ではなく提供者であり、サービスの品質につながる遊休資産の管理は提供者が行うことが基本である。また、シェアリングエコノミーの基本的な信頼メカニズムとしては、多くの場合、提供者や利用者について事後評価する機能がシェア事業者より提供されており、レビューで悪い評価を受けたモノがサービス提供や利用の機会を得にくくなるという仕組みが構築されている。
33 インターネット上でマッチング機能を提供する事業者
シェアリングエコノミーは、海外を中心に利用が進み市場が拡大傾向にある。各国合計の市場規模は2025年までに約3,350億ドルにまで拡大すると予測されている。
我が国でも今後の市場拡大が予想されており、シェアリングエコノミーの国内市場規模は2014年度に約233億円であったが、2018年度までに462億円まで拡大すると予測されている34。
〔2〕シェアリングエコノミーの認知度
ここからは、中小企業のシェアリングエコノミーのサービスに対する認知度等について、消費者の視点も交えながら分析していく。まず、第2-3-47図は、シェアリングエコノミーに対する認知状況を企業と消費者に分けて見たものである。(1)企業においては、活用している割合は1%未満であるが、「知っているが、活用していない」を含めると約25%が認知している。
他方で、(2)消費者では「活用している」が16.8%、「知っているが、活用していない」を含めると約70.0%と、関心が高いことが分かる。
次に、業種別にシェアリングエコノミーの認知度を見てみる。第2-3-48図を見ると、シェアリングエコノミーを知っており、既に活用している割合は、サービス業が最も高く、45.8%となっている。また、シェアリングサービスを知っているが、活用はしていない者においては、サービス業が32.2%となっており、次いで、製造業が31.8%となっている。
続いて、第2-3-49図では、経営者の年代別にシェアリングエコノミーの認知度を見てみる。同図を見ると、若い経営者ほど、シェアリングエコノミーの活用度や認知度が高い傾向にある。具体的に見てみると、シェアリングサービスを知っており、既に活用している者の中で50~59歳の割合は40.0%、40~49歳は32.0%となっている。
他方で、シェアリングエコノミーを知らない者の中で60~69歳の割合は、38.5%となっている。このように、若い世代ほど、シェアリングエコノミーといったような新しい概念をビジネスに活用する傾向にあることが示唆される。
ここで、シェアリングエコノミーを認知している企業の事業参入への関心度を見てみる。第2-3-50図では、〔1〕シェア事業者、〔2〕提供者、〔3〕利用者の三つの立場から、シェアリングエコノミーへの関心度を見ている。同図を見ると、シェアリングエコノミーに関心があり、事業参入を検討しているのは、場所・モノ・サービス等の利用者としての立場が最も高く、13.6%となっている。
〔3〕シェアリングエコノミーの活用に向けた課題
ここからは、シェアリングエコノミーを活用していくための課題について見ていく。第2-3-51図では、シェア事業者、提供者及び利用者における、共通の課題と個別の課題を分析している。
まず、シェア事業者、提供者及び利用者の共通の課題から見てみると、事業参入を検討している企業、未検討の企業にかかわらず、「技術・ノウハウを持った人材が不足している」という課題が多い。加えて、事業参入を検討している企業においては、「適切な相談相手が見付からない」という課題が33.0%、事業参入が未検討の企業においては、「ルールが明確でなく、参入しづらい」という課題が30.3%となっている。
次に、利用者の課題を見てみると、事業参入を検討している企業では、「利用する場所・モノ・サービス等の品質が不安」といった点が挙げられている一方で、事業参入を未検討の企業では、「面識のない相手とのやりとりが不安」という課題が56.9%となっており、事業参入への検討状況の違いにより、不安視する点が異なっていることが分かる。
続いて、シェア事業者の課題を見てみると、総じて、「ビジネスモデルの構築が難しい」という課題が多く、事業参入を検討している企業で55.6%、事業参入を未検討の企業では、64.7%となっている。事業参入を検討している企業では、この課題のほか、「事故に備えた補償を十分に準備する必要がある」が44.4%、「事業立ち上げ等のコスト負担」が42.4%といったように、事業立ち上げ時の課題が多く挙げられている。
最後に、提供者の課題を見ると、事業参入を検討している企業では、「利用者の要求内容・水準とのミスマッチ」が最も多く58.0%となっている。また、「シェア事業者との信頼関係構築」も42.0%となっており、利用者との関係構築に努めるだけでなく、シェア事業者との関係構築にも課題を感じていることが分かる。他方で、事業参入を未検討の企業では、「面識のない相手とのやりとりが不安」という課題が最も多く42.1%となっており、利用者の課題と同様の傾向となっている。
シェアリングエコノミーの活用に係る課題については、企業だけでなく個人の視点からも分析を試みる。第2-3-52図では、利用者としての課題と提供者としての課題を分けて見ていくとともに、個人の利用状況別にも課題を分析している。
まず、利用者としての課題は、「事故やトラブル時の対応が不安」が最も多く、「利用したことはないが、今後利用したい」という者の回答が55.4%、「利用したことがなく、今後も利用するつもりはない」という者の回答が46.9%となっている。
次に、提供者としての課題を見ると、利用者の課題と同様に「事故やトラブル時の対応が不安」という課題が多い。また、「提供したことはないが、今後提供を検討したい」者では、「仕組み全体のルールが明確でなく不安」という課題が25.0%となっている。「提供したことがなく、今後も提供を検討するつもりはない」という者では、「面識のない相手とのやり取りが不安」という課題が37.4%となっている。
〔4〕シェアリングエコノミーの効果
最後に、シェアリングエコノミーを活用したことによる効果を定性面と定量面から見ていく(第2-3-53図)。定性面では、遊休資産の活用や新たな収益源の創出といった点に効果を感じている企業の割合が高くなっている。他方で、定量面においては、コストの削減や利益の増加を感じている企業の割合が高くなっている。
事例2-3-7. 軒先株式会社
いつでも、どこでも、気軽に空きスペースを活用できるサービスを提供する企業
東京都千代田区の軒先株式会社(従業員17名、資本金1億8,770万円)は、物件や空きスペースの貸主と利用希望者をマッチングし仲介するWEBサービスを提供している。
同社では、「軒先ビジネス35」というサービスを展開しており、従来の不動産市場に流通しないような店舗の軒先や屋上等の空きスペースを、既存サービスよりも短時間から利用することができる。同社のサービスは、「シェアリングエコノミー」と言われ、貸主はインターネットを介して遊休資産を手軽に貸し出すことができ、また、利用者は安価に遊休資産を活用できる、という双方にメリットがあるサービスとして注目されている新しいビジネスモデルである。
「軒先ビジネス」には、店舗の空きスペースや空き地等、全国約3,500箇所のスペースが登録されている。利用者はWEB上で空きスペースを検索し、利用したい日付を予約し、貸主から承諾を得ることで出店することができる。利用料金は貸主が設定するが、マッチング後に利用者と貸主で金額を交渉することもできる。
その手軽さ、便利さから、現在約4,000社以上が利用しており、その大半を個人事業主や中小企業が占めている。貸し出される空きスペースは、ランチの移動販売、雑貨・衣料品の出張販売、保険・不動産のプロモーション、あるいは、教室やサロンの開催等、様々な用途で利活用されている。
同社では、利用者の会員登録時に資格や保険加入状況等の審査を実施したり、利用者がスペースの一部を損壊してしまうなどのトラブルに備え損害保険を契約したりするなど、利用者と貸主の双方が安心してサービスを利用できる仕組みを整えており、トラブルを未然に防いでいる。また、出店場所の相談や、集客・告知のサポート等、特にノウハウや人手不足に悩む中小企業にとって便利なサービスも提供している。
空きスペースに短期間出店し、お客様に商品体験をしてもらいつつ販売するビジネスモデルは大企業も展開しており、空きスペースの利活用はますます活発になると、同社の西浦明子社長は見ている。今後は、起業する前のお試し出店の希望者を支援するパッケージ商品の提供や、自治体と連携した地域の不動産活用の事業化も視野に入れている。
35 同社では駐車場のシェアサービスとして「軒先パーキング」も展開している。