第2部 中小企業のライフサイクル

第5節 まとめ

本章では、中小企業の新事業展開について見てきた。はじめに、新事業展開は中小企業の成長に寄与していることを確認し、新事業展開実施の重要性を述べた。そして、新事業展開に成功した企業と成功していない企業の違いに焦点を当て、新事業展開を実施する背景やきっかけ、課題等を分析してきた。新事業展開の成否別に課題を見た際、課題の多くは「マーケティング活動」、「人材の不足」及び「必要な技術・ノウハウの取得」に関するものであった。第一に、新事業展開の成功要因として、マーケティング活動を取り上げ、新事業展開に成功した企業の取組や特徴を述べるとともに、新事業展開に成功していない企業の課題を見てきた。新事業展開に成功した企業では、市場ニーズの把握に強みを持っていることや、社内体制の特徴として、企画部門が市場ニーズを把握しているという点も見られた。また、マーケティング活動を部分的にではなく、評価・検証に至るまでを実施する企業は、実施していない企業と比較して利益率が増加傾向にあり、加えて、従業員の意欲向上や企業の知名度向上といった効果を得ていることが示された。

第二に、新事業展開の実施に係る課題として挙げられていた人材不足に対しては、課題解決に向けた一つの方策として、外部リソースの活用を示し、中小企業における外部リソースの活用状況を概観しながら、活用に向けた課題を見てきた。外部リソースの活用は、中小企業の利益に好影響を与えていることを確認できたほか、活用している中小企業は、実際には想定されたほどの課題を感じていないことも明らかにした。経営資源に限りのある中小企業においては、今後の成長に向けて、こうした外部リソースの活用も視野に入れながら新事業展開を積極的に実施していくことが、求められているといえよう。

第三に、必要な技術・ノウハウの取得に対しては、中小企業における研究開発活動を取り上げた。研究開発活動においても、新事業展開に成功した企業は、成功していない企業よりも研究開発活動を実施している傾向が確認された。

また、第4節では、IoT等の新技術やシェアリングエコノミーという新たな経済の仕組みの台頭について触れた。現時点においては、中小企業における新技術やシェアリングエコノミーの活用度合いはまだ低いものの、活用している企業は売上高の増加や業務コストの削減等の効果を感じている傾向にあった。例えば、非製造業においては、業務プロセスを「見える化」し、業務の改善に結び付けることで、生産性向上につながる可能性もある。また、新しいビジネスチャンスとなり得るシェアリングエコノミーに関しても、中小企業の関心度は比較的高い。こうした新技術の導入やシェアリングエコノミーの活用に当たっては、様々な課題があるものの、新技術に関しては、コラム2-3-4で示したような中小企業が簡単に安価で使えるツールの提供も広がっている。こうしたツール等の活用が、中小企業にとっては、新技術の導入に有効な手段となり得る。

以上、本章では、中小企業の新事業展開への取組状況を概観しながら、新事業展開の成功要因について述べてきた。合わせて、新技術やシェアリングエコノミーへの活用に向けて、課題や効果等を分析してきた。人材不足という課題や市場の目まぐるしい変化等、中小企業を取り巻く環境は依然として厳しい状況ではあるものの、中小企業が市場と向き合い、効果的なマーケティング活動を実施し、研究開発や新技術の活用などにより新しいビジネスモデルを追求し、必要に応じて、外部リソースも積極的に活用することで新事業展開を成功に導き、更なる成長を達成することを期待して、本章の結びとしたい。

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