第2部 中小企業のライフサイクル

2 経営の引継ぎに関する準備状況及び課題

経営を引き継ぐことは、事業承継の中でも極めて重要な要素である。先代経営者が培ってきた事業を維持・発展させ、従業員の雇用を維持し、サプライチェーンの一端を担っていくためにも、早期に後継者を選定し了承を得て、時間をかけて引き継いでいくことが重要である。

第2項では、中小企業・小規模事業者における経営の引継ぎに関する準備状況及び課題について、中規模法人と小規模事業者(小規模法人・個人事業者)に分けてそれぞれ分析していく。

〔1〕中規模法人の経営の引継ぎ

ここからは、中規模法人向けのアンケート調査結果に基づき、中規模法人の経営の引継ぎについて見ていく。中規模法人では、第2-2-8図で見たとおり、親族以外の役員や従業員に対して、経営の引継ぎを検討する中小企業も一定割合存在することから、親族内承継と親族外の役員・従業員等に引き継ぐ際の違いにも着目していく。

はじめに、経営者の年代別に後継者の選定状況について見ていく(第2-2-32図)。後継者が決まっている経営者は、50~59歳で25.2%に過ぎないが、70歳以上になると59.1%となっている。他方で、「候補者はいるが、本人の了承を得ていない(候補者が複数の場合を含む)」、「候補者もいない、または未定である」といった後継者の決定に至っていない経営者も70歳以上で40.9%存在する。

第2-2-32図 経営者の年代別に見た、後継者選定状況
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第2-2-33図は、「候補者もいない、または未定である」と答えた経営者に後継者候補に関する考えを聞いたものである。「後継者候補を探しているが、まだ見付かっていない」と回答する経営者は、50~59歳では30.2%に過ぎないが、70歳以上では69.4%となっており、年代が上がるにつれて後継者を探している割合が高くなっている。他方で、70歳以上でも「後継者候補についてまだ考えたことがない」とする者が13.5%おり、高齢に至っても事業承継に向けた意識を持っていない経営者も一定割合存在している。

第2-2-33図 経営者の年代別に見た、後継者候補がいない企業の状況
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次に、第2-2-34図は、後継者を選定する中でどのような検討を行っているかを後継者の選定状況別に見たものである。「子供や孫を候補者として検討」している割合は「決まっている(後継者の了承を得ている)」企業で高く、「候補者はいるが、本人の了承を得ていない(候補者が複数の場合を含む)」企業で40.3%、「後継者候補を探しているが、まだ見付かっていない」企業で27.2%と低下する。他方で、「候補者はいるが、本人の了承を得ていない(候補者が複数の場合を含む)」という企業では、親族以外の役員・従業員や社外からの招聘といった、親族外承継を検討している割合が高くなり、「後継者候補を探しているが、まだ見付かっていない」という企業では、それらに加えて事業の譲渡・売却・統合(M&A)を検討している割合が高くなっている。後継者決定企業では、親族を検討する段階で多くの企業が決定に至っていると推察される一方、後継者未決定企業では親族を後継者候補として検討できず、役員や従業員等親族外の候補者を検討していると推察される。

第2-2-34図 後継者選定状況別に見た、後継者選定に当たり行った検討
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次に、第2-2-35図は、後継者の選定を始めてから後継者の了承を得るまでにかかった時間を見たものである。選定を始めてから了承を得るまで、3年超を要した企業が14.4%いる。後継者の了承を得た上で、ノウハウの継承等の後継者教育や経営者を補佐する人材の育成を行っていくことを踏まえると、早期に後継者の選定を始め、経営の引継ぎの準備に入ることが望ましいといえる。

第2-2-35図 後継者の選定を始めてから了承を得るまでにかかった時間
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ここからは、中規模法人の経営者が後継者を決定するに当たり、どのような点を重視しているかについて詳細に見ていく。はじめに、第2-2-36図は、経営者から見た、経営を担う後継者に求める資質・能力について、従業員規模別に見たものである。全体で見ると、「経営を担う覚悟」が最も多いが、従業員規模51人以上の企業では「リーダーシップ」が最も多くなっている。従業員規模によって、後継者に求められる資質に違いが見られることが分かる。

第2-2-36図 後継者に求められる資質・能力(従業員規模別)
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後継者決定に当たっては、現経営者と後継者・後継者候補との間に親族関係があるかないかによって違いが生じると考えられる。ここからは、こうした後継者の決定に至るプロセスを、後継者・後継者候補が親族内か親族外かに着目して分析していくこととする。第2-2-37図は、後継者・後継者候補の年齢を親族内・親族外別に見たものである。親族内承継の場合、後継者・後継者候補は「30~39歳」の割合が最も高く、後継者候補では「29歳以下」が2番目に多くなっている。他方で、親族外承継の場合は、「40~49歳」や「50~59歳」の後継者・後継者候補が多くなっている。親族内に引き継ぐ場合と親族外に引き継ぐ場合とで、年齢層に違いが見られる。

第2-2-37図 後継者・後継者候補の年齢
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後継者に決定した理由を経営者と後継者との関係別に見ていく(第2-2-38図)。「後継者の引継ぎ意思があった」は親族内・親族外に共通して上位となっているものの、親族内を後継者とする場合は、親族外を後継者とする場合に比べて、「後継者が適齢になった」、「経営者または後継者の親族の了承」を重視している。他方で、親族外を後継者とする場合は、「能力が優れていた」、「役員・従業員からの信頼」、「取引先からの信頼」といった後継者の能力・資質や周囲からの信頼を重視していることが分かる。

第2-2-38図 後継者を決定した理由(親族内・親族外)
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次に、後継者候補がいるが、後継者の決定に至らない理由を親族内・親族外別に見ていく(第2-2-39図)。「候補者の能力がまだ不十分」、「候補者の了承がない」は共通して上位となっているものの、親族内を後継者候補とする場合は、「候補者がまだ若い」と回答する者が53.5%と最も多く、親族外を候補者とする者よりも重視している。

第2-2-39図 後継者決定に至らない理由(親族内・親族外)
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後継者を決定した理由と後継者決定に至らない理由について見てきたが、親族内を後継者とする場合、「後継者が適齢になった」や「候補者がまだ若い」などの年齢を重んじる割合が高く、親族内承継では後継者となる上で「適齢」となるタイミングがあると思われる。この点は、第2-2-37図において、後継者候補の年齢に比べて、後継者の年齢が高くなっていることと整合的である。

ここからは、後継者決定企業と後継者未決定企業との違いに着目して、経営を引き継ぐ上での課題と対策・準備状況を見ていく。第2-2-40図は、後継者に経営を引き継ぐ上での課題と対策・準備状況について見たものである。後継者未決定企業においては、「後継者を選定し、本人や関係者の了承を得る」が最も課題と感じており、対策・準備をしている割合との差が大きくなっている。他方で、「後継者を補佐する人材の確保」、「引継ぎ後の事業運営計画の策定」、「経営者の個人保証に関する金融機関との折衝」については、後継者決定・未決定企業共に課題と感じているが、対策・準備を行っている割合は低い。後継者が決まっていない企業では、はじめに後継者の選定や了承を得ることが重要であるが、後継者を補佐する人材の確保や経営者の個人保証に関して金融機関と対話をすることは、時間がかかることであるため、後継者の確保と同時に、将来の経営の引継ぎを見越して、計画的に必要な対策・準備を講じていくことが必要である。

第2-2-40図 経営の引継ぎに関する課題と対策・準備状況(後継者決定・未決定)
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後継者候補の了承を得る上では、はじめに、後継者候補に経営を譲る意思を伝えることとなる。第2-2-41図は、こうした経営を譲る意思の伝達状況について見たものである。後継者決定に至っていない企業では、譲る意思の伝達ができていない企業が多い。したがって、現経営者がしっかりと後継者に対して経営を譲る意思を伝える努力が重要である。

第2-2-41図 後継者・後継者候補への引継ぎ意思の伝達
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続いて、後継者・後継者候補との対話について見ていく。後継者・後継者候補との対話とは、知的資産を伝承したり、経営を譲る意思を後継者に伝え後継者の了承を得たりするために、事業や経営に関して日常的に行う会話のことである。知的資産とは、第2-2-1図で見たとおり、技術、技能、知的財産(特許・ブランド等)、組織力、経営理念、顧客とのネットワークといった目に見えにくい無形の資産を指し、会社の「強み」や「価値の源泉」となっているものである。こうした知的資産を次世代に承継していくことが事業を維持・発展させる上でも欠かせない。また、後継者・後継者候補が経営を引き継ぐ意思を形成する上でも、経営者が後継者・後継者候補と日頃から対話を重ねておくことが必要である。

はじめに、後継者・後継者候補との対話状況について確認する。第2-2-42図によると、後継者決定企業では、後継者の決定に至っていない企業に比べ、対話ができている割合が高いことが分かる。

第2-2-42図 後継者選定状況別に見た、後継者・後継者候補との対話状況
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次に、こうした後継者との対話の効果について見ていく。第2-2-43図は、後継者決定企業について、後継者の選定を始めてから了承を得るまでにかかった時間を対話状況別に見たものである。対話ができている企業では、対話ができていない企業に比べて、選定を始めてから後継者の了承を得るまでにかかった時間が短い傾向が見て取れる。後継者との対話ができている企業ほどスムーズに後継者の了承が得られていると推察される。

第2-2-43図 対話状況別に見た、後継者の選定を始めてから了承を得るまでにかかった時間
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次に、後継者・後継者候補との間で対話されている事項を確認する。第2-2-44図は、後継者・後継者候補と対話している事項について対話状況別に見たものである。対話がされている項目は、「今後の経営方針」が最も多く、「自社の財務内容」、「経営理念」、「取引先との関係」が続く。他方で、対話ができている企業と対話ができていない企業との間で差が大きい項目としては、これらに加えて、「取引金融機関との関係」が挙げられる。

第2-2-44図 対話状況別に見た、後継者・後継者候補と対話している事項
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また、後継者・後継者候補と対話する上での障害について対話状況別に見たものが第2-2-45図である。「対話ができていない」企業に着目すると、「経営の引継ぎ時期を決めていない」が最も多く、「後継者の引継ぎ意思が不明」や「後継者の資質」が続いている。他方で、共通する項目としては「金融機関に対する経営者の個人保証」が挙げられる。対話ができていない企業では、資質や引継ぎ意思等を挙げる後継者側の問題もある一方で、「経営の引継ぎ時期を決めていない」といった、現経営者側の課題もあり、時期を明確化した計画的な事業承継を進めることが重要である。

第2-2-45図 対話状況別に見た、後継者・後継者候補と対話する上での障害
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以上を踏まえると、後継者・後継者候補に対して明確に経営を譲る意思を伝え、後継者との対話ができている企業ほどスムーズに後継者の了承を得ることができている。経営を担うことは後継者の人生にとっても大きな決断である。親族であっても、暗黙の了解や「継いでくれるはず」との思い込みで、経営者と後継者・後継者候補との間でコミュニケーション不足や齟齬があると事業承継の円滑な実施に差し障りかねない。従業員や役員等の親族以外に経営を任せる場合は、引継ぎ意思の確認や、後継者・後継者候補の親族の了承も必要であり、より丁寧な対話が求められる。

ここまでは、現経営者と後継者との間の関係に着目してきたが、経営の引継ぎは、経営における様々な課題と関連するものであり、周囲からの助言を受けることが円滑な経営の引継ぎのためには重要である。第2-2-46図は、後継者決定・未決定別に事業の承継に関する過去の相談相手を見たものである。総じて、後継者が決定している企業の方が、周囲への相談を行っており、相談相手に着目すると、「顧問の公認会計士・税理士」が最も多く、「親族、友人・知人」、「取引金融機関」が続いている。

第2-2-46図 事業の承継に関する過去の相談相手(後継者決定・未決定)
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ここで、後継者の選定状況別に経営や資産の引継ぎの準備を周囲から勧められた割合について見たものが第2-2-47図である。後継者選定が進んでいる企業ほど、周囲から「勧められたことがある」との回答割合が高くなっている。他方で、「後継者候補を探す時期ではない」、「後継者候補についてまだ考えたことがない」といった、早期に経営や資産の引継ぎに関する意識を持っていない経営者に対しては、周囲が早期に働きかけを行っていくことが有効である。

第2-2-47図 後継者選定状況別に見た、経営や資産の引継ぎの準備を勧められた割合
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第2-2-48図は、こうした経営や資産の引継ぎの準備を勧められた相手を後継者決定・未決定別に見たものである。後継者が決定している企業では、「顧問の公認会計士・税理士」や「取引金融機関」等の周囲から経営や資産の引継ぎの準備を勧められていることが見て取れる。こうした公認会計士・税理士、金融機関等の中小企業にとって身近な存在から、後継者が決まっていない経営者に対して、事業承継の準備を始めるよう、働きかけていくことが期待される。

第2-2-48図 経営や資産の引継ぎの準備を勧められた相手(後継者決定・未決定)
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〔2〕小規模事業者の経営の引継ぎ

ここからは、小規模事業者向けのアンケート結果に基づき、小規模事業者の経営の引継ぎについて見ていく。ここでは、特に小規模法人と個人事業者との違いにも着目して分析を進める。

はじめに、第2-2-49図は経営者の年代別に、後継者の選定状況を見たものである。後継者が決まっている割合は、50~59歳では3割に満たないものの、60~69歳では50%を超え、70歳以上になるとおおむね7割の小規模事業者で後継者が決定している。他方で、「候補者はいるが、本人の了承を得ていない」、「候補者もいない、または未定である」といった後継者が決定に至っていない70歳以上の経営者は中規模法人の40.9%より少ないものの、小規模法人で30.1%、個人事業者24.2%で存在する。

第2-2-49図 経営者の年代別に見た、後継者の選定状況(小規模法人・個人事業者)
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第2-2-50図は、「候補者もいない、または未定である」と答えた小規模事業者の、後継者候補に関する考えを聞いたものである。「後継者候補を探しているが、まだ見付かっていない」と回答する経営者は、経営者の年代が上がるにつれて増えているが、個人事業者では、70歳以上でも「後継者について考えたことがない」と回答する割合が5割を超えている。こうした経営者については、早期に事業承継に向けた意識を持つ必要があるといえる。

第2-2-50図 経営者の年代別に見た、後継者候補がいない企業の状況(小規模法人・個人事業者)
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次に、第2-2-51図は、親族内・親族外承継の割合を後継者決定状況別に見たものである。後継者が決定している小規模事業者のうち、親族外承継の割合は小規模法人で5.4%、個人事業者で2.8%に過ぎない。後継者候補がいる小規模事業者の場合でも、親族外承継の割合は小規模法人で19.2%、個人事業者で10.9%である。後継者候補として親族外の人物を検討している小規模事業者は一定割合存在するものの、実際には親族外承継の割合は低く、小規模事業者での親族外承継の難しさがうかがえる。

第2-2-51図 後継者決定状況別に見た、親族内・親族外承継の割合(小規模法人・個人事業者)
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小規模事業者で親族内承継を検討する割合が高い背景として、第2-2-52図は、組織形態別に従業員構成を見たものである。小規模法人では、約4割が経営者の親族を中心とする家族経営であり、個人事業者では、約8割が家族経営である。こうした家族経営の企業において、後継者として従業員や外部の人材を登用することが難しいと推察される。

第2-2-52図 組織形態別に見た、従業員構成
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次に、後継者選定に当たり、小規模事業者が行っている検討について見ていく。第2-2-53図は、後継者選定に当たり行った検討を後継者選定状況別に見たものである。「後継者が決まっている」と回答した企業では、子供や孫を候補者として検討していた割合が高く、「後継者候補を探しているが、まだ見付かっていない」と回答している企業では、親族以外の役員・従業員だけでなく、社外からの招聘や事業の譲渡・売却・統合(M&A)を検討している割合が高くなっている。

第2-2-53図 後継者選定状況別に見た、後継者選定に当たり行った検討(小規模法人・個人事業者)
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第2-2-54図は、小規模事業者について、後継者の選定を始めてから後継者の了承を得るまでにかかった時間について見たものである。3年超を要した企業が小規模法人で45.7%、個人事業者で45.2%いる。後継者の了承を得た上で、後継者教育やノウハウ等の継承に要する時間を踏まえると、早期に後継者の選定を始めることが望ましいといえる。

第2-2-54図 後継者決定企業が、後継者の選定を始めてから了承を得るまでにかかった時間(小規模法人・個人事業者)
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第2-2-55図は、「後継者候補を探しているが、まだ見付かっていない」と回答した企業が、選定を始めてから現在までどれくらいの時間がかかっているかについて見たものである。小規模法人で20.6%、個人事業者で19.1%が後継者候補を探し始めてから5年超経っても後継者候補が見付かっておらず、後継者の確保が難航している小規模事業者が一定割合いることが分かる。

第2-2-55図 後継者候補を探しているがまだ見付からない企業が、後継者の選定を始めてから現在までの時間(小規模法人・個人事業者)
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こうした「後継者候補を探しているが、まだ見付かっていない」と回答した企業の、後継者候補が見付からない理由について見たものが、第2-2-56図である。個人事業者では、「親族外への経営の引継ぎに抵抗感がある」が35.1%と最も多く、小規模法人では「後継者候補を探す上で適切な相談相手が見付からない」、「探す時間が確保できない」が4割を超えている。小規模事業者にとっては、親族外承継への抵抗感が強く、適切な相談相手がいないことや探す時間が確保できないため、後継者探しに苦労していると見て取れる。

第2-2-56図 後継者候補が見付からない理由(小規模法人・個人事業者)
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ここからは、小規模事業者が後継者を決定するに当たり、どのような点を重視して検討を行っているかについて詳細に見ていく。はじめに、小規模事業者の後継者に求められる資質・能力について小規模法人・個人事業者別に見ていく(第2-2-57図)。「事業に関する専門知識」や「事業に関する実務経験」を重視する点は共通であるが、小規模法人では個人事業者に比べ「決断力」や「リーダーシップ」を重視する傾向が見て取れる。

第2-2-57図 後継者に求められる資質・能力(小規模法人・個人事業者)
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後継者決定に当たっては、現経営者と後継者・後継者候補が親族関係にあるかないかにより違いが生じると考えられるため、小規模事業者における後継者の決定に至るプロセスを、後継者・後継者候補が親族内か親族外かに着目して分析していくこととする。

はじめに、後継者との関係別に、後継者に決定した理由を見ていく(第2-2-58図)。「後継者の引継ぎ意思があった」は共通して重視している項目であるが、親族を後継者とする小規模事業者では、「後継者が適齢になった」や「経営者または後継者の親族の了承」を重視する一方で、親族外を後継者とする企業では、「能力が優れていた」が最も多く、「役員・従業員からの信頼」や「取引先からの信頼」等の、後継者の資質や周囲からの信頼を重視していることが分かる。

第2-2-58図 小規模事業者が後継者を決定した理由(親族内・親族外)
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次に、後継者候補がいるが、後継者の決定に至らない理由を親族内・親族外別に見ていく(第2-2-59図)。「候補者の了承がない」、「候補者の能力が不十分」は共通して見られるものの、親族を後継者候補とする小規模事業者では、「候補者がまだ若い」と回答するものが最も多く、親族外を後継者候補とする小規模事業者よりも候補者の年齢を重視している。

第2-2-59図 小規模事業者が後継者の決定に至らない理由(親族内・親族外)
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ここからは、後継者決定企業と後継者未決定企業との違いに着目して、後継者に経営を引き継ぐ上での課題と対策・準備状況について見ていく。第2-2-60図は、小規模法人について、経営の引継ぎに関する課題と対策・準備状況について見たものである。後継者決定企業・未決定企業に共通する課題としては、「経営者の個人保証に関する金融機関との折衝」や「後継者を補佐する人材の確保」が挙げられ、対策・準備も遅れていることがうかがえる。他方で、後継者未決定企業に着目すると、「後継者を社外での教育、ネットワークづくりに参加させる」、「後継者を選定し、本人や関係者の了承を得る」が課題と感じられているものの、対策・準備を行っている割合が低いことが見て取れる。

第2-2-60図 小規模法人の経営の引継ぎに関する課題と対策・準備状況
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第2-2-61図は、個人事業者について、経営の引継ぎに関する課題と対策・準備状況について見たものである。後継者決定・未決定企業に共通する課題としては、「後継者を補佐する人材の確保」や「引継ぎ後の事業運営計画の策定」が挙げられ、対策・準備も遅れていることがうかがえる。他方で、後継者未決定企業に着目すると、「後継者を選定し、本人や関係者の了承を得る」、「後継者への事業内容や技術・ノウハウの引継ぎ」、「後継者への取引先(販売・仕入等)との関係の引継ぎ」が課題と感じられているものの、対策・準備を行っている割合が低いことが見て取れる。

第2-2-61図 個人事業者の経営の引継ぎに関する課題と対策・準備状況
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小規模事業者では親子間での事業承継が多いが、親子間であっても後継者の了承を得る上で、はじめに、現経営者がしっかりと後継者に対して経営を譲る意思を明確に伝えることが重要である。第2-2-62図は、こうした経営を譲る意思の伝達状況について後継者の決定状況別に見たものである。候補者がいるが後継者決定に至っていない小規模事業者では、経営を譲る意思の伝達ができていない企業が多い。

第2-2-62図 経営を譲る意思の伝達状況(小規模法人・個人事業者)
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続いて、小規模事業者における後継者・後継者候補との対話について見ていく。後継者・後継者候補との対話とは、知的資産を伝承したり、経営を譲る意思を後継者に伝え後継者の了承を得たりするために、事業や経営に関して日常的に行う会話のことである。知的資産とは、第2-2-1図で見たとおり、技術、技能、知的財産(特許・ブランド等)、組織力、経営理念、顧客とのネットワークといった目に見えにくい無形の資産を指し、小規模事業者にとっても「強み」・「価値の源泉」となっているものである。こうした知的資産を次世代に承継していくことが事業を維持・発展させる上でも欠かせない。また、後継者・後継者候補が経営を引き継ぐ意思を形成する上でも、経営者が後継者・後継者候補と日頃から対話を重ねておくことは、小規模事業者にとっても必要である。

はじめに、経営者と後継者・後継者候補との対話状況について確認する。第2-2-63図によると、後継者が決定している小規模事業者では、決定に至っていない者に比べ、対話ができている割合が高いことが分かる。

第2-2-63図 後継者・後継者候補との対話状況(小規模法人・個人事業者)
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次に、後継者との対話の効果について見ていく。第2-2-64図は、後継者決定企業について、後継者の選定を始めてから了承を得るまでにかかった時間を対話状況別に見たものである。全体的に、対話ができているという企業の方が、対話ができていない企業に比べ、選定を始めてから後継者の了承を得るまでにかかった時間が短い傾向にあり、後継者との対話ができている企業ほどスムーズに後継者の了承が得られていることが推察される。

第2-2-64図 対話状況別に見た、後継者の選定を始めてから了承を得るまでにかかった時間(小規模法人・個人事業者)
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続いて、後継者・後継者候補との間で対話されている事項について見ていく。第2-2-65図は、小規模法人・個人事業者について、後継者・後継者候補と対話している事項を対話状況別に見たものである。多くの企業で対話がなされている項目としては、「今後の経営方針」、「技術・ノウハウ等」、「取引先との関係」が挙げられる。

第2-2-65図 対話状況別に見た、後継者・後継者候補と対話している事項(小規模法人・個人事業者)
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また、後継者・後継者候補と対話する上での障害について対話状況別に見たものが第2-2-66図である。「対話ができていない」企業に着目すると、「会社や事業の将来性が見通せない」が最も多く、「経営の引継ぎ時期を決めていない」や「後継者の引継ぎ意思が不明」が続いている。資質や引継ぎ意思等を挙げる後継者側の問題もある一方で、「経営の引継ぎ時期を決めていない」といった、経営を引き継ぐ経営者側の課題もあり、時期を明確化した計画的な事業承継を進めることが重要である。

第2-2-66図 対話状況別に見た、後継者・後継者候補と対話する上での障害(小規模法人・個人事業者)
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以上を踏まえると、後継者・後継者候補に対して明確に経営を譲る意思を伝え、後継者との対話ができている小規模事業者ほどスムーズに後継者の了承を得ることができている。経営を担うことは後継者の人生にとっても大きな決断である。親族であっても、暗黙の了解や「継いでくれるはず」との思い込みで、経営者と後継者・後継者候補との間でコミュニケーション不足や齟齬があると事業承継の円滑な実施に差し障りかねない。従業員や役員等の親族以外に経営を任せる場合は、引継ぎ意思の確認や、後継者・後継者候補の親族の了承も必要であり、より丁寧な対話が求められる。

ここまでは、現経営者と後継者との間の関係に着目してきたが、経営の引継ぎは、経営における様々な課題と関連するものであり、周囲からの助言を受けることが円滑な経営の引継ぎのためには重要である。第2-2-67図は経営者の決定状況・相手先別に過去の相談状況を見たものである。これによると、後継者未決定企業では決定企業に比べて、周囲や支援機関に対して相談を行っていないことが分かる。相談相手に着目すると、小規模法人では「顧問の公認会計士・税理士」が最も多く、「商工会・商工会議所」、「親族、友人・知人」、「取引金融機関」が続いている一方、個人事業者では「商工会・商工会議所」が最も多く、「親族、友人・知人」が続いている。総じて、個人事業者の方が、小規模事業者よりも相談している相手が少なく、経営者が一人で後継者について考えていることも多いと推察される。

第2-2-67図 後継者決定状況別に見た、事業の承継に関する過去の相談相手(小規模法人・個人事業者)
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周囲からの働きかけに着目し、後継者の選定状況別に経営や資産の引継ぎの準備を勧められた割合について見たものが第2-2-68図である。「後継者が決まっている」小規模事業者では、周囲から「勧められたことがある」と回答している割合が高いことが見て取れる。他方で、「後継者候補を探す時期ではない」、「後継者候補についてまだ考えたことがない」といった、経営者が経営や資産の引継ぎに関する意識を持っていない場合には、周囲からの働きかけが少ないことが分かる。

第2-2-68図 後継者選定状況別に見た、経営や資産の引継ぎの準備を勧められた割合(小規模法人・個人事業者)
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第2-2-69図は、経営や資産の引継ぎの準備を勧められた相手を後継者決定・未決定別に見たものである。「商工会・商工会議所」や「親族、友人・知人」が最も多いのは共通であるが、後継者が決定している小規模法人では「顧問の公認会計士・税理士」や「取引金融機関」等から経営や資産の引継ぎの準備を勧められている一方で、個人事業者ではその割合が低いことが見て取れる。個人事業者では、「顧問の公認会計士・税理士」、「取引金融機関」との関係がそもそもないことも多く、あったとしてもあまり関係が密でないことが考えられる。小規模事業者に対しても、経営者にとって身近な存在から事業承継の準備に向けた働きかけを行うことが期待される。

第2-2-69図 後継者決定状況別に見た、経営や資産の引継ぎの準備を勧められた相手(小規模法人・個人事業者)
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〔3〕「経営の引継ぎ」まとめ

第1節第2項では、「経営の引継ぎ」について準備状況や課題について見てきた。

経営を引き継ぐ上で後継者は重要な要素であり、現状を見ると、中規模法人では親族外承継が約3分の1を占めるが、依然として親子間承継が大半である。

後継者未決定企業においては、後継者の選定や了承を得ることが最も重要な課題であり、経営者も後継者・後継者候補に対して経営を譲る意思を明確に伝え、引継ぎに向けて、対話を重ねる必要がある。また、後継者を補佐する人材の確保や引継ぎ後の事業運営計画等の課題に関しても全般的に対策・準備が進んでいない。こうした点を踏まえると、経営者は、自身が引退時期に達するよりも早い時期から、事業承継に向けた意識を持ち、後継者選定とともに、経営の引継ぎに向けた社内体制の整備等の準備を進めていくことが重要である。

また、後継者が決定している企業では、周囲に対して相談している割合や事業承継の準備を周囲から勧められた割合が高いことが分かった。事業承継は、様々な経営課題に関わるため、経営者も一人で抱え込むことなく、身近な相談相手に対して相談することが重要である。それだけでなく、顧問の公認会計士や税理士、取引金融機関、商工会・商工会議所等の身近な支援機関も、事業承継の意識付けを図る上で、経営者に対して働きかけを行っていくことが、円滑な経営の引継ぎの実現に向けて期待される。

事例2-2-2. 株式会社オーテックメカニカル

円滑な経営の承継に向けて3代で取り組む企業

山梨県南アルプス市の株式会社オーテックメカニカル(従業員41名、資本金5,570万円)は、高速組立・高速検査を行う省力機械・自動機の開発、設計及び製造、販売業者である。

創業者である芦澤会長自身は65歳を目処に経営の承継を行いたいと考えていた。会社設立後10年が経過し、芦澤会長が50歳を過ぎた頃、会社の成長とともに従業員が増えていく中、優秀な従業員が次の経営者として会社を継いでゆき、永く存続していく会社作りに取り組み始めた。

省力機械・自動機の開発、設計には高い技術力を要することから、創業当時から技術力の向上と従業員の人材育成に力を入れてきた。この中で、一番効果が大きかったのは、18年前から取り組んでいる経営計画発表会である。芦澤会長の経営に関する考えを、毎期の発表会を通じて従業員に伝えることで、経営者と従業員の目指す方向性が一致していくのを実感したという。また、この発表会を続けていくことで、徐々に経営者的な視点を持つ人材が育ってきた。

こうして芦澤会長は、経営を担う後継者として、創業当時からのメンバーであった若林氏(現社長)を選定し、2002年に若林氏は当時41歳で次の社長候補として常務取締役に就任した。その7年後の2009年には若林氏が社長、芦澤氏が会長に就任した。これは芦澤会長自身が41歳で起業をした経験から、「40代になったら経営陣(取締役)として登用するべき」という考えに基づいている。「経営計画発表会等を通じて、早くから若林氏とも経営理念を共有してきたことから、スムーズな経営承継ができた。」と芦澤会長は振り返る。また、社長を継いだ若林社長も「経営計画書があることで経営の方向性が定まっており、経営しやすい環境だった。」と話す。

同社は、東京中小企業投資育成株式会社11(以下、「投資育成」という。)の出資を受けており、若林氏を投資育成が開催する「次世代経営者ビジネススクール」に参加させるなど、後継者教育のために外部の研修等を積極的に活用した。芦澤会長は「経営者に必要な知識の習得をさせるという観点に加え、「次の経営者を任せる」というメッセージを伝えたかった。」と言う。また、若林社長は「自分と同じ境遇の後継者候補が集まっており、経営を継ぐ者の課題や悩みを共有できた。このビジネススクールでの経営者のつながりは10年以上経った今でも続いている。」と同じ境遇の経営者との繋がりが大事であったと話す。さらに2013年には次の経営者候補として、営業部長の手塚氏(当時42歳、現常務)を取締役に抜擢し、同ビジネススクールに参加させている。「組織規模が大きければ、後継者を選ぶということもできるが、中小企業は自社で採用してから時間をかけて育てて行かなければならない。そして後継者候補には早くから経営者としての経験を積ませていく必要がある。」と芦澤会長は話す。

円滑な非同族承継に向けて、芦澤氏一族が保有していた自社株式の大半は経営陣や従業員持株会に譲渡し、役員や従業員の経営参画意識を高めている。芦澤会長は「創業当時から会社は公器という認識が強かった。自社株式は経営に関わる人が代々保有していき、従業員から育った人材が脈々と会社を継いでいってほしい。」と述べている。

11 投資育成についてはコラム2-2-5を参照

次の次まで見据えた経営体制(左から手塚取締役、芦澤会長、若林社長)
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