第2部 小規模事業者の未来

3 何代目の経営者別に見た小規模事業者の特徴

ここからは、小規模事業者の事業活動について、何代目の経営者別に見ていくこととする。

第2-1-12図は、今回アンケート調査の対象となった小規模事業者の創業時期別に、何代目の経営者かについて、その構成割合を示したものである。

これを見ると、1980年以降に創業した者は初代が最も多く、1950年~1979年に創業した者は2代目、1949年以前に創業した者は3代目以上が最も多いことが分かる。

第2-1-12図 創業時期(何代目の経営者別)
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次に、第2-1-13図は、直近3年間の商圏の拡大・縮小傾向について、何代目の経営者別に示したものである。

これを見ると、商圏が「拡大」又は「やや拡大」と拡大傾向にある者の割合が、初代では35.4%と、他の代に比して相対的に高くなっている。

これは、第2-1-12図でみたように、初代の経営者には創業して間もない者が相当数含まれていることが影響しているためと思われる。

商圏が拡大傾向である者の割合は、2代目では約24.6%と、初代より一段低い水準になっているが、3代目、4代目と代を重ねるにつれて商圏の拡大傾向が強まっている。特に、5代目以上では39.6%が、商圏が拡大傾向となっており、全体を通じて最も高い水準となっていることが分かる。

小規模事業者が何代にもわたって事業を継続・継承しつづけることは相当な困難が伴うものと考えられ、そのことは本調査において、5代目以上の経営者(129者)が全事業者(4,857事業者)の2.7%に過ぎないことにも現れている。長期間にわたり事業を継続・継承できているということは、社会経済情勢や消費者のニーズが変化する中で、小規模事業者自身がそれに対応した改善や工夫をたゆまなく継続していることの証左であり、代を重ねるにつれて商圏の拡大傾向が強まるのも、そのような取組の成果によるものではないかと思われる。

第2-1-13図 直近3年間の商圏の拡大・縮小傾向(何代目の経営者別)
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次に、何代目の経営者別に、直近3年間の売上高の傾向について示したものが第2-1-14図、今後3年間の売上高の見通しについて示したものが第2-1-15図である。

これを見ると、直近3年間の売上高が増加傾向にある者の割合は、初代が34.5%と最も高い。これは、初代の経営者に創業して間もない者が相当数含まれていることが影響しているためと思われる。他方、2代目以上の経営者では、売上高が増加傾向にある者の割合がそれぞれ2割程度の水準であり、大きな差異は見られない。

また、今後3年間の売上高の見通しが増加傾向とする経営者は、初代が31.3%で最も高い。2代目は18.2%と初代より一段低い水準になっているが、3代目、4代目と代を重ねるにつれて売上高の増加傾向は強まり、5代目以上では27.9%と3割に近い水準となっている。

第2-1-14図 直近3年間の売上高の傾向(何代目の経営者別)
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第2-1-15図 今後3年間の売上高の見通し(何代目の経営者別)
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次に、第2-1-16図は、事業用に利用しているIT機器(情報通信機器)の保有状況について、何代目の経営者別に示したものである。

これを見ると、どの代も総じてIT機器(情報通信機器)の保有割合は高いが、前項で見てきた経営者の年齢別の保有割合の傾向と異なり、代を重ねるほど、保有する割合が高く、5代目以上では93.0%となっている。

第2-1-16図 IT機器(情報通信機器)の保有状況(何代目の経営者別)
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第2-1-17図は、情報管理面におけるITの活用状況について、事務処理ソフト(ワープロ、表計算、グラフ作成など)、経理ソフト、顧客管理ソフト、販売・仕入れソフト(在庫管理など)、顧客管理ソフト及びその他の業務用ソフトの活用の有無について、何代目の経営者別に示したものである。

これを見ると、どの代も総じてITの活用割合は高いが、前項で見てきた経営者の年齢世代別の情報管理面におけるITの活用割合の傾向と異なり、代を重ねるほど、保有割合が高く、5代目以上では87.6%となっている。

第2-1-17図 情報管理面におけるIT活用の有無(何代目の経営者別)
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第2-1-18図は、ホームページやブログ、SNS、電子メール、メルマガ、ネットでの受注・販売・予約など、宣伝面におけるIT活用の有無について、何代目の経営者別に示したものである。

これを見ると、宣伝面におけるITの活用割合は、2代目が52.4%と最も低く、3代目は60.8%、4代目は71.3%、5代目以上は76.7%と、代を重ねるにつれて活用割合が上昇している。

これまで見てきたIT機器(情報通信機器)の保有や情報管理面におけるITの活用と同様に、代を重ねるにつれて活用割合が高くなっているが、宣伝面におけるITの活用については、代の違いによる格差が特に大きくなっている。何代にもわたって事業を継続している小規模事業者ほど、宣伝面においてより積極的にITを活用していることは興味深い。先代から事業を引き継いだ経営者が、従来からの販売方法のみにこだわるのではなく、ITを活用して積極的に販路拡大に取り組んでいる様子がうかがえる。

第2-1-18図 宣伝面におけるIT活用の有無(何代目の経営者別)
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次に、「産業財産権の保有の有無」について、何代目の経営者別に示したものが第2-1-19図、「保有する産業財産権の種類」について、何代目の経営者別に示したものが、第2-1-20図である。

これを見ると「産業財産権」は、代を重ねるほど保有割合が高くなっている。また、「保有している産業財産権の種類の構成割合」においては、代を重ねるほど「商標権」の構成比が高くなっている。

第2-1-19図 産業財産権の保有の有無(何代目の経営者別)
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第2-1-20図 保有している産業財産権の種類の構成割合(何代目の経営者別)
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次に、第2-1-21図は、「知的資産の保有の状況」について、何代目の経営者別に示したものである。

これを見ると「知的資産」を保有する割合は、5代目以上が38.8%で最も高く、4代目が37.1%、3代目が26.6%、2代目が24.0%、初代が23.7%と、代を重ねるにつれて知的資産を保有していると考える経営者が多いことが分かる。

これは、何代にもわたって事業を継続している小規模事業者ほど、目に見えない資産である知的資産の価値に気づいている割合が高いともいえる。

第2-1-21図 「知的資産」の保有状況(何代目の経営者別)
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次に、第2-1-22図は、経営計画の作成の有無について、何代目の経営者別に示したものである。

これを見ると、経営計画を作成したことのある者の割合は、初代から3代目までが5割前後であるのに対し、4代目及び5代目以上では約7割と一段高い水準となっている。

第2-1-22図 経営計画の作成の有無(何代目の経営者別)
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第2-1-23図は、「他組織と連携して新商品や新サービスを開発したことの有無」ついて、何代目の経営者別に示したものである。

これを見ると、他組織と連携した割合は、初代と2代目が約1割であるのに対し、3代目と4代目、5代目以上は約2割と一段高い水準となっている。

他組織との連携した新商品の開発や新サービスの開発については、創業後の年数が相当程度長くなる3代目以上の経営者の方が、初代と2代目の経営者に比べて、取り組んでいる割合が高いといえる。

第2-1-23図 他組織と連携の有無(何代目の経営者別)
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第2-1-24図は人材育成の取組の有無について、何代目の経営者別に示したものである。これを見ると、人材育成に取り組んでいるとした者の割合は、初代から4代目まではそれぞれ4割弱で大きな差異が見られないのに対し、5代目以上は約5割の取組状況となっている。

第2-1-24図 人材育成の取組の有無(直近3年以内)(何代目の経営者別)
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次に、第2-1-25図は、事業承継後の新しい取組の実施の有無について何代目の経営者別に示したものである。

これを見ると、新しい取組を実施した者の割合は、どの代においても約6割から約8割の取組状況となっており、比較的高い水準で実施していることが分かる。

特に4代目及び5代目以上については約8割が取り組んでいるとしており、2代目及び3代目に対して、一段高い水準となっていることが分かる。

第2-1-25図 事業承継後の「新しい取組」の実施の有無(何代目の経営者別)
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以上、何代目の経営者別に小規模事業者の活動状況について見てきた。

全体的に見れば、創業者である初代と代を重ねた小規模事業者ほど事業活動が活発であり、かつ、業績傾向も高い傾向にあることが分かった。

他方、2代目の小規模事業者では事業活動面でやや低下する傾向にあることから、中小企業支援機関などにおいては、初代から2代目経営者への円滑な事業承継や、承継後の2代目経営者の事業経営の効率化や持続的発展に向けての取組を推進する必要があるといえよう。

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