第2部 中小企業の稼ぐ力

第4章 稼ぐ力を支えるリスクマネジメント

前章までに見てきたように、グローバル化や情報化の進展、取引構造の変容等を背景に企業の経営環境は大きく変化している。これまで以上に世界規模で不確実性が増大しており、企業は様々なリスクに直面している。我が国の中小企業が成長・発展を遂げるためには、リスクを許容し成長に向けた投資を行うとともに、将来発生する費用を防止するため、潜在的に抱えるリスクを把握し、そのリスクに適切な対応を行うことが必要である。しかしながら、中小企業はリスクに対する認識が不足していることが多く、対策が十分に進んでいるとはいえない。本章では、中小企業が直面するリスクへの対応状況や対策を進める上での課題について分析していく。

第1節 中小企業を取り巻くリスク

1 リスクの類型

リスクは、一般には「危険性」すなわちマイナスの結果の発生可能性という意味で使われることが多いが、プラスとマイナスの結果の双方の発生可能性を含む「不確実性」と捉えられることもある。本章では、リスクを広く捉え「事象発生の不確実性」と定義し、損失発生の危険性のみならず、新事業展開による利益または損失の発生可能性等も含むものとする。

リスクを分類する方法は様々であるが、最も一般的なものは「純粋リスク」と「投機的リスク」の二つに分類する方法である。「純粋リスク」とは損失のみを発生させるリスクであり、概念的に理解しやすく、個々の事象の発生を予測することは困難であるが損害保険の利用等により対策が取りやすいことから、これまでリスクへの対策は損失を回避するものとして「純粋リスク」のみを対象とすると考えられてきた。他方で、「投機的リスク」は「ビジネスリスク」とも呼ばれ、損失だけではなく利益を生む可能性もある事象を指す。近年ではこの「投機的リスク」を含め、リスクは利益の源泉であり、リスクを取って利益を追求しないと企業が成長できないと積極的に捉えられるようになってきている。

このような幅広いリスクを企業の経営活動に当てはめて考えると第2-4-1図のような具体例が挙げられる。事業機会に関連するリスクとは、経営上の戦略的意思決定に係るリスクであり、新たな事業分野への進出の成否や設備投資規模の適否等を指す。事業活動の遂行に関連するリスクとは、適正かつ効率的な業務の遂行に係るリスクであり、地震による財物の損壊やネットワークセキュリティの不具合による情報漏えい等を指す。

第2-4-1図 企業の経営活動におけるリスクの具体例
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企業は、様々なリスクが事業に与える影響についてどのような認識を持っているのであろうか。ここからは、「中小企業のリスクマネジメントへの取組に関する調査1」により、中小企業のリスクマネジメントの取組について分析を行う。

顕在化した際に事業の継続が困難になると想定しているリスクについて確認すると、全体的に大企業の方が中小企業より回答割合が高く、中小企業は総じてリスクに対する認識が低いことを表している(第2-4-2図)。

1 中小企業庁の委託により、みずほ総合研究所(株)が2015年12月に企業20,000社を対象に実施したアンケート調査。回収率18.1%。

第2-4-2図 企業規模別に見た事業の継続が困難になると想定しているリスク
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項目別に見ていくと、大企業、中小企業とも8割超と共通して割合が高かったのは「設備の故障」である。続いて「自然災害」、「情報セキュリティ上のリスク」では、大企業では90%弱と高くなっている一方で、中小企業では約75%と顕著に差が出ている。いずれの事象も、顕在化した際には企業規模を問わず甚大な被害が発生し事業の継続に大きな影響を与える可能性があるため、事前の対策を進めることが重要である。

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