第6節 まとめ
本章では、中小企業の成長・発展に求められる「経営力」に着目した分析を行った。
第1節では、自社の経営資源と外部環境の分析をベースとした経営戦略が成長・発展に有効である可能性が示された。また、戦略を実行するための経営計画の策定も同様に重要であり、長期的な視野で投資や人材確保に向けた戦略を検討し、不断に見直していくことの重要性も確認された。
第2節では、経営の透明性・開放性への取組について分析を行った。従業員への経営理念・ビジョンや経営情報の共有は、従業員の主体性醸成等につながり、業績向上や人材定着に寄与する可能性が見て取れた。また、経営状態を可視化できる管理体制により、コスト把握を通じた価格転嫁やコストマネジメントが進み、収益性改善につながる可能性も見られた。開放性という観点では、社外への経営課題の共有・相談も業績改善に寄与する可能性が示された。
第3節では、経営者属性と株主構成を基準に企業を類型化し、経営の透明性、ガバナンス体制構築等への取組差異について分析を行った。これらの取組は、「同族企業」に比べて「パブリック企業」、「所有と経営の分離企業」の方が進んでいることが確認された。ガバナンス体制構築による内外の目を入れた経営は成長やリスク管理につながる可能性も示されており、意識的に取組を推進すべき課題といえよう。
第4節では、中小企業が強い課題意識を持つ人材確保に着目した分析を行った。賃金が人材確保に好影響を及ぼす可能性が確認でき、魅力ある賃金体系を築くための原資とすべく付加価値を高めることが求められる。また、賃金のみによらず、働き手に選ばれる事業者になることも重要だ。採用における自社の魅力を伝える取組、仕事のやりがい、働き方改善、円滑な社内コミュニケーションは人材確保の一助となる可能性がある。
第5節では、これらの取組遂行において、最も重要なファクターであろう経営者に着目した分析を行った。経営者のリスキリングは業績に好影響を及ぼしている可能性が見て取れた。また、経営者の学びの姿勢は組織文化に昇華し、組織全体として人材育成・学びの風土醸成につながっている可能性も確認されている。経営者の成長意欲を高める上では、経営者ネットワークの活用も有効だ。特に、自身と境遇の異なる様々な経営者と関わる機会が成長意欲を高めることに効果的である可能性が示された。さらに、若い経営者への事業承継が前向きな変化を起こす可能性も確認された。