第2節 中小企業とエクイティ・ファイナンス

前節では、金融機関からの借入れによる資金調達について分析を行ってきた。ただし、金融機関からの借入れは、収支状況を問わず約定どおりの額の返済が前提とされることから、特に収益の不確実性が高い新規事業においては、借入れによる資金調達では企業はリスクを取りづらい可能性がある。第2-2-44図は、成長投資への資金を借入れで調達したことによる問題について確認したものであり、「借入金の返済に向けて投資した事業から早期に利益を生み出さなければならず、大きなチャレンジはしにくかった」、「希望した金額を調達することが出来ず、当初の予定よりも小規模な取組みしか出来なかった」と回答した割合が約4割を占めていることが分かる。

一方、エクイティ・ファイナンスは、借入れと異なり定期的な償還をする必要がなく、また新たな外部株主から経営・事業面の支援も期待できることから、挑戦に適した手段であると考えられる。本節では、中小企業の成長に向けた手段として注目されるエクイティ・ファイナンスについて分析する。

第2-2-44図 成長投資への資金を借入れで調達したことによる問題

1.エクイティ・ファイナンスの現状分析

ここからは、エクイティ・ファイナンスを活用したことがある企業へのアンケート調査を基に現状分析を進めていく。第2-2-45図は、エクイティ・ファイナンスの活用目的を確認したものである。これを見ると、「既存事業の強化に向けた増加運転資金」が最も多く、次いで「既存事業の強化に向けた設備投資」となっており、「既存事業の強化」を目的として活用されている傾向にあることが分かる。一方、「新規事業に向けた設備投資」、「新規事業に向けた運転資金」、「新規事業に向けた研究開発投資」といった、既存事業と比較しリスクの高い分野においても一定程度活用されていることがうかがえる。

第2-2-45図 エクイティ・ファイナンスの活用目的

第2-2-46図は、エクイティ・ファイナンスを活用したことがある企業に聞いた、エクイティ・ファイナンスの活用により期待するメリットを確認したものである。これを見ると、「資金繰りが安定する」が最も多いが、次いで「返済不要の資金を確保できる」、「金融機関からの評価が上がる」となっており、金融機関からの借入れでは得られない要素にも期待していることがうかがえる。

第2-2-46図 エクイティ・ファイナンスの活用により期待するメリット

第2-2-47図は、エクイティ・ファイナンスの活用状況別に、エクイティ・ファイナンス活用における課題やデメリット、又は活用に当たってのハードルを確認したものである。「活用したことがない」企業の回答を見ると、「経営の自由度が下がる」と回答した割合が37.3%と最も高いことが分かる。一方、「活用したことがある」企業の回答を見ると、「経営の自由度が下がる」と回答した割合は15.8%であり、「活用したことがない」企業よりも低いことから、出資を受け入れることで実際に「経営の自由度が下がる」といったケースは必ずしも多くはないことがうかがえる。

第2-2-47図 エクイティ・ファイナンス活用における課題やデメリット、又は活用に当たってのハードル(エクイティ・ファイナンスの活用状況別)

2.出資者による経営支援

ここからは、企業が出資者から受けている経営支援について確認していく。

第2-2-48図は、エクイティ・ファイナンスを活用した際の出資者について確認したものである。これを見ると、「金融機関(金融機関が組成するファンドを含む)」が最も高く、次いで「公的投資会社(公的投資会社が組成するファンドを含む)」、「民間投資会社(民間投資会社が組成するファンドを含む)」となっていることが分かる。エクイティ・ファイナンスの出し手は、金融機関や投資会社だけではなく、事業会社や個人投資家など、多様であることがうかがえる。

第2-2-48図 エクイティ・ファイナンスを活用した際の出資者

第2-2-49図は、企業がエクイティ・ファイナンスの出資者から受けている経営支援を確認したものである。これを見ると、「特にない」と回答した企業を除けば、「資金繰り支援」が最も多く、次いで「経営面・財務面における助言」、「経営管理(管理会計等)の強化」となっている。第2-2-48図で見たように、「金融機関(金融機関が組成するファンドを含む)」からの出資を受けている企業が多いことから、「資金繰り支援」と回答した企業が多いことが推察されるが、「特にない」と回答した企業を除くと、3社に2社程度が何らかの経営支援を受けていることが分かる。エクイティ・ファイナンスは単なる資金調達だけでなく、出資者から経営・事業面の支援を受け得ることから、新たな挑戦に適した手段であることが示唆される。

第2-2-49図 エクイティ・ファイナンスの出資者から受けている経営支援

第2-2-50図は、第2-2-49図で確認した出資者から受けている経営支援について、出資者別に確認したものである。これを見ると、出資者別で、企業が受けている経営支援の傾向に違いがあることが分かる。例えば、「金融機関(金融機関が組成するファンドを含む)」から出資を受けている企業は「資金繰り支援」と回答した割合が最も高く、「民間投資会社(民間投資会社が組成するファンドを含む)」から出資を受けている企業は「経営面・財務面における助言」と回答した割合が最も高い。また、「民間投資会社(民間投資会社が組成するファンドを含む)」又は「事業会社」から出資を受けている企業は、「特にない」と回答した割合が特に低いことが分かり、これらの出資者が経営支援に注力していることがうかがえる。

第2-2-50図 エクイティ・ファイナンスの出資者から受けている経営支援(出資者別)

3.エクイティ・ファイナンスとガバナンス

エクイティ・ファイナンスの活用に当たっては、出資先への定期的な償還が不要である分、出資者が引き受けるリスクは高いため、企業は自社の特徴や成長戦略、企業価値向上の道筋等を出資者に対して具体的・説得的に説明することが欠かせない。「中小エクイティ・ファイナンス活用に向けたガバナンス・ガイダンス」34(中小企業庁)(以下、「ガイダンス」という。)では、エクイティ・ファイナンスの活用に当たっては、ガバナンス35の構築・強化を通じた組織的な経営の仕組みを適切に導入する取組が重要であり、また、出資受入れ後は、出資者が期待する経済的なリターンを実現する責務があり、出資者の支援や出資金を有効に活用して事業を成長させるために、ガバナンスの一層の強化が求められるとしている(第2-2-51図)。

34 中小企業庁が2023年6月に策定。詳細は、コラム2-2-3を参照されたい。

35 ガイダンスでは、ガバナンスを「出資者との対話を通じ、またその他の会社関係者に配慮しつつ、透明・公正かつ迅速・果断な経営判断を行い、エクイティ・ファイナンス活用による成長のための自律的な対応を図るための仕組み」と定義している。

第2-2-51図 エクイティ・ファイナンスとガバナンスの関係性

ガイダンスでは、ガバナンスについて、「戦略的な経営」、「持続的な成長を支えるための仕組み」、「信頼関係構築」の三つの項目に分けて整理している(第2-2-52図)。ここからは、ガバナンスの一要素である「戦略的な経営」(第2-2-53図)への取組状況とエクイティ・ファイナンスの活用状況の関係性等について確認・分析していく。

第2-2-52図 ガバナンスの整理(三つの項目)
第2-2-53図 戦略的な経営

ここからは、「経営理念」、「経営ビジョン」、「経営戦略」の策定状況と、より高度な取組として、社外への発信状況について確認していく。

第2-2-54図は、企業の「戦略的な経営」への取組状況として、「経営理念」、「経営ビジョン」、「経営戦略」の策定状況を確認したものである。これを見ると、「経営理念」、「経営ビジョン」、「経営戦略」のいずれについても、半数程度の企業が策定済みであることがうかがえる。

第2-2-54図 「経営理念」、「経営ビジョン」、「経営戦略」の策定状況

第2-2-55図は、企業の「戦略的な経営」への取組状況として、「経営理念」、「経営ビジョン」、「経営戦略」の社外への発信状況を確認したものである。これを見ると、「経営理念」については半数超の企業が「社外に発信している」と回答した一方、「経営ビジョン」については4割弱、「経営戦略」については2割程度にとどまっていることが分かる。

第2-2-55図 「経営理念」、「経営ビジョン」、「経営戦略」の社外への発信状況

第2-2-56図は、エクイティ・ファイナンスの活用状況別に、「経営理念」、「経営ビジョン」、「経営戦略」の策定状況を確認したものである。これを見ると、エクイティ・ファイナンスを「活用したことがある」企業の方が、「経営理念」、「経営ビジョン」、「経営戦略」のいずれについても、「策定している」と回答している割合が高いことが分かる。

第2-2-56図 「経営理念」、「経営ビジョン」、「経営戦略」の策定状況(エクイティ・ファイナンスの活用状況別)

第2-2-57図は、エクイティ・ファイナンスの活用状況別に、「経営理念」、「経営ビジョン」、「経営戦略」の社外への発信状況を確認したものである。これを見ると、エクイティ・ファイナンスを「活用したことがある」企業の方が、「経営理念」、「経営ビジョン」、「経営戦略」のいずれについても、「社外に発信している」と回答している割合が高い。また、第2-2-56図と比較すると、「活用したことがある」企業と「活用したことがない」企業の取組の差がより顕著であることが分かる。以上から、エクイティ・ファイナンスを活用している企業は、「戦略的な経営」に係る取組において、ガバナンスの構築がより進んでいることがうかがえる。

第2-2-57図 「経営理念」、「経営ビジョン」、「経営戦略」の社外への発信状況(エクイティ・ファイナンスの活用状況別)

ここまで見てきたように、エクイティ・ファイナンスの活用は、「返済不要の資金を確保できる」、「金融機関からの評価が上がる」といった、金融機関からの借入れでは得られないメリットがあることを確認した。また、出資者からは「経営面・財務面における助言」などの様々な経営支援を受け得ることも示され、成長に適した手段である可能性が示唆された。さらに、エクイティ・ファイナンスを活用したことがある企業は「戦略的な経営」への取組が進んでいることが示され、エクイティ・ファイナンスを活用する過程でガバナンスの構築・強化が進む可能性が示された。

事例2-2-3では、出資による大規模な資金調達を実現し、業容拡大に取り組むとともに外部株主との対話の中でガバナンスの構築・強化を図り、成長を遂げた企業の事例を紹介する。

事例2-2-4では、出資と融資を組み合わせた資金調達により、大型設備投資を実現し業容拡大を果たすとともに、出資者の経営支援を受けながらガバナンス構築・強化に取り組んでいる企業の事例を紹介する。

コラム2-2-3では、エクイティ・ファイナンスの活用に向けたポイントや中小企業のガバナンスの取組等を体系的にまとめている「中小エクイティ・ファイナンス活用に向けたガバナンス・ガイダンス」について紹介している。

事例2-2-3:株式会社大都

出資による大規模な資金調達を実現し、業容拡大に取り組むとともに外部株主との対話の中でガバナンスの構築・強化を図り、成長を遂げた企業

所在地  大阪府大阪市

従業員数 27名

資本金  5,000万円

事業内容 その他の小売業

スピード感を持った事業拡大に向け、エクイティ・ファイナンスに活路

大阪府大阪市の株式会社大都は、消費者向けにDIY用工具やガーデニング用品等を取り扱う「DIY FACTORY」と、事業者向けに資材や施工道具を取り扱う「トラノテ」という二つのEC販売プラットフォームを展開する企業である。特に消費者向けのEC販売プラットフォームは、取扱商品数約240万点以上と日本最大級の規模を誇る。同社は1937年創業の老舗工具問屋で、事業環境の変化などに伴い業績が低迷していた中、先代の娘婿である山田岳人社長が後継者として入社。抜本的な経営改善を図るべく付加価値の出しにくい卸売業から全面撤退し、EC販売に転換する大胆な改革に取り組んだ。いち早く市場シェアを獲得し、スピード感を持って更なる事業拡大を進めていくため、大規模な資金調達を検討したが、既に金融機関からの借入金が3~4億円に膨らんでおり追加の借入れは困難だった。そこで、エクイティ・ファイナンスでの資金調達に挑戦することを決意した。

大規模な資金調達と、出資者との対話による事業計画のブラッシュアップにより、成長を実現

2014年頃、エクイティ・ファイナンスによる資金調達のため、関西のベンチャー・キャピタル数社に相談を持ち掛けたが、満足のいく回答を得られなかった。山田社長は「希望額を調達するには経営者としてのスキル向上やビジネスプランのブラッシュアップが必要だ」と痛感し、東京でビジネススクールを受講。ガバナンスの構築と事業計画の洗練が進んだことで、2015年には希望額の出資を受けるに至った。初回は株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ、みずほキャピタル株式会社が引受先となったが、その後、2017年にはホームセンター大手の株式会社カインズからの追加出資も獲得。これらで調達した資金を活用し、EC事業の経営経験を有する経営人材3名を採用することで経営基盤を強化し、EC販売用のプラットフォームの自社開発に取り組んだ。EC事業にシフトする戦略が奏効し、2017年に約38億円だった売上高は2022年には約71億円に増加するなど飛躍的な成長を実現。山田社長は外部株主との関係性について、「身銭を切って経営に参加する出資者は、事業成長に向けて、同じ目線に立って様々な助言をいただける大切なパートナーだ」と語る。

ガバナンスを構築・強化して経営の透明性を高め、外部からの助言や壁打ちで事業計画を洗練

エクイティ・ファイナンスの活用は、ガバナンスの構築に寄与するが、同社は出資者から社外取締役を受け入れることで、更なるガバナンスの強化に取り組む。株主総会や取締役会の場など、事業計画を説明する義務が生じるが、経営の透明性を高めることで、外部株主や社外取締役からの助言や壁打ちの機会も得られ、一層事業計画が洗練されていく。山田社長は「外部の目が入ることをネガティブに考える経営者もいる。実際に大変なこともあるが、結果として、健全かつ筋肉質な経営組織の構築と、対外的な信用力向上につながり、次世代に安心して経営を引き継いでいくためにも、経営の透明性を高めることは重要だ」と語る。

山田岳人社長、本社社屋、ECサイト「トラノテ」

事例2-2-4:PLネットワークサービス株式会社

出資と融資を組み合わせた資金調達により大型の設備投資を実現し、業容拡大に取り組む企業

所在地  埼玉県吉川市

従業員数 104名

資本金  5,000万円

事業内容 運輸に附帯するサービス業

青果物に特化した物流ネットワークを構築

PLネットワークサービス株式会社は、1995年に創業した青果物に特化した物流を担う企業である。スーパーマーケットなどの荷主から預かった青果物を倉庫から店舗へ送る配送業務に加え、倉庫における洗浄、冷凍、追熟加工、パッケージ梱包といった処理も一貫して請け負う。本来、スーパーマーケットなどが自社で運営する物流部分を、第三者が代わって運営する3PL(サードパーティーロジスティクス)といわれる業態である。青果物は輸入品も多いことから、同社は通関業務も手掛けており、「商品が日本に入った時点からお店に届けるまで全てを請け負うことで、荷主のコストを大きく圧縮してきた」と、中山智貴社長は自信を見せる。

出資と融資を組み合わせた資金調達により、大型設備投資を実現

顧客企業にとって極めて重要な物流部門を受託するという同社の性質上、資本政策の独立性・安定性は不可欠との考えから、財務基盤を強化し対外的な信用力を高め、外部の目を取り入れた経営が有効と判断。2023年2月、中小企業の自己資本の充実とその健全な成長発展を支援する政策実施機関である東京中小企業投資育成株式会社(以下、投資育成)の出資を受け、資本金を900万円から5,000万円に増やし信用力を高めた。

また、同社は関東圏全域に配送網を構築していたが、当時本社としていた埼玉県三郷市の物流拠点だけでは受注増に対応できなくなっていた。青果物3PLのリーディングカンパニーとなるべく、物流拠点の新設を構想、数年にわたり経営幹部同士で議論を深め、投資育成の担当者との壁打ち議論を重ねることで説得的な事業計画を策定し、金融機関の理解を得ることに成功。日頃から金融機関と密にコミュニケーションを取り信頼関係を構築したことも奏効し、総額20億円を無担保で調達、2023年10月に埼玉県吉川市に新たな物流拠点となる本社・首都圏事業本部を開所した。倉庫のキャパシティ拡大や冷凍・追熟設備の充実により、能力が大きく向上した。投資育成から出資を受けたことについて、「外部株主の受入れには当初不安もあったが、当社に寄り添って支援してくれており、今では非常に心強い存在。出資を受けたことで成長に向けたギアが上がった」と中山社長は語る。

業容拡大に向け、更なるガバナンス強化を図る

物流拠点の新設により、売上高は約28億円(2023年2月期決算)から約41億円(2024年2月期決算)へ増加、翌期は約55億円(2025年2月期決算)と、更なる増加を見込む。今後は、他社のコンサルティングを請け負うことなどを通じ、流通システムを現在の関東1都6県から全国に広げることで更なる業容拡大を目指すほか、大手企業との取引拡大も見据えて投資育成の支援も受けながらガバナンス構築・強化の取組も進めていく方針だ。

今後の経営方針について、「取引先のガバナンス体制について、大手企業を中心に関心が高まっている。業容拡大に向けた設備投資を継続しつつ、内部統制の充実を図っていきたい。また、人材への投資は重要であり、人材を資本の一部と捉え、従業員のスキルアップや労働環境の改善、賃上げを進めていきたい」と中山社長は語る。

中山智貴社長、吉川市に新設した物流拠点、青果のパッケージ梱包作業

コラム2-2-3:「中小エクイティ・ファイナンス活用に向けたガバナンス・ガイダンス」の策定

1.中小企業の「挑戦」的な活動

近年、中小企業は、事業環境の急激な変化にさらされている。また、経営者の高齢化を背景とした事業承継やM&Aも、引き続き大きな課題となっている。厳しい事業環境に対応するためには、中小企業経営者の環境適応力、自己変革力が重要である。また、事業承継等により就任した新たな経営者のリーダーシップの下、変化を好機と捉え、中小企業が既存事業の延長線上にない新たな事業展開等の「挑戦」に取り組むことは、中小企業が新たに成長するきっかけとなり得る。

2.中小企業におけるエクイティ・ファイナンスとガバナンスの関係性

中小企業が挑戦に取り組むに当たって、デット・ファイナンス(借入れによる資金調達)では十分な資金調達ができなかったとする調査結果もあり、株式を発行する対価として出資者から資金提供を受ける「エクイティ・ファイナンス(増資による資金調達)」の活用の重要性が高まりつつある。エクイティ・ファイナンスは、借入れと異なり定期的な返還をする必要がなく、新たな外部株主から経営面・事業面の支援を受け得ることから、「挑戦」に適した手段といえる。

エクイティ・ファイナンスを活用するためには、経営者は出資者に対し、会社の特徴・成長戦略・企業価値の向上の道筋等を具体的・説得的に説明することが重要となる。ガバナンスを構築・強化し、事業を磨き上げてきた会社は、出資者に対し、出資を受けることで更なる企業価値の向上をアピールでき、エクイティ・ファイナンスの活用により成長の機会を得ることが期待される。また、出資受入れ後の会社は、外部株主の支援や出資金を有効に活用して事業を成功させるため、ガバナンスの更なる強化が求められる。

コラム2-2-3〔1〕図 中小企業におけるエクイティ・ファイナンスとガバナンスの関係性

3.会社経営におけるガバナンス構築・強化の意義

ガバナンスを構築・強化し組織的な経営の仕組みを適切に導入することは、長年、事業を継続することや将来の事業承継を円滑に進めること、取引先等から健全な経営をしているという評価を受け、必要な協力を得ること等の目標を達成するために役立つと考えられるが、中小企業に持続的な成長をもたらすことも期待される。例えば、以下(1)~(4)の効果が期待でき、経営陣による健全な企業家精神・アニマルスピリットを発揮した、挑戦的な経営の実現の基盤となる。

(1)多角的な視点を取り入れることで検討の精度が向上し、挑戦的な取組に伴うリスクを可能な限り低減させる。

(2)経営者や経営陣を株主等からの責任追及から一定程度守り得る。

(3)経営者以外の経営陣や従業員の力を活用した「組織的な経営」への移行により、長期目線での経営が行われ、投資や人材育成、業務効率化等につながる。

(4)経営の透明性を高めるとともに組織内での不正や不祥事の発生を抑制することが可能となる。

4.中小エクイティ・ファイナンス活用に向けたガバナンス・ガイダンス

こうした背景から、中小企業庁は2023年6月に「中小エクイティ・ファイナンス活用に向けたガバナンス・ガイダンス」を策定した。

コラム2-2-3〔2〕図 「中小エクイティ・ファイナンス活用に向けたガバナンス・ガイダンス」の概要

本ガイダンスの第1章においては、エクイティ・ファイナンスの利点、留意点や活用に向けたポイントとして、例えば出資者選定や議決権割合のポイント、種類株式の活用などを紹介している。

また、第2章においては、エクイティ・ファイナンス活用の場面を取り上げて、中小企業のガバナンスの取組を体系的に取りまとめている。具体的には、ガバナンスを、(1)戦略的な経営、(2)持続的な成長を支えるための仕組み、(3)信頼関係構築の3項目に分けて整理している。この3項目の取組により、ガバナンスを構築・強化し、事業を磨き上げてきた会社は、その取組や会社の企業価値向上の道筋について会社関係者に具体的・説得的にアピールが可能となり、更なる成長の機会を得ることが期待される。

本ガイダンスは、中小企業や出資者へのヒアリングやアンケート結果を盛り込み、実感を持ってガバナンスのポイントをつかむことができる内容としている。成長志向の中小企業の経営者・経営陣、特に、エクイティ・ファイナンスによる資金調達を検討している方や、中長期にわたって会社を成長させたいと考えている方、金融機関・ファンドや支援機関の担当者の方などに活用してもらいたい。

コラム2-2-3〔3〕図 本ガイダンスにおけるガバナンスの整理(3項目)
コラム2-2-3〔4〕図 中小企業及び会社関係者とガバナンスのイメージ図

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