第8節 まとめ
第4章では、中小企業・小規模事業者が直面している課題と今後の展望について、分析を行った。
売上高が感染症の落ち込みから回復する一方で、企業の人手不足が深刻化している。構造的にも就業者数の増加が見込めない中で、企業は人手不足への対応を迫られている。こうした中で、人材を十分に確保できている企業では、働きやすい職場環境・制度の整備が進んでおり、賃上げなどの人への投資が必要である。賃上げの動きを見ると、中小企業・小規模事業者でも賃上げの動きが浸透してきており、2023年には過去最大の最低賃金引上げにもつながったことが分かった。しかしながら、業績改善が見られない中で、人材採用強化や定着率向上のため防衛的に賃上げを実施し、収益が圧迫されているという事業者も多く存在していることから、持続的な賃上げを実現するためには原資確保に向けた取組の強化が重要であることを確認した。
また、人手不足への対応策としては、こうした採用等の人材確保に加えて、生産性向上に向けた省力化投資も必要である。人手不足対応の取組として、多くの企業で採用活動が行われている一方、省力化投資を行っている企業は比較的少数で、中小企業における省力化投資への取組は拡大の余地が大きい。
加えて、生産性向上に向けては、販売する財・サービスの価格の視点も重要である。バブル期以降、日本企業は低コスト化・数量増加の取組を続けており、この結果、売上高や利益率は大企業が増加する一方、中小企業は発注側の売上原価低減の動きの中で低迷している。今後は低コスト化・数量増加以上に、単価の引上げによる生産性の向上も追求する必要があると考えられる。現状の企業間取引では、コスト増加分を十分に転嫁できておらず、更なる賃上げにつながる価格転嫁を実現するためには、価格協議の場を設けることや、原価構成を把握するなど価格交渉の事前準備等を通じて価格交渉力を強化する必要があることを確認した。
賃上げの動きを地方圏でも推進するためには、中小企業・小規模事業者の成長と地域の少子化対策への貢献を同時に実現し、地方圏での良質な雇用の創出に向けた取組を行うことが求められる。地方圏では、希望する仕事探しの困難さが東京圏からの若者の移住を阻害し、また東京圏への転入を加速させる要因にもなっていることから、賃金などの待遇面だけでなく、女性・若者・子育て世代に優しい働き方改革を進めることが人材獲得における競争力を高め、人口流出の抑制にもつながることを示した。
このほか、付加価値向上の新たな手段として、気候変動やデジタル化などの社会環境の変化を踏まえて需要を獲得し、業績向上につなげるための脱炭素化・GXやDXの取組を分析した。脱炭素化・GXについては、社会的要求の高まりを受けて取組企業は年々増加しているものの、業績向上を意図して取り組む企業は少なく、取組段階を進展させてより確実に効果を得られるようにするには、支援機関への相談も活用しながら進めることが有効であることを確認した。また、DXについては、現状は業務効率化やコスト削減を目的としている企業が多いが、新規事業創出や付加価値向上を実現し、自社の成長にもつながり得る手段であることを示した。