第4節 成長に向けた海外展開

前節では、成長のための経営資源と経営ガバナンスについて確認してきた。本節では、成長に向けた具体的な取組の一つとして、中小企業・小規模事業者の海外展開の状況について確認していく。

1.中小企業・小規模事業者の海外展開の状況

第2-1-75図は、経済産業省「企業活動基本調査」を用いて、企業規模別に直接輸出企業割合、海外向けの直接投資企業割合の推移を見たものである。これを見ると、直近で2020年度の大企業の直接輸出企業割合は28.2%、直接投資企業割合は33.0%となっている一方、中小企業の直接輸出割合は21.2%、直接投資割合は15.1%となっており、大企業と比べると、中小企業の海外展開は引き続き低水準にとどまっていることが分かる。

第2-1-75図 企業規模別に見た、直接輸出・直接投資企業割合の推移

第2-1-76図は、(株)東京商工リサーチが実施した「中小企業が直面する経営課題に関するアンケート調査」45を用いて、業種別に海外展開46の実施状況を見たものである。これを見ると、製造業において「海外展開をしている」割合が最も高く、19.3%となっている一方、不動産・物品賃貸業において「海外展開をしている」割合が最も低く、2.0%となっている。このことから、業種に応じて海外展開の実施状況に差があることが分かる。

45 本アンケートの詳細は第1部第1章3節を参照。

46 ここでいう海外展開とは、直接輸出、間接輸出、直接投資、業務提携を指す。

第2-1-76図 業種別に見た、海外展開の実施状況

2.海外展開実施による企業業績への影響

〔1〕売上高・経常利益への貢献度

第2-1-77図は、海外展開を実施している企業に対して、海外展開実施による売上高・経常利益への貢献度を見たものである。これを見ると、海外展開が自社の売上高・経常利益に「大幅に貢献した」、「やや貢献した」と回答した割合が半数を超えており、海外展開実施は企業にとって、売上高や経常利益といった業績に好影響を与えていることが分かる。

第2-1-77図 海外展開実施による売上高・経常利益への貢献度

第2-1-78図は、海外展開を実施している企業に対して、海外展開時の強み別に、海外展開実施による売上高・経常利益への貢献度を見たものである。これを見ると、「製品・商品・サービスの独創性・個別性」やコストパフォーマンスのほか、知的資産、知的財産を強みにしている企業ほど、売上高や経常利益への貢献度があったと回答する傾向にあることが分かる。このことから、製品・商品・サービスの付加価値や企業として保有する知的資産・知的財産といった強みが、海外展開による業績への好影響につながっている可能性が示唆される。

第2-1-78図 海外展開の強み別に見た、売上高・経常利益への貢献度

〔2〕労働生産性

第2-1-79図は、経済産業省「企業活動基本調査」を用いて、輸出実施企業と輸出非実施企業の労働生産性の推移を見たものである。これを見ると、輸出実施企業においては、輸出非実施企業と比べて労働生産性の水準に差が見られ、感染症流行を経ても比較的同じ水準の差を維持していることが分かる。

第2-1-79図 輸出実施企業と輸出非実施企業の労働生産性

以上、本節では中小企業の海外展開の現状を確認し、業種に応じて海外展開の実施状況に差があることや、海外展開を実施している企業における売上高や経常利益といった業績への影響、労働生産性の差異について確認した。コラム2-1-6では、中小企業の新規輸出を進めるための具体的取組として、新規輸出1万者支援プログラムを活用した海外展開について紹介している。

コラム2-1-6:新規輸出1万者支援プログラムを活用した海外展開

円安下における海外展開の意義

2022年は円安となったが、新たに輸出を始める観点からはむしろチャンスである。同年10月に政府が策定した新たな総合経済対策では、円安をいかした地域の「稼ぐ力」の回復・強化が柱に掲げられている。この機を逃さず、これまで輸出をしたことがない事業者であっても、その準備や具体的な商談・輸出を速やかに進められるよう、「新規輸出1万者支援プログラム」が盛り込まれ、12月16日からプログラムが開始されている。本コラムでは「新規輸出1万者支援プログラム」の具体的な内容や各支援策、輸出に取り組む中小企業の実例について見ていく。

「新規輸出1万者支援プログラム」の支援策

経済産業省、中小企業庁、ジェトロ及び中小機構が一体となり、全国の商工会・商工会議所等とも協力しながら、新たに輸出に挑戦する事業者の掘り起こしや、〔1〕専門家による事前の輸出相談、〔2〕輸出用の商品開発や売込みにかかる費用への補助、〔3〕輸出商社とのマッチングやECサイト出展等への支援などを一気通貫で実施している。

本プログラムの特徴は、ジェトロにポータルサイトを設置し、ワンストップで登録を受け付け、登録した事業者に対して、ジェトロの専門家が個別カウンセリングを行った上で、各事業者に適した支援策を提案するというものである。

本プログラムにより、事業者が各種支援施策を知らなくとも、事業者の状況に適した支援を受けることができるようになる。支援の具体的な内容については、以下のとおりである。

〔1〕専門家による輸出相談(中小機構)

輸出を検討しているが、何から始めたら良いのか、どこの国に輸出したら良いのか等の悩みを持っている事業者に対して、中小機構の専門家が相談に応じ、ターゲットとして可能性のある国や、展開方法の手法、課題の洗い出し、輸出を実現するための具体的な対応策等をアドバイスする。また、これにより海外展開に取り組む意欲を持った事業者に対しては、海外展開に向けた経営計画の策定や具体的な準備を伴走で支援する。

〔2〕輸出用の商品開発や売り込みにかかる費用への補助(中小企業庁)

ものづくり・商業・サービス補助金のグローバル市場開拓枠で支援内容を拡充した。具体的には、補助下限額を1,000万円から100万円に引き下げ、使い勝手を向上。また、海外市場開拓(JAPANブランド)類型では、ブランディングやプロモーション等に要する費用を補助対象経費に追加している。

〔3〕輸出商社とのマッチングやECサイト出展等への支援(ジェトロ)

従来、農林水産物・食品を対象にジェトロが行ってきた輸出商社とのマッチング支援について、伝統工芸品や雑貨など、その他品目にも対象を拡大する。また、海外ECサイトを活用した販路開拓支援や専門家の伴走支援、海外現地に精通したコーディネーターによる相談対応や現地企業のリストアップ等、ジェトロが行っている既存事業等も含めて、事業者に適した支援の御案内を行い、新規輸出に挑戦する事業者を後押しする(コラム2-1-6〔1〕図)。

コラム2-1-6〔1〕図 輸出商社とのマッチングやECサイト出展等への支援

事例 株式会社ニット・ウィン

奈良県の伝統産業である靴下の製造・販売を手がける株式会社ニット・ウィン(奈良県)は、1950年の創業以来、靴下やニット製品などのOEM商品の製造を主力事業として成長を続けてきたが、海外メーカーとの価格競争の影響もあり、安定した売上げと価格のコントロールを行うための打開策を講じることが急務であった。

同社は、収益性の高くないOEM事業からの脱却を目指す次代の戦略的事業として、自社ブランド商品である「NISHIGUCHI KUTSUSHITA」を立ち上げた。ブランド立ち上げにあたって、企業としてのものづくりを体現する新たな手段を探し始め、靴下を履く人のことを真面目に考え、靴下づくりに真摯に向き合うことに注力した。厳選した良質な天然糸の使用し、素材の良さを最大限に生かすべく、他社では真似できないオールドマシンと最新機の良さを組み合わせた高度な技術の追求とともに、時代にとらわれないデザインの開発・改良などブランドコンセプトである「はくひとおもい」を徹底的にこだわり抜き、自社ブランド商品の販売、それらの海外販売に積極的に取り組んでいる。

海外事業は、2017年にジェトロのセミナー参加をきっかけに、「新輸出大国コンソーシアム」を利用し、専門家の支援の下、米国やパリへの展示会出展を果たした。海外渡航できなかった感染症拡大の期間において、現地出展ができなかったため、「JAPANブランド育成支援等事業(令和4年度2次補正予算よりものづくり・商業・サービス補助金に統合)」を活用し、バイヤーとの商談で使用するコンセプトムービーやパンフレットなどを作成することで、デジタルコンテンツの強化を図った。特にブランディングにあたっては、どの市場、どの消費者にどのように商品展開するかといった事業戦略を十分に固めたうえで、ブランドコンセプトが持つ価値観を現地展示会やSNS、自社ホームページなどを通じて対外発信している。確立したブランドコンセプトを効果的にプロモーションすることにより、ブランド価値に共感したコアファンや海外バイヤーからの多くの受注・引き合いを獲得することに成功している。

このように、自社の海外展開の状況に応じた様々な支援制度を活用しながら、積極的に海外展開に取り組むことで、自社ブランド商品は、欧州や米国を含む約30カ国で取り扱われ、自社の更なる海外売上拡大につなげている。

取締役の西口功人氏は、「弊社はパーパスである“靴下で一日を変える。靴下で価値を変える”を国内外で実現するため、ブランド価値と製品価値を向上させ、私たちの価値観に共感する世界の消費者に今以上に届けていきたい」と今後の意気込みを語っている。

コラム2-1-6〔2〕図 -1日を変える靴下-自社ブランド「NISHIGUCHI KUTSUSHITA」、“はくひとおもい”を伝えるコンセプトムービー

海外展開を行うに当たり、進出国の市場調査、ニーズに合った商品開発や現地バイヤーの発掘など企業によって様々な課題がある。本コラムで取り上げた「新規輸出1万者支援プログラム」では、国や関係機関が連携し、様々な支援策を提供している。これから海外展開に挑む企業や、新たな対象国や新商品を開発・改良して海外展開を更に加速させたい企業は、本プログラムを活用し、積極的に海外展開にチャレンジしてほしい。

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