本章では、中長期的な小規模事業者の持続的な発展を見据え、新型コロナウイルス感染症(以下、「感染症」という。)の影響を受けても、回復している小規模事業者の特徴について感染症流行前からの意識・取組を基に明らかにする。ここでは、「事業者アンケート調査」と三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)が「令和2年度小規模事業者を取り巻く環境の変化と需要獲得に関する調査に係る委託事業」において実施した商工会・商工会議所の経営指導員を対象としたアンケート調査1(以下、「経営指導員アンケート調査」という。)により、日頃の取組と感染症流行下での効果について、経営分析、顧客・地域とのつながり、ブランド化、SDGsに着目して分析を行う2。(第2-2-1図)
1 三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)「商工会・商工会議所の小規模事業者支援に関する調査」
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)が、2020年11~12月に全国の商工会及び商工会議所に所属する経営指導員を対象に実施したWebアンケート調査(有効回答数:商工会の経営指導員3,494名、商工会議所の経営指導員235名)
2 日頃の取組については、ここで示したもの以外にも多様に存在するが、ここでは経営分析、顧客・地域とのつながり、ブランド化、SDGsに着目している。

また、本章では、売上高回復事業者の抽出を行い、感染症の影響により売上高が減少した後、大きく回復させた事業者と、比較的回復していない事業者に分けて、意識や取組の違いについて分析を行う。
具体的には、業種別に、感染症流行後(2020年4~9月)に売上高が最も落ち込んだ事業者を抽出。その中で落ち込み幅が近い事業者群ごとに、回復幅の大きい事業者とそうでない事業者を選別し、「売上高回復事業者」を抽出した3。
3 詳細は付注2-2-1参照。
第1節 日頃からの経営分析
本節では、感染症流行前における強み・課題の分析、財務・資金繰りの把握、顧客情報の把握・活用の実態と、感染症流行後の業績との関係について考察する。
まず、本節での効果の検証に当たって、感染症流行による経営環境変化への対応状況と売上高の回復との関係を確認する。
第2-2-2図は、感染症流行による経営環境変化への対応状況別に、売上高回復事業者の割合を示したものである。これを見ると、「十分できている」、「ある程度できている」と回答する者ほど、売上高回復事業者の割合が高く、経営環境変化への対応と売上高の回復との間に相関関係があることが分かる。

以上より、本節においては、日頃から経営分析などを行っていることと、感染症流行による経営環境変化への対応状況との関係性について確認する。
1.強み・課題分析に関する取組
〔1〕強み・課題分析の実施状況
まず、小規模事業者の強み・課題分析の実態について確認する。
第2-2-3図は、顧客属性別に、強み・課題分析の実施状況を示したものである。これを見ると、「定期的に実施している」と回答する者の割合は約3割にとどまり、BtoB型事業者の方が若干高いことが分かる。

第2-2-4図は、強み・課題分析の実施状況別に、感染症流行による経営環境変化への対応状況を示したものである。これを見ると、「定期的に実施している」と回答する者は、経営環境変化への対応ができている者が多いことが見て取れる。

〔2〕強み・課題分析の目的、実施主体、顧客意見の反映
ここからは、強み・課題の分析について「定期的に実施している」又は「過去に実施したことがある」と回答した者について、強み・課題分析の目的、実施主体、顧客意見の反映状況を分析していく。
第2-2-5図は、強み・課題分析の目的について示したものである。これを見ると、「新事業展開や既存事業強化、見直しのため」と回答する者は約4割を占め、BtoB型事業者の方が若干高いことが分かる。

第2-2-6図は、強み・課題分析の目的別に、感染症流行による経営環境変化への対応状況を示したものである。これを見ると、「新事業展開や既存事業強化、見直しのため」と回答した者は、経営環境変化への対応ができている者が多いことが見て取れる。

第2-2-7図は、顧客属性別に、強み・課題分析の実施主体を示したものである。これを見ると、半数近くの者が、「支援機関や外部顧問などと協力して自社が主体的に実施」していることが分かる。

第2-2-8図は、強み・課題分析の実施主体別に、感染症流行による経営環境変化への対応状況を示したものである。これを見ると、「支援機関や外部顧問などと協力して自社が主体的に実施」と回答した者は特に、経営環境変化への対応ができている者が多いことが見て取れる。外部支援を受け、強み・課題分析を実施することの重要性が示唆される4。
4 2020年版小規模企業白書第3部第2章第1節

第2-2-9図は、顧客属性別に、強み・課題分析への顧客意見の反映状況を示したものである。これを見ると、8割近くの者が「十分取り入れている」又は「ある程度取り入れている」と回答していることが分かる。

第2-2-10図は、強み・課題分析への顧客意見の反映状況別に、感染症流行による経営環境変化への対応状況を示したものである。これを見ると、「取り入れている」と回答する者は、経営環境変化への対応ができている者が多いことが見て取れる。

〔3〕強み・課題分析の経営への活用
第2-2-11図は、強み・課題分析結果の経営への活用状況を、強み・課題分析の目的別、実施主体別、顧客意見の反映状況別に示したものである。これを見ると、目的別では「新事業展開や既存事業強化、見直しのため」と回答する者は、「十分活用できている」又は「ある程度活用できている」と回答する者の割合が高いことが分かる。
実施主体別では「支援機関や外部機関などと協力して自社が主体的に実施」、顧客意見の反映状況別では「取り入れている」と回答する者は、「十分活用できている」又は「ある程度活用できている」と回答する者の割合が高いことが分かる。

第2-2-12図は、強み・課題分析結果の経営への活用状況別に、感染症流行による経営環境変化への対応状況を示したものである。これを見ると、強み・課題分析結果を経営に活用できている者は、経営環境変化への対応ができている者が多いことが見て取れる。

〔4〕経営分析に基づく経営計画の策定・実行・見直し
第2-2-13図は、顧客属性別に、経営分析に基づく経営計画の策定・実行及び見直しの状況について示したものである。これを見ると、「策定・実行し、見直しを行っている」者は3割程度にとどまり、「策定していない」と回答する者が4割近く存在することが分かる。

第2-2-14図は、経営分析に基づく経営計画の策定・実行及び見直しの状況別に、感染症流行による経営環境変化への対応状況を示したものである。これを見ると、「策定・実行し、見直しを行っている」と回答する者は、経営環境変化への対応ができている者が多く、見直しまで行いPDCAサイクルを回していくことの重要性が示唆される。

2.財務の管理
第2-2-15図は、顧客属性別に、財務の管理状況を示したものである。これを見ると、大半の者は「経営者や役員が主に管理」と回答していることが分かる。

第2-2-16図は、財務の管理状況別に、感染症流行による経営環境変化への対応状況を示したものである。これを見ると、「管理していない」と回答する者は、経営環境変化への対応ができていない者が多いことが分かる。

3.顧客情報の把握、活用
ここでは、小規模事業者における顧客情報の把握、管理・活用状況に着目して分析を行う。
〔1〕顧客情報の把握
第2-2-17図は、顧客属性別に、顧客情報の把握状況を示したものである。約8割の者が「十分意識的に把握している」又は「ある程度意識的に把握している」と回答しており、BtoB型事業者の方が、若干高い結果となっている。

第2-2-18図は、顧客情報の把握状況別に、感染症流行による経営環境変化への対応状況を示したものである。これを見ると、顧客情報を意識的に把握している者の方が、経営環境変化への対応ができている者が多いことが見て取れる。

〔2〕顧客情報の管理・活用
第2-2-19図は、顧客属性別に、収集した顧客情報の管理状況と経営への活用状況を示したものである。管理や活用ができていると回答する者の割合はそれぞれ約6割と、前掲第2-2-17図の顧客情報の把握状況に比べ低い結果となっている。

第2-2-20図は、顧客情報の経営への活用状況別に、感染症流行による経営環境変化への対応状況を示したものである。これを見ると、「活用できている」と回答する者の方が、経営環境変化への対応ができている者が多いことが見て取れる。日頃から把握している顧客情報を活用することで、感染症流行後の経営環境変化に柔軟に対応することも期待される。

第2-2-21図は、収集した顧客情報の活用方法の実態を、感染症流行による経営環境変化への対応状況別に示したものである。これを見ると、「品揃えや、商品・サービスの改善」と回答する者の割合が最も高い。また、経営環境変化への対応状況別に見ると、柔軟な対応ができている者では「品揃えや、商品・サービスの改善」や、「重点顧客の分析」と回答する者の割合が高く、日頃より顧客情報を経営に活用していることが推察される。

以上、経営分析の実施状況と経営環境変化への対応状況の関係性について見てきた。最後に、商工会・商工会議所の経営指導員の経営分析への取組の効果に対する考えについて確認する。
経営分析への取組は、経営指導員も小規模事業者の持続的発展に貢献すると考えており(第2-2-22図)、その重要性がうかがえる。
