第2節 自己実現を目指す働き方
事例3-2-5:甲斐健氏
「地域活性化のブランディングを手掛けるフリーランス」
甲斐健氏は、東京の広告業界でフリーランスのクリエイティブディレクターとして活躍し、故郷の大阪府交野市にUターン後は、企業だけでなく、地域活動のブランディング等、活動領域を拡げている。
フリーランスとして活動する前は、東京の大手広告代理店に勤務していた。当時は、大手の菓子メーカー、飲料メーカー等の広告を多数手掛け、多くの広告賞を受賞するなど、実績を重ねていった。
1998年、同僚が自己実現のために転職したことに触発され、フリーランスとして独立した。当時は、フリーランスという言葉も働き方も一般的ではなかったが、広告業界やマスコミ業界等では、プロジェクトごとにメンバーが異なることが一般的であり、自身のスキルで独立するという働き方の選択につながった。
高齢の両親と共に暮らすため、2011年拠点を地元の交野市に移した。Uターン後も引き続きフリーランスとして活動し、関西企業のブランディング等を手掛けた。
地域の懇談会に参加していた当時の交野市長から、これまで交野市が取り組んだことのない地域活性化策の提案を依頼された。甲斐氏は、首都圏等で盛んに開催されていた市民大学から着想を得て、交野市版市民大学である「交野おりひめ大学」を提案した。2013年度より、官民協働による事業としてスタートし、甲斐氏は総合プロデューサーとして運営に関わった。2014年の市長交代後、交野市の事業ではなくなったものの、地域の事業者や有志と連携し、活動を続けた。
「交野おりひめ大学」の取組を通じ、甲斐氏は地域との関わり方の新しい側面を知り、地域活性化の魅力を実感したという。フリーランスという働き方ならば、柔軟な時間の使い方ができ、地域へ様々な関わり方を持つことができる。2018年4月より、「交野おりひめ大学」のプロデュースは後任に任せ、新たに市外からオファーがあったシティプロモーション支援活動に携わりながら、地元企業のブランディング等を行う予定である。
「交野おりひめ大学の活動を通じて、フリーランスとしての活動領域が拡がるとともに、クリエイティブディレクターとしての活動では決して出会うことがない人たちとのネットワークが構築できた。今後は交野おりひめ大学の活動を通じて磨いたスキルやネットワークを活かし、企業や地域を元気にしていきたい。」と甲斐氏は語る。

事例3-2-6:kakandesign 齊藤桃子氏
「2度の起業と会社勤務により得た強みを活かし、キャリアを追求するフリーランサー」
齊藤氏は専門学校卒業後に同級生とデザイン会社を起業、その後、会社員生活を経て、現在、フリーランスのデザイナーとして活躍している。
一度目の起業のきっかけは、地元京都の専門学校時代にさかのぼる。進学したデザイン専門学校は、産学連携に力を入れており、座学よりも実学を中心としていた。在学中の課題の中で、学生自らが企画し、飛び込みも含めた企業への営業を行い、受注後のデザイン、印刷等一連の業務を経験する機会があった。
その経験を通じ、企業活動におけるデザインの影響力と可能性を感じ、志を同じくする同級生とともに、クリエイター支援施設「メビック扇町」(大阪府大阪市)でデザイン事務所を起業した。起業当初は企業へ営業しても実績がないため受注になかなか結びつかず、財務や経理等の会社経営に関する知識もないまま起業したため、苦労が多かった。
当時は、何でも積極的に挑戦したいという思いから、仕事は幅広く行っていたが、先輩クリエイターから「何でもできることは何でもできないことと同じ」という指摘を受けた。齊藤氏も「無我夢中で仕事をこなしてきたが、デザインのクオリティや自身のスキルをもっと向上させたい。」と思い、25歳のときに事務所を解散させ、デザイナーとして学び直しを行うことを決心した。
経験を積むために、大阪の大手通信会社の社内報やポスターデザインを手掛ける企業に勤務した後、東京都内のデザイン事務所勤務を経て、同じく都内の店舗内装等を手掛ける会社に勤務した。一度目の独立の際、過労で体調を崩すことがあったため、「健康」「美容」に関する関心は高くなり、この業界の案件を手掛けるうちに、女性市場のデザインへの自信を深めていった。その後、京都へUターンすることとなり、2015年、kakandesignという個人事務所で2度目の起業をした。
現在は、主に、コスメや雑貨、食品等女性をマーケットとするグラフィックとパッケージデザイン、植物のイラスト作成を請け負っている。イラスト作成は、自身のスキルアップと位置付けており、植物のイラストを中心に作成した作品を展覧会等で発表している。
「一度目の起業時に比べ、健康や美容業界等女性市場の分野の専門性を持つことで、必要としてくれるクライアントも増え、やりがいも大きくなり充実している。表現力を高めること、得意分野を磨き続けること、独立時に決めたこの目標を貫き通すことが案件を依頼してくださる方に喜んでもらえる仕事につながると思う。」と齊藤氏は意気込む。
