第3部 活躍する小規模事業者の姿

第3節 ライフイベントに応じた働き方

事例3-2-7:株式会社ソフィットウェブコンサルティング 吉枝ゆき子氏

「夫の転勤や出産・育児等のライフイベントをきっかけに、女性起業家等を支援するコンサルタントとして起業した事業者」

吉枝ゆき子氏は、神奈川県横浜市の株式会社ソフィットウェブコンサルティング(従業員なし、資本金500万円)を設立し、女性起業家や起業希望者、小規模事業者等へのビジネスコンサルティング及びウェブ制作を行っている。

大学卒業後、大手電機メーカーに就職し、東京で小学生向けの教育用ソフトの企画・開発に主体的に携わるなどIT分野の経験を積んだ。その後、結婚を契機に、夫の勤務先である関西の営業部門に異動となった。29歳で第一子の出産を経て復職すると、次第に子育てと仕事の両立や自身のキャリア形成に悩むようになった。

第二子出産を機に、週3日の在宅勤務が可能なIT系企業へと転職し、IT分野でキャリアを重ねた。さらに、第三子出産後、夫が静岡へ転勤になったものの、完全在宅で働く社員として仕事を続けることができた。他方で、完全在宅ゆえに、顧客や同僚に直接感謝される機会も少なく、働き続ける葛藤もあったという。こうした中で、静岡市の起業・産業支援施設「SOHOしずおか」が開設され、女性起業セミナー等への参加や、活動PRやHP制作等に関わるうちに、ITを活かした起業を意識するようになった。

吉枝氏が37歳のときに、夫の横浜市への転勤が決まると、長年勤めたIT系企業を退職するとともに起業コンサルティング会社に転職し、さらにアフィリエイトスクールに転職した。起業支援のノウハウとネット集客の知識を積みながら、女性の起業を応援したいと強く思うに至り、40歳で個人事業主として独立開業し、後に法人化した。

現在は、いくつかの公的な創業支援機関での起業セミナーや、個別相談、専門家派遣の依頼を受けて飛び回っている。多くの女性起業家や小規模事業者がぶつかる課題は集客であるが、事業の強みや時流に沿った売れる商品、ビジネスモデル構築を共に考え、ホームページという集客ツールを形にしていくまでのトータルな支援を行っている。ウェブ制作業務も、従業員は雇用せず、外部委託スタッフを活用しつつ一人で対応している。

「起業という働き方は、育児や介護等のライフイベントに向きあう女性の働き続ける可能性を大きく拡げる。今後は、自分のノウハウを体系化し、起業塾や起業支援コース等のオリジナルなメニューで女性のチャレンジを支援したい。また、誰かを幸せにする良い商品・サービスなのに、発信力がないために知られていないものも多い。それらの発信を後押しすることで世の中に貢献することがミッションである。」と吉枝氏は語る。

吉枝ゆき子氏・女性起業塾の講師の様子

事例3-2-8:ASK(エアロ・サプライチェーン・コーディネーティング)川合勝義氏

「定年退職後セカンドキャリアとして、中小企業の航空サプライチェーン構築を支援」

川合勝義氏は、40年勤務し、定年退職後、セカンドキャリアとして愛知県稲沢市にてASK(従業員なし、個人事業者)を設立した。航空機産業への新規参入や事業拡大に取り組む中小製造業へのコンサルティング事業を行っている。

同氏は、大手重工業メーカーで長年航空機製造に携わり、生産技術、管理、輸出、契約等の幅広いノウハウを身につけた。アメリカやブラジルにも駐在し、サプライチェーンを構築し、人脈を広げた。

2008年、関連会社に転籍後は、航空分野の人材育成事業を担当し、全国各地に誕生し始めた航空クラスターを巡り、講演や指導を行った。航空機製造業に参入したいと考える中小企業にとって、自身が40年掛けて経験を積んできたノウハウと人脈が役立つという実感を得た。

2015年1月、定年退職を機にASKを設立し、フリーランスの航空コンサルタント(中部航空宇宙産業技術センターコーディネーターや中小企業庁ミラサポ専門員等)として活動している。全国各地の団体や企業から依頼を受け、主に航空産業のサプライチェーン構築に関する講演等を行っている。講演と合わせて、各地域の中小企業を訪問し、航空関連事業の改善のための助言も行っている。

また、航空業界発展のため、企業や行政の担当者向けに、世界の航空分野の最新情報を日本語訳したメールマガジンの配信を行っている。2017年末現在で、610回の配信実績があり、2,200人を超す配信先の担当者らの業界知識向上に貢献している。

「セカンドキャリアとしてのフリーランスという働き方だからこそ、大企業に勤務していた時にはできなかった業界全体への貢献ができていると思います。中小企業は、大企業出身者が持つノウハウを必要としていると感じます。これからも自己研鑽を重ね、少しでも中小企業の助けとなっていきたいです。」と川合氏は語る。

川合勝義氏・メールマガジン「航空業界News」

事例3-2-9:株式会社Polaris

「多様なライフスタイルの女性の働き方を支援する小規模事業者」

東京都世田谷区の株式会社Polaris(従業員3名(役員)、資本金130万円)は、育児や介護等のライフスタイルの変化に応じた女性の多様な働き方を支援する小規模事業者である。

取締役ファウンダーの市川望美氏は、自身の子育て経験や、同社創業前に設立していた子育て支援に関するNPOでの活動を通じて、子育て中の女性が地域の中で働く支援をしたいと考えた。2011年、育児期の女性が互いにコミュニケーションをとりながら働く場として、「コワーキングスペースcococi(ココチ)」を立ち上げ、その後2012年2月に同社を創業した。

同社では、育児等により働く時間を十分に確保できない女性に対して、様々な働き方ができる受託業務を提供している。300人程が同社に登録しており、地域内の事業者の事務処理業務や、データ入力や翻訳といった在宅できる業務等を受託している。また、SNSを活用し、子供が急に発熱した際等、互いに業務のサポートができる環境を整えている。SNSやココチを通じて、子育て女性同士が仕事を軸としたコミュニケーションをとることができ、今後のキャリア形成を考えるきっかけにもなっている。

また、同社に登録する女性は、ライフステージに応じて、仕事への関わり方を変えている。子育て等が一段落し、得意分野を活かして起業を目指す女性に対して同社は起業塾を開催しており、受講後にココチ等を通じ複数人で連携して業務に取り組み、そのチームで起業する例もある。同社は、子育て女性の働く場を提供することを通じて、起業者の芽を育てるプラットフォームとしての役割を果たしている。

「昨今は、ライフスタイルに応じて、起業の在り方も変化しています。働き方の多様化が進む中で、自分の置かれた環境に応じて最も良い働き方を選べるよう、これからも子育て世代を中心に支援していきます。活動を通じて長期的には社会の働き方の変革を後押ししたいと思います。」と市川氏は語る。

市川望美氏・合宿での交流の様子
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