第3節 地域ぐるみの支援体制
事例3-1-9:出水商工会議所
「補助金の活用等を支援し、地域を活性化させる商工会議所」
出水商工会議所(会員数931人、2018年3月時点)は、経営指導員・経営支援員(各3名)を中心に、小規模事業者に寄り添ったきめ細やかな伴走型支援を実施し、地域の活性化を図っている。
出水市は、鹿児島県の北西部に位置する人口5万4千人の市である。人口減少に加えて、2009年に、大手メーカーの工場が相次いで市内から撤退し、地域経済に大きな影響を与えた。商店街も、近年、事業者の高齢化が進み、にぎわいが低下していた。そこで、同会議所では、経営計画策定を柱とした伴走型の支援を実施し、小規模事業者の持続的な成長を目指している。
経営指導員と経営支援員は、ペア体制で、会議所の会員に限らず市内の全ての事業所を巡回し、相談を受けている。それぞれの課題に合った支援に当たっては、小規模事業者持続化補助金等の経済産業省の補助金のみならず、厚生労働省の助成金等幅広い制度を紹介している。補助金の申請の際に、事業者の強みを共に考え、事業計画書作成等を支援することで、事業者は将来を見据えた取組を行うことができている。
同会議所では、中小企業診断士(外戸口孝一氏)と連携し、持続化補助金等採択事業者の事例発表会を3年連続で開催している。これは、事業者が自ら考え計画し実行した取組について発表する場となっており、事業者の自信となり、今後の成長に向けた取組につながっている。また、事業者の生の声を発信することで、地域の他の事業者が新たに補助金を活用する動機づけにもなっている。
これらの取組の結果、2016年度に申請した持続化補助金について、同会議所は、県内会議所のうち県庁所在地に次いで2番目に多い採択件数となった。補助金を活用した新たな取組が、市内各地で行われており、地域の活性化につながっている。
同会議所は、経営指導員、経営支援員のうち半数が女性職員という特徴もあり、女性経営者や、女性向けサービス等、相談者や事業特性に応じた多様な相談に的確に対応することができている。創業の準備段階から寄り添った支援を行い、起業につなげた例もある。
「小規模事業者が経営計画を立てることは持続成長の礎になります。補助金の書類作成は、経営計画を作成する第一歩として有効です。これからも小規模事業者に寄り添い、経営改善に係る支援を切れ目なく続けることで、地域の活性化につなげていきたいです。」と同会議所の田上拓郎相談所長は語る。

出水商工会議所の支援事例を3者紹介する。
事例3-1-10:Arrange
「職場環境づくりを推進した小規模事業者」
鹿児島県出水市のArrange(従業員2名、個人事業者)は、スポーツジムの運営を行う小規模事業者である。
従業員の中に、親の介護のため、仕事を休まざるを得ない女性従業員がいたが、介護休業について制度化していなかった。そこで、この従業員が休みを取りながら働くことができる環境を整えるために、介護休業を制度化できないかと考え、代表の堤下武氏は、出水商工会議所へ相談した。
相談所長の田上氏より、介護休業の制度化に当たり、2016年当時にあった厚生労働省の介護支援取組助成金4の活用を勧められた。当該助成金は、仕事と介護の両立に関する取組を行った事業者を助成し、さらなる両立支援の取組を促す制度であった。堤下代表は、社会保険労務士の支援のもと、就業規則を策定し、「育児・介護休業規定」を設け、助成金を申請した。
4 現在はこの助成金は廃止されているが、仕事と介護の両立支援に関する職場環境整備に取り組み、実際に労働者が介護休業や介護のための勤務制限制度を利用した事業主は、「両立支援等助成金(介護離職防止支援コース)」が利用できる。
そうした介護休業等を取得しやすい職場環境づくりを推進した結果、実際に、女性従業員は介護休業を取得し、柔軟な働き方が実現できていると感じている。これからも、従業員が働きやすい職場づくりを継続し、事業の発展につなげていきたいという。

事例3-1-11:有限会社パン工房麦穂
「商工会議所の支援のもと、看板を設置し、売上を向上した小規模事業者」
鹿児島県出水市の有限会社パン工房麦穂(従業員3名、資本金300万円)は、天然酵母を使用したこだわりのパンを作るパン製造小売業者である。近年は、近隣にコンビニ等が増えた影響で売上は減少していた。交通量の多い道路沿いという好立地ながら、看板が小さいためパン屋と分かりづらく素通りされることも多かった。
渕上淳二社長の妻は、事業の先行きに危機感を感じ、出水商工会議所に相談したところ、相談所長の田上氏から小規模事業者持続化補助金を活用した看板の入れ替えを提案された。
そこでLEDライト付きの大きな看板を設置(費用24万円、補助金16万円、実質負担額8万円)すると、店の前を通りかかる客への認知度が高まり、これまで売上の少なかった夕方以降を中心に来店客が増え、看板設置前に比べ設置後の売上は年300万円の増加となった。
ちょっとした取組で効果が上がったことをきっかけに、社長自身の経営に対する意欲が大きく高まり、社長が自ら事業計画を立てるようになった。インターネット販売による販路開拓やAirレジ等を活用した業務効率化を実践している。新たな取組に積極的になり、これまで持続化補助金に2回、ものづくり補助金に2回採択され、新商品の開発や菓子製造設備の導入等を行い、収益を伸ばしている。
「指導員のアドバイスのおかげで、将来を見据えた取組を行えるようになりました。以前の業績ではとても息子に会社を引き継げないと諦めていましたが、事業承継も検討できるようになりました。」と渕上社長は語る。

事例3-1-12:井川畳店
「補助金を活用したチラシ広告で売上が向上し、経営の意識が高まった小規模事業者」
鹿児島県出水市の井川畳店(従業員1名、個人事業者)は畳の製造販売業者である。
寺社仏閣にも畳を納める伝統的な技術を有した畳店であるが、畳業界全体が斜陽産業となり、売上が減少傾向にあった。代表の井川透氏の妻は売上向上のため、出水商工会議所に相談した。そこで経営指導員から、これまで事業者のみに販売していた販路を、一般個人にも広げることを提案された。経営指導員の支援のもと小規模事業者持続化補助金を活用し、創業59年にして初めてチラシ広告を出し、個人の顧客を開拓することに決めた。
個人の顧客に訴求するための商品として、フローリング用の置き畳を開発し、その宣伝チラシを制作・配布した。1回のチラシで4件の受注に結びつき、約50万円の売上につながった。この取組により、情報発信の大切さに気付き、SNSやHPも活用し、継続的に売上は伸びてきている。
売上向上したことを受けて、井川氏は、補助金の取組終了後も、自ら福岡で開催された畳業専門のチラシを作成する勉強会に参加するなど、経営改善に取り組んでいる。持続化補助金がきっかけで、根っからの職人で経営にあまり関心がなかった井川氏は、事業成長に高い意欲を持つようになった。代表の意識の変化は、息子にも影響を与え、畳職人として事業を継ぐため他県で修行を行っている。
「持続化補助金が事業を見つめ直す良いきっかけとなりました。「今まで何をしていたのだろう」という気持ちです。商工会議所の支援を受けながら、将来を見据え、後継者の息子のためにも、成長のための様々な取組を行っていきたいです。」と井川氏は語る。

事例3-1-13:精華町商工会
「地域の特性に合わせた伴走型の小規模事業者支援に取り組む商工会」
精華町商工会(会員数368人、2016年3月時点)は、小規模事業者へ地域の特性をふまえた細やかな伴走型支援を実践している。
精華町は京都府の西南端にある人口3万7千人の町である。古くからの地区には零細の小規模事業者が多く、大型店の進出等により業況は悪化していた。経営支援員の岩井香織氏は、小規模事業者を活性化し地域を盛り立てるため、青年部員へ声掛けを行い、2009年から参加者同士が意見し合える経営勉強会を定期開催した。「法人と個人事業者の違い」、「株式とは何か」といった基本的な内容から始め、徐々に扱う内容を深めることで幅広い参加者のニーズに応えた。岩井氏の明るく親身な対応が参加者を引っ張り、地域の事業者の学ぶ意識が向上した。
2014年から岩井氏はより研修の効果を高めるために、大学教授や中小企業診断士、よろず支援拠点のコーディネーターらを巻き込み、経営理念・マーケティング・財務等の専門的な知識を学べる年17回のセミナーを開催した。経営を学ぶ意識が醸成されていたことで、年間3~9万円掛かるセミナーであったが毎年10~20人の参加者を集めた。2016年度より開始した経営発達支援計画に則ったセミナーへの参加率も高く、セミナーを通じ作成した事業計画は、経営支援員のサポートのもと小規模事業者持続化補助金等の申請につながり、事業者の収益向上に役立っている。
同商工会は地域の特性を活かした伴走型支援として朝活事業を毎月1回7時から行っている。町内にある関西文化学術研究都市5へ進出した中規模企業と、古くからの地区の小規模事業者が各々の事業内容の発表等を通じ、活発に議論することでプレゼンテーションスキルの向上や事業計画の具体化につなげている。
5 関西文化学術研究都市は、1987年の関西文化学術研究都市建設促進法の施行を受け、京都・大阪・奈良の3府県にまたがる京阪奈丘陵において国家プロジェクトとして建設された。
「経営者が学び考え収益を向上した小規模事業者は、継続的に事業計画を立て成長していくようになります。自発的な成長を促すきっかけとして、経営支援員の伴走型支援が大切です。これからも小規模事業者とともに地域を活性化させていきます。」と岩井氏は語る。

精華町商工会の支援事例を2者紹介する。
事例3-1-14:御生菓子司 精華のふたば
「「知恵の経営」をきっかけに自社の強みを把握し、価格競争を回避しつつ、付加価値を向上した個人事業者」
京都府精華町の精華のふたば(従業員3名、個人事業者)は、2007年創業の和菓子店である。京都の伝統的な和菓子と新しい感性で作る創作和菓子を提供している。
創業後順調に売上を伸ばしてきたが、5年を経過する頃から伸び悩んだ。越田耕平代表は、現状を変えるため精華町商工会の経営者塾を受講し、経営者としての基礎的な考え方やマーケティング等を学んだ。その後、商工会の経営支援員に勧められ京都府「知恵の経営」の認証6を目指し、申請書を作成する中で、自社の強みや特性を経営支援員とともに見直した。
6 中小企業者の経営の安定及び成長発展を図るため、自らの強みである知的資産を経営に積極的に活用している中小企業者を京都府が認証する制度
販売促進として行ってきた定期的な特価販売、季節商品を新聞折込みで宣伝するといった今までの手法は、価格競争に自ら陥ってしまうことに気付き取りやめた。商品本来の価値を伝え、顧客との信頼関係を構築することに注力することとした。従来のチラシでは商品の魅力を十分に発信できていないことにも気付き、商品の特徴や代表の思いを載せた「ニュースレター」の発行を開始した。現在では会員が1,100人を超え、発行したニュースレターを片手に来店する顧客も多く、「この記事良かったよ」、「届いたよ、ありがとう」と言ってもらえるようになり、顧客との信頼関係を深めることができている。
結果的に、値引きを止めたことで一時的に売上は減少したが、徐々に回復し、今年は営業利益で前年対比130%となった。越田氏は、「経営支援員とともに事業内容を見直したことが、事業を成長させるきっかけになりました。今後も商工会の支援を積極的に受けながら、お客様に支持される取組を続けていきます。」と語る。

事例3-1-15:株式会社森忠建設造園
「デジタル、アナログ両方の広報ツールを効果的に活用し、自社をPRすることで売上を向上した小規模事業者」
京都府精華町の株式会社森忠建設造園(従業員6名、資本金1,000万円)は、地元に根差し38年間営業している建設業者である。個人住宅向けのオーダーメイドの外構工事、造園工事を得意としており、外観に合わせたデザイン性のある塀、竹垣で囲んだ和風庭園等を施工している。
社長の森本真一郎氏及び取締役の森本晃氏は精華町商工会の伴走型支援の1つである経営者講座を受講し自社の改善点を考えた際、顧客へ事業内容を上手にPRできていないことに気が付いた。晃氏は経営支援員に相談し、経営支援員の支援のもと持続化補助金(40万円)を活用しホームページ刷新(47万円)とチラシ配布(13万5千円)によりPRを行うこととした(実質負担20万5千円)。
ホームページをリニューアルすることで、顧客に対して自社の仕事ぶりを身近に知ってもらうことが可能になった。新しいホームページでは、施工事例を豊富な写真、工期の目安、予算の目安とともに紹介しており、閲覧した人が工事のイメージを持ちやすくなっている。ホームページからはFacebookにもリンクでき、日々の施工風景を見ることができる。現場の様子を知ってもらうことは、工事の依頼を検討する人の安心感につながる。
チラシの配布は、現場周辺の築年数が20年以上経過している家や、庭の植物が手入れされていない家、車庫が設置されていない家に絞り込み、ポスティングを行った。
取組の結果、問い合わせ件数は前年同期比350%増え、売上250万円の向上につながった。「自社について知ってもらうことはお客様の満足に直結します。商工会の経営者講座が気付きを与えてくれました。これからも商工会の支援を受けながら、経営力の向上を図っていきます。」と晃氏は語る。

事例3-1-16:秋田県事業引継ぎ支援センター
「他の支援機関と連携し、事業の引継ぎを促進する支援機関」
秋田県事業引継ぎ支援センターは、2014年4月に国からの事業委託を受け、事業引継ぎ支援に関する業務を開始した。2016年度の相談件数は、東京、大阪に次ぐ全国3番目の多さで304件であり、センター開設以来の累計相談件数は1,000件を突破している。
秋田県は、人口減少と高齢化が進む中、60歳以上の経営者の割合が高く、後継者不在企業も多いという状況にあり、事業承継が大きな問題になっている。そうした現状を踏まえ、事業承継の相談に幅広く対応し、情報提供やアドバイス、支援機関の紹介を行うように取り組んでいる。具体的には、秋田県の事業として5名の事業承継相談推進員を県内各地域に配置し、秋田商工会議所や秋田県商工会連合会等と連携しながら、中小企業・小規模事業者の相談の掘り起こしも進めている。
このように支援機関が密に連携をし、事業承継相談推進員による中小企業等の支援ニーズの掘り起しをする仕組みは、「秋田モデル」として各地域で評価されており、他県の事業引継ぎ支援センターからも視察が相次ぐなど注目を集めている。
同センターでは、中小企業の事業承継やM&Aについて無料で気軽に経営者が相談できるだけでなく、秋田銀行等の支援機関によるM&A成立後も各社の状況をきめ細やかにアフターフォローすることを重視している。また、地元紙やTV局を通じた情報発信にも力を入れている。
こうした取組の成果もあって、相談の中で出てきた事業承継ニーズから、小規模事業者同士のM&Aや、後継者人材バンクを活用した起業希望者と後継者不在事業者とをマッチングさせた事例もある。後継者不在の小規模事業者を支援する枠組みとして今後ますます活用されることが期待されている。
「事業承継は必ずいつかは直面する経営課題ですが、円滑な事業承継のためには5~10年間ほどかかります。行政、商工団体、金融機関、士業専門家等の支援機関同士が連携し、早めの準備を促す気付きを与え、幅広く相談に応えていくことが大切です。経営者の悩みを聞いて課題を整理し解決策を考えていきますが、後継者が不在の場合、諦めて廃業を考えるのではなく、第三者へ事業を引継ぐ方法も選択肢として考えられますので、できるだけ早めに相談をして欲しいです。」と統括責任者の河田匡人氏は語った。

秋田県事業引継ぎ支援センターの支援事例を紹介する。
事例3-1-17:珈琲とパンの店美豆木
「事業引継ぎ支援センターを活用し、後継者がいない喫茶店を引き継いで開業した事業者」
秋田県秋田市の「珈琲とパンの店美豆木」(従業員2名、個人事業者)は、代表の菅野利剛氏が、2015年12月に前オーナーの天野博幸氏より「珈琲美豆木」の事業を譲り受けて開業した喫茶店である。
菅野氏は学卒後、東京でパン職人として修業をしていた。結婚を機に菅野氏は、故郷の岩手県北上市に戻り食品製造会社に勤務をしていたが、いずれはパン屋として開業したいと考えていた。
他方、天野氏は、「珈琲美豆木」を地元に根差した人気の喫茶店として27年間運営してきたが、高齢になったため、愛着のある店を引き継いでくれる後継者を探していた。そこで、インターネット上の不動産情報サイトに、店舗不動産の売却と喫茶店事業譲り渡しの募集を掲載した。
菅野氏は、開業に向けて様々な情報を収集する中でこの募集を見付け、喫茶店事業と自身のパン職人としての技術を合わせて、「ベーカリーカフェ」という形態での開業を思いついた。菅野氏の妻が秋田県出身ということも、当地での開業を決める後押しになった。
菅野氏は、引継ぎに際してどのような手続きをとれば良いか分からなかったため、秋田商工会議所に電話で相談した。同会議所から専門支援機関である秋田県事業引継ぎ支援センターを紹介され、譲渡者(天野氏)との交渉、引継ぎにかかる手続き全般(基本合意書の締結や事業計画書の策定、不動産売買契約、飲食店の許可等)について支援を受けた。天野氏は、起業への熱意がある菅野氏に好感を持ち、「美豆木」の名を残すことを条件に、店舗不動産及び什器等全てを売却することを決めた。
事業を譲り受けた後に菅野氏は、天野氏からこだわりのコーヒーの淹れ方や、名物のカレーの作り方を始めとして、人気店を継続するための経営指導を受けた。人気店の味を守りながら、新たに菅野氏が作る出来立てパンの販売を開始したことで、地元の常連客からは更にお店の魅力が増したと好評を得ている。
「当初事業の譲り受けを決断したものの、具体的な進め方が分からず不安でしたが、秋田県事業引継ぎ支援センターの親身なサポートのおかげで滞りなく開業まで進めることができました。事業を譲り受けて開業することは、一から創業したと場合と比べて経営資源が豊富にあることがメリットです。これまでの味やお客様を大切にしながら、新しい取組にチャレンジして地域の皆さんに喜んでもらいたいです。」と菅野氏は語る。

事例3-1-18:福岡県よろず支援拠点
「テレビ電話システムによって、遠方の事業者にも専門性の高い相談員による支援を提供しているよろず支援拠点」
よろず支援拠点は、都道府県毎に国が設置する経営相談所である。福岡県では福岡市博多区に設置されている。
同拠点の特色の一つとして、中小企業診断士、税理士等の士業の相談員に加え、飲食店経営者やネイルサロン経営者、TV制作会社ディレクター等、多様な専門性をもつ計32名の相談員を擁している点がある。
福岡県は他県に比べて広い県というわけではないが、鉄道の便が悪いところもあり、博多まで電車で片道2時間程度かかってしまう地域もあるという。こうした中、チーフコーディネーターの佐野氏は、来訪による相談は事業者の負担になると感じていたこともあり、2017年11月から、スカイプ等のテレビ電話システムによる遠隔相談を導入することとした。
博多から遠方の地域を中心に、各地の商工会議所や金融機関等に窓口を設置していき、2018年3月時点で県内24カ所においてテレビ電話相談が可能となっている。
テレビ電話相談を行うに当たって特段の支障はなく、窓口設置に必要となる設備もタブレット端末とマイク等で2万円強と安価である。
テレビ電話相談を導入したことによって、片道3時間と交通費4000円をかけて博多まで相談にきていた事業者も地元にいながら相談することが可能になった。また、遠方にいるため、これまで利用を躊躇していた事業者からの相談も増えており、同拠点に所属する多様な専門性をもった相談員に対し、気軽に支援を受けることが可能となっている。
「テレビ電話相談は、お互いの表情が分かるため、電話相談に比べてコミュニケーションの質は劇的に向上する」と佐野氏は語る。
今後は、博多から遠方の市町村全てに、テレビ電話相談窓口を設置していく考えだという。

事例3-1-19:沼津信用金庫
「後継者人材バンクの枠組みを活用して事業の引き継ぎを支援」
静岡県沼津市に本店を置く沼津信用金庫は、地域活性化の取組に力を入れている。その一環として、事業引継ぎ支援センターが2014年から実施している「後継者人材バンク」を活用し、事業の引継ぎによる新規創業を支援している。
2017年1月に、同庫経営支援課の事業承継担当者は、新規創業を希望している女性A氏から、「2017年3月に現在の勤務先を退職予定であり、新規創業したい」との相談を受けた。担当者は、独力での起業のみではなく、後継者不在の事業を引き継ぐ後継者人材バンクの活用も検討することを当人に勧めた。静岡県事業引継ぎ支援センターの担当者を紹介するとともに、後継者候補として後継者人材バンクに登録してもらった。本人の希望業種は旅行代理店であったが、小売店勤務経験を活かす可能性も想定し、幅広い業種からのマッチングを期待できるように登録を行った。
同センターを介して、A氏は、静岡県三島市にてアパレル店を営む後継者不在の経営者B氏との面談が実現した。B氏のアパレル店はフランチャイズであったため、フランチャイザーとの面談も行い、A氏は、従業員としての試用期間を経て、B氏の後継者として店舗譲渡及びフランチャイズ契約を締結することとなった。
契約時の面談には、同庫担当者も同席し、条件や契約内容の確認を支援した。2017年4月末日に、後継者人材バンクの成約案件として、三島商工会議所にてフランチャイザーとA氏による契約調印式が行われた。契約締結後、同年5月から開店する運びとなった。
これにより、事業の引継者であるA氏は、創業の準備期間と費用を削減できただけでなく、既存顧客も引き継ぎ、安定して事業を立ち上げることができた。一方、後継者不在に悩み廃業も検討していた経営者B氏の店舗は事業継続が実現した。また、その店舗は三島市の目抜き通りの一等地に所在していたが、空き店舗化が回避でき、地域経済振興や商店街の活性化にも貢献する結果をもたらした。
