第3部 活躍する小規模事業者の姿

第2節 地域のコミュニティを支える事業者

事例3-1-6:株式会社infinity

「介護事業と共に移動販売を行い、地域の買い物難民をサポートする企業」

岐阜県各務原市の株式会社infinity(従業員5名、資本金60万円)は、有料老人ホームの運営、デイサービス事業、訪問介護事業、居宅介護事業を手がけている。2016年4月より、各務原市鵜沼地区を対象とした移動販売事業「笑らいふ(わららいふ)」を展開している。

各務原市鵜沼地区はベッドタウンとして住宅団地が多く整備されてきたが、近年、居住者の高齢化が進んでいる。また、坂道が多く、高齢者にとって買い物等の移動に負担が大きい。2015年に長年鵜沼地区の住民に親しまれてきたスーパーが撤退し、高齢者を中心に買い物難民の発生が予想された。深尾正之社長は鵜沼地区に両親と共に居住しており、市のタウンミーティングへの参加を通じて、移動販売事業に対する同地区のニーズと事業の将来性を感じ、移動販売事業に取り組むことを決めた。

移動販売事業を開始するに当たり、深尾社長が所属する各務原商工会議所青年部の仲間の支援があり、特に商品仕入に関するスーパーの協力が大きかった。仕入代金は売上に対応する分のみとし、売れ残り分は生鮮品含めて全てスーパーが引き取っているため、在庫リスクなく運営できている。青年部の活動で構築した信頼関係があってこその協力関係であり、地域を支えるために事業者らが一丸となっている。

移動販売事業は、移動販売車1台とドライバー2名で運営している。週2回を基本に会員宅を訪問し、玄関先での商品の販売及び御用聞きを30分ほど行っている。商品は野菜等の生鮮食品、総菜、パン等の食料品、アメ等の嗜好品、日用品等300品目以上を扱う。地域に密着した経営を行っている小規模な酒屋等が取り扱う商品と競合しないよう配慮し、地域との共存共栄を図っている。会員から事前に電話連絡があれば、希望の商品を訪問日に揃えて届け、介護用おむつ等不足することで日常生活に支障を来すような商品は、訪問日に関係なく、連絡があったその日に届けるようにしている。

ドライバー2名はともに介護士の資格を有しており、介護保険の居宅訪問と、介護保険の対象外となる移動販売事業を合わせれば、週3回の訪問が可能となる。訪問時に会員の健康状態等を確認し、ケアマネージャーに引き継ぐことを行っている。買物弱者対策と高齢者介護の両面に取り組んでいることが「笑らいふ」の特徴である。

手厚いサービスの評判は良く、地域の顧客やケアマネージャーからの信頼感も高まっており、口コミで徐々に利用者が増え、事業開始から2年弱で会員数は50人に達した。「各務原市の他地区からも移動販売に来てほしいという要望を受けている。今後人員を増やし、地域課題へ広く対応していきたい。」と深尾社長は語る。

深尾正之社長と移動スーパー・移動販売の様子

事例3-1-7:基山モール商店街

「空き店舗に保育園を誘致し、多世代の交流を活性化させた商店街」

佐賀県基山町にある基山モール商店街は、JR基山駅前にある1982年に整備された商店街である。オープン当初は20店舗あまりが立ち並ぶモール型商店街で、先進的な商店街として多くの注目を集め大勢の人で賑わっていた。しかし近年は、基山町の人口の減少に伴い空き店舗が目立つようになり、人通りも徐々に減少していった。

こうした状況から商店街は、地域住民が集い交流する場として転換するという方針のもと、空き店舗へ保育園を誘致した。基山町のこども課と副町長(当時)が中心となり、移転を検討していた「ちびはる保育園」と商店街とをマッチングさせ、2016年4月に保育園は商店街へ移転した。保育園にとっても、〔1〕終日歩行者天国のため危険が少ない、〔2〕せり出した屋根があるため多少の雨でも屋外で遊べる、〔3〕近くに遊具が設置された神社がある、〔4〕JR基山駅に隣接しており利便性が高い、といったメリットがあった。

園長は保育園が商店街に移るに当たり園児の声等で周りの迷惑にならないか懸念していたというが、商店街の店主や来街者からは「子どもの声がして明るく感じる」などの声が多く聞かれ、皆が喜んで受け入れている。商店街では園児を中心とした新たな交流や活動が生まれている。その一つである夏の「きのくに祭り」では園児たちも商店街の一員として山車引きに参加している。

保育園と商店街、各店舗は、連携して町おこしの知恵を絞っている。保育園は、保護者が商店街のお店に立ち寄れるようにと商店街マップを作成した。商店街は、保護者全員に割引やプレゼントを受けられるカードを配布した。各店舗は、保護者を新たな顧客として取り込むための様々な工夫を凝らしている。その甲斐あって、送り迎えのついでに買い物をする保護者が徐々に増えており、商店街と疎遠となっていた子育て世代と各店舗に新たな交流が生まれている。

商店街には、デイサービスセンターや就労支援施設、学習塾、公民館等もあり、今回整備した保育園も含めて、単なる商売の場に加えて地域の様々なニーズに応えられる機能を有するようになっている。基山モール商店街理事長松尾滋氏は、「保育園が商店街に来てくれたことで、子どもたちを中心に活気が生まれました。多世代が交流するイベントを実施し、商店街を中心としたコミュニティを形成していきたいです。」と語る。

商店街で遊ぶ園児達・保育園の外観

事例3-1-8:NPO法人G-net

「地域の中小企業と若者をつなぎ、地域活性化に取り組むNPO法人」

NPO法人G-net(従業員12名)は、岐阜県岐阜市に所在するNPO法人である。地域活性化を目的に、長期実践型インターンシップ事業と、中小企業の「ミギウデ」就職採用支援事業の2事業を中心に事業を展開している。

同法人が2004年に開始した長期実践型インターンシップ(「ホンキ系インターンシップ」)では、学生は6ヶ月以上の長期にわたり、地域の魅力的な経営者の下で弟子として学び、実際に実務を経験することができる。学生にとって挑戦・成長の機会になるのはもちろんのこと、受入側の企業にとっても人材育成上の課題の発見につながる等、経営的な成果につながる取組となっている。これまでに700人以上の学生が参加しているが、インターンシップ経験者の中には、大企業への内定を辞退して、中小企業への就職を選ぶ学生も多いという。

さらに、同法人は、2013年から社長の「右腕候補」となるような人材に特化した就職採用支援事業(「ミギウデ事業」)を展開し、地域の中小企業と学生のマッチングを行っている。同事業の特色として、単なる紹介ではなく、中小企業の人材戦略の立案から、マッチング、入社後を視野に入れた育成まで、一貫した支援を行っている点や、入社後のキャリアパスまで示した採用活動を支援している点等が挙げられる。こうした取組を通じて、これまでに50人の学生が地域の中小企業へ就職しており、年々その数を増やしている。

上記の2事業を組み合わせることで、中小企業の人材戦略をより総合的に支援することができるという。同法人の南田代表は、「人材を採用できる状況にない企業に対してはインターンシップを通じた事業開発や人材育成力の向上に取り組んでもらい、即戦力人材が必要となった段階でミギウデ事業による採用支援を行うなど、置かれた環境に応じて支援を行うことができる。」と言う。

2017年からは、社会人の兼業・副業等による中小企業での就労を支援していく事業もスタートしている。「インターンシップで学生を受け入れる土壌ができた企業であれば、より短時間の兼業・副業といった形で人材を受け入れることも可能となっている。中小企業の多様な人材を活かせる組織作りをサポートすることで、地域における多様な働き方を後押ししていきたい。」と南田代表は語る。

G-netのスタッフの方々・学生による企業訪問の様子
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