2 事業承継した経営者の事業展開方針と経常利益額の傾向
〔1〕今後の事業展開の方針
第2-4-12図では60歳以上の経営者、事業承継した経営者2別に今後の事業展開の方針を見ている。60歳以上の経営者に比べ、事業承継した経営者の方が今後事業を成長・拡大させたいとする意向が強い。事業者が成長志向を持つためには、事業承継が有効な手段の一つとなる。
2 50歳未満であり、在任5年未満の2代目以降の経営者を「事業承継した経営者」としている。

〔2〕直近3年間の経常利益額の傾向(事業承継した経営者、60歳以上の経営者別)
第2-4-13図では60歳以上の経営者、事業承継した経営者別に、直近3年間の経常利益額の傾向を見ている。60歳以上の経営者に比べ、事業承継した経営者の方が直近3年間の経常利益額の実績は増加傾向にある。

事例2-4-3:松尾農園
「事業承継を契機にITを使い業務を効率化し、売上向上につながる取組を行う小規模事業者」
長崎県松浦市の松尾農園(従業員4名、個人事業者)は、花や野菜の種苗や園芸用資材の販売を行う小規模事業者である。
松尾秀平氏は、大学を卒業後、地元の大手通販会社に就職し番組制作に携わる中で、自身で仕事の仕組みを作ることに興味を持ち、起業を志した。家業を継ぐ気はなかったものの、起業準備のため実家の松尾農園の手伝いを始めた。手伝ううちに、地域に密着した種苗店の強みを活かした新たな事業展開の可能性に気付き、起業ではなく、家業を承継することを決断した。2016年に、3代目として父親から事業を承継した。
松尾氏は、承継後、松浦商工会議所の支援を受け、小規模事業者持続化補助金を活用し、種苗店の向かいに農作物直売所を併設したカフェ「Matsuo Nouen + Coffee」をオープンした。直売所では顧客の反応を見るために、種苗店で取り扱う珍しい野菜等を販売するほか、地元農産物を利用したドリンクの提供も行っている。妻の絵里香氏が丁寧に淹れるコーヒーを目当てにカフェに来た顧客が、農産物も購入するなどシナジー効果が生まれている。
多角化に伴い業務量が増加し、キャッシュフロー管理や会計業務に頭を悩ませていたところ、経営指導員の勧めを受け、タブレット端末で業務を行うPOSレジアプリ「Airレジ」を、カフェに導入した。手持ちのタブレットで、注文入力からレシート出力まで行えるため業務時間が削減された。さらに、松浦商工会議所の支援のもと、2017年に軽減税率対策補助金を活用し、種苗店にもタブレット端末等(約17万円、実質負担額7万円)を導入した。手書き伝票が全て電子化され、場所や時間を選ばず日々の売上確認も可能となった。「MFクラウド会計」も導入し、「Airレジ」と連動させている。月額900円程度の使用料で、仕訳や入出金状況等に費やす時間を大幅に削減できたほか、確定申告の書類作成も自動化が図られている。
事業の拡大とともに、2018年1月には、従業員を新たに雇用し、MFクラウド会計の追加機能である「MF給与」を導入することによって、WEB打刻から自動的に給与明細の作成ができるなど、効率的に労務管理を行っている。
空いた時間を活用し、松尾氏は、カフェと種苗店を連動させたSNSの情報発信を積極化し、遠方からの顧客や地元の家族連れや若年層の顧客開拓に結びついた。また、カフェの売上は年々増加し、新しい事業の柱として成長を続けている。
「SNSは情報の拡散効果が期待できる強力な経営ツールであり、小さな街の小規模事業者と全国のお客様との地理的な距離感も縮めてくれます。今後は、SNSと連動させた全国のお客様向けの種苗のネットショップも本格運用させる予定です。」と松尾氏は語る。
