2 クラウド会計ソフトの活用
小規模事業者のうち18.9%が「財務・会計」業務にITを未導入(第2-2-12図)であり、これから新たにITを導入する余地がある。
また、小規模事業者のIT導入に当たっての課題として、44.9%の小規模事業者が「コストが負担できない」と回答している(第2-2-4図)。
これらを踏まえると、クラウド会計ソフトの活用が有効な選択肢の一つであると考えられる3。本節では、クラウド会計ソフトについて掘り下げて見ていく。
3 中小企業庁が2017年6月に公表したスマートSME(中小企業)研究会の中間報告書によると、クラウドサービスの利点として「初期導入コストが低い(月額数千円~)」、「サーバーなどの設備を自ら保有することが不要であり、導入が比較的容易」などが示されている。
〔1〕クラウド会計ソフトの導入により得られた効果
第2-2-14図では、クラウド会計ソフトを導入している事業者に対し、クラウド会計ソフトの導入により得られた効果について聞いている。クラウド会計ソフトを導入している企業の78.8%が「経理・会計業務にかかる業務時間の削減」の効果を得られたと回答している。
〔2〕クラウド会計ソフトの導入の課題
第2-2-15図は、「IT導入済み、もしくはアウトソーシングしている事業者」と「IT未導入、かつ紙で計算している事業者」別に、クラウド会計ソフトの導入の課題について見たものである。特に「IT未導入、かつ紙で計算している事業者」において、「導入の効果が分からない、評価できない」と回答する事業者の割合が高く、こうした中には、クラウド会計ソフトの利点を把握できていない事業者が一定数いると推察される。支援機関等から、クラウド会計ソフトの利点等について情報提供することが、小規模事業者のクラウド会計ソフトの導入を進める上で重要であると考えられる。
事例2-2-4:イトウスポーツ
「クラウド会計等を導入し、効率化することによって経営を見つめ直す余裕ができた小規模事業者」
神奈川県小田原市のイトウスポーツ(従業員4名、個人事業者)は1978年に創業した野球用品専門の卸・小売店である。約10年前に事業を承継した井藤隆則氏は、野球専門の小売店に特化した。グローブやスパイクの丁寧な修理対応のほか、大手小売店では取り扱っていないようなニッチなメーカーの製品も取り扱うなど、独自性を発揮しており、近隣の中高生や社会人に加え、全国から顧客を呼び寄せている。
同社では経理業務は紙の台帳で対応していたため、数字が合うまで数ヶ月前迄遡って確認が必要なこともあり、非常に手間と時間がかかっていた。5年前に経理担当となった代表の妻の井藤早苗氏は子育てとの両立の観点からも経理業務を効率化したいと感じており、SNSの広告で見たモバイルPOSレジのプレゼントキャンペーンに当選したことがIT化のきっかけとなった。
タブレット端末でレジ業務を行うPOSレジアプリ「Airレジ」の導入により、日々の売上確認等が容易となった。さらなる効率化のために、クラウド会計ソフト「freee」を導入し、クラウド上でPOSレジと連携させた。POSレジに商品の取引が入力されると、クラウド会計ソフトにデータが自動送信され、月の収支に加算される。これにより、面倒であった紙の管理から離れることができた。「業務効率には天と地ほどの差がある」と早苗氏は言う。
クラウド会計ではデータがクラウド上に保存されるため、経理業務を場所や時間を選ばずに行える。これにより、子供が熱を出して店舗に行けないときや、家事のすき間時間等を活かして、スマートフォンやパソコン等で作業ができ、子育てと仕事の両立に一役買っている。更に早苗氏は、効率化した時間を使って、クラウド会計によるリアルタイムの経営情報をもとに、仕入の要不要やチームごとの購入額の把握等、経理面からのアドバイスも行えるようになった。
こうしたメリットが得られたクラウド会計であるが、導入にかかったコストは、初期導入費用としてバーコードリーダー代約3万円、ランニングコストとして利用料年間約2万円と安価となっている。
早苗氏は更なるIT活用に意欲的であり、念願であったクレジットカード決済アプリも導入し、今後は在庫管理との連動について検討中である。
「効率化により得た時間を活かして、今後は、スポーツ選手や指導者らとのネットワークを活用し、スポーツを楽しむ子ども達やその父兄、指導者等が参加できるセミナーや講演等を開催し、スポーツ業界を盛り上げていきたい。」と隆則氏は語る。