第2部 小規模事業者の労働生産性の向上に向けた取組

2 経営者の従事している業務と削減意向

〔1〕経営者が従事している業務

ここまでは、経営者の労働時間について見てきたが、ここからは経営者は実際どのような業務に従事しているかについて見ていくこととしたい。

第2-1-17図は、経営者自身が従事している業務について見たものである。小規模事業者においては、経営者は幅広い業務に従事していることが分かる。経営者の担当する業務の範囲が広いため、人手不足への対応は「経営者の労働時間を増やし対応」となりやすいと推察できる。

第2-1-17図 経営者が従事している業務
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〔2〕経営者自身の業務時間削減の意向

第2-1-18図は、経営者自身が従事している業務のうち、自身の業務時間を削減したい業務があるかを見たものである。半数以上の経営者が、自身が従事する業務のうち削減したい業務があると回答している。

第2-1-18図 経営者自身の業務時間削減の意向
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〔3〕従事している業務別に見た経営者自身の業務時間の削減意向

第2-1-19図は、いずれかの業務で経営者の業務時間を削減したいと回答している経営者が、従事している業務ごとに削減したいと回答した割合を示している。削減したい業務の内訳を確認すると、「財務・会計(記帳)」、「在庫管理」、「給与管理・勤怠管理」といった間接業務を削減したいとする割合が高い。他方、「経営計画の策定」の削減意向割合は低く、経営者自身の担う業務として重視されていることが分かる。

第2-1-19図 従事している業務別に見た経営者自身の業務時間の削減意向
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〔4〕経営者の時間に余裕があれば注力したい取組

第2-1-20図では、経営者自身の時間に余裕があれば注力したい取組について聞いている。業務の幅が広く忙しい小規模事業者の経営者であるが、もし時間に余裕ができれば「売上向上に直接つながる業務に注力したい」とする割合が58.7%で最も高い。業務を効率化すれば、経営者は生産性向上に直接つながる業務に注力できるということが分かる。

第2-1-20図 経営者の時間に余裕があれば注力したい取組
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事例2-1-1:株式会社カケハシ・スタイル

「IT利活用により経営者の業務を効率化し、新たな事業を展開した企業」

埼玉県寄居町の株式会社カケハシ・スタイル(従業員4名、資本金300万円)は、2000年に創業し、60~70年代ロックCDを中心に扱う買取及び販売のネット専門店「カケハシ・レコード」を運営している。「ロック探究のワクワク感」を売ることを理念に掲げ、顧客が新たな作品と出会えるように、独自の情報発信を行い、大手のECサイトにはない付加価値を提供している。

田中大介社長は、創業当時、全て自らの手作業によってネットショップを運営していたため、深夜まで働くことも多かった。「売上を今後伸ばしていくためには、付加価値を生む仕事に比重を置く必要がある」という考えのもと、IT導入による単純作業の削減を目指した。ITについては、社長自らプログラミングやデータベースを独学し、社内で地道な改良を重ねていった。従業員入社後には、ITを駆使して業務標準化を行い、社長のみがノウハウを持っていた中古CDの値付けや輸入CDの受発注の業務を、社長以外の従業員でもできるようにしていった。

現在は、在庫データ、顧客データ、査定データ、発信コンテンツを全てクラウド上で一元管理し、データを連携させることで、作業時間を減らす業務効率化と顧客ニーズに合わせた効果的な情報発信を実現している。自社開発システムだけでなく、無料のクラウドサービスも活用することで、従業員同士の情報共有とコミュニケーション促進にも積極的に取り組んでいる。従業員は、互いの進捗状況や考えをリアルタイムで把握することができるため、自分の判断で業務を効率的に行うことができ、自主性も生まれている。

こうしたITによる業務効率化によって、現在は業務のほとんどを従業員に任せている。田中社長は、大幅に削減された業務時間を使って、寄居町商工会のセミナーへの参加や勉強を行い、中小企業診断士の資格も取得した。現在はITコンサルタントとして寄居町の小規模事業者にITの導入支援を行うなど、新たな事業領域を開拓している。

「小規模事業者であっても、クラウド等の普及によりIT活用による業務の効率化を進めやすくなっています。しかし、地域の小規模事業者はITを活用して困りごとを解決できると気付いていない事業者も多くいます。商工会と一体で支援を続けます。」と田中社長は語る。

田中大介社長・中小企業診断士としての支援の様子
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