第2節 設備投資が力強さに欠ける背景
第1節で見てきたように、中小企業の設備投資は緩やかな増加基調にある。他方で、第1部第1章第2節で確認したように、中小企業の経常利益は過去最高水準にあり、資金調達環境も改善しているなど、投資を取り巻く環境は改善しているといえるが、こうした良好な環境に比して、設備投資は力強さに欠けているという見方も可能である。そこで本節では、中小企業の設備投資が力強さに欠ける背景について分析していく。
1 事業の先行きと設備投資の関係
〔1〕期待成長率と設備投資
中小企業が設備投資の実施を判断する上では、自社の事業について将来的な成長を見通せることが重要であるが、事業の見通しは業界全体の成長見通し(期待成長率)にも影響を受けるものと考えられる。そこで、期待成長率と設備投資の関係について見ていく。第2-5-6図は、中小企業の設備投資営業キャッシュフロー比率と期待成長率の推移を見たものであるが、投資の積極性を示していると考えられる設備投資営業キャッシュフロー比率は、期待成長率に連動して推移していることが分かる。期待成長率は1992年以降緩やかに減少した後、足下では横ばいで推移しており、設備投資が力強さに欠ける要因の一つとして、期待成長率の低迷によって中小企業が事業の先行きを見通せないことがあると考えられる。

〔2〕後継者の有無と設備投資
事業の先行きを見通す上では、後継者の存在も重要な要因となると考えられる。そこで、後継者の存在と設備投資の関連を見るため、アンケート結果を用いて、後継者有無別の設備投資実績を確認すると、後継者が決定している企業の方が、決定していない企業に比べて、積極的な設備投資を行う傾向があることが確認できる(第2-5-7図)。

〔3〕経営者年齢と設備投資
関連して、経営者年齢別の設備投資の実績を確認すると、経営者年齢が若い企業ほど積極的に投資を行う傾向があることが見て取れる(第2-5-8図)。

以上で見てきたように、後継者の不在は、事業の継続性についての懸念を生じさせ、設備投資を抑制する可能性があることが示唆されるが、円滑な事業承継によって経営者が若返れば、積極的な投資姿勢へ転換することも期待できる。