第5節 まとめ
本章では、IT利活用による労働生産性の向上をテーマに取り上げた。
本章第1節では、中小企業のIT利活用の現状と課題を確認し、クラウド・サービスの活用と、バックオフィス業務の財務会計及び勤怠管理に着目する背景を説明した。現状では規模の小さい中小企業ほどツール別に見ても業務領域別に見てもIT導入は進んでいない。財務会計及び勤怠管理は業種によらず活用場面があるので、これらのバックオフィス業務からのIT導入が有効だと考えられる。「コストが負担できない」という課題に対してはコスト面で優位性が高いクラウド・サービスが有用であり、「導入の効果が分からない、評価できない」という課題に対してはITに関する日頃の相談相手の活用が期待される。
第2節では、IT利活用の効果を高める業務領域間の機能連携に着目し、効率化を進める機能連携が労働生産性を向上させることと、PCインストール型のパッケージソフトと比べた場合にクラウド・サービスの効果が高いことを確認した。導入しているITで業務領域間の機能連携が行われていない企業よりも行われている方が、また、連携されている業務領域が多い方が、3年前と比べて労働生産性が向上している企業の割合が高いことをアンケート結果から確認した。さらに、PCインストール型のパッケージソフトと比べた場合にクラウド・サービスの方が、業務領域間での機能連携が有る企業の割合が高いことも確認した。
第3節では、バックオフィス領域の財務会計と勤怠管理におけるIT利活用に着目し、クラウド・サービスの省力化効果と、クラウド会計とネットバンキングの連携効果を確認した。会計業務と勤怠管理業務においてクラウドを導入した企業は、月次処理の人日が平均して2.6割削減されていた。また、会計ソフトにおいてインストール型(パッケージソフト)とクラウド型を比べた場合、クラウド型を導入している企業の方が、社内システムとネットバンキングの連携率も管理会計(経営の意思決定のための採算管理や原価管理等)の取組率も高かった。
第4節では、付加価値を向上させるIT利活用としての企業間データ連携と、将来への課題としての先進的なIT利活用状況を取り上げた。中小企業は大企業ほど、付加価値を向上させる「攻めのIT」に向けた取組は進んでいないが、「攻めのIT」の実施に向けた企業間連携を行っている企業は、連携を行っていない企業よりも従業員1名当たり売上の平均値が高かった。先進的なIT利活用として、AI、ビッグデータ、IoT、RPAのうちの少なくとも1つ以上を活用している中小企業はまだ全体の1割程度ではあるが、それらの企業は未活用企業よりも、売上高と経常利益額が増加傾向にある割合が高く、3年前と比べた労働生産性も向上している割合が高かった。
IT利活用により、労働生産性の分母である労働投入量も分子である付加価値も、それぞれ改善が可能であり、両者による労働生産性の向上が期待される。