第2部 深刻化する人手不足と中小企業の生産性革命

2 クラウド会計の副次的効果

クラウド会計導入の副次的効果として、社内システムとネットバンキングの連携率や、管理会計の取組率を取り上げる。

〔1〕クラウド会計とインターネットバンキング

クラウド会計もインターネットバンキングも、どちらもインターネットを基盤とするため親和性が高いと考えられる。会計に用いているITツール別に、社内システムとネットバンキングの連携率を見ると、会計ソフト(インストール型、パッケージソフト)と比べて会計ソフト(クラウド型)の方が約8ポイント高い(第2-4-31図)。

第2-4-31図 インターネットバンキングとの機能連携率(会計業務での利用IT別)
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第2-4-32図より、インターネットバンキングとの機能連携がある企業の方が、3年前と比べて労働生産性が向上している企業の比率が高く、会計ソフト(インストール型、パッケージソフト)と比べて会計ソフト(クラウド型)は生産性向上に寄与していると考えられる。

第2-4-32図 インターネットバンキングとの機能連携有無と労働生産性
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〔2〕クラウド会計と管理会計

クラウド・サービスの利点として「経営者に経営を考える時間が与えられる。」、「日々の売上高を見ているうちに、経営者に脱皮する。」が挙げられていることを、第1節で取り上げた。ここでは、経営の意思決定のための採算管理や原価管理等(いわゆる管理会計)の取組が、会計業務で利用するITでどの程度異なるかに着目する。

会計での利用IT別に管理会計の取組率を見ると、会計ソフト(インストール型、パッケージソフト)と比べて会計ソフト(クラウド型)の方が約5ポイント高いことが分かる(第2-4-33図)。

第2-4-33図 管理会計の取組率(会計業務での利用IT別)
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第2-4-34図より、管理会計に取り組んでいる企業の方が、経常利益が増加している割合が高いため、この意味でも会計ソフト(インストール型、パッケージソフト)と比べて会計ソフト(クラウド型)は生産性向上に寄与していると考えられる。

第2-4-34図 管理会計の取組有無と直近3年前の経常利益額
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事例2-4-10:株式会社カラーズ

「クラウド会計の導入後、クラウド人事労務も併せて導入し、機能間連携を行うことで一層の業務効率化を実現している企業」

東京都大田区の株式会社カラーズ(従業員35名、資本金610万円)は、介護事業者で事業の柱は在宅介護サービスである。2011年の創業から順調に事業を営んでいたが、顧客や従業員の増大に伴い、領収書や給与の事務処理が膨大になった結果、事務代行先の税理士や社会保険労務士での対応が困難になった。新たな事務代行先の開拓に迫られた頃、ちょうどクラウド・サービスに着目していたため、クラウド会計のアドバイザーを兼任する税理士を見つけ、クラウド会計導入を進めた。

これまでアウトソーシングしていて経理処理の経験がなかったため、会計クラウドを導入しただけでは使いこなせない。よって、税理士にはクラウド会計の導入サポートと併せて経理事務の工程改善も依頼した。これにより、クラウド会計導入がうまくいったのでクラウド人事労務も導入した。クラウド会計とクラウド人事労務を連携させることにより、給与関係のデータ(給与振り込み、社会保険料、源泉徴収された所得税や住民税の預かり金)がすぐに会計に反映されるようになり、また、経費精算したクラウド会計のデータもクラウド人事労務側の給与明細に反映されるようにもなった。このように業務効率化が進んだ結果、単なる事務代行以上の指導を受けられるようになった。

クラウド導入により、事務代行先が2か月かけていた事務処理が、週30分程度の社内処理で対応できるようになり、リアルタイムで各種経営指標等を確認できるようになった。結果的に自社で行うことなり、年間約50万円以上事務代行料が削減できた。また、クラウド上で顧問の税理士や社労士とオンラインにつながることにより、経営上の課題を日頃から共有できるようになり、各種経営管理指標や試算表をリアルタイムに確認しながら経営の相談ができるようにもなった。クラウド・サービスの利用料は会計と人事労務を合わせて月数千円程度、クラウド導入に係るコンサルティング費用は30万円であった。

田尻久美子社長は、「中小企業の予算規模では自社システムの開発や所有はコスト面で非現実的であり、拡張性を考えればクラウド・サービスの一択だと考えた。導入前は業務フローを細分化した上で業務の優先順位付けを、導入後は従業員への使い方説明を、それぞれ徹底した。経営の可視化により会社の経営状態をリアルタイムで従業員とも共有できるようになり、将来を見据えた経営戦略の策定や実行も可能になった。」とクラウド・サービスの利点を語る。

田尻久美子社長

事例2-4-11:株式会社グリーンケア

「複数業務領域の機能を有するクラウド・サービスを、機能を取捨選択しながら着実に導入を進めて効果を得ている企業」

宮城県仙台市の株式会社グリーンケア(従業員8名、資本金2,300万円)は「お庭と外構の専門店」を営んでおり、ガーデン・エクステリア設計施工、ウッドデッキ・カーポート・物置、ガーデンルーム・サンルーム、土木・緑化工事を案内している。

家を建てた後の門・堀・庭を造るエクステリア業界には、ハウスメーカーの下請けが中心で、社長がトップセールスという家族経営の会社が多い。同社も同様だったが、社長の長男である鈴木寿裕専務は7年前、家の所有者から直接受注する元請けへ転換した。家主の集客には当初ノウハウがなく困難はあったが、家主との直接打合せで提案や仕様確定が円滑になり利益率も向上した。

ただ、元請けになったものの新規開拓ばかりで、案件終了後の顧客とのつながりは皆無だった。また、4名の営業担当は組織的ではなく個人商店の集まりのような状態で、誰がどんな仕事をしているか分からない状況であった。「家業から企業へ」をテーマに掲げる鈴木専務は、属人化からの脱却には顧客管理と営業支援を「見える化」するツールが必要だと判断し、従業員とも検討してクラウド・サービスを導入した。

導入しても従業員が活用しなければ意味がない。過去に、ITツール導入に失敗したことがあったため、鈴木専務は機能を取捨選択しながら着実に導入を進めた。導入したクラウド・サービスは多機能だったが、全機能を初めから使うことは避け、営業支援機能を中心に、顧客管理とグループウェア(カレンダー型スケジュール共有機能)に絞り込んだ。人事・給与や会計・財務については、契約が残っている既存ソフトで業務を行い、出力したCSVファイルをクラウド・サービスに読み込ませた。顧客管理に登録済みの情報は営業支援では入力不要であり、営業支援に登録した案件情報はグループウェアのカレンダーに反映されるなど、業務領域間の機能連携の効果が得られている。営業案件の進捗も確認しやすくなり、営業担当者の数だけあったホワイトボードで案件管理を行っていた導入前と比べて事務効率は向上した。

導入後の3年間で営業活動も目に見えて改善された。営業案件の契約率は53%から63%に増加し、顧客からの連絡待ち率は28%から15%に低下した。1案件当たりの平均打合せ回数は5.2回から4.2回に減少し、残業削減に大きく寄与した。顧客のリピーター化にも組織的に取り組めるようになった。導入の初期費用10万円で、月々の使用料金は8名分で約5万円であるが、効果の方が大きいと鈴木専務は判断している。

「まだまだこれから取り組む部分もありますが、改善された部分はかなり多く、クラウド・サービスを導入したメリットはかなりあります。」と鈴木専務は話す。

クラウド・サービスの画面(一部抜粋、拡大)・株式会社グリーンケア展示場
クラウド・サービスの画面(一部抜粋、拡大)・株式会社グリーンケア展示場
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