3 IT導入の効果を高める取組
〔1〕IT導入の効果がうまく得られた理由
第2-4-23図は、IT導入の効果が得られた企業に対してIT導入の効果がうまく得られた理由を尋ねた結果である。「IT導入の目的・目標が明確だった」、「専任部署、あるいは専任の担当者を設置した」、「経営層が陣頭指揮をとった」が約3割で上位を占める。次いで、「業務プロセスの見直しを合わせて行った」、「IT導入を段階的に行った」、「導入前に、利用予定の従業員の意見を聞いた」が約2割で続く。
第2-4-24図は、3年前と比べた労働生産性が向上した企業が第2-4-23図の各取組の有無でどの程度違ったかを示している。労働生産性に与える影響の大きさ別に見ると、最も大きいのは、「業務プロセスの見直しを合わせて行った」であり、次いで、「経営層が陣頭指揮をとった」、「外部のコンサルタントを活用した」が続く。業務プロセスの見直しは、他の取組以上にIT導入の効果を高めているといえる。
事例2-4-6:株式会社日東電機製作所
「業務プロセス見直しと合わせた自社システムの更新に取り組んでいる企業」
群馬県太田市の株式会社日東電機製作所(従業員152名、資本金8,000万円)は、電力会社や鉄道会社向けの電力制御機器(配電盤、制御盤)を製造する電機メーカである。納品先企業ごとに要求仕様が異なるため個別生産が主である。企画・提案から電気回路設計、構造設計、板金加工、塗装・めっき、組立・配線、試験という一連の流れを全て社内で対応可能な点が強みであり、コスト競争や短納期対応の面で他社にない優位性を持っている。
同社の強みは自社開発の統合生産管理システム(NT-MOL)に支えられている。1980年代から設計部門では各種データを蓄積し、製造ラインでの活用を進めてきた。
受注後、まずシステムに予定する工程や投入時間を入力することで、進捗管理を始めとする工程管理が可能になる。次に、必要な材料・用品等を入力することで、各種手配が調達管理に紐づけられる。さらに、この情報をもとに受注した案件(製品)の原価の精度が上がり原価管理に反映される。従業員が退社する際にその日の業務内容を顧客、業務等に分けて工数管理のシステムに入力することで、材料や用品だけでなく人件費も含めた原価の実績が追跡可能となる。
このシステムは生産管理内にとどまらずバックオフィスの勤怠・給与管理とも連携されている。工数管理システムの勤務データは出退勤管理システムや給与計算に連携されており、事務員の負担を軽減することで間接費削減に役立っている。
段階的に拡張を重ねたNT-MOLであったが、複数の作業を同時に行った際に不要な動作も発生するなどの不具合が目立つようになった。CADのバージョンアップや最新のITインフラ整備等が継続的に行われる一方で、生産管理面では他社との優位性・独自性は失われつつあり、リニューアルが必要との問題意識が生じていた。
そこで、オートデスク社が提供するビジネス・プロセス・アセスメント(Business Process Assessment)という手法を用いて、生産管理工程そのものの見直しも視野に入れて、現システムの課題の洗い出しを行った。洗い出しの結果、解決方針は、〔1〕情報の一元管理、〔2〕設計解析の実施、〔3〕データ閲覧環境の改善、〔4〕教育勉強会の実施という4点に集約されたので、各観点から生産管理工程や生産管理システムの改善に取り組んでいる。同社は、NT-MOLの更新にとどまらず生産工程のIoT化も計画しており、システムのWEB化による生産現場でのタブレット活用や、生産管理におけるロボットとNT-MOLの連携等も検証している。
事例2-4-7:株式会社太陽商工
「部門間のデータ共有が進み生産性の向上を実現した企業」
埼玉県さいたま市の株式会社太陽商工(従業員57名、資本金9,000万円)は、建築工事、給排水設備工事を主要事業とし、年間1,300棟の新築工事、2,000件のアフターメンテナンス工事を手掛けている。設立当初より「共進共豊」を旗印とし、より高い品質の仕事の提供を通じて社会に貢献すること、働く人全てが豊かになることを目指している。
同社は先代社長の時代から、工事現場の入退場管理や工程管理を行うTAISYO-ネットというシステムを開発するなど現場ではIT活用があった一方で、社内のIT化は後回しになっていた。同社では部門間での情報共有がIT化されておらず、総務部門が資材発注を行う際に毎回工事部門に進捗を確認しなければならないなど、部門間の問合せに時間を要しており非効率だった。また、工事現場の社員は現場から帰社後に報告業務等を行うため、移動に時間が掛かり、残業の増加も課題であった。
そこで同社は社内の情報共有を行うITシステムを導入した。現在は社内LANを導入し、業務情報を各部門間で共有している。例えば、図面や役所等への申請書類等はスキャンして電子化して蓄積し、検索して利用できるようにしている。そのため問合せがあったときには、図面や工事履歴等を、部門を超えてすぐに参照して対応できる。また、現在は、総務部門から工事部門の進捗状況が参照できるため、工事の進捗にあわせて資金繰りや資材発注等を効率的に行えるようになっている。
さらに、現場社員が現場からも社内システムを活用できるよう、ミニPCとタブレットによるリモートワークを導入した。ミニPCから本社内の自分のPCにリモート接続することで、現場で図面の確認や顧客からの連絡の確認、現場報告書の作成等ができる。タブレットはハウスメーカー向けの工程・進捗報告に利用している。
社内のITシステム導入では、1人1日当たり3時間の業務時間削減に成功した。社員の業務に対する意識改革・意識啓発につながる成果も得られた。リモートワーク導入では、事務所と現場の平均往復時間2時間の削減効果があった。残業が減ったため、若手社員の定着にもつながった。社内ITシステム導入の費用は、システム開発費と社内LAN構築費等で数百万円であった。リモートワーク導入の費用は、社外用のミニPCとタブレットの購入費等で数百万円であった。
同社の池田由季子社長は「とにかく社員を早く帰らせたいという一心で業務効率化に取り組んできた。親が子どもの顔を見ることができないというのは忍びない。この理念は先代の頃から変わらない。」と語る。
事例2-4-8:エコー電子工業株式会社
「経営層が一丸となって率先利用することで情報システム利用を浸透させ業務の見える化と業績向上を実現した企業」
福岡県福岡市のエコー電子工業株式会社(従業員180名、資本金1億円)は、九州を中心に約2,500社の顧客を持ち、業務システムの提案・開発、ITインフラ構築、スマートフォンのソフト開発等の事業を手掛けている。
同社は、社長牽引のトップダウン型からボトムアップ型の経営への転換を目指すため、自由闊達な社風の醸成が必要だと考えた。業務の属人化からの脱却と様々な情報の「見える化」が中心的役割を果たすと判断し、約20年前に自社開発でSFA(Sales Force Automation)を導入した。クラウドであるSFAはAPIを備えていて機能拡張や他システムとの連携が容易であり、SFAの自社開発は経営環境の変化に応じたシステム変更を見据えた判断であった。
SFAでは、役員以下全員が仕事内容を入力し閲覧できる。業務日報等の登録で日々の活動が「見える化」され業務の属人化が避けられる。顧客の課題も全従業員で共有し迅速な解決が可能となり、顧客の信頼が向上している。また、業務の代替要員の確保も容易になり育児休暇等の取得率向上にも役立っている。
同社はSFAを用いて業務分析も行った。個々の業務にコードを振り、SFAに業務コードと業務時間を入力することで、各プロジェクトの原価が把握できるようになり、収支状況が明確に「見える化」された。従業員のコスト意識が向上し、同社の利益率の改善にも寄与しており、従業員の人事評価にも反映している。
入力された日報から営業、システム開発、工事ごとに行動を分析して、標準行動パターンが比較できる。経験の浅い営業担当者は、自分の行動と業績の良い担当者の行動パターンとを照らし合わせ、自分の営業活動に抜けがないかなどを確認できる。属人化しやすいノウハウ等が「見える化」され、新人でもSFAを通じて学び、成長しやすくなっている。この機能は学生にも好評であり、採用活動でも役立っている。今後は、SFAに蓄積されたデータをもとに、無残業で成果を上げるなどの生産性の高い働き方を推奨する仕組み作りを計画している。
SFA導入効果を得るためには、全従業員がSFAを使いこなして情報を登録しなければならない。同社では役員が率先して情報を入力するとともに、従業員が入力した情報にアドバイス等のコメントを返している。SFAには、自分が登録した情報の閲覧者を確認できる機能があり、従業員は上長にも同僚にも後輩にも情報が活用される前提で入力している。「経営層が一丸となって率先して利用し、各従業員の状況を確認して有益なフィードバックを行うといった取組がなければ活用が進まない。トップダウンで導入しただけでは、うまく活用できないだろう。」と前社長の小林啓一氏は語る。
事例2-4-9:株式会社上間フードアンドライフ
「1品単位で採算管理ができるシステムの開発により収益性を高めた企業」
沖縄県沖縄市の株式会社上間フードアンドライフ(正社員23名、パート・アルバイト57名、資本金990万円)は、沖縄天ぷらを主力とするお弁当・お惣菜・オードブルの店舗販売と宅配を手掛けている。同社のルーツは、上間喜壽社長の両親が祖父母からののれん分けで始めた天ぷら屋である。沖縄は親戚の集まりごとが多く、その度にもてなし料理を作るのは大変なため、天ぷら店や惣菜店を利用する地域特性がある。
上間社長が引き継いだタイミングで法人成りした同社は、その後の多店舗展開も順調に進んで売上は増加しているが、常々、飲食業界の利幅の薄さに問題意識があった。飲食業の賃金が伸び悩む一因は、適切な価格設定ができていないためだと考える上間社長は、適切な利幅の確保には1品ごとの採算管理が必要との確信に至った。また、人手不足傾向が予想され今後は賃金上昇が懸念されるため、その観点からも収益構造の改善は急務であった。これらの課題解決のため同社は、1品単位での採算管理を効率的に実現する社内システムの開発に取り組んだ。
理想のシステムを構築するため、システムの要件定義は上間社長が行い、開発は那覇市内のIT企業に依頼した。同システムは、〔1〕POSレジ、〔2〕ダッシュボード、〔3〕受注管理、〔4〕商品管理、〔5〕コスト管理、〔6〕クラウド会計接続、の6機能で構成される(システム構成図参照)。同システムを活用すると、例えば、エビの天ぷらの衣にいくら原価が掛かっているかという1品単位の数値管理ができる。また、クラウド会計との連携も可能であり、バックオフィスの効率化も果たしている。
開発したシステムを導入し実際に活用しながら改良を重ねた結果、導入前後で原価率が約5ポイント低下し、収益面が大幅改善された。コスト面では、従来のPOSレジをタブレットに代替できた結果、導入前は1台100万円程度であったPOSレジが、導入後は1台10万円程度のタブレットになり、1台あたり約90万円の費用が削減できた。開発費は数百万円で、ランニングコストは月あたり数万円であるが、得られた効果はコストを上回っている。
同社店舗でのシステム利活用で効果を実感した上間社長は、開発したシステムの外販へ向けた取組を始めるため、2017年にU&I株式会社を設立した。「沖縄は、現時点では全国平均ほどの人手不足傾向はないかもしれないが、今後は大きな課題になると考えている。労働集約性の高い業種であっても、人手を増やせないという前提で労働生産性を高める必要がある。今後に向けて、AIを活用した機能の追加も検討している。」と上間社長は語る。