第4節 まとめ
本章では、人材活用面での工夫による労働生産性の向上をテーマとして、中小企業における各種取組の現状と効果等について概観した。
第1節では、中小企業における従業員の多能工化・兼任化の取組状況について、アンケートを用いてその実態を確認した。現状を見ると大半の企業が多能工化・兼任化に取り組んではいるものの、非製造業では一層の取組余地があることが分かった。また、多能工化・兼任化を進めることにより、全体の業務平準化が行われることで従業員の業務負担軽減等の具体的な効果を感じていることが分かったが、第2章で触れた業務見直しの取組を行っている企業においては、それらの効果を実感する割合が高くなることも確認できた。したがって、多能工化・兼任化の取組を行う上では、その前提として、「業務プロセスの見直し」を行い、自社の業務における課題等を確認・社内共有した上で多能工化・兼任化の取組を進めることが重要であると推察される。
他方で、多能工化・兼任化を推進するに当たっての課題として、取組を進めるための時間や、推進する人材の不足が挙げられており、多能工化・兼任化に取り組むことが容易とは言えない実態があることが分かった。しかし、中には、多能工化・兼任化に取り組むことにより一時的な従業員の負担増加があったものの、その後は取組が定着するにつれ業務効率化に成功する企業が存在することも見て取れた。また、多能工化・兼任化に積極的に取り組んでいる企業においては、労働生産性の向上を実感している割合が高くなっていることからも、中小企業が多能工化・兼任化の取組を行うことには一定の効果があるものと推察される。
第2節においては、社内ではなく社外の人材を活用することによる業務効率化を目的とした、アウトソーシングの活用の現状や効果等について、アンケート調査と統計データを用いて分析を行った。人手不足感が強い企業ほどアウトソーシングを活用している傾向にあり、かつ今後の活用を積極化する企業の割合が高いことが分かった。人手不足の状況下において、社外のリソースを活用することにより社内の人員不足への対応を図る企業が一定数存在するものと推察される。また、アウトソーシングを活用する企業においては労働生産性の向上を実感していることも確認できた。
第3節では、従業員が生み出す付加価値を向上するための手法としての、人材育成の取組について確認した。人材育成・能力開発は職場の生産性向上を始めとした良い影響をもたらすものと考えられており、その必要性が高いことが改めて分かった。そして、人材育成・能力開発の手段としては、OJT、OFF-JT及び企業による従業員への自己啓発費用の支援があり、各企業においてOJTを重視しつつも、OFF-JTと自己啓発費用支援の取組を積極化させていることが見て取れた。また、第1章において、中小企業における中核人材不足への対応方法として、教育訓練・能力開発の強化が重視されていることに触れており、その点からも人材育成・能力開発は重要な取組と考えられる。ただし、その一方で人材育成・能力開発の実施においては人材育成を行う時間がないことや、教える側、教えられる側の人材不足等の課題があることも分かった。中核人材は社内で育成するという中小企業の声は大きいものの、このような状況においては、第1章第3節で触れた、中核人材を外部から確保するといった取組を併せて行うことも有効になるものと推察できる。
以上、中小企業における労働生産性の向上を図るための、人材活用面での取組について分析を行ってきた。業務が逼迫するなどの事情により、生産性向上に係る取組を行う時間の確保が難しいこともあると考えられるものの、実際に取り組んだ企業の大半は労働生産性向上の効果を感じていることが分かった。各企業が、時間がない中でも自社の将来を見通して人材活用の工夫に取り組むことで、それが事業の成長につながり、ひいては我が国全体の中小企業が活性化していくことを期待して、本章の結びとしたい。