第3章 人材活用面での工夫による労働生産性の向上
第2章においては、中小企業における業務見直しの取組の現状や、業務見直しと他の生産性向上策における労働生産性向上との関係等について分析を行った。本章においては、企業活動の原動力となる人材の活用面に係る取組について分析を行っていく。第1節においては従業員の多能工化・兼任化の取組について、第2節においては社外リソースを活用することで業務効率化を期待できるアウトソーシングの取組、第3節では人材育成の取組の実態について分析を行う。
第1節 多能工化・兼任化の取組
本節においては、中小企業における多能工化・兼任化の取組について分析を行う。多能工化・兼任化の取組は、採用難により従業員数を増やすことが難しい中小企業にとって、人手不足への有効な対策となる。多能工化・兼任化を行うことで、繁忙期となっている部署や工程に労働力を融通することが可能となり、業務量の平準化や業務の効率化に寄与するものと考えられている。そこで、「人手不足対応に向けた生産性向上の取組に関する調査」(以下、「アンケート調査」という。)を用いて、中小企業における取組の実態を把握し、その現状や効果等について明らかにしていく。
1 多能工化・兼任化の取組の現状
〔1〕中小企業における多能工化・兼任化の取組状況
第2-3-1図は、中小企業における従業員の多能工化・兼任化の取組状況を確認したものである。これを見ると、回答者の73.3%が多能工化・兼任化に取り組んでおり、全体の28.5%が3年前に比べて積極化していることが分かる。

第2-3-2図は、従業員の多能工化・兼任化の取組状況について業種別に見たものである。前掲第2-1-1図にて示されたような、人手不足感が強い建設業、サービス業においても取組が進んではいるが、製造業ほど積極的ではないため、一層の多能工化・兼任化の取組余地があると考えられる。

〔2〕多能工化・兼任化を進めるための環境整備
第2-3-3図は、従業員の多能工化・兼任化を進めるに当たって、併せて行った取組を確認したものである。内訳を見ると、「業務マニュアルの作成・整備」、「従業員のスキルの見える化」の回答割合が特に高くなっている。「業務マニュアルの作成・整備」については、現在取り組んでいない業務を従業員に新たに担当させる上で、学習環境の整備としての役割を担っているものと考えられる。また、「従業員のスキルの見える化」は、各従業員が現状で有しているスキルを見える化して把握することにより、従業員が有している能力の確認や、今後習得させるべき能力を定めるために必要なものと推察される。
なお、多能工化・兼任化に「取り組んでおり、3年前に比べて積極化している」企業においては「取り組んでいるが、3年前に比べて積極化はしていない」企業に比べて、取組項目のいずれにおいても実施割合が高くなっていることが見て取れる。
多能工化・兼任化を進めるに当たっては、「業務マニュアルの作成・整備」や「従業員のスキルの見える化」等、第2章で分析した業務見直しに関する取組を高い比率で併せて行っていることが分かる。
