第1部 平成29年度(2017年度)の中小企業の動向

第3章 中小企業の労働生産性

第1章で確認したように、経常利益が過去最高水準となるなど、中小企業を取り巻く状況は改善傾向にある。他方で、中小企業においては、人手不足の深刻化、労働生産性の伸び悩み等の課題も抱えている。

今後、更なる人口減少が見込まれる中、我が国経済の成長のためには、中小企業が労働生産性を高め、稼ぐ力を強化していくことが重要である。

そこで、本章では中小企業の労働生産性に着目し、その現状や企業行動との関係等について分析を行う。

第1節 中小企業の労働生産性の変化

1 中小企業の労働生産性の現状

はじめに、企業規模別従業員一人当たりの付加価値額(労働生産性)の推移を確認する(第1-3-1図)。大企業について確認すると、リーマン・ショックの後大きく落ち込んだが、その後は総じて回復傾向にある。一方、中小企業について確認すると、一貫して横ばいで推移しており、2009年以降は大企業と中小企業の従業員一人当たり付加価値額の格差は広がり続けているといえる。

第1-3-1図 企業規模別従業員一人当たり付加価値額(労働生産性)の推移
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次に、従業員の労働時間1時間当たりの付加価値額(時間当たり労働生産性)について見ていく。統計データの制約から、中小企業基本法の定義に則った中小企業の時間当たり労働生産性を正確に算定することは難しいが、本章では、経済産業省「企業活動基本調査」や中小企業庁「中小企業実態基本調査」等を用いて中小企業の労働生産性の推計を試みている。1

1 「企業活動基本調査」と「中小企業実態基本調査」では企業ごとの労働時間のデータが得られないため、「賃金構造基本統計調査」により各年の産業大分類別、大企業・中小企業別、就業形態別の労働時間を得て、一律に適用している。同じ産業大分類に属する大企業(あるいは中小企業)の一般常用労働者、パートタイム常用労働者それぞれの一人当たりの労働時間が同じであると仮定しているため、ある企業の一人当たり労働時間が産業平均より短い場合は、その企業の労働投入量が過大に計算される(労働生産性は過小に評価される)ことに注意が必要である。なお、賃金構造基本統計調査による労働時間の算出においては、卸売業,小売業、学術研究,専門・技術サービス業、宿泊業,飲食サービス業、生活関連サービス業,娯楽業及びサービス業(他に分類されないもの)については常用雇用者数99人以下の企業を、建設業、製造業、情報通信業、運輸業,郵便業及び不動産業,物品賃貸業については常用雇用者数299人以下の企業を中小企業とした。

はじめに、経済産業省「企業活動基本調査」等を用いて、企業規模別の時間当たり労働生産性を業種別に算出した結果が第1-3-2図である。宿泊業、飲食サービス業やサービス業(他に分類されないもの)においては、大企業との差が小さくなっているものの、ここに示した7業種全てにおいて、中小企業の時間当たり労働生産性の水準が大企業よりも低いことが分かる。

第1-3-2図 企業規模別の時間当たり労働生産性の水準
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次に、時間当たり労働生産性と一人当たり労働生産性の違いを比較するため、大企業の労働生産性を100として中小企業の労働生産性を基準化し、それぞれ確認すると(第1-3-3図)、目立った差は見られないものの、ここに示した7業種のうち6業種において、時間当たりの労働生産性の方が大企業との差が大きくなっていることが確認できる。

第1-3-3図 時間当たり労働生産性・一人当たり労働生産性別に見た大企業と中小企業の労働生産性の格差
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さらに、「中小企業実態基本調査」を再編加工した結果が第1-3-4図である。「中小企業実態基本調査」は「企業活動基本調査」が対象としていない小規模企業や個人事業主も調査対象としていることから、より実態に則した中小企業の労働生産性を算出することができる。第1-3-2図第1-3-4図を比べると、「中小企業実態基本調査」による中小企業の労働生産性の方が低いことが分かる。これは、「企業活動基本調査」の調査対象外となる規模の小さい企業の労働生産性が相対的に低いことを示唆している2

2 「企業活動基本調査」と「中小企業実態基本調査」では、一部の産業分類において調査対象範囲が違うため、単純な比較ができないことに留意が必要である。

第1-3-4図 中小企業の時間当たり労働生産性の水準
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以上見てきたとおり、中小企業と大企業の労働生産性の格差については、時間当たりの労働生産性で見た場合にも確認され、多くの業種で、一人当たり労働生産性で見た場合に比べて、時間当たり労働生産性で見た場合の方がその格差は大きくなっていることが分かった。中小企業が生産性向上に向けた取組を進めていくに当たっては、時間当たりの労働生産性を一層意識していくことが重要といえる。

最後に、2016年のOECD加盟諸国中における我が国の労働生産性及び2010年から2016年の労働生産性の平均上昇率の国際比較を行う(第1-3-5図)。まず労働生産性について見ると、日本は35加盟国中第21位でOECD平均を下回っており、首位のアイルランドのおよそ半分程度の水準である。また、労働生産性の平均上昇率についても見ても0.6%で35加盟国中第22位と、やはり平均を下回っていることが分かる。

第1-3-5図 OECD加盟諸国の労働生産性
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