2 成長タイプ別、成長段階別の実態と課題
起業後に円滑な成長を遂げていくためには、起業後の成長段階ごとに直面する課題や困難を克服していく必要がある。本項以降では、起業後から事業が軌道に乗るまでの成長プロセスを次の三つの段階に分類した上で、成長段階ごとに企業が抱えている課題や行っている取組状況等について見ていくが、本白書においては、高成長型、安定成長型、持続成長型の三つの成長タイプのうち「持続成長型」に着目し、持続成長型の企業が、それぞれの成長段階で抱えている課題や、行っている取組、利用している支援施策等について確認していくことで、持続成長型の企業が起業後に円滑な成長を遂げるために必要な支援の在り方について検討していく22。
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創業期:本業の製品・商品・サービスによる売上がない段階
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成長初期:売上が計上されているが、営業利益がまだ黒字化していない段階
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安定・拡大期:売上が計上され、少なくとも一期は営業利益が黒字化した段階
〔1〕持続成長型企業における現在の成長段階
第2-1-49図は、創業後5~10年の持続成長型の企業に対して、現在どの成長段階にあると思うかを聞いたものであるが、これを見ると、全体に占める約7割の企業は安定・拡大期と回答している一方で、約3割の企業は創業後少なくとも5年経った現在でも、創業期又は成長初期と回答している。このことからも、持続成長型の企業の中には、起業して少なくとも5年経った現在においても、まだ売上が計上されていなかったり、黒字化していなかったりする企業が約3割存在しており、そのような企業は次の成長段階に進むために様々な課題に直面していることが考えられる。
〔2〕持続成長型企業における、成長段階別の仕事に対する満足感
第2-1-50図は、起業前及び起業後の各成長段階における、仕事に対する満足感について、持続成長型の企業の起業家に聞いたものであるが、これを見ると、収入を除く全ての項目について、起業前よりも起業後の創業期の方が、仕事に対する満足感が格段に向上していることが分かる。他方で、収入については起業後の創業期よりも起業前の方が、満足感が高くなっている。また、起業後の成長段階について、創業期と成長初期を比較してみると、いずれの項目についても総じて創業期よりも成長初期の方が、満足感が低下していることが分かる。この結果から、創業期においては、勤務先ではできなかったことを事業で行うため、自分の裁量で自由に仕事ができるためといった理由で起業前に比べて満足感は上がるものの、その一方で、詳細は次項以降の分析で示していくが、起業して事業を進めていく中で様々な課題に直面するために、成長初期においては創業期に比べて満足感が低下している傾向にあるものと推察される。また、安定・拡大期に入ると、いずれの項目についても満足感が格段に向上していることからも、持続成長型企業は創業期や成長初期に様々な課題に直面しており、そしてその課題を解決し、乗り越えていくことによって安定・拡大期を迎えることができることが分かる。
〔3〕持続成長型企業が各成長段階で直面している課題
それでは、持続成長型の企業は、創業期、成長初期、安定・拡大期の各成長段階において、どのような課題を抱えているのであろうか。ここで、持続成長型の企業が各成長段階において直面している課題について見たものが第2-1-51図である。これを見ると、創業期においては、「資金調達」の割合が最も高く、次いで「家族の理解・協力」の割合が高くなっている。このように、創業期は「資金調達」を課題としている企業の割合が最も高く、さらに、起業に当たりまだ家族の理解が十分得られていないといった、創業期特有の課題を抱えている企業も同様に多いことが見て分かる。次に、成長初期においては、「資金調達」の割合が創業期に引続き依然として高いものの、創業期で割合の高かった「家族の理解・協力」については割合が低下している。他方で、「質の高い人材の確保」、「量的な労働力の確保」といった人材確保に関する課題や、「販路開拓・マーケティング」、「自社の宣伝・PR」といった販路開拓に関する課題の割合が資金調達に続いて高くなっていることが分かる。最後に、安定・拡大期においては、「質の高い人材の確保」の割合が最も高く、次いで「企業の成長に応じた組織体制の見直し」の順になっていることからも、安定・拡大期は人材確保や組織体制の整備における課題が最も強いことが分かる。このように、創業期は資金調達、成長初期は資金調達、人材確保及び販売確保、そして安定・拡大期は人材確保と組織体制の整備というように、成長段階ごとに回答割合が高い課題が変化していることが分かる。また、販路開拓の課題については、最も割合が高い課題ではないものの、成長初期を中心に、各成長段階共通の課題となっていることが分かる。