第6章 事業環境の整備
第1節 資金繰り支援、事業再生支援
1.セーフティネット貸付【財政投融資】
セーフティネット貸付のうち経営環境変化対応資金は、社会的、経済的環境の変化の影響等により、一時的に売上高や利益が減少している等の影響を受けている中小企業・小規模事業者に対して、7億2,000万円(日本公庫(中小企業事業)、商工中金)、4,800万円(日本公庫(国民生活事業))の範囲内で融資を実施するものである。平成28年度補正予算では世界経済の不安定性などのリスクに備える中小企業・小規模事業者の資金繰りを支援するため厳しい業況にある中で認定支援機関等の経営支援を受ける場合や雇用の維持・増加の取組みを行う場合に金利の優遇措置を行った。平成28年度の貸付実績は、約11万件、約2.0兆円となった(平成28年12月末時点)。
2.(再掲)小規模事業者経営改善資金融資事業(マル経融資)【28年度予算:40.0億円の内数】【財政投融資】
小規模事業者を金融面から支援するため、商工会、商工会議所、都道府県商工会連合会の経営指導を受けている小規模事業者に対して、日本公庫が無担保・無保証・低利で融資を行った。(平成28年度の実績は、36,863件、2,187億円(平成29年1月末時点)。)
3.(再掲)小規模事業者経営発達支援融資事業【28年度予算:0.2億円】【財政投融資】
事業の持続的発展に取り組む小規模事業者を支援するため、経営発達支援計画の認定を受けた商工会・商工会議所による経営指導を受ける小規模事業者に対し、日本公庫が低利で融資を行った。(平成28年度の実績は、205件、19.7億円(平成29年1月末)。)
4.資本性劣後ローンの推進【28年度予算:158.0億円の内数】【財政投融資】
資本性劣後ローンとは、中小企業・小規模事業者に対して、リスクの高い長期・一括償還の資金(資本性資金)を供給し、財務基盤を強化することで、民間からの協調融資を呼び込み、中小企業・小規模事業者の資金繰りを安定化する日本公庫の融資制度である。平成28年度の貸付実績は、約900件、約514億円となった(平成29年1月末時点)。
(注)期限一括償還型の貸付であって、融資を受けた中小企業・小規模事業者が法的倒産となった場合に貸付金の償還順位を他の債権に劣後させる制度。毎期の決算の成功度合いに応じて金利を変更する等の制度設計とすることにより、当該劣後ローンは、金融検査上自己資本とみなすことが可能となっている。
5.(再掲)中小企業・小規模事業者経営力強化融資保証【28年度予算:16.0億円】【財政投融資】
認定支援機関の支援を前提とした、日本公庫による創業または経営多角化・事業転換等を行う中小企業・小規模事業者に対する低利融資(女性・若者・シニア創業者は基準金利-0.4%)等を整備することで、経営力の強化を図った。
6.借換保証の推進【28年度補正予算:125.0億円】
信用保証協会が、複数の借入債務を一本化し、足下の返済負担の軽減を図るための借換保証を推進。平成28年度(平成28年12月末まで)の保証承諾実績は、133,276件、約2兆5,600億円となった。
また、経営者に事業改善の意欲があるにもかかわらず、返済条件を緩和の実施によりため前向きな金融支援を受けることが困難な中小企業者等を支援するため、条件変更改善型借換保証を創設した。
7.セーフティネット保証
取引先の倒産、自然災害、取引金融機関の経営合理化等により経営の安定に支障を生じている中小企業者等に信用保証協会が一般の保証枠とは別枠での保証を実施した(100%保証。保証限度額は無担保8,000万円、最大2億8,000万円。)。
平成28年度は、熊本地震(4号)、三菱自動車工業(株)による不正行為に伴う生産活動の制限(2号)等により発動されている。
また、セーフティネット保証5号は、引き続き売上減少等の基準を満たす業種を指定した。平成28年度(平成28年12月末まで)の保証承諾実績は、21,696件、4,699億円となった。
8.信用保証協会による経営支援【平成28年度予算:12.0億円】
信用保証協会の利用者又は利用予定している創業(予定)者、経営改善等に取り組む中小企業・小規模事業者に対して信用保証協会が地域金融機関と連携して、専門家派遣をはじめとした経営支援を実施し、資金繰り支援と一体となった支援を実施した。
平成28年度(平成28年12月末まで)は、約13,000回の専門家派遣を実施している。
9.認定支援機関による経営改善計画策定支援事業
自らでは経営改善計画の策定ができない中小企業・小規模事業者等に対して、中小企業等経営強化法に基づく認定支援機関(税理士、弁護士、金融機関等)による経営改善計画策定支援や当該計画に係るフォローアップに要する費用の一部を負担(2/3)した。平成28年12月末における相談件数は6,467件、新規受付件数は1,772件となり、制度発足時(平成25年3月)から平成28年12月末までの実績は、相談件数38,543件、新規受付件数は12,769件となった。
10.中小企業再生支援協議会【28年度予算:58.4億円の内数】
各都道府県の商工会議所等に設置した中小企業再生支援協議会において、収益性のある事業を有しているが、財務上の問題を抱えている中小企業・小規模事業者に対し、窓口相談による課題解決に向けたアドバイスや、関係金融機関等との調整も含めた再生計画の策定支援を行った。平成28年4月から12月末までの実績は、相談件数1,204件、再生計画の策定完了件数567件となり、制度発足時から平成28年12月末までの実績は、相談件数38,170件、再生計画の策定完了件数11,618件となった。
11.中小企業承継事業再生計画(第二会社方式)
産業競争力強化法に基づき、中小企業承継事業再生計画の認定を行い、その計画に従った事業の承継を行う場合に、許認可承継の特例措置及び金融支援を実施した。計画認定件数は平成28年12月末までの実績は3件、産業活力再生特別措置法に基づき措置された制度創設時(平成21年6月)から合計すると39件となった。
12.中小企業再生ファンド
再生に取り組む中小企業の再生計画上、資金繰り支援、経営支援や必要な資金供給等を実施するため、中小機構と地域金融機関、信用保証協会等が一体となって、地域内の中小企業の再生を支援する地域型ファンドや広域的に中小企業の再生を支援する全国型ファンドの組成・活用を促進する取組を行った。平成28年12月末までに48件のファンドが創設され、ファンドの総額は約1,503億円に上った。また、当該再生ファンドによる投資実績は平成28年12月末までに397社、約811億円に上った。
13.「経営者保証に関するガイドライン」の利用促進等【28年度予算:1億円】
平成25年12月5日に公表された「経営者保証に関するガイドライン」の利用促進を図るため、平成25年度に中小機構地域本部等に設置した相談窓口と、ガイドラインの利用を希望する方への専門家派遣窓口について、引き続き実施した。また、平成25年度に拡充・創設した公的金融機関における経営者保証によらない融資・保証制度について、一層の推進を図るため、制度の改正を行った。加えて、中小企業・小規模事業者等に対してダイレクトメールやSNS等によるガイドラインの広報を行った。
14.金融行政における中小企業に対する経営支援の強化等
金融行政方針に基づき、金融機関に対し、担保・保証に依存する融資姿勢を改め、取引先企業の事業の内容や成長可能性等を適切に評価(事業性評価)し、融資や本業支援等を通じて、地域産業・企業の生産性向上や円滑な新陳代謝の促進を図るよう促した。
15.低保険料率の農林水産業関係法人向け貿易保険の新設
保険料率が低く、中小企業が利用しやすい「中小企業輸出代金保険」の対象を農林水産業関係法人等に拡大。(「中小企業・農林水産業輸出代金保険」を新設)。
16.沖縄の中小企業金融対策【財政投融資】
沖縄振興開発金融公庫を活用した沖縄の中小企業対策は、日本公庫が行う業務・取組について、同様に行うとともに、沖縄の特殊事情を踏まえ独自の貸付制度の拡充を実施した。
17.「中小企業の会計に関する基本要領」の普及・活用
中小企業の経営状況の明確化、経営者自身による事業の説明能力の向上、資金調達力の強化を促す観点から、「中小企業の会計に関する基本要領」の普及・活用を推進した。その普及策として、平成28年度においても、「中小企業の会計に関する基本要領」を会計ルールとして採用する中小企業・小規模事業者に対して、信用保証料率を0.1%割り引く制度を実施した。
第2節 財政基盤の強化
1.法人税の軽減税率【税制】
年所得800万円以下の部分に係る法人税率(19%)を15%に引き下げる措置を講じた。
2.中小企業投資促進税制【税制】
機械装置等を取得した場合に、取得価額の30%の特別償却又は7%の税額控除(税額控除は資本金3,000万円超の法人を除く)ができる措置。なお、機械装置等のうち、生産性の向上に資する一定の設備を取得した場合には、即時償却又は10%の税額控除(資本金3,000万円超の法人の税額控除は7%)ができる。
3.中小企業者等の少額減価償却資産の損金算入の特例制度【税制】
少額減価償却資産(取得価額30万円未満のもの)を取得した場合、年間300万円を限度に、全額損金算入することができる措置(従業員1,000人超の法人を除く)。
4.欠損金の繰越控除・繰戻還付【税制】
欠損金の繰越控除は、当期の事業年度に生じた欠損金を繰り越して翌期以降の事業年度の所得金額から控除することができる措置。平成28年度税制改正において、平成30年度から繰越期間を10年間(現行:9年)とすることとされた。また、欠損金の繰戻還付は、当期の事業年度に生じた欠損金を1年繰戻し、法人税額の還付を請求することができる措置。
5.商業・サービス業・農林水産業活性化税制【税制】
商業・サービス業等を営む中小企業が商工会議所等の経営改善指導に基づき設備を取得した場合、取得価額の30%の特別償却又は7%の税額控除(税額控除は資本金3,000万円超の法人を除く)ができる措置。
6.交際費等の損金不算入の特例【税制】
交際費等を支出した場合、〔1〕定額控除限度額(800万円)までの損金算入、〔2〕支出した接待飲食費の50%までの損金算入を選択適用できる措置。
7.中小企業投資育成株式会社による支援
中小企業投資育成株式会社において、中小企業の自己資本の充実を促進し、その健全な成長発展を図るため、株式、新株予約権、新株予約権付社債等の引受けによる投資事業及び経営相談、事業承継支援等の育成事業を実施した。
第3節 消費税転嫁対策
1.消費税転嫁状況監視・検査体制強化等事業【28年度予算:32.1億円】
消費税の円滑かつ適正な転嫁を行うため、全国に転嫁対策調査官を配置した。併せて、消費税の転嫁拒否等の行為に関する情報を収集するため、公正取引委員会と合同で中小企業・小規模事業者全体に対して大規模な書面調査を実施するなど、転嫁拒否行為等の監視・取締りを行った。
第4節 消費税軽減税率対策
1.中小の小売事業者等に対するレジの導入・システム改修等支援【27年度予備費:995.8億円】
消費税軽減税率制度の実施に当たり混乱が生じないよう、事業者の準備が円滑に進むように支援を行った。具体的には、〔1〕中小小売事業者等に対して、複数税率に対応したレジの導入等の支援を行うとともに、〔2〕複数税率への対応ができない電子的な受発注システムを用いている中小小売事業者・卸売事業者等に対して、システム改修の支援を行った。
2.消費税軽減税率対応窓口相談等事業【27年度補正予算:170億円】
消費税軽減税率制度を円滑に実施するため、中小企業団体等と連携して、講習会・フォーラムの開催、相談窓口の設置や巡回指導型専門家派遣を通じたきめ細かいサポート、パンフレット等による周知等を行った。また、消費税転嫁対策窓口相談等も併せて実施した。
第5節 経営安定対策
1.中小企業倒産防止共済制度(経営セーフティ共済制度)【中小機構交付金の内数】
中小企業倒産防止共済制度は、取引先企業の倒産により売掛金債権の回収が困難となった場合に、積み立てた掛金の額に応じて無利子、無担保、無保証人で共済金の貸付けを行う制度である。平成28年12月末現在で42.5万社が在籍しており、平成28年4月から平成28年12月末までの新規加入者、新規貸付金額はそれぞれ、3.8万社、43.2億円に上った。
2.経営安定特別相談事業【28年度予算:0.37億円】
経営の危機に直面した中小企業の経営上の様々な問題の解決に資するため、全国の主要な商工会議所及び都道府県商工会連合会に「経営安定特別相談室」が設置されている。本相談室において経営安定に関する幅広い分野の経営相談が円滑に実施されるよう日本商工会議所及び全国商工会連合会の実施する指導事業等を支援した。
3.中小企業BCP(事業継続計画)普及の促進
中小企業・小規模事事者におけるBCPの策定・運用を支援し、さらなる普及・定着を図るため、平成26年度補正予算で措置された「中小企業・小規模事者事業継続力強化支援事業」を引き続き実施し、中小企業・小規模事業者のBCP策定・運用等の支援を行った。また、普及支援体制の充実を図るため、
中小企業関係団体等が実施する支援担当者向けBCP研修・セミナーを支援した。さらに、中小企業・小規模事業者自らが策定したBCPに基づき防災施設等の整備を行う者に対して、日本公庫において低利融資を実施した。
4.ダンピング輸入品による被害の救済【28年度予算:0.5億円】
貿易救済措置のうちAD措置は、他国企業から我が国に対するダンピング輸入により、国内産業が損害を受けた際に、国内産業からの申請を受けて政府が調査を実施した上で関税の賦課により、公正な市場競争環境を確保する措置である。平成27年度5月に開始した韓国及び中国産水酸化カリウムに対するAD調査について、平成28年度8月に調査を終了し、AD措置の発動を行った。また、平成28年度9月に開始した中国産高重合度ポリエチレンテレフタレートに対するAD調査についても、国際ルール及び国内法令に基づき公正且つ適切に進めている。また、WTO協定整合的に調査を行うための調査研究を実施した。
第6節 官公需対策
1.「平成28年度中小企業者に関する国等の契約の基本方針」の策定及び周知徹底【28年度予算9.9億円の内数】
平成28年度の中小企業・小規模事業者向けの契約比率を55.1%と、引き続き新規中小企業者向け契約比率を平成27年度から平成29年度までの3年間で、26年度(推計1%程度)比で国等全体として概ね倍増の水準となるよう努めるとする、「平成28年度中小企業者に関する国等の契約の基本方針」(以下「基本方針」という。)を8月2日に閣議決定した。中小企業者の受注機会の増大のために実施する措置として、熊本地震の被災地中小企業・小規模事業者に対する配慮のほか、今後、中小企業庁が、契約の実績比率が大きく低下している機関等に対して、改善に向けた取組を聴取すること、地方公共団体の役務等の発注に際し、低入札価格調査制度等の適切な活用を促進すること等の措置を新たに盛り込んだ。
基本方針を周知徹底するために以下の取組を実施した。
(1)経済産業大臣から各府省等の長、都道府県知事、全市町村の長及び東京特別区の長(1,818団体)に対し、文書により「基本方針」の趣旨を説明するとともに、中小企業・小規模事業者の受注機会の増大に努めるよう要請した。
(2)地方における「基本方針」の周知徹底を図るための全国説明会(官公需確保対策地方推進協議会)を8月から9月にかけて50回開催した。
(3)地方において新規中小企業者からの調達を推進するための取組に関する情報の共有や連携方策を協議する会議(新規中小企業者調達推進協議会)を開催した。
(4)「官公需契約の手引」を作成し、国等の機関、地方公共団体等の機関及び商工関係団体等に配布した。
2.中小企業・小規模事業者の受注機会増大のための「官公需情報ポータルサイト」【28年度予算:9.9億円の内数】
中小企業・小規模事業者が官公需に関する受発注情報を入手しやすくするため、国等や地方公共団体がホームページで提供している発注情報等を中小企業・小規模事業者が一括して入手できる「官公需情報ポータルサイト」を運営した。
第7節 人権啓発の推進
1.人権啓発【28年度予算:1.9億円】
中小企業・小規模事業者に対して、人権尊重の理念を広く普及させ、人権意識の涵養を図るため、セミナー等の啓発事業を実施した。また、小規模事業者等が多く、特に重点的な支援が必要な地域又は業種に係る小規模事業者等の活性化のため、経営等の巡回相談事業及び研修事業を実施した。