第5節 まとめ
本章では、中小企業における人材の過不足状況やその影響、採用・定着に関する取組、多様な人材の活用や、そのための柔軟な働き方の整備状況、そして将来の供給制約を見据えたアウトソーシングの導入等の取組について、実際の企業の事例も含めて中小企業の人材不足への対応を見てきた。
従業員規模や収支・財務状況等も異なる多種多様な中小企業において、人材の確保、人材の活用のための取組、人材不足を見越した対応は様々であり、全てに共通する有効策を導き出すことは難しい。ただし、あえて一つ共通点を挙げるとすると、それぞれの取組の効果を最大限に享受している企業は、長期的な視点に立ち、様々な取組を並行して行っているということが挙げられる。
つまり、採用の際には、自社の経営方針を明確にした上で、求める人材を的確に把握し、その人材に最も有効な手段で情報を伝え、様々な採用手段を活用している。また、柔軟な働き方を前提として多様な人材を雇用し、それらの人材が働きやすいよう、職場環境の見直しを行っている。多様な人材を活用する際には、適切に業務が分担されるよう、業務負担の見直しや時間外労働の削減を進め、業務プロセスの見える化を行うことで、業務の効率化につなげている。必要に応じて、自社の目指す事業展開の実現のために、社内の改革を進めながら外部の資源も有効に活用している。
生産年齢人口の減少といった構造的な課題や、それに伴う特定の産業での労働需要の急激な増加等、中小企業の人材確保に当たっては厳しい状況が続くことが予想される。このような環境下だからこそ、中小企業がその柔軟性を活かして、多様な人材を活用し、働く場としての魅力を高めて人材の定着を図り、外部人材も含めて人的資源を有効活用していくことが、生産性の向上や成長につながっていくこととなる。
第1章では起業・創業、第2章では事業の承継、第3章では新事業展開の取組を見てきたが、中小企業のライフサイクルに共通する課題は人材であったように、人材こそが中小企業の根幹であるといっても過言ではない。中小企業が創意工夫を重ねて人材を活用し、自社の成長につなげ、事業を次世代に継承していくことで、我が国経済の発展に資することを期待して、本章の結びとしたい。