おわりに
以上、全国約325万者の小規模事業の動向や活動等について見てきた。
2012年から2014年にかけて、小規模事業者数は約9.1万者減少しているが、売上高は約0.2兆円増加しており、1事業者当たりの売上高は増加した。また、この期間、かなりの数の開業が行われていることに加え、小規模事業者から中規模事業者へと規模を拡大した事業者数が、中規模事業者から小規模事業者へと規模を縮小した事業者数を上回った。このように、小規模事業者数は減少する中でも、小規模事業者の売上高は拡大しており、新陳代謝も相当程度行われている。
本白書では、小規模事業者の事業活動の実態と取組について、様々な視点から分析を行った。
小規模事業者の商圏に関する分析では、小規模事業者の売上げは、多くが同一市町村内や近隣市町村といった近隣への販売であることが分かった。一方で、売上げが増加傾向にある小規模事業者は商圏を拡大させている傾向にあり、売上高を増加させるためには商圏の拡大が重要な要素となっている。
小規模事業者のIT活用状況に関する分析では、機能別のIT活用状況について分析した。その中では、インターネットを活用した受注比率と売上高の増加傾向には相関があることも示した。ITをうまく活用していくことで、小規模事業者の事業活動に新たな道が開ける可能性がある。
経営計画の作成に関する分析では、経営計画作成には、経営方針や目標の明確化など様々な効果があることを明らかにするとともに、経営計画を作成したことがある者は、経営計画を作成したことがない者よりも売上高は増加傾向にあることなどを示した。しかし、小規模事業者の約半数は経営計画の作成経験を有しておらず、こうした小規模事業者の経営計画作成を後押ししていくことが求められる。
小規模事業者が抱える課題について相談を受け、課題解決のための支援を行う支援機関の視点からの分析も行った。全国の商工会及び商工会議所で小規模事業者の支援を行う経営指導員から見た小規模事業者の課題には、「販路開拓」、「事業承継」、「事業計画や策定や見直し」などの取組が挙げられた。これらは小規模事業者が中長期的な課題として重要であると考えている取組と近いものとなっている。人的資源に限りのある小規模事業者が、自社だけでは解決が困難な課題に取り組む際は、支援機関が不足する機能をしっかりと補完し、小規模事業者の持続的発展を後押ししていくことが重要である。
小規模事業者と地域に関する分析では、地域経済への貢献性などの視点から分析を行い、地域の売上高や雇用に占める小規模事業者の構成割合が、都市部から地方部に行くほど高くなっていることを示した。小規模事業者の事業活動は、地域における雇用の創出や付加価値の創出につながっている。今後、地方部では、人口減少や少子高齢化といった課題が一層多様化・深刻化していくことが懸念される。地方部において存在感の大きい小規模事業者が、地域経済において、引き続き重要な役割を果たしていくことが期待される。
女性の就労先の企業規模に関する分析では、新卒女性と比べて出産・育児からの復職女性は、中小企業・小規模事業者に就職する割合が高くなっていること等を示した。我が国の人口が減少傾向にある中で、持続的な経済成長を実現するには、女性の力を引き出すための場が重要である。女性が活躍する場として、小規模事業者が担う役割は大きい。
昨年度に引き続き、自らの持つ技術や技能を拠り所に、組織に属さず個人で活動する「フリーランス」を取り上げた。フリーランスという働き方は、収入面などでの満足度は必ずしも高くないものの、仕事をする上での時間や場所の制約が少なく、様々な可能性を秘めている。フリーランスの中でも、売上げを拡大させている者は、自らの技術・技能を向上させるなど、顧客により良い商品・サービスを提供するための様々な取組を積極的に行っている。近年、ITツールの発展により、クラウドソーシングによる仕事の受注も可能となった。良質な商品・サービスを提供しながらも受注機会が限定されていたフリーランスにとっては、より自由な受注の可能性が開けたといえる。今後、発注者・就業者の双方が、こうしたフリーランスの特徴を踏まえた上で、フリーランスに対する認知度を高めていくことが期待される。
また、地域に密着してたくましく活動している小規模事業者の取組44事例を、ヒューマン・ストーリーも交えて紹介した。企業規模は小さくても、自社の強みを活かして前向きに挑戦し活躍するその姿には、経営を成功に導くために重要となる様々な秘訣がある。
小規模事業者は、人材や資金といった経営資源に大きな制約があることに加え、その商圏及び取り扱う商品・サービスが限定されており、価格競争やリスク対応力が弱いため、構造変化の影響を受けやすいと言われている。しかし、これまで見てきたように、経営資源に限りのある小規模事業者であっても、商圏の拡大、ITの活用、経営計画の策定などに取り組んでいくことで、売上げを拡大できる可能性は十分にある。また、小規模事業者だけでは解決が困難な課題に取り組む際は、支援機関が不足する機能を補完し、課題解決の糸口へと導いていくことが重要である。
こうした取組を通じて、需要を踏まえた販路開拓などが一層活発に行われることが、今後、小規模事業者が持続的に発展していくための鍵となる。地域経済の基盤を支える小規模事業者の更なる発展を期待して、本白書の結びとしたい。