5 人材育成に向けた外部との連携の実態
中小企業・小規模事業者の人材育成に関する課題を克服する手法の一つとして、外部との連携が考えられる。人材育成に関しては、個別に技術やノウハウを伝承する方法もあるが、組織だった育成プログラムの作成やセミナー等は固定費がかかるため、規模の小さな企業には負担が重く、他社と連携しながらこうした固定費を低減することが一つの解決策として有効と考えられる。また、その過程で、他社との連携から刺激を受けることも期待できる。
まず、第2-2-45図から、個社で人材育成することに限界を感じている企業の割合を見ると、中小企業・小規模事業者全体の29.5%となっている一方、限界を感じていない企業は18.4%であることが分かる。企業規模別にみると、中規模企業において限界を感じている割合が高くなっている。従業員が多くなるにつれて、人材育成のニーズが高まり、問題意識も強くなることが一因と考える。
次に、人材育成に関する外部との連携の実態について見たものが第2-2-46図である。外部と連携している企業の割合は43.4%と実に半数近い企業が他社との連携を行っている。こうした企業連携を行う相手について見てみると、「同業種の中小企業」(34.3%)、「中小企業支援機関」(32.5%)となっており、中小企業間の連携や中小企業支援機関の利用が活発に行われていることが分かる。また、「教育機関」(16.3%)、「自治体(市区町村)」(12.4%)、「自治体(都道府県)」(7.5%)と続く結果になった。
このように、人材育成に関して、多くの企業で外部連携が行われており、また、その活動に多様な主体が参画していることが分かったが、昨今では、こうした連携が広がりを見せ、地域で人材を育成しようという取組が行われている。その一例を以下で紹介する。
事例2-2-9. 公益財団法人南信州・飯田産業センター
地域による地域が求める人材の育成の在り方
長野県飯田市に位置する公益財団法人南信州・飯田産業センター(職員24名、出捐金1,700万円)は、地場産業の振興を目的として1983年に設立された法人であり、航空宇宙産業、バイオメディカル産業、環境・エネルギー産業といった産業の振興に力を入れている。
しかし、飯田市においては4年制大学や専門の高等教育機関がなく、産業振興を行うために、地域の産業が求める人材、とりわけ高度な知識や技術を持つ人材を育成する必要性があった。そこで、同センターは、二つの特徴的な取組を通じて、地域の人材を育成している。一つ目は、「飯田産業技術大学」という仮想大学を通した、地域の人材の標準的な知識や技術の習得である。飯田産業技術大学を通じて、年間30講座以上の受講が可能であり、提供する講座には、3次元CADの活用方法や機械加工の方法等を学ぶ技術講座、品質管理やマーケティング等を学ぶ経営管理講座、新産業育成に必要な特別講座がある。また、各講座には、初級、中級、上級といった講座レベルが設定されており、受講者は自身のレベルに合った講座を選択することができる。講座の提供が開始された2006年以降、毎年、延べ約1,000名が受講しており、飯田市の製造業に携わる多くの方の知識や技術・管理の向上につながるとともに、受講者間における同期意識が芽生え、地域の人材の定着率が向上している。二つ目の取組として、同センターでは信州大学と提携した社会人大学院制度の運用を行っており、センター内に飯田市と信州大学を繋ぐ拠点となる信州大学飯伊産学官連携室を設置している。受講者は2年間の研究課程を修了することで修士号を取得することができる。在学中に修士論文を執筆するが、論文のテーマは、受講者が所属する企業の抱える課題等を扱うことが多く、卒業後は所属企業に戻り研究成果を活用することが期待されている。
このようにして育成した人材は地域の産業界において活躍しているが、その一つに航空宇宙産業がある。航空宇宙産業の振興は、同センター内に活動拠点を置く飯田航空宇宙プロジェクト/「エアロスペース飯田」が中心となって行っている。「エアロスペース飯田」には、飯田地域の中小企業9社が参加しており、地域航空宇宙部品の共同受注を行っている。共同受注において、航空宇宙部品の受注・生産を個社単位で受け付けるのではなく、「エアロスペース飯田」として共同で受け付けるワンストップ体制を整えることで、業界内における競争力を高め、航空機部品の加工、人工衛星部品の加工等の実績を積み上げている。ただし、こうした航空部品の受注を行うにあたって、高い技術と品質保証が必要であり、航空部品に特化した知識や技術の習得が求められる。そこで、大手重工業企業のOBが講師を務める勉強会を実施した。さらに、平成25年度補正予算事業である経済産業省の「地域企業人材共同育成事業」に採択され、外部からコンサルタントを呼び、「エアロスペース飯田」に参加をする複数の中小企業が集まり生産プロセスを開示し、航空宇宙関連の事業に特化した品質保証体制の構築や生産技術ノウハウの習得、コストダウンの取り組みを行った。このように、南信州・飯田産業センターが標準的な知識や技術を身につける場を整備し、飯田航空宇宙プロジェクトが専門的な人材育成を行う場を提供するといった、2段階の人材育成を行うことで高度な人材の育成を効果的に行っている。
飯田航空宇宙プロジェクトマネージャーの松島氏は、「飯田市は都市部に比べて人材を確保することが難しく、地域の人材を地域が一丸となり育成することが重要である。こうした取組から、地域の産業を担う人材が成長し、飯田航空宇宙を含む地域の産業が勢いを増し、ひいては地域の活性化につながるのではないか。」と述べる。地域の産業振興を推し進め、地域活性化の手段として、「地域で人材を育てること」に注力する南信州・飯田産業センターの活動に学ぶべきことは多い。